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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第11章 王立学院一年 三学期

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第168話 公爵令嬢、冒険者になる

 次の休みの日。


 朝早く、俺は王都の広場でセレナを待っていた。


 冬の朝の広場はまだ冷たい。

 それでも、荷車を引く商人や、朝市の準備をする者、どこかへ向かう冒険者らしき一団の姿がちらほら見える。


「おはよう、リオン。待たせたかしら」


 声の方を見ると、セレナが立っていた。


 思わず少しだけ目を止める。


 いつもの学院の制服ではない。

 動きやすそうな濃い色の上着に、丈夫そうなブーツ。

手袋も厚手で、腰には細身の剣が下がっている。背負っている小さな鞄には、冒険に必要な道具が入っているのだろう。


 貴族令嬢というより、今日はちゃんと冒険者をしに来た人間の格好だった。


「思ったより本気だな」

「遊びに行くわけじゃないもの」


 セレナは当然のように言った。


「似合ってるよ」


「……そういうことをさらっと言うのね」


「いや、普通にそう思っただけだけど」


「ならいいわ」


 セレナは少しだけ視線を逸らしたあと、すぐにいつもの顔に戻った。


「それで、まずはギルドで登録ね」


「ああ。行こう」


 俺たちは広場を抜けて、冒険者ギルドへ向かった。


 ◇


 王都の冒険者ギルドは、朝からそれなりに人が入っていた。


 依頼掲示板の前で腕を組む者。

 受付で話をしている者。

 壁際で武器の手入れをしている者。


 学院や公爵家とはまるで違う光景だ。


 セレナもそれを感じたのか、建物に入った瞬間、少しだけ周囲を見た。


「思ったより、荒っぽい空気ね」

「学院とは違うよ」

「そうみたいね」


 声は落ち着いていたが、目はしっかり周りを見ている。


 怖がっているというより、初めての場所を観察している顔だった。


 受付へ向かうと、受付の女性が俺を見て少し目を丸くした。


「あら、リオンさん。お久しぶりですね」

「すみません、しばらく来られなくて」

「本当にお久しぶりです」


 その言い方に、少し含みがあった。


 いやな予感がする。


「今日は依頼ですか?」

「はい。あ、あと、彼女の冒険者登録をお願いします」


 俺が横に立つセレナを示すと、受付の女性は一瞬だけ姿勢を正した。

 セレナの服装は冒険者風だが、立ち方や雰囲気までは隠せない。


「登録ですね。ではこちらへ」


 セレナは案内に従って書類を受け取った。


「名前、年齢、主な戦い方……職業欄があるわね」

「目安みたいなものだよ」

 俺は横から言う。

「セレナなら魔法使いでいいと思う」

「剣も一応使えるわよ」

「分かってる。でも得意なのは魔法だろ」

「それはそうね」


 セレナは迷わず、職業欄に魔法使いと記した。


「あなたも魔法使いで登録したの?」

「ああ。最初はそうだった」

「でも、今は剣も普通に使うじゃない」

「最近は魔法剣士寄りかもな」


 この世界では、職業は厳密な縛りではない。

 十二歳で授けられるスキルに影響されるが、剣士が魔法を使うこともあるし、魔法使いが護身用の剣を持つこともある。

 あくまで、主にどう戦うかの目安だ。


 セレナが登録を書き進めていると、受付の奥から年配の男性が出てきた。


 以前にも見たことがある。

 ギルドの幹部の一人だ。


「リオン・ハル」


 低い声で名前を呼ばれた。


「はい」

「お前、ガルムベア討伐の報酬を受け取らないまま、どれだけ顔を出していなかったと思っている」


 あ。


 完全に忘れていた。


 いや、忘れていたというより、ハル領に戻ってから色々ありすぎて、後回しにしたままになっていた。


「……すみません」

「謝るなら取りに来い。あれだけの討伐をしておいて、報酬を放置する冒険者がどこにいる」


 セレナが横からこちらを見る。


「何の話?」

「前にガルムベアを討伐した時の報酬」

「受け取ってなかったの?」

「忙しかったんだよ」


 セレナの目が少し冷たくなった。


「忙しいにも限度があるでしょ」


 正論だった。


 幹部は呆れたように息を吐き、受付の奥から封のされた袋を持ってこさせた。


「報酬の明細だ。確認しろ」


 金額を確認した瞬間、俺は少しだけ固まった。


 前世の感覚でざっくり換算すると、五百万円くらいある。


 ……ガルムベア、そんなに高かったのか。


 隣でセレナも目を見開いた。


「そんな大金を受け取らずに放置していたの?」

「いや、本当に色々あって」

「色々で済む金額じゃないわ」


 まったくその通りだった。


「公爵令嬢でも、その金額には驚くんだな」

 俺がつい言うと、セレナがすぐに眉を上げた。


「お嬢様って馬鹿にしないで」

「いや、そういう意味じゃ」

「金銭感覚くらい理解しているつもりよ。大金は大金だわ」

「悪かった。少し意外だっただけだ」

「そういうところよ」


 そういうところ、らしい。


 ギルドの幹部は、そんな俺たちのやり取りを見て、さらに呆れたような顔をした。


「報酬はきちんと管理しろ。冒険者としての信用にも関わる」

「はい」


 まったくもって、その通りだった。


 ◇


とりあえず報酬はそのままギルドで預かってもらうことにして、

セレナの登録は、ほどなく終わった。


「セレナ・ヴァレストさん。登録完了です。等級はG級からになります」


「G級なのね」


 セレナが小さく呟く。


「実力があっても、登録したては基本的に下からだよ」

 俺は言った。


「学院の成績と冒険者としての実績は別だからな」


「実技93点でも?」


「冒険者としては今日が初日だから」


「それは……まあ、そうね」


 少しだけ不満そうだったが、セレナはすぐに納得した。


 こういうところはちゃんとしている。


 受付の女性が今度は俺の登録証を確認する。


「リオンさんは現在C級ですね」

「はい」


「C級なのね」

 セレナがこちらを見る。


「ガルムベアの件が大きかったんだと思う」


「それで報酬を放置していたの?」


「そこはもう言わないでくれ」


 セレナは少しだけ笑った。


 そのまま、俺たちは臨時のパーティー登録も済ませた。

 正式な固定パーティーではなく、今回の依頼用の一時的な登録だ。


「これで一緒に依頼を受けられます」

 受付の女性が言う。


「依頼の内容は、等級差を考慮して選んでください」


「分かっています」


 俺は頷いた。


 今日はセレナの初実戦だ。

 無理をするつもりはない。


 ◇


 依頼掲示板の前へ移動する。


 朝の掲示板には、すでに何人もの冒険者が集まっていた。

 薬草採集。

 荷運びの護衛。

 街道脇の魔物討伐。

 森の魔物討伐。


 条件の良さそうな依頼ほど、冒険者たちの視線も鋭い。


 セレナは掲示板を眺めながら、少しだけ目を細めていた。


「色々あるのね」

「あるよ。でも今日は森の入口まで。低級限定」

「分かってるわ」


 そう言いながら、彼女の目は少し難しそうな討伐依頼の方へ向いている。


「セレナ」

「分かってるって言ったでしょ」

「ならいい」


 しばらく探して、ちょうどいい依頼を見つけた。


 王都郊外の森の入り口付近に出る低級魔物の討伐。

 対象は小型の魔物。

 森の奥へ入る必要はない。

 討伐数も多くない。


 セレナの初実戦にはちょうどいい。


「これだな」

「低級魔物討伐ね」

「条件に合ってる。場所も森の入り口付近。深追い不要」

「いいわ。これにしましょう」


 受付へ依頼書を持っていき、受注手続きを済ませる。


 受付の女性はセレナを見て、少しだけ真面目な顔で言った。


「初めての依頼ですね。無理はしないでください」

「はい」


「リオンさんも」

「分かっています」


 何度も釘を刺される。

 まあ、当然だ。


 ◇


 王都の正門近くから出る乗合馬車に乗った。


 セレナは乗る前に、馬車を一度だけ見た。


「本当にこれで行くのね」


「公爵家の馬車で行かなくてよかったのか?」


「それじゃ冒険者活動じゃなくて遠足でしょ」


 そう言い切るあたり、覚悟はあるらしい。


 乗合馬車は、公爵家の馬車とは比べものにならない。

 座席は硬いし、揺れるし、隙間から冬の風も入ってくる。


 それでも、中に乗っている冒険者や商人、近郊へ向かう人たちはみんな厚着をしている。

 そういうものとして受け入れているのだ。


 セレナも少し寒そうにはしていたが、文句は言わなかった。


「寒いか?」

「少しね。でも大丈夫」

「寒かったらちゃんと言うんだぞ」

「あなた、こういうの慣れてるのね」

「まあ、冒険者ならこのくらいは普通だよ」

「そう」


 セレナは窓の外へ目を向けた。


 馬車が王都の正門を抜ける。

 石造りの建物と人混みが少しずつ遠ざかり、景色は冬枯れの畑と低い森へ変わっていく。


 王都の外へ出ると、空が広く感じた。


 馬車の中では、他の乗客が小声で話している。

 誰も俺たちに深く興味を示さない。

 それが少し楽だった。


 公爵令嬢であるセレナも、今日はただの新人冒険者として座っている。


 もちろん、本当にそう見えているかは別だ。

 どこかでヴァレスト家の護衛が見ている可能性はある。


 だが、少なくとも今この馬車の中では、セレナは自分の足で実戦へ向かっていた。


 ◇


 しばらくして、乗合馬車は王都郊外の森の手前で止まった。


 馬車を降りると、冷たい空気が一気に頬を刺す。


 土の匂い。

 枯れ草の匂い。

 遠くで鳴く鳥の声。

 木々の根元には、まだ薄く霜が残っていた。


 セレナは森を見て、少しだけ表情を引き締めた。


 学院でも、公爵家でも、ギルドでもない。

 ここから先は、相手がこちらに合わせてくれる場所ではない。


「セレナ」


 俺が声をかけると、彼女はこちらを見た。


「ここからは学院じゃない。何かあったら、俺の指示を優先してくれ」

「分かってるわ」


 返事は短い。

 でも、さっきまでよりずっと真剣だった。


 目の前にあるのは、冬の森。

 セレナにとっては初めての実戦。

 俺にとっても、久しぶりの冒険者依頼だった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
主人公が本当は父親世代よりも上だから、ひょっとしたら孫かわいい感覚なのかなー、だからスルーできるんかなー。
このお嬢様全然かわいくないよなー ナディアの方が性格良くてよっぽどいい伴侶になるわ
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