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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第13章 リオンの夏休み(3年生)

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第208話 ハル領の現状

 翌朝。


 久しぶりの自室で目を覚ました。


 窓の外から聞こえる鳥の声。


 遠くで働く使用人たちの足音。


 ハル領に戻ってきたのだと、改めて感じる。


 だが、心は落ち着かなかった。


 昨日、父上を見た時に浮かんだ文字が、まだ頭から離れない。


 《体力:大幅低下》

 《魔力循環:弱》

 《内臓負荷:高》

 《回復力:低下》

 《警告:長期静養必要》


 父上は、大げさにするなと言った。


 けれど、あれはただの疲れではない。


 少なくとも、俺の目にはそう見えた。


 支度を整え、部屋を出る。


 朝食の席に向かうと、そこには母上だけがいた。


 父上の席は空いている。


「母上、父上は?」


 俺が聞くと、母上は少しだけ表情を曇らせた。


「今朝はまだ休んでいるわ」


「昨日より悪いの?」


「急に悪くなったわけではないの。ただ、疲れが抜けにくいみたい」


 母上はそう言って、俺の前に座るよう促した。


 俺は席に着いた。


 朝食はいつも通り用意されている。


 けれど、食堂の空気は少し静かだった。


「あなたには心配をかけたくなかったのだけれど」


 母上が小さく言った。


「もう子ども扱いしなくていいよ」


 俺がそう言うと、母上は少し寂しそうに笑った。


「そうね。学院でも、ずいぶん頑張ってきたものね」


「父上、仕事はしてたの?」


「できる範囲ではね。でも、起き上がれる時間が短くなっているの。

書類を見るだけでも疲れるみたいで」


 やっぱりか。


 父上は弱っているところを人に見せたがらない。


 昨日も、俺を安心させようとしていた。


 でも、屋敷の空気は隠しきれていなかった。


 俺は朝食を少し口に運んでから、昨日感じた違和感を話した。


「昨日、帰ってくる途中で思ったんだけど、人や荷馬車が少なくなってない?」


 母上の手が止まった。


「気づいたのね」


「うん。冬に戻った時より、街道の流れが鈍い気がした」


 母上はしばらく考え、静かに頷いた。


「完全に止まっているわけではないの。でも、流れが鈍っているのは確かよ」


「父上の体調が原因?」


「それだけではないと思うわ。でも、お父様の判断を待っているものが増えているのは事実ね」


 母上は指先をそっと重ねた。


「街灯の生産計画。青輝石と純石の配分。石切り場からの搬出。

ヴァレスト公爵領への輸出。西の森方面の人員の動き。どれも細かい判断が必要になるでしょう?」


「うん」


「お父様に負担をかけないように、皆が気を遣っているの。でも、その分、判断待ちのものが少しずつ増えているわ」


 昨日、街道で感じた違和感がつながった。


 人が怠けているわけではない。


 領が完全に止まっているわけでもない。


 ただ、どこかで流れが詰まり始めている。


「母上、領内の帳簿を見たい」


 俺が言うと、母上は少し驚いた顔をした。


「帳簿を?」


「うん。まず数字を見たい。どこで流れが詰まっているのか、感覚だけじゃ分からないから」


 母上は俺をじっと見た。


 それから、静かに頷いた。


「分かったわ。でも、その前にお父様に許可をもらいましょう」


「うん」


 ◇


 朝食の後、俺は母上と一緒に父上の部屋へ向かった。


 父上は昨日と同じように、寝台に上半身を起こしていた。


 顔色はまだよくない。


 それでも、昨日より少し落ち着いているようには見えた。


「父上」


「リオンか。もう朝食は済ませたのか」


「うん。父上、領内の帳簿を見てもいい?」


 父上は少し目を細めた。


「帳簿を?」


「昨日、街道の人や荷馬車が少なかった。母上からも、いくつか判断待ちが増えているって聞いた。だから、まず数字を見たい」


 父上はしばらく黙っていた。


 怒っているわけではない。


 やがて、父上は少し申し訳なさそうに笑った。


「せっかくの休みだというのに、すまないな」


「いいよ。俺も気になってるから」


「そうか」


 父上は軽く息を吐いた。


「では、見てくれ。リオンなら、私たちが見落としているものに気づくかもしれん」


「分かった」


「無理はするなよ」


「それは父上もでしょ」


 父上は苦笑した。


「返す言葉もないな」


 母上が少しだけ笑った。


 けれど、その笑みはすぐに静かな心配へ戻った。


 俺は父上の部屋を出て、小さな応接室へ向かった。


 ◇


 応接室には、すでにノルと会計係が呼ばれていた。


 机の上には、分厚い帳簿が何冊も置かれている。


 街灯の生産記録。

 青輝石の採掘量。

 純石の搬出記録。

 東の石切り場の出荷台帳。

 ヴァレスト公爵領への輸出記録。

 自領の工房への納入量。

 売上と在庫。


 俺はそれらを順に開いた。


 数字を見る。


 月ごとの変化を見る。


 冬から今までの流れを追う。


 街灯は、ハル領にとって重要な商品になりつつある。


 青輝石だけではなく、純石も欠かせない。


 青輝石の光を安定して使うには、純石をどう扱うかが重要になる。


 少なくとも、俺はそう考えている。


 けれど、帳簿を追っていくうちに、違和感がはっきりしてきた。


「街灯の生産量、冬からあまり増えてないね」


 会計係が少し緊張したように頷いた。


「はい。需要はございます。ただ、工房での生産が追いついておらず……」


「青輝石の採掘量は落ちてない」


 俺は別の帳簿をめくる。


「むしろ、東の石切り場からの搬出量はかなりある」


「はい。特にヴァレスト公爵領向けの出荷は、予定通り続いております」


 ヴァレスト公爵領。


 そこで作られているのは、平民向けの安価な卓上灯と携帯灯だ。


 これは悪い流れではない。


 一部の貴族だけでなく、平民の家にも明かりを届ける。


 俺が望んでいた方向に近い。


「ヴァレスト公爵領への輸出は止めなくていい」


 俺は言った。


「でも、自領の街灯に回る分が足りていない。

青輝石が足りないというより、生産管理が止まってるな」


 ノルの表情が引き締まった。


「生産管理、ですか」


「うん。採れている。出ている。売れている。でも、自領の街灯生産は伸びていない」


 俺は帳簿の数字をもう一度追った。


 その時だった。


 視界に、文字が浮かぶ。


 《収支:表面上正常》

 《生産量:停滞》

 《青輝石:輸出優先》

 《純石:管理粗雑》

 《在庫記録:不整合》

 《綻び:東の石切り場》


 来た。


 帳簿の数字と物の流れに、綻びの目が反応している。


 俺は息を整え、さらに純石の記録を見た。


 青輝石の記録は丁寧だった。


 採掘量。

 出荷先。

 品質。

 価格。


 どれもある程度まとまっている。


 だが、純石は違う。


 採掘量の記録が大まかだ。


 一部は低価値石として処理されている。


 自領の工房への納入量も安定していない。


 さらに、在庫記録と搬出記録が少し合わない。


 また、視界に文字が浮かぶ。


 《純石:低価値扱い》

 《将来価値:高》

 《管理不備:高》

 《綻び:保管・配分》


 俺は思わず帳簿に目を落としたまま、指を止めた。


 青輝石だけじゃない。


 純石がまとまって出るなら、東の石切り場は今後のハル領にとって重要拠点になる。


 なのに、今の扱いは軽すぎる。


「リオン?」


 母上が声をかけてきた。


 俺は顔を上げる。


「純石の採取と管理が雑だと思う」


 会計係が少し戸惑った顔をした。


「純石、でございますか」


「うん。青輝石より価値が低い石として扱っているのは分かる。

でも、街灯の生産を増やすなら、純石の量と保管場所をもっと正確に見ないといけない」


「現在は、石切り場ごとにまとめて報告を受けておりますが……」


「それだと足りない。採掘量、保管場所、工房への納入量、不要石として処理した量を分けて見たい」


 ノルが少し身を乗り出した。


「純石が、それほど重要なのですか」


「今はまだ、青輝石ほど分かりやすい価値はない。

でも、今後の街灯には必要になる。

扱いを間違えると、後で取り返すのが大変になる」


 全員が黙った。


 俺が純石にこだわる理由を、完全に理解しているわけではないだろう。


 それでも、俺の口調から重要だと感じたのだと思う。


 俺は帳簿を並べ直した。


「問題は一つじゃない」


 母上とノルが俺を見る。


「青輝石は採れている。ヴァレスト公爵領への輸出も必要。

だけど、自領の街灯生産に回す分が止まっている」


 俺は次に、純石の帳簿を指す。


「それに、純石の管理が甘い。今のままだと、街灯の増産にも、将来の計画にも支障が出る」


「将来の計画?」


 母上が聞いた。


「そこは、あとでちゃんと説明する。

でもまずは、東の石切り場を見たい。

帳簿だけ見ると、流れがそこで詰まってる」


 ノルが頷いた。


「警備を兼ねて、私が同行いたします」


「お願い」


 会計係は少し青ざめた顔をしている。


 俺はすぐに言った。


「帳簿をつけている人だけの問題じゃないと思う。

そもそも、純石を重要なものとして扱う指示が出てなかったんだろうから」


 会計係はほっとしたように頭を下げた。


「ありがとうございます」


「でも、ここからは変えよう。今まで見ていなかったものを見る必要がある」


 ◇


 帳簿を一通り確認した後、俺は父上の部屋へ戻った。


 母上とノルも一緒だ。


 父上は少し疲れているようだったが、俺たちを見ると体を起こそうとした。


「そのままでいいよ」


 俺が言うと、父上は苦笑した。


「そうさせてもらおう」


「帳簿を見た」


「どうだった」


「街灯の生産量が伸びてない。青輝石は動いてるけど、配分が輸出寄りになっている。

ヴァレスト公爵領への輸出は必要だと思う。でも、自領の街灯用の分がうまく設計されていない」


 父上は静かに聞いている。


「それから、純石の管理がかなり粗い。そこを見直さないといけない。

まずは東の石切り場を見たい」


 父上は目を閉じ、少しだけ考えた。


「そうか。やはり、リオンに見てもらってよかった」


「まだ帳簿を見ただけだよ」


「それでもだ」


 父上は少しだけ笑った。


 その笑顔には力がなかった。


 でも、俺を信じてくれていることは分かった。


 ◇


 部屋を出た後、俺はもう一度、帳簿を閉じた時の表示を思い出していた。


 《収支:表面上正常》

 《生産量:停滞》

 《純石:管理粗雑》

 《綻び:東の石切り場》


 街道の往来が少なかった理由。

 街灯の生産が伸びない理由。

 青輝石と純石の配分。


 それらは、すべて東の石切り場につながっている。


 本当は、ハル領の自室に転移魔法の目印を置くつもりだった。


 王都の寮との行き来を試すつもりだった。


 だが、それは後だ。


 今やるべきことは、魔法の実験ではない。


 領の流れを止めないことだ。


 その日、俺はノルとともに、東の石切り場へ向かう準備を始めた。



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― 新着の感想 ―
(自室に転移魔法の目印を置くつもりだった) 今までの行動なら自室で1夜明かしてるのに出来る事をしてないのは不自然。 なぜ自室に一晩居たのにしなかった? 王都との転移を試さなくても目印を置くだけならして…
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