下水道ってのはダンジョンの別名だぜ。
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名前はルドルフって男で熟練の革職人だったようだ。
品物の特徴や癖は革職人でもそれぞれ異なるもんだしな。
所がこのルドルフ、半年前に強盗に襲われて殺された。
商品も根こそぎ奪われたようだ。
運が悪い奴だな。
それで俺は次に教えてもらった盗品を扱う連中の溜まり場に赴いて、聞き出した。
え、それなら最初から溜まり場に行って聞いたほうが手間かからねえって?
まあな。
でもよ、俺もまだこの世界の情報には疎いんだよな。
ちなみに場所は王都の北のはずれにある貧民街だ。
典型的なノーゴ―ゾーンだな。
ニュートーキョーにもギャングが居座ってたり、化学物質汚染のせいだったり、色んな理由で立ち入り危険区域になってる場所は結構あるぜ。
そんでこの世界にも同じような場所はやっぱりある。
どこの世界もそこら辺はあんまし変わらないな。
俺はスラムの情報屋連中から金を払っていくつか情報を仕入れてから再び動いた。
向かった先は王都の下水道、そこにこの国──フランダルの国教と対立している邪教の隠れ家があると知ったからだ。
それで大体、宗教施設でテロが行われた場合、敵対組織が背景にある。
個人的な恨みによる犯行も無くはないけどな。
でもよ、圧倒的に多いのはやっぱり組織によるテロだ。
オッカムの剃刀って奴で、俺の思考はいつもシンプルだ。
あれこれ考えを巡らせるのも面倒だしな。
それでダメならまた別の手段や方法を考えればいい。
下水道の中央溝から漂う汚水の悪臭を嗅ぎながら、俺は人の気配や隠し部屋はないか探った。
それにしても地下ネットワークを利用する反体制組織ってのはどこにでもいるな。
まあ、みんな考えることは同じだな。
ベトコンのクチトンネルとかメキシコのドラッグトンネルとかよ。
そういえばヴィクトル・ユゴーの<レ・ミゼラブル>にも下水道と犯罪や秘密結社の話が結構出て来たな。
映画だとアンジェイ・ワイダの<地下水道>は結構面白かったぞ。
どっちもフィクションだけどよ。
それで二時間くらい寝て、腹減ってきたからピザ食って、
レッドブル飲みながらレッドアダーと一緒に<宇宙船レッドドワーフ号>と<銀河ヒッチハイクガイド>と見てたんだよな、朝まで。
それにしてもこの下水道、もはや一種の生態系を形成してるな。
巨大なネズミやコウモリ、ヒル、それからスライムにゴブリンやコボルト、バカでかいザリガニや発光する苔類、おまけに襲い掛かって来る壁に這う蔦、
他にも様々なクリーチャーを見かけたよ。
それと硫化水素溜まりとかキノコの有毒胞子やらも注意が必要だな。
確かに身を潜めるにはおあつらえ向きだな。
暗いしモンスターはうろついてるし不潔だし、わざわざ理由もなくこんな下水道に来たがる奴はいないだろうよ。
「おい、カズヤ、300メートル先のT字路、右に曲がって70メートルにある付近の壁を探ってみろ」
「あいよ」
俺はレッドアダーの言うとおりに壁を調べると、隠し部屋を発見した。
上手くカモフラージュされたスライド式の壁だ。
生憎と邪教の連中は不在だったがな。
広さは三十畳ほど、10人くらいなら生活できそうだな。
壁際にはナメクジのような軟体生物を模した石像が設置されていた。
多分、こいつらが崇拝してる神とかそんな類のもんだろうよ。
とりあえず俺は爆発物の煤の成分と隠し部屋に保管されていた薬剤の成分をレッドアダーに分析させた。
分析結果は一致、次に床に落ちている体毛と現場で拾った体毛とのDNAを照合させた。
これも一致、衣類の繊維も靴跡も物理的な証拠はゴロゴロ出てくるな。
それに匂い、現場に残っていた体臭とハーブの混ざったこの匂い、十中八九間違いないな。
それに箱に詰められた盗品の類──貴金属は加工すれば売れそうだな。
「なあ、レッド、これだけありゃ、ジャンクパーツ山ほど買えるぞ」
「だな、あと俺のアップグレード用のパーツも結構良いのが手に入るんじゃねえの」
俺は早速戦利品を漁ることにした。
邪教の連中はどうするのかって?
そうだなあ、もう少し泳がせておくのも悪くないかもな。
今の所、この国の宗教対立に興味はねえしよ。
俺や仲間の利益になるってんならともかくよ。
国に突き出して懸賞金を貰ったほうがいいか、それとも弱みを握って俺の為に色々と働いてもらうか、他にもこいつらの内情がどうなってるのか、
気になる部分もあるしな。
始末するかどうかはその後に考えても遅くはないだろうよ。
それよりもレックスとエリスの土産に良さそうな道具はねえかな。
この魔法の杖とか魔除けのタリスマンは中々悪くなさそうだ。
それにこの魔法石と短剣を組み合わせれりゃ、レックスの良い武器になるだろうよ。
するとレッドアダーがクラウス・ノミの <シンプルマン>を掛けはじめやがった。
今度は何が言いたいんだ、こいつ。
「いよっ、シンプルマンっ」
「何だ、俺を単純な奴だって言いたいのか、レッド」
「まあな」
「お前も口の減らない奴だよな。この根性曲がりが」
俺は金目の物を漁りながらレッドアダーを睨んだ。
それから俺は最後にナメクジの石像を引きはがして持っていくことにした。
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街路の敷石を踏みしめながら、俺は大きく欠伸をした。
今日はレックスとふたりで王都の散策だ。
エリスは用事があるっていうんで、いまはちょっとはずしてる。
レックスの腰には俺が拵えた魔法の短剣がぶら下がっている。
こう言っちゃ何だか、中々の逸品だぜ。
常温表面活性化接合を参考に作成したんだが、良い魔法武器が出来上がった。
魔法武器を製造する際には、出来るだけ熱を押さえる必要がある。
接合前の魔法石は結構デリケートで熱に弱いんだよな。
オーガニックジェムみたいなもんだ。
真珠、象牙、サンゴ、べっ甲なんかをオーガニックジェムと呼ぶが、これらに共通してるのは熱が弱点ってとこだな。
それでこの魔法石、少しでもひび割れ起こしただけでも性能が劇的に低下する。
だから繊細な技術、精密な作業が求められるわけよ。
「ねえ、タイガー、次はどこに行こうか」
俺は鼻を鳴らして返事をした。
俺の声帯は人間のように喋るのには、まだ不慣れなんだよな。
特に目的もなかったから大通りに出て、大道芸を見物したりしながら俺たちは時間を潰したよ。
ピエロが踊ったり、手回しオルガンやハーディーガーディーで演奏したり、白塗り芸人がパントマイムやったりな。
それで寸劇とか眺めたり、歌や演奏を聞いて過ごしていたが、俺は流石に飽きてきた。
レックスは興味津々で楽しんでたけどな。
でもな、ジャグリングのパフォーマンスを三時間もぶっ続けで眺めてたら大抵の奴は飽きると思うぞ。
それに腹も減ってきた。
俺は食い物屋の屋台に向かうと座り、大きく鼻を鳴らして唸った。
レックスが屋台で買った肉を俺の鼻先に置く。
俺は早速肉を食い始めた。
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表通りはやけに静かだ。
昼はあれだけ騒がしかったんだがな。
だが、夜が訪れるとメインストリートには、すっかり人の気配が感じられなくなる。
街灯の明りに集まるのは、小さな羽虫くらいなもんだ。
だが、スラムは逆に夜が深まる時刻に活気づいてくる。
フランダルの王都カテリーナは、中心の地域ほど王侯貴族や富裕層が集まり、地区の歴史は古く不動産価格が高い。
逆に王都の中心から離れるほど地代は安くなるが治安は悪く、不衛生になっていく。
ここら辺はインフラ整備とかの問題だな。
それで貧困者や流れ者が土地が安く、管理の届かない地域に住み始めて王都の周辺にスラムが形成されていった。
人が集まれば商売するようになる。
そこから闇市が立ち並び、表に出せないような取引が活発化していく。
扱うのは盗品、密輸品、禁制品の類だな。
それで利権が生まれると次に発生するのが自治的組織だ。
最初は自警団とかそんな名目だな。
トラブルを解決する代わりにミカジメ料を取るわけだ。
そうやって商売の規模が拡大していけば、他の組織が目をつける。
結果、小競り合いが起きて治安は更にまずくなる。
負けた組織は食われて、勝った組織はでかくなる。
そうやって組織は巨大化し、縄張りも取引も広がっていく。
組織や闇市の規模が膨れるほど、一掃するのもそれだけコストがかかるようになるよな。
それに腐敗貴族や汚職役人どもは連中に弱みを握られながらも甘い蜜を啜らせてもらってるのが現状だろう。
闇ルートからは検閲も税関も通さない物資が運ばれてくる。
そんで多くの闇ルートの特徴は、正規のルートよりも安くて迅速ってメリットがある。
検査する手間も税金もかからないからな。
懐が潤うなら更に人は集まって商売はどんどん繁盛する。
利権に絡んだ貴族や官僚からすれば闇市は金を産むガチョウだ。
少しでも頭が回れば根絶やしにするんじゃなくて、利権に食い込んで管理したいと思うだろうよ。
権力者と組織が共生を選ぶわけだ。
結果、王都の法律が及ばない独自のルールと秩序が形成された区域が生まれる。
ただし、無秩序ってわけじゃない。
住民からすりゃ、役人から組織の構成員に、法律から闇市のルールに変わっただけだ。
スラムの住人からすりゃ、木っ端役人なんぞよりずっと働いてくれるしな。
チンピラに家族が襲われた、商売の邪魔をされた、そんな時は組織に言えばいい。
翌日になりゃ、そのチンピラはどっかの路地裏でくたばってるからな。
それにスラムを潰した場合の暴動も怖いぞ。
下手すりゃ内戦状態になるからな。
他の国からすりゃ、攻め入るチャンスに映るよな。
それにしてもスラムや闇市はどこも似たような雰囲気だな。
ニュートーキョーを思いだすよ。
そのまま俺は闇市から遠ざかると、次は社会見学にレックスとエリスを連れて行ってやるかと考えた。




