第518話 もう一人の代表
新連載スタート!
《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした
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お手すきの際に是非!
次の準決勝。
ガイルとクラウスが試合場へ歩いていく。
セレナとの試合で熱を持っていた地面は、教師たちの確認も終わり、すでに次の試合ができる状態に戻っていた。
「クラウス様ー!」
「頑張ってー!」
「絶対代表になって!」
二人が姿を見せただけで、観覧席から大きな声援が飛ぶ。
特に女子生徒のクラウスに対する声援がすごい。
「……クラウスは女子生徒に人気あるんだな」
思わず呟いた。
「だから言ったでしょ?」
隣のミラが笑う。
「リオンが知らなかっただけだよ」
「そんなもんかね」
試合場では、クラウスが観覧席へ軽く手を上げた。
「きゃああああ!」
さらに歓声が大きくなる。
「手を上げただけだぞ」
ヴィクトルが呆れたように言う。
「ヴィクトルもやってみれば?」
「やらん」
「何で?」
「結果が分かってるからだ」
その向こう。
ガイルは巨大な木剣を肩に担いでいた。
クラウスとは対照的に、観覧席へ手を振ったりはしない。
でも、ものすごく楽しそうだ。
口元が完全に笑っている。
「両者、準備はいいな?」
ベルンハルト先生が二人を見る。
「はい」
「おう!」
クラウスが木剣を構える。
ガイルも巨大な木剣を肩から下ろした。
何度見ても大きい。
普通なら、持ち上げるだけでも大変そうな木剣だ。
でも、ガイルが握ると不思議とそうは見えない。
「始め!」
先に動いたのはクラウスだった。
速い。
真正面からは行かない。
右へ踏み込み、ガイルが反応した瞬間に角度を変える。
そのまま横へ抜けた。
「はっ!」
木剣が走る。
ガンッ!
巨大な木剣がそれを受けた。
「やっぱり正面じゃ無理か」
クラウスはすぐに離れる。
当然だ。
ガイルと力比べをするつもりなんて、最初からない。
もう一度踏み込むクラウス。
今度は左。
ガイルの木剣が動く。
クラウスは届く直前で足を止め、反対側へ切り返した。
「おっ!」
ガイルが楽しそうに声を上げる。
クラウスの木剣が背後から入る。
だがガイルは身体を半分だけ捻った。
巨大な木剣の腹で受け止める。
ガンッ!
「いいな、クラウス!」
「随分楽しそうだな!」
「楽しいぞ!」
ガイルがそのまま木剣を振る。
ブオンッ!
空気まで押し退けるような音がした。
クラウスは受けない。
大きく後ろへ跳ぶ。
巨大な木剣が地面すれすれを通り過ぎ、巻き上がった砂埃がクラウスの足元を追った。
「……あれは受けたくないな」
俺が言うと、エドガーも苦笑した。
「普通はそう思うよ」
クラウスはもう前へ出ている。
右。
左。
一度下がって。
また入る。
速い。
でも、速さだけじゃない。
ガイルが木剣を振ろうとすれば、その間合いから外れる。
追おうとすれば、今度は逆へ入る。
動く距離も入る角度も毎回違う。
「クラウス様!」
「今のすごい!」
観覧席の女子生徒たちが沸いている。
確かに外から見れば、クラウスがガイルを完全に翻弄しているように見える。
でも。
「……」
俺はガイルを見る。
最初とは少し違う。
一度目。
クラウスが動いてから、ガイルが追った。
二度目。
木剣が少し早く動いた。
三度目。
クラウスが入ろうとした場所へ、先に木剣を置いている。
そして、クラウスがもう一度、ガイルの右側へ回ろうとした。
その瞬間、巨大な木剣がすでにそこにあった。
「――っ!」
クラウスが急停止した。
剣先が目の前を横切る。
あと半歩入っていたら、まともに受けていた。
クラウスが数歩離れる。
さっきまでと表情が違う。
「……」
「どうした?」
ガイルが聞く。
「いや…」
クラウスが木剣を握り直した。
「随分、速い相手に慣れたなと思って」
「おう!」
ガイルが嬉しそうに答える。
「リオンと朝、ずっとやってたからな!」
クラウスの視線がこちらへ向いた。
一瞬だけ目が合う。
「……聞いてはいたけど」
クラウスが苦笑した。
「短期間で、ここまで変わるのかよ」
俺も同じことを思う。
ガイルの足そのものが、急に速くなったわけじゃない。
クラウスを全部目で追いかけようとしていない。
どこから来るのか。
自分の間合いのどこへ入ってくるのか。
そこを先に読んでいる。
朝の訓練で俺が《縮地》で右へ行けばガイルが追った。
左へ行けばまた追った。
追い切れなくなれば今度は自分の間合いを守るようになった。
毎朝繰り返していたことをクラウス相手に使っている。
「もう一回行くぞ!」
クラウスが踏み込む。
「来い!」
木剣がぶつかる。
クラウスが横へ抜ける。
巨大な木剣が追う。
逆へ切り返す。
また木剣が回る。
さっきまでなら通れていた場所が、少しずつ消えている。
クラウスも気づいたらしい。
足を止めた。
「だったら――」
左手を前へ出す。
「《風刃》!」
空気が鋭く鳴った。
目にはほとんど見えない風の刃が、一直線にガイルへ飛ぶ。
ガイルは巨大な木剣を立てた。
バンッ!
風が弾ける。
ガイルの身体がわずかに止まった。
クラウスはその隙に大きく距離を取る。
「なるほど」
ヴィクトルが言った。
「魔法で足を止めて、また自分の距離に戻すのか」
「うん」
理にかなってる。
ガイルの間合いへ入るのは危険。
なら、近づかれた時だけ魔法で止める。
そこからまた速度勝負へ戻せばいい。
クラウスらしい戦い方だ。
しかし、ガイルは笑っていた。
「クラウス!」
「何だ?」
「やっぱり強えな!」
「……どうも」
「だから」
ガイルが巨大な木剣を肩へ担ぎ直した。
腰を落とす。
それだけでさっきまで広く見えていた試合場が、急に狭くなったように感じた。
「そろそろ俺も行くぞ!」
「来い!」
クラウスが構える。
ガイルが地面を蹴った。
「速っ――」
観覧席から声が漏れる。
俺も思わず目を見開いた。
大きな身体。
巨大な木剣。
その両方を抱えているのに速い。
一気に間合いを詰める。
クラウスが横へ逃げた。
ガイルの木剣が振られる。
ブオンッ!
クラウスの身体すれすれを通り過ぎる。
かわした。
でも。
ガイルは止まらない。
一歩。
さらに一歩。
そのまま前へ出る。
「《風刃》!」
クラウスがもう一度、風の刃を放った。
今度は真正面。
ガイルは木剣を出さなかった。
「え?」
左腕を上げる。
風の刃が。
その腕へまともに当たった。
バンッ!
「ガイル!」
思わず声が出る。
でもガイルの足は止まらなかった。
「なっ!?」
クラウスの顔が初めて大きく変わる。
ガイルの左腕には攻撃を受けた跡が残っている。
無傷じゃない。
それでも構わず前へ出てくる。
あいつの身体の強さはやっぱり普通じゃない。
「うおおおっ!」
ガイルが踏み込む。
「嘘だろ!」
クラウスが下がる。
一歩。
二歩。
三歩。
でもガイルの方が速い。
さっきまでクラウスが自由に使っていた間合いがガイルの間合いに変わっていく。
「クラウス!」
ガイルが巨大な木剣を高く持ち上げた。
冬の日差しが遮られる。
その影がクラウスの身体を覆った。
「くっ!」
逃げ切れない。
クラウスも同じ判断をしたんだと思う。
もう下がらなかった。
木剣を両手で握り、頭上へ構える。
受けるしかないと覚悟を決めたのだろう。
「うおおおおおっ!」
巨大な木剣が振り下ろされた。
ガンッ――!
試合場に。
重い音が響いた。
「ぐっ……!」
クラウスの身体が沈む。
両腕が震えた。
足元の砂がずれる。
それでも耐えている。
一瞬、二本の木剣が噛み合ったまま止まった。
ミシッ。
小さな音がした。
「……」
クラウスの目が、自分の木剣へ向く。
一本の亀裂。
それがゆっくり広がった。
「まずい」
俺が呟いた直後。
バキッ!
乾いた音が響いた。
クラウスの木剣が、中央から折れる。
「――っ!」
折れた剣先が宙を回る。
冬の日差しを一瞬だけ受け地面へ落ちた。
その向こうからガイルの一撃が、なおクラウスへ落ちてくる。
ピタっ!
止まった。
クラウスの肩まであとわずか。
巨大な木剣は、そこで止まっていた。
「……」
観覧席が静かになる。
クラウスは手元を見る。
残っているのは、半分になった木剣。
そして、肩のすぐ上で止まっている巨大な木剣を見る。
ガイルを見上げるクラウス。
「……参った」
小さく息を吐く。
「降参だ」
ガイルの顔がぱっと明るくなった。
「おう!」
巨大な木剣を下ろす。
ベルンハルト先生が片手を上げた。
「そこまで!」
二人を見る。
「勝者――ガイル・ベイルン!」
「うおおおおおっ!」
今度は男子生徒を中心に、大きな歓声が上がった。
その一方で。
「クラウス様ー!」
「惜しかったー!」
「でも格好よかったー!」
女子生徒の声も負けていない。
クラウスは折れた木剣を見て、苦笑した。
「まさか本当に折られるとはな」
「悪いな!」
ガイルがすぐに言う。
「いや」
クラウスは首を振る。
「最後、ちゃんと止めてくれて助かったよ」
「おう!」
クラウスが右手を差し出した。
「強くなったな、ガイル」
ガイルはその手を見る。
すぐに握った。
「クラウスも強かったぞ!」
「ありがとう」
二人が笑う。
その瞬間。
観覧席からもう一度、拍手が広がった。
これで学院代表選考はすべて終わった。
十六人から二人。
王都武闘大会へ出場する学院代表が決定した。
俺とガイルだ。
「リオン!」
試合場からガイルが俺を見つけた。
大きく手を振る。
「一緒だぞ!」
「うん!」
思わず笑った。
毎朝、何度も木剣を振った。
俺はガイルとの訓練で強くなった。
そしてガイルも俺との訓練で強くなっていた。
その二人が一緒に代表になった。
素直に嬉しい。
「よかったね、リオン」
ミラが隣で笑っている。
「うん」
「ピー!」
「ピコも?」
「ピー!」
「そっか」
観覧席ではまだ歓声が続いていた。
ガイルが巨大な木剣を持ち上げるたび、さらに声が大きくなる。
俺もその姿を見ていた。
すると。
「ハル」
後ろから声をかけられた。
振り返る。
「学院長」
学院長が立っていた。
表情はいつもと変わらない。
穏やかだ。
でも、まっすぐ俺を見ている。
「はい」
「先ほどの戦い、お前の魔力を感じ取っていたぞ」
やっぱり転移魔法を使ったのがバレたか。
学院長が少しだけ目を細める。
「このあと、学院長室へ来てくれ」
「分かりました」
「詳しい話はそこで聞く」
それだけ言うと学院長は教師たちの方へ戻っていった。
俺はその背中を見送る。
まあ、そうなるよな。
以前から転移は人前で使わないように言われていた。
今回は炎の壁があったから観客には見られていない。
それでも転移魔法を使ったことは事実だ。
約束をちゃんと守ってなかったことを謝らなければいけないな。
試合場を見ると、ガイルはまだクラウスと話している。
俺は小さくため息をついた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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