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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第13章 リオンの夏休み(3年生)

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第240話 寝床の数

 滞在帳と宿札の形が決まった翌朝。


 俺たちは、仮役場に集まっていた。


 長板の上には、エルムが作った宿札が並んでいる。


 二番小屋。


 三番小屋。


 仮宿西側。


 食事小屋裏。


 文字の横には、小屋を表す簡単な絵印が入っていた。


 今日は、これを持って実際の寝床を確認する。


 帳面を作っただけでは意味がない。


 現場と合っているかを見なければならない。


「まずは、常雇いの小屋から見ましょう」


 レナードが言った。


「うん」


 俺は頷き、マルクの案内で仮役場を出た。


 同行するのは、レナード、エルム、マルク、リタ、ノル。


 リタは食事小屋の仕事があるため、途中までの参加だ。


 ◇


 最初に向かったのは、常雇いの作業員たちが使っている小屋だった。


 中に入ると、粗い寝台がいくつか並んでいる。


 床には藁が敷かれ、壁際には私物を置く棚のようなものもあった。


 広いわけではない。


 快適とも言いがたい。


 だが、誰がどこで寝るのかは、ある程度決まっているようだった。


「ここは比較的安定しています」


 マルクが言った。


「同じ班の人が多いので、寝床もあまり変わりません」


 レナードが帳面を確認する。


「帳面との大きなずれもありませんな」


「うん」


 ここは、思ったより問題が少ない。


 ただ、それは仕組みが整っているからというより、人の動きが少ないからだ。


 常雇いの者は、班も寝床も大きく変わらない。


 だから、班長の記憶でも何とか回っていたのだろう。


 だが、それは人が増え、動きが複雑になればすぐに崩れる。


「次へ行こう」


 俺はそう言った。


 ◇


 次に向かったのは、短期人足と出稼ぎ者が多く使っている仮宿だった。


 常雇いの小屋とは、空気が違った。


 寝台は少ない。


 藁を敷いた床に荷物を置き、その横で眠っている者もいる。


 小屋の隅には、布袋や道具が雑然と積まれていた。


 ここは、寝床というより、空いた場所に体を休める場所に近い。


 マルクが少し気まずそうに頭をかいた。


「ここが一番ずれています」


「どれくらい?」


「帳面では八人のはずです。でも、今朝見た時は十人いました」


 エルムが宿札の控えを見た。


「この二人は、三番小屋に入っているはずです」


「どうしてこっちに?」


「聞いてみます」


 マルクが小屋の中にいた男たちへ声をかける。


 しばらくして、二人の出稼ぎ者が申し訳なさそうに出てきた。


 一人が頭を下げる。


「勝手に移って、すみません」


「怒るために聞いているわけじゃないよ」


 俺はそう言った。


「どうして寝床を変えたの?」


 男は少し言いづらそうにした。


「三番小屋は、夜になると暑くて……。あと、隣の人が遅くまで話していて、あまり眠れませんでした」


 もう一人も続ける。


「こっちには知り合いがいたので、一晩だけのつもりで移りました。そのままになってしまって」


 なるほど。


 帳面の上では、二人は三番小屋だ。


 だが、本人たちには本人たちなりの理由があった。


 暑い。


 眠れない。


 知り合いがいる。


 どれも小さな理由に見える。


 けれど、毎晩眠れなければ、仕事にも響く。


「分かった。次から寝床を変えたい時は、役場に一言伝えてほしい」


「よいのですか」


「理由があるなら聞く。ただ、勝手に変えられると、見回りや食事小屋が困る」


 男たちは顔を見合わせ、頷いた。


「分かりました」


 エルムが宿札の控えに印をつける。


 レナードが帳面へ短く記録した。


 寝床変更。


 理由、暑さと騒音。


 確認、マルク。


 それだけだ。


 長く書く必要はない。


 だが、残しておけば後で見返せる。


 ◇


 仮宿を見ていると、別のずれも見つかった。


 三日だけの予定で来た短期人足が、十日以上残っていた。


 逆に、しばらく働くと言っていた者が、すでに別の現場へ移っていた。


 マルクが肩をすくめる。


「短期のつもりで来ても、仕事があると残るんです。逆に、別の仕事が入ればすぐ移る人もいます」


「つまり、一度書いたら終わりじゃないんだね」


「はい。かなり動きます」


 レナードも帳面を見ながら頷いた。


「滞在予定は、あくまで予定ですな」


「五日以上延びたら、区分を確認しよう」


 俺は言った。


「短期人足のままでいいのか、出稼ぎとしてしばらく残るのか。本人に無理に決めさせる必要はないけど、役場側では把握したい」


「分かりました」


 エルムが木板に書き足す。


 五日以上延長。


 滞在区分を再確認。


 簡単な決まりだ。


 だが、これだけでも帳面と現場のずれは減るはずだ。


 ◇


 次に、食事小屋裏を確認した。


 そこには、荷物置き場の一角を片づけたような場所があった。


 数人が休める程度の広さで、寝床というより仮眠場所に近い。


 リタが少し言いづらそうに説明した。


「忙しい日は、ここで休む人もいます。正式な寝床ではないのですが……」


「泊まる人もいる?」


「たまにいます」


 ノルの表情が少し厳しくなった。


「夜に誰がここにいるのか分からないのは、よくありません」


「そうだね」


 便利だから使われている。


 でも、正式な寝床ではない。


 この曖昧さが危ない。


 俺は食事小屋裏を見回した。


 今は男の手伝いが多い。


 だが、リタが言っていたように、今後は女性の手伝いも増えるかもしれない。


 その時に、ここをそのまま使うのは危うい。


「ここは寝床じゃなくて、一時休憩の場所にしよう」


 俺が言うと、リタが頷いた。


「その方がよいと思います」


「泊まる必要がある人は、役場で寝床を割り当てる。女性が増えた時の場所も、早めに候補を見ておこう」


 ノルが短く答えた。


「こちらでも確認します」


 問題が起きてからでは遅い。


 今のうちに分けられる余地を残しておく必要がある。


 ◇


 仮宿の外には、冒険者たちの簡単な天幕もいくつか見えた。


 全員が小屋に入っているわけではない。


 食事小屋だけ使う者。


 湯屋に寄る者。


 森へ入る前に一晩だけ休む者。


 冒険者の動きは、作業員よりもさらに読みにくい。


 ノルが言った。


「冒険者まで一度に滞在帳へ入れると、役場が回らなくなるでしょう」


 レナードも頷く。


「まずは、ハル領の作業に従事する者を対象にした方がよいかと」


「うん」


 俺も同意した。


「冒険者は別枠で後に考える。今は、作業員、短期人足、出稼ぎ者、食事小屋と湯屋の手伝いを優先しよう」


 全部を一度に整えようとすれば、きっと崩れる。


 今見るべきものを絞る。


 それも、町づくりには必要なのだと思った。


 ◇


 仮役場へ戻ると、俺たちは確認したことを長板の上に並べた。


 常雇いの小屋は、比較的安定。


 短期人足と出稼ぎ者の仮宿は、人数が合わない。


 寝床の入れ替えが起きている。


 三日予定の者が十日以上いる。


 登録上いるはずの者が、別の現場へ移っている。


 食事小屋裏は、正式な寝床ではなく一時休憩場所にする。


 冒険者は、今は別枠。


 書き出してみると、思ったより多かった。


 リタが小さく息を吐く。


「見て回ると、いろいろ分かりますね」


「うん」


 俺は頷いた。


「帳面だけでは見えなかった」


 寝床の数を数えるだけなら、簡単だと思っていた。


 でも、実際には違った。


 人は暑ければ場所を変える。


 隣が騒がしければ移る。


 三日で帰るつもりでも、仕事があれば残る。


 食事小屋裏のように、便利だから曖昧に使われている場所もある。


 帳面に人を合わせるのではない。


 人の動きを見ながら、帳面を直していく必要がある。


「今日決めることは少なくていい」


 俺は言った。


「まず、寝床を変える時は役場へ伝える。五日以上滞在が延びたら、滞在区分を確認する。食事小屋裏は一時休憩場所として扱う」


 レナードが帳面へ書き取る。


「宿札の本格配布は、出稼ぎ者と短期人足からでよろしいですか」


「うん。そこが一番ずれているから」


 マルクが頷いた。


「説明は俺が手伝います」


「お願い」


 エルムは宿札の束を見直していた。


「二番小屋と三番小屋の札は、少し多めに作っておきます」


「うん。入れ替えがあるかもしれないからね」


 ノルは短く言った。


「夜の見回りでも、札掛けの場所を確認します」


 少しずつ、次にやることが見えてきた。


 俺は木板に書いた。


 第二段階。


 寝床確認、開始。


 その下に、もう一つ書き足す。


 寝床の数を合わせるだけでは足りない。


 レナードがその文字を見て、静かに頷いた。


「その通りですな」


 西の森には、人が集まり始めている。


 だが、町と呼ぶにはまだ足りない。


 ただ寝る場所があるだけでは不十分だ。


 自分の場所だと分かること。


 困った時に変えられること。


 その変更が、食事小屋や見回りにも伝わること。


 そこまで整って初めて、人は安心して眠れる。


 第二段階で数えるべきものは、寝台の数だけではなかった。


 そこに眠る人たちの事情まで見なければ、西の森は町にはならない。



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― 新着の感想 ―
出稼ぎの人たちの寝床は小屋?敷かれた藁の上で雑魚寝って環境悪過ぎないか 匂ってきそう 外からの労働力を当てにするなら雇う側も、もう少しまともな何十人何百人泊まれる宿泊所を先に建てた方がいいかもね 冒険…
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