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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

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第514話 届かなかった剣

新連載スタート!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

お手すきの際に是非!

「第一試合、リオン・ハル。ガレス・グレイヴ。前へ」


 名前を呼ばれ、俺は木剣を手に試合場へ出た。


 反対側からガレスも歩いてくる。


 一年生の頃より、ずいぶん身体が大きくなっていた。


 肩幅も広くなり、歩き方にも以前のような無駄な力みがない。


 俺たちが二度飛び級している間も、ガレスは普通に学院で学び、今は三年生になっている。


 遊び惚けていたわけじゃないことが立ち姿だけでも少し分かる気がした。


 試合場の中央には、すでに審判が立っていた。


 顔を見て、少し驚く。


「ベルンハルト先生」


「久しぶりだな、ハル」


 三年Sクラスの時の担任だ。


 相変わらず背筋が真っすぐで、立っているだけで周囲の空気が少し引き締まる。


「五年になってからの話も聞いている。随分成長したようだな」


「ありがとうございます」


「ただし、今日はお前の元担任としてここにいるわけじゃない」


 ベルンハルト先生の視線が俺からガレスへ移る。


「審判だ。判定は公平にする」


「もちろんです」


「……分かっています」


 ガレスも短く答えた。


 一年生の時なら、試合が始まる前から何か言ってきたかもしれない。


 Sクラスだとか。


 家柄だとか。


 自分の《剣豪》がどうだとか。


 今日は何も言わない。


 ガレスは黙って木剣を握っている。


「では、両者とも試合前にルールを確認しておけ」


 ベルンハルト先生の声が試合場へ通る。


「勝敗は、どちらかが降参するか、審判が戦闘続行不能、もしくは明確に勝負が決したと判断した時点で決する」


 俺もガレスも頷いた。


「木剣による攻撃、身体強化、魔法の使用は認める。事前に申請した補助具も使用して構わん。

ただし、故意に相手へ重傷を負わせる攻撃は禁止だ」


 小石について事前に確認しておいたのも、このためだ。


「武器を落としても、それだけで敗北にはならない。戦闘を続けられるなら続行してよい」


 ベルンハルト先生が俺たち二人を順番に見る。


「最後に、俺が止めたらそこで終わりだ。判定後の攻撃は反則とする。いいな?」


「はい」


「分かりました」


「よし」


 ベルンハルト先生が一歩下がった。


「両者、構えろ」


 俺は木剣を正面に構える。


 向かいのガレスも腰を落とした。


「……」


 その構えを見て、少しだけ目を細めた。


 やっぱり違う。


 一年生の頃のガレスは、強い力をそのまま剣へ乗せていた。


 速く、強く振れば相手を倒せる。


 そんな剣だった。


 でも今は、剣先がぶれない。


 足にも余計な力が入っていない。


 こちらが動けば、すぐに反応できる位置に重心を置いている。


 ちゃんと剣を学び続けてきた人間の構えだった。


「始め!」


 ベルンハルト先生の声と同時に、ガレスが動いた。


 速い。


 正面から踏み込んでくる。


 でも、昔のように大きく振りかぶらない。


 最小限の動きから木剣が伸び、俺の肩を狙った。


 半歩だけ下がる。


 剣先が胸元の少し前を通り過ぎた。


 ガレスは止まらない。


 返す動きから横薙ぎ。


 俺は木剣で受ける。


 乾いた音が試合場に響いた。


 そのままガレスは身体を沈め、今度は足元を狙ってくる。


 木剣を立てて防ぐと、深追いせずすぐに離れた。


 間合いを戻す。


 もう一度構える。


 観覧席から小さなどよめきが聞こえた。


 俺も木剣を握り直す。


 ……強くなってる。


 間違いなく。


 昔とは比べものにならない。


「まだだ」


 ガレスが小さく言った。


 再び踏み込んでくる。


 右から来ると見せて、剣の軌道を途中で変える。


 本命は左。


 俺は身体をわずかに傾けた。


 木剣が頬の横を通り過ぎ、その軌道に引かれた冷たい風が髪を揺らす。


 ガレスの目が一瞬だけ開いた。


 それでも動きは止まらない。


 次の攻撃へつなげる。


 一合。


 二合。


 三合。


 木剣がぶつかる音が、冬の試合場に乾いて響いた。


 すぐには攻め返さず、ガレスの剣を受ける。


 打ち合うほど、昔との違いが見えてくる。


 力だけじゃない。


 俺が受ける位置を読んで、その先まで考えている。


 踏み込みも、剣の戻しも速い。


 剣豪というスキルを持っているだけじゃない。


 あの時から、ずっと剣を振ってきたんだろう。


 でも…。


 ガレスの木剣が右から走る。


 一歩ずれてかわし、返ってきた左からの一撃を受け流す。


 続く上段からの剣も、頭をわずかに下げるだけで髪の上を通り過ぎていった。


 一度も届かない。


「……っ」


 ガレスの呼吸が少しずつ乱れていく。


 俺はまだ、《縮地》も転移も使っていない。


 《綻びの目》さえ必要なかった。


 ガイルの巨大な木剣を毎朝かわしてきた。


 ノルとも何度も剣を交えた。


 学院の中だけじゃない。


 ここまでに経験してきたものが、相手の剣を見れば自然と身体を動かしてくれる。


 ガレスの剣が遅いわけじゃない。


 俺が、それより先に動けるだけだ。


「くそっ……!」


 初めてガレスの声に焦りが混じる。


 でも、大振りにはならなかった。


 歯を食いしばり、一度距離を取って構え直す。


 そこも昔とは違う。


 頭に血が上がっていない。


 ガレスが積み上げてきたものは、十分伝わってきた。


 だからこそ。


 俺も正面から勝ちにいく。


 木剣を構え直すと、ガレスの表情が変わる。


「行くよ」


「来い!」


 踏み込む。


 ガレスもすぐに反応した。


 俺の肩へ向けて木剣を走らせる。


 半歩だけ横へずれる。


 剣先が空を切った。


 その横を抜けつつ、木剣を振る。


 ガンッ!


「ぐっ!」


 ガレスが受ける。


 けれど、身体が大きく揺れた。


 すぐに反対側から二撃目を入れる。


 これも防ぐ。


 三撃目。


 ガレスが後ろへ一歩下がった。


 さらに一歩。


 観覧席の声が少し遠くなる。


 冬の光が、試合場へ静かに落ちていた。


 その中で二本の木剣だけが、何度も短い音を立てる。


 ガレスは食らいついた。


 一撃目を防ぎ、二撃目にも間に合わせる。


 三撃目で剣先がわずかに遅れ、四撃目では足元が崩れかけた。


 それでも踏みとどまる。


「まだだ!」


 ガレスが前へ出た。


 逃げない。


 真正面から踏み込み、木剣を振り抜く。


 速い。


 今日一番の剣だった。


 俺はその一撃を木剣の側面で受けた。


 力を正面から止めるんじゃない。


 ほんの少し、角度を変える。


 ガレスの木剣が滑る。


「え――」


 空いた手元へ、俺の木剣を打ち込んだ。


 乾いた音が響く。


 ガレスの指が開いた。


 木剣が手を離れる。


 宙を回りながら冬の日差しを一瞬だけ受け、白く光った。


 カラン。


 地面に落ちる。


 その音だけが、妙にはっきり聞こえた。


 武器を落としただけでは、まだ終わらない。


 だから俺はもう一歩踏み込んだ。


 木剣の先を、ガレスの首元で止める。


「……」


 ガレスは動かなかった。


 自分の首元にある木剣を見つめている。


「そこまで!」


 ベルンハルト先生の声が響いた。


 一瞬静まり返った観覧席へ、判定が続く。


「勝者、リオン・ハル!」


 大きな歓声が上がった。


 俺はすぐに木剣を下ろした。


「ありがとうございました」


 頭を下げる。


 でも、ガレスから返事はなかった。


 地面に落ちた木剣をじっと見ている。


 一年生の時も、同じように俺はガレスの木剣を落とした。


 あの時のガレスは怒った。


 剣を拾うより先に、俺へ掴みかかってきた。


 今日は違う。


 ガレスはゆっくり腰を落とした。


 自分の手で木剣を拾う。


 そして立ち上がった。


「……くそ」


 小さな声だった。


 観覧席の歓声に消えてしまいそうなほど。


「……あれからずっとだぞ」


 俺は何も言わなかった。


 ガレスが木剣を強く握る。


「俺だって……あの時から、ずっとやってきた」


 顔を上げない。


「朝も……授業が終わってからも……剣を振ってきた」


 声が震えている。


「今度会ったら……絶対に負けないって……」


 一滴。


 ガレスの足元へ落ちた。


 汗じゃない。


「なのに……」


 もう一滴。


「一回も……届かなかったじゃねえか……」


 ガレスが歯を食いしばる。


 泣き声は上げなかった。


 ただ、袖で乱暴に目元を拭う。


 悔しいんだ。


 努力してきたからこそ。


 それでも届かなかったことが。


「……ガレス」


「何も言うな!」


「……分かった」


 今のガレスに、慰めの言葉はいらない。


 俺が何を言っても、それは勝った側の言葉になる。


 ガレスはもう一度目元を拭い、木剣を握り直した。


「次は……」


 声はまだ震えている。


「次は、勝つ」


 顔を上げた。


 目は赤い。


 でも、一年生の頃に向けられたものとは違った。


「うん」


 それだけ答えた。


 ガレスは俺から目を逸らすと、そのまま試合場を降りていく。


 昔、木剣を落とされたガレスは、怒りを露わにしていた。


 今日は違う。


 自分の木剣を、自分で拾った。


 それだけのことなのに、その背中はあの頃とは少し違って見えた。


「ハル」


 ベルンハルト先生に呼ばれる。


「はい」


 振り返った。


 先生はもう、次の試合を待つ審判の顔に戻っている。


「強くなったな」


 一言だけだった。


「ありがとうございます」


「だが、今の一勝で満足するな。代表になるなら、あと二つだ」


「はい」


「さぁ、行け。次の試合の邪魔になるぞ?」


「はい」


 やっぱりベルンハルト先生だ。


 俺は小さく頭を下げて、試合場を降りた。


 ◇


 その後、セレナは相手にほとんど反撃を許さず一回戦を突破した。


 クラウスも派手さはなかったが、相手の体勢が崩れた一瞬を逃さず勝負を決める。


 そしてガイルの試合は、さらに早かった。


 巨大な木剣を一度振ると、受けた相手の木剣ごと吹き飛ばし、観覧席が一瞬静まり返った。


 ……あれでも、朝の俺との訓練より加減している。


「ピー!」


 観覧席では、ミラに抱かれたピコが大喜びしていた。


 一回戦がすべて終わる。


 十六人だった参加者は、八人になった。


 その中には。


 俺。


 セレナ。


 クラウス。


 ガイル。


 四人の名前が残っている。


 俺は更新された対戦表を見上げた。


 学院代表まで。


 あと二勝。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
俺って剣豪だし~とにおごってたらリオンに鼻っ柱をボキッと折られて燃えたんだろうけど、街中を豪遊し歩いてるんじゃあリオンに勝てるわけがない。相手は暇があったら休みも忘れて考え付いた事を実践する研究馬鹿な…
ガレスの成長を感じます。父親が罰せられ、ガレスが貴族でなくなり、荒れないよう祈ってます。
父とは違うことを切に願う。 リオンに会ったことで、領含めて、 変われるといいね。
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