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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第11章 王立学院一年 三学期

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第191話 ギルドへの報告

 森を出た後、俺たちは王都へ戻る乗合馬車に乗った。


 行きと違って、車内での会話は少なかった。


 小型魔物の討伐は終わった。


 ナディアの初めての冒険者活動も、十分すぎるほど落ち着いていた。


 だが、依頼書にない中型魔物。

 しかも、すでに死んでいるはずの魔物が動いていた。


 俺は布に包んだ黒い魔石片を、鞄の中で軽く押さえた。

 

胸に埋め込まれていた魔石。

 あれは、自然に起きたものではない。


 誰かが、意図的にやった。

 そう考えるしかなかった。


 セレナも、いつもより少し表情が硬い。


 ガイルは黙って外を見ている。


 ナディアも落ち着いてはいたが、初めての依頼であんなものを見たのだ。


 何も感じていないはずがない。


 気分転換のつもりだった。


 けれど、今日はそれだけでは終わらなかった。


 ◇


 王都に着くと、俺たちはそのまま冒険者ギルドへ向かった。


 夕方のギルドは、朝とはまた違う騒がしさがあった。


 依頼を終えて戻ってきた冒険者たち。


 報酬を受け取る者。


 食堂へ向かう者。


 酒を飲みながら笑っている者。


 その中を抜け、俺たちは受付へ向かった。


「依頼の報告をお願いします」


 俺が言うと、受付の女性が依頼書を確認する。


「王都西南の森、小型魔物の群れの確認と討伐ですね」


「はい。対象の小型魔物は討伐しました。証明部位もあります」


 俺たちは討伐証明を提出した。


 ここまでは、通常の依頼報告だ。


 受付の女性も、慣れた手つきで確認していく。


「確認しました。依頼達成ですね」


 そこで俺は、一度息を吸った。


「それと、依頼書にない中型魔物が出ました」


 受付の女性の手が止まる。


「中型魔物ですか?」


「はい。森の手前です。小型魔物の討伐後に遭遇しました」


 セレナが補足する。


「動きが明らかに不自然でした。痛みに反応せず、襲い掛かってきました」


 ガイルも短く言う。


「手応えも普通じゃなかった」


 受付の女性の表情が変わった。


 俺は鞄から布包みを取り出し、受付台の上に置く。


「その中型魔物の胸に、これが埋め込まれていました」


 布を開く。


 黒い魔石片が姿を見せた。


 受付の女性は、それを見た瞬間、すぐに奥へ視線を向けた。


「詳しい者を呼びます。少しお待ちください」


 そう言って、彼女は奥の職員に声をかけた。


 ◇


 しばらくして、ギルド職員の男性が出てきた。


 年は四十代くらいだろうか。


 落ち着いた雰囲気だが、目は鋭い。


「報告を聞きますのでこちらへ」


 俺たちは受付横の小さな相談席へ案内された。


 職員は黒い魔石片を布ごと机に置き、俺たちを見る。


「順に確認します。依頼対象は小型魔物でしたね」


「はい」


「それは討伐済み、ということですね」


「しました」


「その後、依頼書にない中型魔物に遭遇したということですね」


「はい。森の手前です」


「倒したのは君たちですか?」


「はい」


 職員は頷き、黒い魔石片へ目を落とす。


「この欠片は、その中型魔物の体内から出たものということですね」


「胸に埋め込まれていました」


「胸、ですか」


 職員の目が細くなる。


 俺は、見たことをできるだけ整理して話した。


 中型魔物の動きが鈍かったこと。


 目に生気がなかったこと。


 古い傷が多かったこと。


 痛みに反応しなかったこと。


 胸を破壊した瞬間に動きを止めたこと。


 そして、胸部からこの黒い魔石片が出てきたこと。


 綻びの目で見えた情報を、そのまま全部言うわけにはいかない。


 だが、実際に起きたことだけでも十分に異常だった。


 セレナが静かに続ける。


「魔法で足元を乱しても、反応が鈍すぎました。生きている魔物の動きには見えませんでした」


 ナディアも言う。


「胸部を破壊した直後、急に力が抜けるように倒れました。まるで、支えていたものが切れたようでした」


 ガイルは少しだけ考えてから言った。


「斬った感触も、普通の魔物とは違った。肉を斬ったというより、何か硬いものを壊した感じがあった」


 職員は全員の話を聞き終えると、しばらく黙った。


 それから、黒い魔石片を慎重に布で包み直す。


「この魔石の件は、ギルド側でも調査したいと思います」


「お願いします」


「依頼書にない中型魔物が森の手前に出たことだけでも問題です。

その個体にこのようなものが埋め込まれていたとなれば、通常の報告では済みません」


 職員は受付の女性へ何か指示を出した。


 彼女がすぐに記録用の紙を持ってくる。


「君たちの判断は正しかったです。奥へ追わず、証拠を持って戻ったのは良かったです」


 その言葉で、少しだけ肩の力が抜けた。


 ガイルが不満だったわけではない。


 だが、俺の判断が本当に正しかったのか、少しだけ引っかかっていた。


 ここでギルド側にそう言われたことで、ようやく一区切りついた気がした。


「中型魔物の討伐については、追加報酬の対象です」


 職員が続けた。


「それと、この魔石片の提出も調査協力として扱います。大きな額ではないが、報酬に加算しておきます」


「分かりました」


「今後、同じような報告があれば、こちらからも情報を出します。

君たちも、もしまた森に入るなら無理はしないでください」


「はい」


 俺たちは頷いた。


 報告は終わった。


 けれど、黒い魔石片のことが消えたわけではない。


 ただ、今はギルドに渡すしかない。


 俺たちだけで抱える話ではなかった。


 ◇


 報告処理が終わると、受付で報酬を受け取った。


 小型魔物討伐分。


 依頼書にない中型魔物の討伐分。


 さらに、魔石片の調査協力分。


 思っていたよりも、袋は少し重かった。


「中型魔物の分が入ると、やっぱり違うな」


 俺が呟くと、ガイルが報酬袋を見て短く言った。


「今日は食べて帰るか」


 セレナが横を見る。


「朝もギルドで食べたのに?」


「たくさん動いたからな」


 即答だった。


 俺は少し笑った。


 確かに、今日は朝から森へ入り、戦闘もあった。


 しかも最後は依頼書にない中型魔物まで出た。


 勉強疲れを抜くために来たはずなのに、別の疲れが増えた気もする。


 それでも、図書室で机に向かい続けている時とは違う疲れだった。


 ナディアがギルドの食堂の方を見た。


 朝よりも人が増え、食堂はかなり賑わっている。


 湯気の立つ料理を運ぶ店員。


 大きな皿を囲む冒険者たち。


 焼けた肉と香辛料の匂い。


 ナディアの目が、少しだけ楽しそうに動いた。


「せっかくだし、食べていくか」


 俺が言うと、セレナも小さく頷いた。


「そうね。今日はもう勉強する気分でもないわ」


「同感だ」


 ガイルが言う。


 こうして、俺たちはギルド内の食堂で夕食を取ることにした。


 ◇


 夜のギルド食堂は、朝よりもずっと賑やかだった。


 大きな鉄鍋では、肉と豆のシチューがぐつぐつと煮えている。


 厚切りの肉は鉄板の上で焼かれ、脂が落ちるたびに香ばしい匂いが広がった。


 皮がぱりっと焼けた腸詰め。


 粗く切られた根菜のスープ。


 焼きたての黒パン。


 どの皿も、学院の食堂のように上品ではない。


 だが、湯気と匂いだけで腹が減る。


 俺たちは空いている席に座り、料理を頼んだ。


 やがて運ばれてきた皿を見て、ガイルの表情が少しだけ満足そうになる。


「多いな」


「嬉しそうに言うのね」


 セレナが言うと、ガイルは短く頷いた。


「ああ」


 皿の上には、厚く切られた焼き肉が乗っていた。


 表面は香ばしく焼かれ、中から肉汁がにじんでいる。


 横には豆と根菜の煮込み。


 黒パンは少し硬いが、シチューに浸せばちょうどいい。


 俺も一口食べた。


 塩気が強い。


 香辛料も学院の食堂よりずっと効いている。


 でも、森を歩いた後には、それがうまかった。


「朝も思いましたが、ギルドの食事は力が出そうですね」


 ナディアがシチューを口にして言った。


「実際、出ると思う」


 俺が答える。


 ガイルは何も言わず、黙々と肉を食べていた。


 セレナは最初、少し慎重に食べていたが、すぐに表情を少し緩めた。


「味は濃いけれど、悪くないわね」


「森の後だとちょうどいいな」


「ええ。それは分かるわ」


 ナディアも、朝より少し慣れた様子で食事を楽しんでいた。


 冒険者たちの笑い声。


 皿が置かれる音。


 煮込みの湯気。


 焼けた肉の匂い。


 図書室で参考書に囲まれていた時間とは、まるで違う。


 同じ春休みなのに、まったく別の日のようだった。


 食事をしながら、俺はふと今日一日のことを思い返した。


 こうして外へ出て、体を動かし、仲間と食事をする。


 それもまた、必要な時間なのだと思う。


「また、軽い依頼なら受けてもいいかもしれないな」


 俺が言うと、セレナが頷いた。


「ええ。今日みたいなことがなければ、良い気分転換になると思うわ」


 ナディアも静かに言った。


「私も、また参加できたら嬉しいです」


 ガイルは肉を食べ終えてから、短く言う。


「次も行く」


 その言葉に、少しだけ笑いが起きた。


 ギルドの食堂は、夜になってさらに賑やかになっていく。


 焼けた肉の匂いと、冒険者たちの笑い声。


 春休みの勉強疲れは、少しだけ薄れていた。



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