表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『花檻(はなおり)の契り ──大奥百合絵巻──』  作者: 《本能寺から始める信長との天下統一》の、常陸之介寛浩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/81

第八話 花檻の誓い──命を懸けた契り

夜。


大奥の一角にある、ひときわ静かな座敷。

灯りは落とされ、

薄明かりの中、障子越しに揺れる桜の影だけが、静かに踊っていた。


 


朝霧は、雪乃宮の前に、静かに膝をついていた。


誰もいない。

この夜だけは、二人きり。


 


しばらくの沈黙ののち、

雪乃宮は、ふと目を伏せ、

まるで独白するように呟いた。


 


「──この世界で、生きるためには」


 


低く、かすかな声。


「……愛すら、武器にしなければならないのです」


 


朝霧は、はっと顔を上げた。


雪乃宮の顔は、淡く笑っていた。

だがその笑みは、どこまでも痛々しく、悲しかった。


 


「愛を口にする者は、信じてはなりません。

 情を見せる者も、信じてはなりません。

 わたくしは、それを知るために、ここで多くを失いました」


 


さらりと告げる声は、あまりにも静かだった。

まるで、何かを、すべてを諦めた者の声のように。


 


朝霧は、堪えきれず、

震える指先で、そっと、雪乃宮の手を握った。


 


「……いいえ」


喉が、かすれた。

けれど、必死に、言葉を紡ぐ。


 


「わたくしは、あなた様を──

 信じます」


 


雪乃宮の肩が、かすかに揺れた。

驚きか、悲しみか、それとも別の感情かはわからなかった。


 


「たとえ……この身がどうなろうとも」


朝霧は、指先に力を込める。


「わたくしは、あなた様のために、すべてを捧げます」


 


ただの忠誠ではない。

ただの恋でもない。


それは、魂と魂が交わる、

もっと深い、もっと抗えぬもの。


 


障子の外。

夜風が桜を散らせ、

座敷に、淡い花吹雪が舞い込んだ。


 


白い花びらが、ふたりの髪に、肩に、降り積もる。

まるで、秘められた契りを祝福するかのように。


 


雪乃宮は、そっと目を閉じた。


そして、

静かに、朝霧の手を握り返す。


 


──契りは、結ばれた。


 


この瞬間から、

ふたりはただの主従ではない。

同じ運命を歩む、血よりも濃い絆となったのだ。


 


誰にも知られぬ、

誰にも汚せぬ、


たったひとつの、純粋なる誓い。


 


桜吹雪の中、

ふたりは、互いにしか聞こえぬ声で誓いを交わした。


 


「あなたとともに、

 どこまでも──」


 


そして、

夜は、静かに更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ