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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第11章 王立学院一年 三学期

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第190話 依頼書にない魔物

 森に入ってすぐ、空気が少し変わった。


「足元、少しぬかるんでいるわ」


 セレナが静かに言う。


「はい」


 ナディアは短く答え、踏み出す位置を少し変えた。


 ガイルが前方の茂みを見る。


「いるな」


「ああ」


 俺も気づいていた。


 低い草の向こうに、何かが動いている。


 俺は息を整えた。


「ガイル、前を頼む。セレナは右側を抑えてくれ。

ナディアは無理に前に出なくていい。抜けてきたやつだけ見てくれ」


「分かった」


「ええ」


「はい」


 次の瞬間、茂みから小型魔物が飛び出してきた。


 全部で五体。


 依頼書の内容と大きくは違わない。


 ガイルが一歩前に出る。


 最初の一体を剣で受け、そのまま押し返す。


 セレナが横から風を走らせ、右へ抜けようとした二体の動きを鈍らせた。


 俺は左へ回ろうとした一体へ向かう。


 動き自体は速い。


 だが、読めないほどではない。


 綻びの目が、小型魔物の動きを淡く拾う。


 《逃走方向:左後方》

 《攻撃意図:低》

 《群れの連携:弱》


 俺は踏み込み、横へ逃げようとした一体を斬り払った。


 倒す。


 すぐに視線を戻す。


 ガイルが正面の二体を押さえている。


 セレナがその動きを見ながら、魔法で逃げ道を塞ぐ。


 ナディアは、まだ大きく動いていない。


 だが、ただ見ているだけではなかった。


 セレナの魔法の射線を邪魔しない位置へ自然に移動している。


 さらに、ガイルの背後へ回ろうとした一体に気づき、短く踏み込んだ。


 剣を振る。


 深追いはしない。


 だが、その一撃で魔物の進路は変わった。


 ガイルの背後に入る前に、魔物は横へ逸れる。


 そこへセレナの風が当たり、俺が仕留めた。


 森でこういう動きができる仲間は、かなりありがたい。


 残った小型魔物も、すぐに片づいた。


 ガイルが最後の一体を斬り倒し、周囲が静かになる。


「終わったな」


 ガイルが剣を下ろした。


「ああ」


 俺は周囲を確認する。


 依頼対象の小型魔物は討伐できた。


 数も依頼書と大きくずれていない。


 まずは順調だ。


 セレナがナディアを見る。


「落ち着いていたわね」


「ありがとうございます。でも、まだ森の中での動きには慣れていません」


 ナディアは少しだけ息を整えながら答えた。


 無理に強がらない。


 それも良い。


 ガイルも短く言った。


「問題ない」


 ナディアは一瞬だけ目を丸くした後、少し嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます」


 俺は倒した小型魔物を確認し、討伐証明に必要な処理を済ませた。


 このままなら、早めに終わる。


 そう思った時だった。


 森の奥側の茂みが、重く揺れた。


 ガイルが即座に剣を構える。


 セレナの表情も変わる。


 ナディアも剣を握り直した。


 俺は茂みの奥を見た。


 足音が重い。


 小型魔物ではない。


「下がれ」


 俺が言うより早く、ガイルが半歩前に出た。


 茂みを押し分けて現れたのは、中型の獣型魔物だった。


 体格はガイルより大きい。


 肩のあたりが盛り上がり、分厚い前脚を持っている。


 ただ、動きが妙だった。


 速くはない。


 むしろ鈍い。


 だが、まっすぐこちらへ向かってくる。


 目に光がない。


 体には古い傷がいくつもある。


 皮膚の一部は裂け、乾いた血の跡のようなものも見えた。


「依頼書にはないな」


 セレナが低く言う。


「ああ」


 俺は頷く。


 依頼書にこんな中型魔物が混じっているとは書かれていなかった。


「ガイル、受けられるか」


「やる」


 短い返事。


 次の瞬間、中型魔物が突っ込んできた。


 ガイルが正面から受ける。


 重い音が森に響いた。


 ガイルの足が少し地面を削る。


「重いな」


 それでも、押し切られてはいない。


 セレナがすぐに魔法を放つ。


 風が魔物の脚を払うように走る。


 普通なら、そこで姿勢が崩れる。


 だが、中型魔物はほとんど怯まなかった。


 動きが鈍いのに、止まらない。


 痛みに反応していない。


 俺は違和感を強くした。


 生きている魔物の動きじゃない。


 でも、ただの死骸でもない。


 綻びの目を使う。


 視界に文字が浮かんだ。


 《生命反応:なし》

 《心拍:停止》

 《肉体損傷:致命傷》

 《駆動:外部魔力》

 《異物:胸部》


 生命反応なし?

 こいつは、もう死んでいるのか?


 なのに、動いている?


「普通の魔物じゃない!」


 俺は叫んだ。


「死んでる! 胸に何か埋め込まれてる!」


 セレナが一瞬だけこちらを見た。


「死んでる?」


「生命反応がない。でも動いてる。胸だ。胸を壊せば止まるかもしれない!」


 普通の魔物は、魔石を持っていない。


 魔物の体内に魔石がある、などという話は少なくともこの辺りでは聞いたことがない。


 だが、綻びの目は胸部に異物を示している。

 つまり、外から何かを埋め込まれている。


 ガイルが剣を構え直した。


「胸だな」


「ああ!」


 中型魔物が再びガイルへ向かう。


 ガイルが正面から受け止める。


 重い。


 だが、ガイルは崩れない。


 セレナが足元へ魔法を走らせる。


 風と土を合わせるようにして、魔物の踏み込みをわずかに乱した。


「ナディア、右へ逃がさないで!」


「はい!」


 ナディアがすぐに動いた。


 中型魔物の右側へ回り込む。


 無理に攻めない。


 だが、逃げ道を塞ぐように剣を構える。


 魔物がそちらへ体を向けようとした瞬間、ナディアが一歩踏み込み、短く牽制を入れた。


 動きが止まる。


 ほんの一瞬。


 だが、それで十分だった。


「ガイル!」


「分かっている」


 ガイルが踏み込む。


 正面から押さえていた剣を、一度引く。


 そして、魔物の胸元へ向けて強く斬り込んだ。


 鈍い音。


 硬いものを砕く感触が、こちらにまで伝わるようだった。


 中型魔物の体が大きく震えた。


 次の瞬間、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


 地面に倒れた魔物は、もう動かなかった。


 森に、重い沈黙が落ちる。


 俺はゆっくりと近づいた。


「リオン、危ないわ」


 セレナが言う。


「分かってる」


 剣を構えたまま、倒れた中型魔物の胸元を見る。


 ガイルの一撃で裂けた部分に、黒い欠片が見えた。


 石のようにも見える。


 俺は慎重にそれを取り出した。


 黒い魔石片。


 胸部に埋め込まれていたらしい。


 綻びの目が、さらに文字を浮かべる。


 《魔石:外部埋込》

 《術式核:破損》

 《目的:死骸の駆動》

 《術式残滓:微弱》


 俺は、手の中の黒い欠片を見つめた。


「魔石を持ってる魔物なんて聞いたことないぞ」


 セレナの表情が険しくなる。


「つまり、誰かが埋め込んだということ?」


「たぶん。少なくとも、自然にこうなったわけじゃない」


 ナディアが静かに言う。


「死んだ魔物を、魔石で動かしていた……ということでしょうか」


「そう見える」


 俺は否定できなかった。


 これは、依頼書にない魔物が出たというだけの話じゃない。


 誰かが、死んだ魔物を動かしている可能性がある。


 これをやった誰かがこの森にいるのか?


 もしかしたら、他にも同じような魔物がいるのか?


 そう考えるのは自然だった。


 だが、俺は首を振った。


「今日は追わない」


 ガイルがこちらを見る。


「なぜだ」


「依頼範囲外だ。ナディアも初参加。しかも相手は普通の魔物じゃない。

俺たちだけで判断していい話じゃない」


 セレナも頷いた。


「私も同意見よ。これはギルドに報告すべき案件だわ」


 ナディアも静かに頷く。


「はい。今の状況で奥へ進むのは危険だと思います」


 ガイルは少しだけ森の奥を見た。


 それから、短く答える。


「分かった」


 俺は黒い魔石片を布に包んだ。


 証拠として持ち帰る必要がある。


 小型魔物の討伐依頼。


 そのはずだった。


 だが、森の手前に現れた中型魔物は、依頼書にない存在だった。


「戻ろう」


 俺は言った。


「これは、ギルドに報告した方が良い」


 久しぶりの討伐は、ただの気分転換では終わらなかった。


 ◇


 リオンたちが森を離れたあと。


 少し離れた木陰で、一人の男が地面に落ちた黒い欠片を拾い上げた。


「……壊されたか」


 男は、リオンたちが去った方角を見つめる。


「ただの学生ではない、ということか」


 低く呟くと、男は黒い欠片を指先で砕いた。


「だが、試しとしては十分だ」


 男の視線が、森のさらに奥へ向く。


「本命は、ここではない」


 その言葉だけを残し、男は森の影の中へ消えた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
ほのぼのデート回じゃなかった件・・・
せっかくのWデートが
今までワイルドボアワイルドボアと品種名?で言い続けてきたのに何故今回は単に魔物なのでしょうか
感想一覧
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