表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
351/399

第341話 冷えていればいいわけじゃない

短編で「元最強探索者、ダンジョン救助員になる(https://ncode.syosetu.com/n5300ml/)」を書きました。

 研究コースの二回目の授業で、リオンたちの班は低温保存箱を模擬荷車台に載せていた。


 使用条件は、商隊用。


 半日ほどかけて、隣町へ薬品を運ぶ小型商隊を想定する。


 前回の授業で、ただ「商隊用」と書いただけでは広すぎると分かった。だから三人で話し合い、距離と中身を絞った。


 薬品。


 半日。


 小型商隊。


 冷却核はBを選んだ。


 強く冷えすぎるAではなく、安価だがむらのあるCでもない。穏やかに長く冷えるBが、一番安全に見えたからだ。


「では、始めてください」


 クラリッサ先生の声で、ヴィクトルが模擬荷車台を押した。


 がたん。


 がたん。


 凹凸のある板の上を、小さな車輪が進む。


 箱の中には、本物の薬ではなく、色水を入れた小瓶が入っている。


 赤い札。


 青い札。


 黄色い札。


 それぞれ、薬の種類を見分けるための札という想定だった。


 リオンは測定具を確認しながら、記録用紙に数字を書き込んでいく。


「冷たさは保てている。魔力の減りも大きくない」


「Bで正解だったか」


 ヴィクトルが頷いた。


 リオンも、少しだけそう思った。


 強く冷やすより、安定して冷やす方が薬品には向いている。今のところ、その判断は間違っていないように見えた。


 その時だった。


「あ……待って」


 ミラが箱の蓋を開け、中を覗き込んだ。


「札が濡れてる」


 リオンは手を止めた。


 箱の中を見る。


 瓶は割れていない。


 中身も凍っていない。


 冷却も続いている。


 だが、青い札の端が湿って、剥がれかけていた。


 揺れで瓶が少しずつ動き、冷却核の近くへ寄っていたのだ。その周囲に結露が出て、札を濡らしていた。


「中身は無事だ」


 リオンが言うと、ヴィクトルがすぐに首を振った。


「いや、これは失敗だ」


「失敗?」


「何の薬か分からなくなれば、届けられない。間違って使われる危険もある。商隊用としては事故だ」


 ヴィクトルの声は低かった。


 商会の人間としての言葉だった。


 リオンは、濡れた札を見つめた。


 冷えている。


 瓶も割れていない。


 薬も凍っていない。


 なのに、失敗。


 ミラが静かに言った。


「冷やせばいいだけじゃないんだね。運んだ後に、ちゃんと見て分かる状態じゃないと駄目なんだ」


 その言葉で、リオンはようやく気づいた。


 自分たちは、冷却核の性能ばかり見ていた。


 だが、商隊用なら、運んでいる間に中身が動く。


 札が濡れる。


 受け取った人が間違える。


 薬そのものが無事でも、管理が崩れれば意味がない。


 クラリッサ先生が、箱の中を覗き込んだ。


「冷却はできていますね」


「はい」


 リオンは小さく答えた。


「ですが、商隊用としては不十分です」


「……はい」


 認めるしかなかった。


 冷やすことには成功している。


 けれど、運ぶ道具としては足りていない。


 クラリッサ先生は、濡れた札を指した。


「失敗は悪いことではありません。机の上で見つかった失敗は、現場で起きる事故を一つ減らします」


 教室が静かになる。


「問題は、失敗した後です。面倒だからと目を逸らすのか。

原因を分け、記録し、もう一度試すのか。研究で見ているのは、そこです」


 リオンは、唇を結んだ。


 失敗は悪いことではない。


 リオンだって、これまで何度も失敗してきた。


 前世でも、この世界でも。


 帳面を整えたつもりで、現場に別の負担をかけたこともある。


良いと思った手順が、使う人には分かりにくかったこともある。


 大事なのは、失敗しないことではない。


 失敗した後、面倒くさがらずに向き合えるかどうかだ。


「ハル」


「はい」


「直すなら、何を見るべきですか」


 リオンは記録用紙に目を落とした。


 最初に書いていた測定項目は、冷たさ、魔力消費、箱の中の温度差が中心だった。


 でも、それだけでは足りない。


「瓶が揺れでどれだけ動くか。冷却核との距離。結露が出る場所。札が濡れるかどうかを見ます」


 ミラが続けた。


「箱の中に仕切りが必要かも。あと、札を瓶に貼るだけじゃなくて、箱の中にも印があった方がいいと思う」


 ヴィクトルも頷く。


「誰が開けても分かるようにする必要がある。商隊では、作った者と運ぶ者と受け取る者が違う」


 クラリッサ先生は、静かに頷いた。


「では、それを測定計画に加えなさい」


 三人はすぐに紙へ書き込んだ。


 揺れ。


 瓶の位置。


 結露。


 札。


 仕切り。


 箱側の印。


 書くことは増えた。


 面倒でもある。


 けれど、リオンは嫌だとは思わなかった。


 この面倒な部分を飛ばせば、現場で誰かが困る。


 冷却箱ではなく、輸送中に薬を守る箱。


 そう考えると、見るべきものが変わった。


 クラリッサ先生が教室の前へ戻る。


「次回は、修正した計画で改めて試します。ただし、中身は薬瓶ではありません。

傷みやすい食材に変えます」


 教室の空気が、少し動いた。


 薬と食材では、守るものが違う。


 また、考え直さなければならない。


 ミラが小さく呟いた。


「冷やすだけじゃ、全然足りないね」


 ヴィクトルが濡れた札を見ながら言った。


「だが、今日よりは見る場所が分かった」


「うん」


 リオンは頷いた。


 失敗した。


 けれど、失敗したから、次に見る場所が増えた。


 研究コースの最初の壁は、派手な魔法でも、難しい術式でもなかった。


 濡れて剥がれかけた、小さな札だった。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

続きが気になったら、ブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
急に中身の薄い話になって、少しがっかり気味です。 ざっと考えただけでも、不具合がラベルが濡れたことによるなら、何によってどうして濡れたのかをとことん突き詰めるべきだし、濡れても剥がれないようなことも暫…
何を測るのかの基準まで実験者に委ねられているならかなり難易度の高い実験になる。商隊という条件も移動の要素が入る分更に難しくなっていそうだ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ