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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第9章 リオンの夏休み

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第93話 闇を減らせ

 夜襲の翌朝、洞窟の中はすでにハル領の騎士たちによって整理が進められていた。


 奪われた荷は一つずつ外へ運び出され、縄で縛られた盗賊たちは壁際に並べられている。

 粗末な寝床、酒瓶、食い散らかした跡、乱雑に積まれた木箱。どれも、ここがただの隠れ場ではなく、しばらく腰を据えて使われていた拠点であることを示していた。


 俺は洞窟の入口近くに立ち、運び出される荷を眺めていた。


 木材。

 食料。

 布。

 薬草。

 道具類。


 中には見覚えのある荷印もある。

 昨日見つけた時点でわかっていたことだが、こうして朝の光の下で並べられると、改めて腹の底が冷える。


 ハル領の流れを、こいつらは確かに食っていた。


「檻の中は空でした」


 後ろから来たノルが低く言った。


「ただ、しばらく人を入れていた形跡はあります。食事の跡、手枷の擦れ、女物と子ども用の布も見つかりました」


「やっぱり、人さらいもやってたか」


「ええ」


 ノルの表情は固い。


「洞窟は押さえましたが、気分のいい戦果とは言えませんな」


「本命がいないしね」


「それもあります」


 俺は小さく息を吐いた。


 ガザルは逃げた。

 その事実が、洞窟の制圧成功を少しだけ軽くする。

 昨日の時点で、かなり慎重な男だとは思っていた。だが、ここまで徹底しているとなると、ただ用心深いだけではなく、そもそも長く生き残るやり方を知っている相手なのだろう。


 父上もほどなく洞窟へやって来た。


 朝日を背にして洞窟の前へ立つと、まず捕縛した盗賊たちを一通り眺め、それから運び出された荷と洞窟の奥を見た。


「……想像していたより、根が深いな」


「うん」


 俺が頷くと、父上は視線をこちらへ向ける。


「ガザルは?」


「いない。洞窟にいた連中も、今朝にはもう出ていたって言ってる」


「そうか」


 父上は驚きもしなかった。


「こういう男は、自分がすべてを背負う場所には長くいない。拠点をいくつか持って、危なくなればすぐ捨てる。そういうやり方でないと、ここまで生き残れん」


 つまり、こちらが洞窟を潰せたのは大きいが、それで終わりではないということだ。


 しばらくして、洞窟で捕らえた連中と、昨日詰め所へ引き渡した三人の尋問結果がまとまった。


 場所を領都の執務室へ移し、父上、ノル、俺の三人で話を聞く。


 報告したのは、昨夜から寝ずに動いていた騎士の一人だった。


「捕縛した連中の話を総合すると、《灰狼の牙》は各地に小拠点を持っているようです」


「やはり、あそこだけではないか」


 父上が言う。


「はい。洞窟は西側の重要拠点の一つだったようですが、本拠地かどうかは不明です。末端は全体像を知らされていないようでした」


「ガザルの行き先は?」


「わかりません。ただ、数日ごとに寝床を変えることがあるそうです」


 慎重だな、と思う。


 逃げ足が速いというより、最初から逃げる前提で動いている。


「それと」


 騎士は一枚の紙を机へ置いた。


「複数の証言が一致した点があります。今回のハル領の荷馬車襲撃については、どこかの貴族筋から仲介を通して依頼が来ていたようです」


 部屋の空気が少しだけ変わる。


「貴族筋……」


 ノルが低く繰り返す。


「名前は出ていないのか?」


 父上の問いに、騎士は首を振った。


「末端は顔も家名も知らされていません。ただ、仲介役が紋章入りの封を持っていた、言葉遣いが貴族に仕える者のものだった、報酬が妙に良かった――そういった証言があります」


 俺は机の上の紙を見た。


 やっぱりそこまで来るか。


 ハル領の成長を面白く思わない貴族。

 あるいは青輝石の交易を妨げたい者。

 どちらも可能性としてはある。


「他領へ逃げた可能性が高いな」


 父上が静かに言った。


「はい。今回の夜襲で西の拠点が潰れた以上、ガザルは少なくとも一度この辺りから身を引くでしょう」


 ノルも同意する。


「露骨な襲撃はしばらく減るかもしれません」


「だが、それで安心はできん」


 父上の言葉に、全員が頷いた。


「今回は洞窟を潰した。盗賊どもも相当数押さえた。だが、領内の流れそのものが大きくなっている以上、狙う者はまた出る」


「うん」


 俺もそれは同じ考えだった。


 盗賊団を一つ叩いたからといって、領内の綻びがなくなるわけじゃない。

 今のハル領は、人も物も増え始めている。

 だからこそ、狙われる場所も増えている。


「今後も治安を良くしていかないといけないね」


 俺がそう言うと、父上がこちらを見る。



リオンが続けて話す。


「まず、暗い場所を減らそう」


 ノルがわずかに眉を動かし、父上もすぐには意味を測りかねた顔をした。


「暗い場所?」


「うん。領都の中でも、西門の近くとか市場の裏とか、日が落ちると一気に見えなくなる場所が多い。ああいう場所は隠れやすいし、衛兵も見回りしにくい」


 父上は腕を組んだ。


「警備を増やす、ではなく、暗い場所をなくすと?」


「両方必要だと思う。でも、兵を増やすだけじゃ限界がある」


 俺は昨日からの光景を頭の中で繋げながら言葉を選ぶ。


「暗いと、人は避ける。人が減ると、余計に危ない。危ないからますます人が寄らなくなる。その悪循環をなくそう」


 ノルがゆっくり頷いた。


「たしかに、夜の見回りでも厄介なのは暗がりですな。松明一本ではどうしても見える範囲が限られる」


「見えるだけで、かなり違うはずなんだ」


 俺は続ける。


「暗いところが減れば、隠れる場所が減る。衛兵の巡回もしやすい。夜でも人が少し長く動けるようになる。そうなれば、人通りが増えて、それ自体が治安の維持にもつながる」


 父上は黙って聞いていたが、やがて小さく息を吐いた。


「なるほど。兵を増やす前に、そもそも“悪さをしやすい環境”を減らすわけか」


「うん」


「理屈は通っている」


 ノルも口を開く。


「領都の主要通りと、西門から市場にかけての道が明るくなれば、警備の負担はかなり減るでしょうな」


「全部を一度には無理でも、まずは人通りの多いところからだね」


 父上は少し考えてから頷いた。


「よし。やるなら試験的にだ。西門から市場、ギルド周辺までの主要通りを対象にする」


「賛成です」


 ノルが即答する。


「それで、どうやって灯りを置く?」


 父上の問いに、俺は一瞬だけ黙った。


 街灯の発想自体は前世でもこの世界でもそう難しくない。

 高い位置に灯りを置けばいい。

 問題は、その先だ。


「街灯そのものは作れると思う」


「ほう」


「でも問題は、どう点けて、どう消すかだ」


 携帯灯や卓上灯なら、人の手で点けて使えばいい。

 だが街灯は違う。

 数が増える。

 高い場所に設置する。

 毎日全部を人力で順番に点けて回るのは、できなくはないが効率が悪い。


 前世みたいに、暗くなったら自動でスイッチが入る仕組みがあれば理想だ。

 でもこの世界には電気がない。

 少なくとも、前世のセンサーそのままを持ち込めるわけじゃない。


 父上が俺の顔を見て言った。


「難しい顔をしているな」


「うん。灯りを置くだけならいい。でも、夜になったら自動で点くみたいな仕組みをどう作るかが問題だ」


「人が点けるのでは駄目なのか?」


「駄目じゃない。でも、数が増えたら面倒だし、人手もいる。できれば仕組みで回したい」


 ノルが少し感心したように言う。


「そこまで考えておられたのですか」


「街灯って、置いたら終わりじゃないからね」


 毎日点ける。

 毎日消す。

 壊れたら直す。

 魔力消費も考える。

 高い位置に設置するなら、整備方法もいる。


 やるなら、ちゃんと“使い続けられる形”にしないと意味がない。


 父上は椅子に深く座り直した。


「まずはリオンのやりたいようにやってみなさい」


「うん」


「それが形になれば、こちらで設置計画を立てる」


「わかった」


 話がまとまると、俺はそのまま席を立った。


「もう行くのか?」


「早いうちに試したい。なるべく早くできるところまでやってみたいからね」


 父上は少しだけ笑った。


「相変わらず早いな」


 ノルも口元をわずかに緩めた。


「必要なものがあれば、騎士団の方でも人手を出します」


「助かる」


 執務室を出たあと、俺はそのまま自分の部屋へ向かった。


 頭の中には、もう街灯の形がいくつか浮かんでいる。

 高い柱。

 覆い。

 光の拡散。

 魔石の持続時間。

 人の手で点ける仕組み。

 あるいは、もっと別の方法。


 問題は、自動化だ。


 暗くなったことを、この世界でどうやって“検知”するか。

 電気のない世界で、どうやって“勝手に灯る”を実現するか。


 机に向かい、紙を広げるリオンであった。


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