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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第11章 王立学院一年 三学期

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第184話 飛び級

 三学期期末試験の結果発表の翌朝。


 俺たち六人は、ローヴェン先生に連れられて学院長室へ向かっていた。


 セレナ、エドガー、ナディア、ガイル、ヴィクトル。


 そして俺。


 昨日の時点で、俺たち全員が飛び級の基準を満たしていることは分かっている。


 それでも、正式な説明を受けるとなると、少し空気が違った。


 ヴィクトルも、いつものような軽口をあまり叩かない。


 ガイルは黙って前を見ている。


 ナディアは少し緊張した顔をしていた。


 セレナはまっすぐ歩いている。


 エドガーはいつも通り静かだ。


 俺も、落ち着いているつもりだった。


 だが、胸の奥には少し重いものがある。


 飛び級。


 目標にしてきたことではある。


 でも、いざ現実になると、それはただのご褒美ではない気がしていた。


 学院長室の前で、ローヴェン先生が足を止めた。


 俺たちを振り返る。


「入れ」


 いつも通り、短い声だった。


 ローヴェン先生が扉を開ける。


 俺たちは学院長室へ入った。


 ◇


 学院長は、広い机の向こうに座っていた。


 机の上には、俺たちの結果表らしき書類が並んでいる。


 学院長はゆっくりと顔を上げ、俺たち六人を見渡した。


「よく来てくれた」


 静かな声だった。


 穏やかではある。


 けれど、軽くはない。


「三学期期末試験の結果により、君たちは飛び級に必要な基準を満たした」


 その言葉を聞いて、改めて実感が湧く。


 決まった。


 少なくとも、基準の上では。


 学院長は続けた。


「よって、学院としては、君たち六名を次の学期より二年生ではなく、三年生として扱う手続きを進めようと思う」


 ナディアが小さく息を呑んだ。


 ヴィクトルはわずかに肩を動かした。


 ガイルは表情を変えない。


 セレナは静かに学院長を見ている。


 エドガーも同じだった。


 俺は、胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じた。


 三年生。


 次の学期から、俺たちは二年生を飛ばして、三年生になる。


 だが、学院長はそこで少し声を低くした。


「ただし、飛び級は褒賞であると同時に、負荷でもある」


 その言葉で、部屋の空気が変わった。


「二年で学ぶはずだった内容を、君たちは授業として受ける機会を失う。三年の授業では、一年と二年の内容を理解しているものとして話が進む」


 当然のことだ。


 だが、言葉にされると重い。


「さらに、共に学ぶ生徒たちは一歳年上だ。知識、体格、経験、対人関係。あらゆる場面で不利になるだろう」


 ガイルの眉が、ほんの少し動いた。


 実技なら、体格差は大きい。


 三年生相手なら、今までのようにはいかない場面も増えるだろう。


 俺も、すぐに頭の中で考える。


 二年の範囲。


 魔法理論。


 応用課題。


 実技。


 学院生活での立ち回り。


 今の一年Sクラスで上位だったことは、三年での立場を保証しない。


 学院長は言った。


「今までの結果は、君たちの力を示している。

しかし、三年に上がれば、周囲も変わる。そのことを心に留めておきなさい」


「わかりました」


 最初に答えたのはセレナだった。


 背筋を伸ばし、真剣な声で言う。


 エドガーも静かに頷いた。


「その不利も含めて、越えるべきものだと考えます」


「問題ありません」


 ガイルが短く言う。


 ヴィクトルは少しだけ苦笑した。


「つまり、春休みからかなり詰めないとまずいわけですね」


「そういうことだ」


 学院長は軽く頷く。


 ナディアも丁寧に言った。


「二年生の範囲も、自分たちで確認します」


 学院長の視線が、最後に俺へ向いた。


 俺は一度息を吸う。


「はい。進みます」


 そう答えた。


 自分で言って、腹が決まった気がした。


 飛び級する。


 でも、飛ばした分は自分で埋める。


 それだけの話だ。


 簡単ではない。


 だが、ここで止まるつもりはなかった。


 学院長は静かに頷いた。


「では、正式に手続きを進める。春休み明け、君たちは三年生だ」


 その言葉で、俺たちの飛び級は正式に決まった。


 ◇


 学院長室を出ると、六人ともすぐには話さなかった。


 重い話だった。


 けれど、不思議と暗くはない。


 前へ進むための重さだ。


 そこで、ローヴェン先生が俺たちを呼び止めた。


「お前たち」


 全員が振り返る。


 ローヴェン先生は、いつものように厳しい顔をしていた。


「正直に言えば、まだ危なっかしいところはある」


「だが、それでもお前たちなら三年に送り出せる」


 その声は、いつもの厳しさを残していた。


 でも、そこには確かな信頼があった。


「自信を持って行け」


 ローヴェン先生は、ほんの少しだけ表情を緩めた。


「期待しているぞ」


 誰もすぐには返事をしなかった。


 たぶん、全員が少し驚いていた。


 厳しい先生だった。


 褒めるより、課題を突きつけることの方が多かった。


 でも、俺たちを本当に見てくれていた。


 そのことが、今さらのように分かった。


 最初に頭を下げたのはセレナだった。


「ありがとうございました、ローヴェン先生」


 それに続いて、エドガーが頭を下げる。


 ナディアも、ガイルも、ヴィクトルも。


 俺も深く頭を下げた。


「ありがとうございました」


 ローヴェン先生は、少しだけ居心地悪そうに視線を逸らした。


「礼は三年で結果を出してから言え」


 そう言って、いつもの声に戻る。


「行くぞ。終業式に遅れる」


 その言葉で、俺たちは少しだけ笑った。


 ◇


 終業式は、いつもより少しだけ長く感じた。


 講堂には全学年の生徒が集まっている。


 学院長から、三学期の終了と春休み中の過ごし方について話があった。


 春休みは二週間。


 長いようで短い。


 次の学年への準備を考えれば、あまりのんびりもしていられない。


 俺は学院長の話を聞きながら、ぼんやりと考えていた。


 入学試験。


 実技。


 勉強会。


 冒険者活動。


 期末試験。


 いろいろなものが、一気に頭をよぎる。


 式が終わると、生徒たちはそれぞれの教室へ戻った。


 ◇


 一年Sクラスの教室に戻ると、いつもより少し騒がしかった。


 終業式の後らしい浮ついた空気。

 その中で、俺たち六人に向けられる視線はやはり多かった。


 飛び級。


 次の学期から、俺たちはこの教室にはいない。


 クラスメイトが話しかけてきた


「三年でも暴れてこいよ。いや、ほどほどにだけどな」


「暴れる前提なのか」


 俺が言うと、レオスは笑った。


「今さらだろ。特にお前は」


 たぶん、褒めてはいない。

 でも、悪い気はしなかった。


 他のクラスメイトがセレナの方へ向かった。


「セレナ、三年でも一位を取ってください」


 セレナは少しだけ微笑む。


「簡単ではないでしょうけど、狙うわ」


「応援しています」


「ありがとう」


 他のクラスメイトが教室を見回しながら言った。


「でも、六人がいなくなると、二年Sクラスはかなり静かになりそうね」


 ヴィクトルがすぐに反応した。


「俺たち、そんなに騒がしかった?」


 ガイルが短く言う。


「お前は騒がしい」


「そこは否定しないけど、俺だけじゃないだろ」


「主にお前だ」


「ひどいな」


 教室に小さな笑いが起きる。


 その笑いが、少しだけ寂しかった。


 完全な別れではない。


 同じ学院にはいる。


 でも、同じ教室で同じ授業を受ける時間は、これで終わる。


 ◇


 放課後。


 荷物をまとめ、俺たち六人は教室を出ることになった。


 ヴィクトルが扉のところで振り返る。


「何だかんだで、短かったな」


「そうね」


 ナディアが静かに頷く。


「でも、とても濃かったです」


「濃すぎた気もするけどな」


 俺が言うと、セレナが少し笑った。


「あなたがそれを言うの?」


「俺だけのせいじゃないだろ」


「少なくとも、かなり大きな原因ではあるわね」


「そこは否定しづらい」


 ガイルは教室を一度見回した。


「次は三年か」


「ああ」


 エドガーが短く答える。


「ここからが本番だな」


 その言葉に、全員が自然と頷いた。


 俺は教室の中を振り返る。


 一年Sクラス。


 ここで、俺たちは出会った。


 競い合った。


 懐かしい気持ちがこみあげてくる。


「行きましょう、リオン」


 隣でセレナが言った。


「ああ」


 俺は頷き、教室を出た。


 ◇


 翌日から、春休みに入る。


 とはいえ、春休みは二週間しかない。


 寮生のほとんどは実家へ帰らず、寮に残るらしい。


 短い休みのために長距離を移動するより、学院で次の学年の準備をする方がいいという判断だ。


 特に俺たち飛び級組は、のんびりしている余裕などない。


 二年生で学ぶはずだった内容を、自分たちで確認しなければならない。


 三年の授業についていく準備も必要だ。


 教室を出たあと、俺はセレナに声をかけた。


「セレナ、明日少し時間あるか?」


 セレナは足を止め、こちらを見る。


「二年の範囲の確認?」


「それもある。でも、少し別の話もある」


「別の話?」


 セレナの目が少し細くなる。


 たぶん、心当たりがあるのだろう。


 王立図書館で借りた、あの古い本。


 福嶋亮太の『魔法理論』。


「一人では試さないって約束しただろ」


 俺がそう言うと、セレナは少しだけ表情を変えた。


「……あの本のことね」


「ああ。読んでいて、少し確認したいことがある。もちろん、危ないことはしない」


「あなたの“危ないことはしない”は、あまり信用できないわね」


「だからセレナに声をかけてる」


 そう言うと、セレナはしばらく俺を見ていた。


 それから、小さく息を吐く。


「分かったわ。明日の午後なら時間を取れる」


「助かる」


「場所は?」


「寮の自室だと危ないかもしれない。人目が少なくて、でも何かあった時に先生を呼べる場所がいい」


「なら、学院の訓練場を借りましょう。春休みなら空いているはずよ」


「それがいいな」


 話はそれで決まった。


 やるべきことは山ほどある。


 だが、俺にはどうしても気になることがある。


 福嶋亮太の『魔法理論』。


 王立図書館で見つけた、日本語で書かれた古い本。


 今の学院では教えられていない、不思議な魔法理論。


 そしてその約束通り、俺は翌日、セレナと一緒にその本と向き合うことになった。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
今のSクラスから六人出たからAクラスから持ち上がりが六人出るのかな。
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