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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第13章 リオンの夏休み(3年生)

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第212話 西の森側作業場

 翌朝。


 俺は西の森側作業場へ向かうことにした。


 昨日、石切り場から戻ってから、父上と母上、ノルに出稼ぎの話を共有した。


 グレイヴ領から来た者たちは、石切り場だけではない。


 西の森開拓にも、領都の工房にも入っている。


 それなら、石切り場だけを見て終わるわけにはいかない。


 西の森側の現場も、今どうなっているのか確認しておく必要がある。


 同行するのは、ノルとミアだった。


「リオン様、本当に私も同行してよろしいのですか?」


 屋敷の馬車止めで、ミアが少し不安そうに聞いてきた。


「うん。作業員の休憩場所や食事の様子も見たいんだ。

俺やノルだけだと、そういうところを見落とすかもしれない」


「休憩場所、ですか」


「西の森には露天風呂もあるし、飲み物や食事を出す場所もできてる。

でも、人が増えたなら、それが今の規模に合ってるかは見ておきたい」


 ミアは少し考え、それから静かに頷いた。


「承知しました。私の目で見て、気づいたことがあればお伝えします」


「頼む」


 ノルが馬車の横で軽く頭を下げた。


「西の森側は、石切り場とはまた違う危険がございます。私も警戒して見てまいります」


「うん。お願い」


 俺たちは馬車に乗り込み、西の森側作業場へ向かった。


 ◇


 西の森へ向かう道は、以前より少し整っていた。


 荷車が通りやすいように、地面がならされている。


 道の脇には、木材を一時的に置くための簡単な置き場もできていた。


 少しずつだが、西の森の開拓は進んでいる。


 それは確かだった。


 ただ、進んでいるからこそ、胸の奥に引っかかるものがあった。


 人が増える。

 作業が増える。

 道が伸びる。


 それは良いことだ。


 だが、森は森だ。


 人が増えたからといって、危険が減るわけではない。


 むしろ、危険を知らない人間が増えれば、事故は起きやすくなる。


 馬車が作業場に近づくと、木を打つ音や人の声が聞こえてきた。


 石切り場とは違う音だ。


 木を切る音。


 枝を払う音。


 荷車に木材を積む音。


 土をならす音。


 そして、少し離れた場所からは、人の笑い声も聞こえた。


 西の森側作業場は、以前よりもずっと大きくなっていた。


 ◇


 馬車を降りると、現場責任者が駆け寄ってきた。


「リオン様、ノル様。お越しになるとは聞いておりましたが、まさか朝からとは」


「急に悪い。少し現場を見たい」


「はい。ご案内いたします」


 俺は作業場全体を見回した。


 木材の一時置き場。

 資材置き場。

 荷車の待機場所。

 作業員の仮休憩所。

 簡易柵。

 見張り台。

 護衛の詰め所。


 さらに少し離れた場所には、湯屋と食事処がある。


 一年前に作った簡易露天風呂だ。


 最初は、作業終わりに身体を温めるための小さな風呂だった。


 だが、今は違う。


 男性用だけでなく、女性用の露天風呂もできている。


 周辺には、冷たい飲み物や簡単な食事を出す場所もある。


 湯上がりの作業員や冒険者が休めるように、丸太の腰掛けや日よけも置かれていた。


 前線拠点としては、かなり形になっている。


 ただ、その分だけ人の動きも増えていた。


 作業員が木材を運ぶ。


 荷車が通る。


 冒険者が森から戻ってくる。


 湯屋へ向かう者が歩く。


 食事処へ寄る者もいる。


 人の流れが増えたことで、作業場全体が少し雑然としているようにも見えた。


「作業は進んでるみたいだね」


「はい。最近は人手も増えまして」


 現場責任者は頷いた。


「木材の運び出しも、道づくりも、以前より速く進んでおります」


「グレイヴ領から来た人もいる?」


「おります。石切り場ほどではありませんが、増えております」


「働きぶりは?」


「悪くありません。力仕事には慣れている者もいます。ただ……」


 現場責任者は少し言葉を切った。


「森には慣れていない者が多いです」


「だろうね」


 俺は西の森の奥へ視線を向けた。


 木々が重なる。


 陽の光は差し込んでいるが、奥は暗い。


 平地の作業場とは違う。


 森の中では、少し場所が変わるだけで、危険の種類も変わる。


「ノル」


「はい」


「警戒線はどこ?」


 ノルは周囲を見回した。


 現場責任者が指差す。


「今は、あの杭のあたりまでを作業範囲としております」


 俺はそちらを見る。


 杭はある。


 縄も張られている。


 だが、石切り場の置き場ほどはっきりしていない。


 木材の運搬で何度も人が出入りするためか、縄が少し緩んでいる場所もあった。


 さらに西側の仮設柵は、一部が開いたままになっている。


 俺は眉を寄せた。


 その瞬間、視界に文字が浮かんだ。



 《警戒線:不明瞭》

 《未熟練者比率:上昇》

 《作業動線:混在》

 《森側監視:不足》

 《綻び:西側仮設柵》


 やっぱり、ここにも綻びがある。


 石の流れでも、人の流れでもない。


 今度は、安全の綻びだ。


 ◇


 ミアは俺たちとは少し違う場所を見ていた。


 作業員の仮休憩所。


 水桶。


 荷車の通り道。


 湯屋へ向かう道。


 食事を取る場所。


 怪我人を一時的に休ませる場所。


 しばらくして、ミアが静かに俺のそばへ来た。


「リオン様」


「何か気づいた?」


「はい。湯屋の周辺は、以前よりずいぶん整っています」


 ミアは湯屋の方を見る。


「飲み物や食事を出す場所もありますし、湯上がりの方が休む場所もあります。

そこはとても良いと思います」


「うん」


「ただ、作業場側の仮休憩所と、湯屋へ向かう道が少し近すぎます」


「近すぎる?」


「はい。湯屋へ向かう方と、木材を積んだ荷車の動きが重なっています。

今はまだ大きな問題にはなっていないようですが、人が増えれば危ないかと」


 俺はミアの視線を追った。


 たしかに、森から戻った作業員や冒険者が湯屋へ向かう道と、木材を積んだ荷車が通る場所が一部重なっている。


 湯屋が人を集めている。


 それ自体は良い。


 でも、人が集まる場所と荷車の動線が近すぎると、事故につながる。


「水桶は?」


「作業場の外側に置かれているものがあります。

水を飲みに行くために、森側に近づいている方もいました」


「それはまずいね」


「それから、怪我をした方を一時的に寝かせる場所が、湯屋側にはあります。

ただ、作業場の近くにはほとんどありません」


 ミアは言葉を選びながら続けた。


「湯屋は疲れを落とす場所として機能しています。

ですが、作業中に怪我をした方をすぐに運ぶには、少し離れているように見えます」


「なるほど」


 これは俺だけでは見落としていた。


 温泉があるから、休める場所はある。


 だが、それは作業後に身体を休める場所だ。


 作業中の事故や怪我に対応する場所とは別に考えないといけない。


 ノルが感心したように頷く。


「確かに、我々は警戒線や森側ばかり見ておりましたな」


「危険は森だけじゃないってことだね」


 俺は作業場全体を見た。


 森側の安全。

 作業員の休憩。

 水。

 怪我人の場所。

 湯屋へ向かう人の流れ。

 荷車の動線。


 どれか一つでも崩れれば、現場は止まる。


 ◇


 その時だった。


 西側の仮設柵の近くで、若い作業員が声を上げた。


「あっ」


 束ねていた縄が、柵の外側へ落ちた。


 若い作業員は、何も考えずに柵をまたごうとした。


「待て!」


 護衛の一人がすぐに声を上げた。


 作業員はびくりと止まる。


「そこから先は確認済みではない」


「す、すみません。すぐそこだったので……」


 若い作業員は慌てて頭を下げた。


 悪気はない。


 本当に、すぐそこだと思ったのだろう。


 だが、それが危ない。


 森では、その「すぐそこ」が命取りになる。


 俺はゆっくりと近づいた。


「名前は?」


「マルクです」


「グレイヴ領から?」


「はい」


 マルクは緊張した顔で答えた。


 俺は怒鳴らなかった。


 怒鳴っても意味がない。


 彼は勝手に危険を冒そうとしたのではない。


 危険だと分かっていなかっただけだ。


「マルク。ここは畑や道じゃない。森の近くだ」


「はい」


「落としたものを拾うだけでも、確認されていない場所へ一人で出たら危ない。

魔物だけじゃない。穴もある。毒草もある。足を取られる場所もある」


 マルクの顔が青くなった。


「すみません」


「責めてるんじゃない。知らなかったなら、覚えればいい」


 俺は現場責任者を見る。


「新しく来た人たちに、作業前の説明はしてる?」


「道具の扱いと、作業場所の説明はしております。ただ、森側の危険については……」


「足りてないね」


「はい」


 現場責任者は深く頭を下げた。


「申し訳ありません」


「謝るより、今日から変えよう」


 俺はそう言った。


 ◇


 俺はノルと現場責任者、ミアを近くに集めた。


「まず、安全確認済みの範囲を杭と縄ではっきりさせる」


「はい」


「森側へ出る場所は、一か所に絞る。荷運びの都合で勝手に開けない」


 ノルが頷く。


「出入口には護衛を置きましょう」


「お願い。それと、森側へ出入りする時は必ず記録する」


「承知しました」


「森に慣れていない人だけで奥へ入らせない。

新しく来た人は、作業前に必ず説明を受ける」


 現場責任者が頷いた。


「説明内容を決めます」


「退避場所と合図も必ず教える。

何かあった時に、どこへ逃げるか分からないのが一番危ない」


「はい」


 俺は少し声を強めた。


「グレイヴ領から来た人が悪いんじゃない。

森を知らない人を森の近くで働かせるなら、教える仕組みがいる」


 その場にいた作業員たちが、静かにこちらを見ていた。


 マルクも、真剣な顔で聞いている。


「速く作業することより、先に覚えることがある。どこまで行ってよくて、どこから先へ行ってはいけないかだ」


 ノルが低く言った。


「森側の警戒線は、騎士団側で再確認いたします」


「うん。作業人数に合わせて護衛の配置も見直してほしい」


「承知しました」


 次に、ミアが控えめに口を開いた。


「リオン様、動線と休憩場所についてもよろしいでしょうか」


「うん。お願い」


 ミアは現場責任者へ向き直った。


「湯屋へ向かう道と、荷車の通り道を分けた方がよいと思います。

今のままですと、仕事を終えた方と荷車が同じ場所を通ってしまいます」


「確かに……」


「水桶は、作業場の内側に増やしてください。森側に近い場所で水を飲んでいる方がいました」


「すぐに移します」


「作業場の近くにも、怪我人を一時的に寝かせる場所が必要です。

湯屋側まで運ぶ前に、まず横にできる場所があった方がよいかと」


 現場責任者は何度も頷いた。


「分かりました。すぐに配置を見直します」


「それと、湯屋の周りは良い場所になっています。

だからこそ、そこへ向かう人の流れも増えます。

作業場から湯屋へ行く道は、きちんと決めておいた方がよいと思います」


 俺はミアを見た。


「助かった」


「いえ。あの湯屋があるから、皆様が一日を終えられるのだと思います。

なら、そこへ安全に向かえることも大切ですから」


 ミアの言葉に、俺は頷いた。



 人が動く場所には、必ず綻びが生まれる。


 ◇


 しばらくして、仮設柵の周辺に新しい杭が打たれ始めた。


 護衛が出入口の位置を確認する。


 作業員たちは、水桶を作業場の内側へ運んでいる。


 荷車の通り道と、湯屋へ向かう歩き道を分けるために、縄が張り直されていく。


 ミアは湯屋へ向かう道の位置を見ながら、使用人らしい細かな目で配置を確認していた。


 ノルは森側を見ながら、護衛の立ち位置を変えている。


 俺はもう一度、作業場全体を見た。


 視界に文字が浮かぶ。


 《警戒線:再設定中》

 《未熟練者教育:必要》

 《作業動線:分離中》

 《森側監視:強化予定》

 《綻び:縮小》


 完全に消えたわけではない。


 だが、危ない場所は見えた。


 今なら、まだ直せる。


 現場責任者が俺の隣へ来た。


「リオン様、申し訳ありませんでした。

人が増えたことに気を取られて、安全の方が追いついておりませんでした」


「責めてないよ。作業場はちゃんと進んでる。

でも、進んだからこそ、次の危険が出てきただけだ」


 石切り場と同じだ。


 前に作った仕組みが悪かったわけではない。


 人が増え、仕事が増え、次の段階に来ている。


 それだけだ。


「今日から変えればいい」


「はい」


 現場責任者は深く頭を下げた。


 ◇


 帰る前に、俺たちは露天風呂のある一角へ寄ることにした。


 湯気が上がっている。


 まだ夕方というには早い時間だというのに、森から戻ってきた数人の作業員が、湯屋の近くで水を飲んでいた。


 木こりらしい男たちは、湯上がりに冷たい飲み物を飲みながら笑っている。


 少し離れた女性用の湯屋の方にも、人の出入りがあった。


 一年前、最初は簡単な露天風呂を作っただけだった。


 それが今では、ただの風呂ではなくなっている。


 人が働き、疲れを落とし、食事を取り、また明日も森へ入る。


 西の森の前線拠点は、そういう場所になり始めていた。


 温泉が人を呼ぶ。


 人が増えれば、開拓は進む。


 だが、森に慣れていない者が増えれば、事故も増える。


 ノルが隣へ来る。


「若様」


「うん」


「西の森は、まだすべてを把握できているわけではありません」


「分かってる」


「作業場が広がれば、それだけ森に触れる場所も増えます」


「うん」


 人が集まれば、領は動く。


 だが、その分だけ、守らなければならないものも増えていく。


 俺は湯気の向こうに見える西の森を見つめながら、そのことを改めて感じていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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そういえば、そろそろ彼(名前忘れた)が動き出すころかねぇ。 魔石を埋めた、死んだ魔獣つかうひと。
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