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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第9章 リオンの夏休み

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第95話 量産の壁

 翌朝、俺は試作した街灯をもう一度見に行った。


 昨夜、門の前に仮設した一本は、朝の光の下で見るとずいぶん素朴に見える。

 木の支柱。

 簡易な覆い。

 青輝石を仕込んだ灯具。

 見た目だけなら、まだまだ洗練されているとは言い難い。


 でも、意味はあった。


 夜の闇を押し返した。

 ミアも、母上も、ノルも、その変化をはっきり感じていた。

 あれなら通りに置く価値はある。


 問題はここからだ。


 一つ作れたことと、領都に並べられることは、まったく別の話だった。


 俺はその場でしゃがみ込み、支柱の根元を軽く叩く。

 強度は悪くない。

 昨夜の時点では十分だった。


 だが、これを十本、二十本と並べるとなれば話は変わる。


「やっぱり、量産の壁か……」


 小さく呟いてから、そのまま部屋へ戻った。


 机に紙を広げ、今度は“作り方”ではなく“並べ方”を考える。


 どこに置くのか。

 何本必要か。

 一本あたり、どれだけの材料が要るのか。

 そして、それを誰が作り、誰が維持するのか。


 まず、試験導入する範囲を決める。


 西門から市場へ入る道。

 市場の周辺。

 冒険者ギルド近く。


 人通りが多く、なおかつ暗がりができやすい場所だ。

 ここを最初の導入区間にするのが妥当だろう。


 地図の上に印をつけ、道の長さをざっくり測る。

 一本の街灯でどこまで照らせるか、昨夜の光の広がりも思い出しながら間隔を考える。


 近すぎれば無駄が多い。

 遠すぎれば暗がりが残る。


「……思ったより要るな」


 一本、二本で済む話じゃなかった。


 試験導入だけでも、最低で十本前後。

 余裕を見れば、もっと必要だ。


 そうなると、一本ずつ庭で作っていたんじゃ話にならない。


 俺は次に必要な材料を書き出した。


 ハル領で足りるもの。


 青輝石。

 木材。


 これは強い。

 光源と支柱、その根本はもう手元にある。


 だが、それだけじゃ街灯にはならない。


 必要なのは他にもある。


 光を守るための透明な覆いに使うガラス。

 開閉用の金具。

 固定用の留め具や釘。

 雨風にさらされる以上、細かい部材も必要になる。


 木と青輝石だけじゃ足りない。


 しかも、ただ集めればいいわけでもない。

 同じ規格で揃えないと、量産した時に整備が面倒になる。


「材料調達と、安定生産……」


 これだ。


 試作品の壁は越えた。

 次は量産の壁だ。


 ハル領の中だけで何とかするのは、今の段階では厳しい。

 特にガラスと金具類は、すぐにまとまった数を揃えるのが難しい。


 だったら頼る先は一つだ。


 ローデン商会。


 ◇


 昼前、俺は領都へ出た。


 目的地は、冒険者ギルド近くのローデン商会ハル領支店。

 西の森の開発が進んでから、このあたりの空気は本当に変わった。


 荷車が行き交う。

 冒険者が武器や道具を背負って歩く。

 商人が声を張る。

 道の端では、西から持ち帰った薬草や素材の話で値段交渉をしている連中もいた。


 流れがある。


 前はただの辺境の領都だった場所に、ちゃんと“商いの匂い”がある。


 その通りの一角に、見慣れた看板が掛かっていた。


 ローデン商会。


 店構えは大きすぎない。

 だが、店先に並ぶ品も、出入りしている人間の数も、明らかに以前より増えている。


 中へ入ると、すぐに店員が気づいた。


「いらっしゃいませ――あっ、リオン様」


「支店長いる?」


「はい、すぐにお呼びします」


 しばらくして、奥から支店長が出てきた。

 四十代くらいの男で、目の動きが早い。

 何度か会っているが、いかにも商人という感じの人だ。


「これはこれは、リオン様。ようこそお越しくださいました」


「急にごめん」


「とんでもない。今日はどのようなご用件で?」


 俺は持ってきた図面を机の上へ広げた。


 最初、支店長は少しだけ不思議そうな顔をした。

 だが、図面と材料表、試験導入区間の印を見ていくうちに、その目つきが変わっていく。


「……街灯、ですか」


「うん。領都の主要通りに置きたい」


「なるほど」


「青輝石と木材はハル領で用意できる。でも、ガラスや金具類は数を揃えるのが難しい。できれば、継続して調達できる先がほしい」


 支店長は黙ったまま、図面の一つを手に取った。

 支柱、覆い、灯具部分、手動切り替えの構造を見る。

 それから、必要部材の欄へ目を落とす。


「……面白いですな」


「面白い?」


「ええ」


 支店長は図面を置いた。


「これは単なる新しい道具ではありません。もしハル領でうまく回れば、領都の通りに常設の需要が生まれます。修理も、交換も、追加もある。しかも他領が見れば、必ず真似したがるでしょう」


 やっぱり商人だな、と思う。


 俺が見ていたのはまず治安改善だった。

 この人はもう、その先の継続需要を見ている。


「思い当たる工房と商家に当たってみます」


 支店長はそう言うと、すぐに紙を引き寄せた。


「南の本拠にも手紙を出しましょう。ガラス、金具、細工物、このあたりは本店側の方が話が早い」


「助かる」


「いえ。こちらとしてもありがたい話です」


 筆を取る動きに迷いがない。

 条件、必要数、急ぎの度合い。

 支店長は短い時間で必要なことをどんどん書いていく。


 やっぱりローデン商会は早い。


 これなら、思ったより早く話が進むかもしれない。


 そこでふと、ヴィクトルの顔が浮かんだ。


 あいつ、こういう話は好きそうなんだよな。


 まだ形になりきっていない需要。

 でも、当たれば大きい。

 そういう匂いにはかなり敏感だったはずだ。


 支店長が顔を上げる。


「数日中には何かしら返事を取ります」


「よろしく」


「お任せください」


 ◇


 それから数日後。


 王国南側、ローデン商会本拠。


 書類の山の中から一通の手紙を抜き取った青年がいた。


 ヴィクトルだ。


「ハル領支店から?」


 封を切り、中を読む。


 最初の数行で片眉が上がり、途中から口元が緩んだ。

 そして最後まで読む頃には、完全に笑っていた。


「……ははっ」


 近くにいた部下が不思議そうに顔を上げる。


「ヴィクトル様?」


「いや、やっぱりなと思ってさ」


 手紙を軽く振る。


「リオン、また何か始めやがった」


 そこに書かれていたのは、


 青輝石を使った街灯の試作成功。

 領都の治安改善。

 継続調達が見込めるガラスと金具類の需要。

 しかも、うまくいけばハル領だけでは終わらない話。


 ヴィクトルは椅子にもたれたまま、少しだけ天井を見た。


「街灯の量産、ねえ」


 通りを照らす灯り。

 治安改善。

 夜の人流。

 商売の伸び。


 一つの道具の話に見えるが、実際にはもっと大きい。

 人の動きそのものを変えるかもしれない話だ。


「これは面白そうな匂いがするぞ」


 そう呟くと、ヴィクトルはすぐに立ち上がった。


「馬車を出せ」


「え?」


「ハル領へ行く」


「ご自身で、ですか?」


「こういう話は、人づてに聞いてるだけじゃ遅い」


 手紙を畳み、懐へ入れる。


「動いた奴が先に取るんだよ」


 そう言って歩き出すヴィクトルの顔は、完全に楽しんでいる商人のそれだった。


 どうやら、ハル領の街灯計画は、思っていたより大きな話になりそうだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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