表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: カメノコバチ
第11章 王立学院一年 三学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
186/339

第178話 三学期期末試験初日

三学期期末試験の初日。


 王立学院の朝は、いつもより少し静かだった。


 廊下を歩く生徒たちの間にも、普段のような軽い雑談は少ない。。


 最後まで教科書などを確認している者。

 何も言わずに教室へ向かう者。


 学期末の試験前らしい空気だった。


 今日行われるのは筆記試験。


 明日は午前に応用課題、午後に実技がある。


 飛び級を狙うなら、全ての試験で八十点以上を取らなければならない。


 どれか一つでも落とせば駄目だ。


 俺は教室へ向かいながら、小さく息を吐いた。


 昨日の夜、福嶋亮太の本は開かなかった。

試験直前にようやく集中して勉強に没頭できた。


 『魔法理論』の内容が気にならないと言えば噓になる。

 俺は頭を切り替えるように、教室の扉を開けた。


 ◇


 教室には、すでに何人かが席についていた。


 いつものSクラスだが、今日は少し空気が違う。


 セレナは自分の席で、静かにノートを閉じたところだった。


 俺と目が合うと、彼女は少しだけこちらを見た。


「おはよう、リオン」


「おはよう」


「今日は大丈夫そうね」


「少しはね」


 そう答えると、セレナは少し目を細めた。


「ならいいわ。今日は余計なことを考えないことね」


「分かってる」


「本当に?」


「本当に」


 俺がそう言うと、セレナはまだ少し疑わしそうにしながらも、それ以上は言わなかった。


 俺は自分の席に座り、筆記用具を机に出す。


 教科書や資料はもう開かない。


 ここまで来たら、最後に詰め込むより、頭を落ち着かせる方がいい。


 そう思っていたところで、ローヴェン先生が教室に入ってきた。


 教室の空気が、一段静かになる。


 ローヴェン先生は教壇に立ち、教室を見回した。


「これより、三学期期末試験の筆記を行う」


 いつも通り、無駄のない声だった。


「本日は筆記試験。明日は午前に応用課題、午後に実技を行う。

一年生最後の試験だ。悔いのないように臨め」


「当たり前だが不正は即失格。あと、時間配分を間違えるな。」


 ローヴェン先生はそこで一度言葉を切った。


「では、始める」


 問題用紙と答案用紙が配られていく。


 紙が机に置かれる音だけが、教室の中に小さく響いた。


 ◇


 試験開始の合図と同時に、俺はまず問題用紙全体に目を通した。


 細かいところへ入る前に、全体を見る。


 どこに時間をかけるか。

 どこで確実に取るか。

 どこで迷いそうか。


 内容は、やはりSクラスの試験だった。


 二学期期末試験もそうだったが、単純な暗記だけでは終わらない。

 知識をそのまま書くだけではなく、どう使うかを見られている。


 だが、想定外ではない。

 昨日までに確認してきた範囲だ。


 俺は一問目から順に解き始めた。


 最初のうちは、手が少し硬かった。


 福嶋亮太の本のことが、頭の奥でちらつく。


 特に魔法理論に関わる問題を見た時は、まずかった。


 あの本に書かれていた考え方が、自然に浮かんでくる。


 属性ではなく、現象から考える。


 それ自体は間違っていない。

 むしろ俺にとっては、しっくりくる考え方だ。


 だが、ここは試験だ。


 今、求められているのは、学院で教わった範囲の中での答えだ。


 「ふぅ…」

 俺はペンを止めた。


 知っていることを全部書けばいいわけじゃない。

 深く知っていることと、試験で点を取ることは別だ。


 そう考えて、書きかけた一文を少し消した。


 学院の授業で扱った表現に戻す。


 ローヴェン先生たちが見たいのは、今の俺がどこまで体系的に理解しているかだ。


 奇抜な答えではない。


 俺はもう一度息を整え、答案を書き進めた。


 ◇


 一度立て直すと、少しずつ集中が戻ってきた。


 問題文を読む。

 何を問われているかを見る。

 必要な材料を拾う。

 余計なことを書かずに答える。


 やることは単純だ。


 ただ、その単純なことを最後まで崩さずに続けるのが難しい。


 途中で一度、福嶋亮太の本がまた頭をよぎった。


 亜空間収納。


 もしあれを使えたら。


 そんな考えが一瞬だけ浮かぶ。


 すぐに追い払った。


 今考えることじゃない。


 試験中に余計なことを考えている時点で、かなりまずい。


 俺は答案用紙へ視線を戻した。


 今は、目の前の問題だけでいい。


 そう自分に言い聞かせながら、最後まで解き進めた。


 ◇


「そこまで」


 ローヴェン先生の声が教室に響いた。


 ペンの音が止まる。


 答案用紙が回収されていく。


 教室の空気が、わずかに緩んだ。


 俺も手を離し、小さく息を吐いた。


 終わった。


 少なくとも、筆記は終わった。


 答案がローヴェン先生の手に渡る。


 もう、今さら考えても仕方がない。


 席を立つ準備をしていると、セレナがこちらへ来た。


「どうだった?」


「今回は難しかったけど、今できることはやったよ」


 そう答えると、セレナはすぐに眉を上げた。

「ならいいわ」


 セレナは少しだけ安心したように息を吐いた。


「途中で余計なことを考えなかった?」


「少し考えた」


「考えたのね」


「でも、戻した」


「なら、よしとするわ」


 採点された気分だ。


 ただ、実際にその通りだった。


 戻せた。


 それだけでも、今日は十分だと思う。


 ◇


 教室を出る頃には、廊下にまた生徒たちの声が戻り始めていた。


 筆記が終わった解放感。

 明日への不安。

 できた、できなかったという短いやり取り。


 それぞれの声が重なっている。


 セレナは隣を歩きながら言った。


「今日は早く休みなさい」


「分かってる」


「昨日の本も開かないこと」


「分かってる」


「本当に?」


「本当に。今日は開かない」


 セレナは俺をじっと見た。


「約束よ」


「ああ」


 今度は迷わず頷いた。


 筆記は終わった。


 だが、試験はまだ終わっていない。


 明日は午前に応用課題。

 午後に実技。


 紙の上だけでは済まない試験が待っている。




最後まで読んでいただきありがとうございます!

続きが気になったら、ブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ