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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第13章 リオンの夏休み(3年生)

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第209話 純石候補の山

 東の石切り場へ向かう馬車の中で、俺は帳簿に浮かんだ文字を思い返していた。


 《収支:表面上正常》

 《生産量:停滞》

 《純石:管理粗雑》

 《綻び:東の石切り場》


 帳簿だけを見れば、青輝石は動いている。

 ヴァレスト公爵領への輸出も続いている。

 取引額も極端に落ちているわけではない。


 それなのに、自領の街灯生産は伸びていない。


 数字だけを見れば、どこかで流れが詰まっている。


 そして、綻びの目はその場所を示していた。


 東の石切り場。


 以前、一度現場を見直した場所だ。


 採掘班、一次選別班、最終選別と箱詰め班。


 置き場も、公爵領向けの中級青輝石、街灯用青輝石、規格外、純石候補、廃棄・土木用に分けた。


 さらに、人の出入りを把握するため、帳面や木札の仕組みも入れた。


 だから、完全に崩れているとは思っていない。


 ただ、あの時より仕事の量も種類も増えている。


 前に作った形が、今の負荷に耐えきれているか。


 それを確かめる必要があった。


 向かいに座っていたノルが、静かに口を開いた。


「若様、石切り場の者たちはよく働いております」


「うん。それは分かってる」


「ただ、最近は出荷量も増えております。特に公爵領向けの荷は、以前よりかなり多くなっておりますな」


「その分、自領の街灯用が詰まってるかもしれない」


「はい」


 ノルは短く頷いた。


 馬車が揺れる。


 窓の外には、石切り場へ向かう道が続いていた。


 ◇


 石切り場に着くと、乾いた音が耳に入ってきた。


 槌の音。


 荷車の車輪が軋む音。


 石を箱へ入れる音。


 人の声。


 以前ここへ来た時のような怒鳴り合いは、少なくとも入口からは聞こえなかった。


 馬車を降り、俺は石切り場全体を見回す。


 まず、目に入ったのは杭と縄だった。


 置き場は、まだ分けられている。


 左側には公爵領向けの中級青輝石。


 中央には街灯用青輝石。


 右側には規格外。


 奥には純石候補。


 端には廃棄・土木用の石。


 以前作った区分は、ちゃんと残っていた。


 採掘班と選別班の流れも、大きくは崩れていない。


 エドが荷車の動きを見ている。


 カイルが作業員に声をかけながら、人の配置を調整している。


 ロブは箱の中身を確認し、石の最終判断をしていた。


 崩れているわけじゃない。


 ここは、ちゃんと持ちこたえている。


 そのことに、まず少しだけ安心した。


「リオン様!?」


 エドがこちらに気づいて、慌てて駆け寄ってきた。


 カイルとロブもすぐに顔を上げる。


「帰ってきてすぐですか」


「帳簿を見た。少し確認したいことがある」


 俺がそう言うと、エドの表情が少し硬くなった。


「何か、まずいことがありましたか」


「現場が崩れているとは思ってない。まず見せて」


 そう言うと、三人の表情が少しだけ緩んだ。


 責められると思ったのだろう。


 だが、ここまで見た限りでは、エドたちが手を抜いているわけではない。


 むしろ、よく回している。


 問題があるとすれば、別のところだ。


 ◇


 まず、青輝石の置き場を見た。


 公爵領向けの中級青輝石は、きちんと箱詰めされている。


 札もある。


 箱ごとの記録も残っている。


 ヴァレスト公爵領向けの出荷は、かなり安定しているようだった。


「公爵領向けは、混ざらなくなったみたいだね」


 俺が言うと、ロブが頷いた。


「はい。前に置き場を分けてから、だいぶ減りました。中級青輝石と街灯用を混ぜることは、ほとんどありません」


「街灯用青輝石は?」


「こちらです」


 ロブに案内され、中央の置き場を見る。


 こちらも、以前よりは整っていた。


 公爵領向けほどではないが、街灯用として分けられている。


 問題は青輝石そのものではなさそうだ。


 青輝石は採れている。


 分けてもいる。


 出荷もされている。


 だが、帳簿では街灯の生産量が伸びていなかった。


 ということは、詰まりは別の場所にある。


 俺は奥の置き場へ目を向けた。


 純石候補。


 そこだけが、やけに大きな山になっていた。


 ◇


「純石候補、かなり増えてるね」


 俺が言うと、エドが少し気まずそうに頷いた。


「増えてます」


「いつから?」


「春の終わりくらいからです。採掘量が増えた分、候補として止める石も増えました」


 俺は純石候補の置き場へ近づいた。


 確かに、分けられてはいる。


 以前のように、廃棄や土木用へ雑に混ざっているわけではない。


 純石候補として、ちゃんと止められている。


 だが、そのままだ。


 山になっている。


 街灯工房へ流れている気配が薄い。


 俺は山の前に立ち、ゆっくりと視線を流した。


 その瞬間、視界に文字が浮かぶ。


 《純石候補:滞留》

 《用途判断:未処理》

 《工房納入:不足》

 《綻び:純石候補置き場》


 やっぱり、ここか。


 俺は息を吐いた。


 帳簿で見えた綻びと、現場で見えた綻びがつながった。


 純石候補は、混ざらないように止められている。


 だが、止めた後に、どれを工房へ送るかが決まっていない。


 だから、工房へ必要な分が届かない。


 街灯用青輝石だけが動いても、純石が一緒に動かなければ、街灯の生産は増えない。


 ◇


「純石候補に分けた後、どれを工房に送るかは誰が決めてる?」


 俺が聞くと、エド、カイル、ロブが一瞬顔を見合わせた。


 答えたのはロブだった。


「一応、俺が見ています」


「一応?」


「はい。ただ、公爵領向けと街灯用青輝石の最終確認もあるので、純石候補までは毎日細かく見られていません」


 カイルも続ける。


「純石候補は、とりあえず混ぜないようにはしています。でも、どれをどこへ送るかまでは決まっていません」


 エドが悔しそうに唇を噛んだ。


「分けてはいたんです。でも、その先まで見てませんでした」


 俺は首を振った。


「違う。前は、混ぜないことが大事だった。そこまではできてる」


 三人が俺を見る。


「純石候補として止めてくれていたから、まだ間に合う。これが廃棄や土木用に流れていたら、もう戻せなかった」


 エドの表情が少し変わった。


 カイルも、ロブも黙っている。


 俺は純石候補の山を見る。


「前に作った仕組みは間違ってなかった。でも、今は次の段階に来てる」


「次の段階、ですか」


 ロブが聞いた。


「うん。前は、分けるところまででよかった。今は、分けた後に、どれを街灯用として工房へ送るかまで決めないといけない」


 そこで、ようやく三人の顔に納得が浮かんだ。


 現場が悪いわけではない。


 仕事が増えた。


 役割が増えた。


 だから、仕組みも一段増やす必要がある。


 それだけの話だ。


 ◇


 俺は純石候補の置き場の前にしゃがみ、いくつか石を手に取った。


 大きさ。


 硬さ。


 反応の良さ。


 まだ細かい分類は必要だが、街灯に回せるものはある。


 少なくとも、全部を候補のまま山にしておく必要はない。


「今日から、純石候補の扱いを変える」


 俺が言うと、三人が姿勢を正した。


「まず、純石候補の中から、街灯に使えるものを毎日選ぶ」


「毎日ですか」


 ロブが少し目を見開く。


「毎日」


「はい」


「次に、街灯用青輝石と街灯用純石を同じ便で工房へ送る」


 エドが少し考える。


「同じ便で?」


「青輝石だけ送っても、純石が足りなければ工房で止まる。逆も同じ。街灯に使う分は、青輝石と純石を組にして流す」


 ノルが横で頷いた。


「石を組にして流す、ということですな」


「そう。片方だけ動いても意味がない」


 カイルが腕を組む。


「そうなると、荷車の組み方も変えた方がいいですね」


「うん。街灯用の便には、青輝石の箱と純石の箱をセットで載せる。どちらかだけなら、出発前に止める」


「分かりました」


「それと、送った数を台帳に書く。青輝石何箱、純石何箱。工房へ送った日も残す」


 ロブが頷く。


「判断できないものは?」


「純石候補置き場に残す。無理に流さなくていい。

ただし、廃棄・土木用へ回す前には必ず確認する」


「俺が見ます」


「ロブ一人に全部抱えさせると、また詰まる」


 ロブが少しだけ言葉に詰まった。


 自分で抱えるつもりだったのだろう。


 だが、それでは同じことになる。


 ◇


 俺は周囲を見回した。


「ダンはいる?」


 少し離れたところにいた男が、驚いたように振り返った。


 以前、基準を知らずに箱を混ぜかけた出稼ぎの男だ。


 今は作業服も馴染んでいて、以前より動きに迷いが少ない。


「はい、若様」


「こっちへ」


 ダンは少し緊張した顔で近づいてきた。


「純石候補の箱を勝手に動かさないように見る役をやってほしい」


「俺が、ですか?」


「判断はロブがする。ダンには、箱と台帳を合わせてほしい。どの箱がいつ積まれて、どの箱が工房へ送られたかを見る」


 ダンは目を瞬かせた。


「俺、石の見分けはまだそこまで……」


「だから判断はしなくていい。動かす前に確認する。送ったら台帳に印をつける。それをやってほしい」


 ダンはしばらく考え、それから真面目に頷いた。


「分かりました」


「前に、分からなければ止めて聞くって話をしたよね」


「はい」


「今回も同じ。勝手に流すより、止めて確認する方がいい」


 ダンは少しだけ表情を引き締めた。


「やります」


 その返事を聞いて、俺は頷いた。


 最初から完璧な人材なんていない。


 でも、分からない時に止まれる人間は、現場ではかなり大事だ。


 ◇


 俺は改めて、エドたちの役割を確認した。


「エドは、全体の流れを見る。街灯用の便が青輝石だけで出ないように、荷車の流れも見る」


「はい」


「カイルは、人の配置を見る。純石候補の確認に人を割く分、他の場所が詰まらないようにして」


「分かりました」


「ロブは、石の最終判断。ただし、全部を一人で抱え込まない。純石候補については、ダンに箱と台帳を合わせてもらう」


「はい」


「ダンは、純石候補の箱を管理する。判断はしない。でも、動かした記録は残す」


「はい」


 ノルが横で静かに聞いていた。


 現場の人間たちも、少しずつこちらを見ている。


 俺はその場にいる者たちへ声を向けた。


「今日から、純石候補はただの保留じゃない。

街灯を増やすための大事な石だ。勝手に廃棄や土木用へ回さないでほしい」


 何人かが頷く。


 まだ全員が意味を分かっているわけではない。


 だが、最初はそれでいい。


 今は、扱いを変えることが大事だ。


 ◇


 しばらく、その場で純石候補の箱をいくつか確認した。


 ロブが判断し、ダンが台帳に印をつける。


 街灯用に回せるものは、街灯用純石として別に置く。


 判断に迷うものは、純石候補のまま残す。


 廃棄・土木用へ回そうとしていた石も、一度止めて確認する。


 最初は遅い。


 当然だ。


 新しい流れを入れたばかりなのだから、最初から速い方がおかしい。


 だが、石の山が少しずつ意味を持ち始める。


 ただ積まれていた純石候補が、街灯用、保留、廃棄確認待ちに分かれていく。


 俺はもう一度、綻びの目を向けた。


 《純石候補:滞留》

 《用途判断:設定中》

 《工房納入:改善見込み》

 《綻び:縮小》


 完全に消えたわけではない。


 だが、方向は見えた。


 これなら、工房へ流れる。


 街灯用青輝石だけが先に届き、純石が足りずに止まることも減るはずだ。


 ◇


 日が少し傾き始めた頃、俺は石切り場の少し高い場所に立った。


 下では、エドが荷車の順番を組み直している。


 カイルは人員を動かし、純石候補の確認に二人ほど回していた。


 ロブは純石候補を見分け、ダンが台帳に印をつけている。


 前に作った仕組みは、ちゃんと残っていた。


 ただ、その先が必要になっていた。


 ノルが隣へ来る。


「壊れていたわけではありませんでしたな」


「うん」


 俺は下の現場を見ながら頷いた。


「では、問題は次の段階ですか」


「そう。純石候補として分けるだけじゃ足りない。街灯に使えるものを選んで、青輝石と一緒に工房へ送るところまで決める必要がある」


 ノルは低く頷いた。


 俺は純石候補の山を見る。


 あの山は、ただの停滞ではない。


 使い道が決まらないまま止まっている、ハル領の未来の材料だった。


 街灯用に使える純石を選び、青輝石と一緒に工房へ届ける。


 それだけで、止まっていた街灯の生産はまた動き出す。


 純石候補の山。


 そこに、今のハル領の綻びが見えていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
純石って、街灯に必要というよりも複数を点灯させるスイッチ・動力として必要だったような。いつの間にか、純石がないと街灯が作れないってなってるのはどういうことでしょう?
日に数回もの投稿、ありがとうございます。 転移魔法がどう使われ出すのか、楽しみにしています。
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