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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

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第339話 研究コースの教室へ

短編で「元最強探索者、ダンジョン救助員になる(https://ncode.syosetu.com/n5300ml/)」を書きました。

 昼休みが終わり、リオンはミラ、ヴィクトルと並んで研究棟へ向かっていた。


 午前の授業で扱った課題が、まだ頭の中に残っている。


 水。


 噂。


 商隊。


 穀物。


 どれか一つだけを見れば、答えは出せそうに思える。


 だが、実際には一つを動かせば、別のものも動く。


 アデライン先生の言葉は、静かなのに重かった。


「午前の授業、思ったより疲れたね」


 ミラが隣で言った。


「うん。答えを出すだけじゃなくて、出した後のことまで考えないといけなかった」


「アデライン先生、そこで止めてくれないものね。『では、その後はどうしますか』って、すぐ聞いてきそう」


 ミラが少し肩をすくめる。


 ヴィクトルは前を向いたまま、小さく頷いた。


「実務に近い授業だな。判断だけでなく、伝え方まで問われる」


「ヴィクトルは、ああいうの得意そう」


「得意かどうかは分からない。ただ、商会では避けられない」


 ヴィクトルはそう言ってから、ふと思い出したようにリオンを見た。


「そういえば、リバーシの件だが」


「リバーシ?」


 ミラが反応する。


「まだ広がってるの?」


「まだ、というより、これから本格的に広がる」


 ヴィクトルの言い方は、いつもより落ち着いていた。


 だが、その内容は軽くなかった。


「ローデン商会とハル領都の間で、領外販売に関する専売契約がまとまった」


「もう正式に?」


 リオンが聞くと、ヴィクトルは頷いた。


「ああ。三学期の間に話は進めていたらしい。

細かな条件の確認に時間はかかったが、大筋では問題なくまとまったようだ」


 リオンは少し息を吐いた。


 手紙で進捗は聞いていた。


 だが、こうしてヴィクトルの口から改めて聞くと、思っていた以上に大きく動いているのだと感じる。


「領のレナードからも手紙が来ていたよ。西の森で、リバーシ専用工房の建設が始まったって」


「専用工房?」


 ミラが目を丸くする。


「遊び道具のために、工房を作るの?」


「遊び道具だから作るんだ」


 ヴィクトルが当然のように言った。


「難しい説明がいらない。見れば分かるし、一度遊べば覚えられる。

年齢もあまり選ばない。家の中でも、宿でも、待ち時間でも使える」


「言われてみれば、広がりやすいのかも」


 ミラは納得したように頷いた。


「子どもだけじゃなくて、大人も遊べるしね」


「そこが重要だ」


 ヴィクトルは続ける。


「子ども用の安い盤だけではない。貴族や裕福な商人向けの盤も作れる。

木材を変え、盤の仕上げを変え、駒の入れ物を整えれば、別の商品になる」


「高級版と普及版を分けるの?」


 リオンが聞くと、ヴィクトルは少しだけ口元を緩めた。


「その予定だ。普及版は数を出す。高級版は贈答用にする。

ローデン商会としては、どちらも扱いやすい」


 ミラが感心したように言った。


「同じ遊びなのに、そんなに変わるんだね」


「商品は、使い方だけで決まるわけじゃないぞ。誰に渡すか、どこで売るか、どの箱に入れるかでも価値が変わるんだ」


 ヴィクトルらしい言葉だった。


 リオンは、西の森の様子を思い浮かべる。


 まだ整えなければならないことは多い。


 だが、工房ができれば仕事が生まれる。


 遊び道具一つでも、そこに人の手が入る。


「レナードは、工房の人員配置と材料の保管場所を整えているって書いていた」


 リオンが言うと、ヴィクトルはすぐに反応した。


「保管場所は大事だな。木材の状態が悪ければ、盤も駒も歪む」


「うん。それで、乾いた場所を分ける必要があるって」


「さすがレナードさんだ。現場の見方が早い」


 ヴィクトルは素直にそう言った。


 リオンは少し嬉しくなる。


 レナードは西の森を任せられる人だ。


「エリアスさんは?」


 ミラが尋ねる。


「外部とのやり取りをしてくれている。

領都、ローデン商会、輸送の手配、材料の仕入れ先……俺が学院にいる間に、かなり動いてくれたみたいだ」


「リオンがいなくても、ちゃんと進んでるんだね」


 ミラの言葉に、リオンは少しだけ黙った。


 自分がいなくても進んでいる。


 それは、寂しいことではない。


 むしろ、そうでなければいけない。


 西の森は、リオン一人の手で動く場所ではない。


 レナードが現場を見て、エリアスが外との道を作る。


 そこへローデン商会が加わり、職人や働く者たちが集まる。


 少しずつ、場所そのものが動き始めている。


「うん。進んでる」


 リオンは静かに言った。


「それは、すごくありがたいことだと思う」


 ヴィクトルはリオンを横目で見た。


「お前が全部を抱えようとすると、商会としても困る」


「困る?」


「相手が一人で全部を決める取引は、早いが危うい。レナードさんやエリアス殿のように、それぞれの担当が見えている方が話を進めやすい」


「そういうものなんだ」


「そういうものだ」


 ヴィクトルは淡々と答えた。


 ミラが小さく笑う。


「ヴィクトル、もう完全に商会の人の顔になってる」


「元からだ」


「そうだけど、前より強くなった気がする」


「リバーシの件は、ローデン商会にとっても悪くない話だからな」


「悪くない、で済むの?」


 ミラが首を傾げる。


 ヴィクトルは少し考えてから答えた。


「かなり良い話だ」


「やっぱり」


 ミラが笑う。


 リオンもつられて笑った。


 研究棟へ続く廊下は、五年生の教室がある棟とは空気が違っていた。


 壁際には古い器具や、使われなくなった魔法道具の一部らしいものが置かれている。


 棚には、分類札のついた箱がいくつも並んでいた。


「少し緊張してきた」


 ミラがぽつりと言った。


「ミラでも?」


 リオンが聞くと、ミラは少しだけ唇を尖らせた。


「するよ。見学と授業は違うもの」


「それはそうだね」


「でも、楽しみでもある」


 ミラはそう言って、前を向いた。


「何を見るのか、何を触るのか、何を考えるのか。見学の時より、ちゃんと入っていく感じがする」


 ヴィクトルも頷いた。


「研究コースは、商会にも必要な場所だ。見て終わりにはできない」


 リオンは二人の言葉を聞きながら、廊下の先にある扉を見た。


 研究コースの教室。


 その前まで来ると、すでに何人かの生徒が集まっていた。


 既存の五年生らしき生徒たちもいる。


 彼らはリオンたちを見ると、少しだけ視線を向けた。


 五年Sクラスの教室で受けた視線とは、少し違う。


 家名や立場を見るというより、何をしに来たのかを確かめるような目だった。


 リオンは扉の前で一度息を整えた。


 ミラが隣に立つ。


 ヴィクトルも、反対側で足を止めた。


「入ろうか」


 リオンが言うと、ミラが頷いた。


「うん」


 ヴィクトルも短く答える。


「ああ」


 扉を開けると、薬品とも、木材とも、金属ともつかない独特の匂いがした。


 教室の中には、机が整然と並んでいる。


 だが、普通の教室とは違い、壁際には実験台があり、棚には魔法道具の部品や石材、金属片、古い書板が並べられていた。


 黒板の前には、見学の時に会った女性教師が立っていた。


 淡い灰色の髪を後ろでまとめた、穏やかな表情の教師。


 クラリッサ・ヴェルナー先生。


 先生は、入ってきたリオンたちを見て、静かに微笑んだ。


「来ましたね」


 その声を聞いた瞬間、リオンは改めて思った。


 今日は見学ではない。


 ここから先は、研究コースの生徒として学ぶのだ。


 クラリッサ先生は教室全体を見渡し、ゆっくりと言った。


「それでは、研究コースの初回授業を始めます」


 リオンは席へ向かいながら、胸の奥で小さく息を吸った。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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綻びの目の出番がなくなるほどの主人公の成長よ…
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