Case56 何はとモアれ、異常あり
狂気の恐竜。
その噂が流れたのはとある広大な公園。
噂はやがてインターネットを駆け回る。
多数の写真の動画が回り始め、財団が目をつけるのはそう遅くはなかった。
早速、財団は機動部隊を手配し、例の恐竜……SCP-3467を発見した。
発見したのだが、奇しくも機動部隊は全滅。
と言っても殺されたわけではない。
それぞれがそれぞれに鎮静剤を打ち合ったのだ。
間違いなく異常。
だからこその対抗策。
私はSCP-3467の確保のため、噂のあった公園へと向かっていた。
「………なぜかクリスと一緒に」
クリスは聴こえているのかいないのか、私の顔も合わせようとしない。
相変わらず、私のことが嫌いだと思われる。
「あー…とりあえず!今回の任務をおさらいしよう」
二人の居た堪れない空気を察して、夏華さんが話を切り出す。
クリスも、任務に関しては真面目なようで、夏華の方を向いた。
「今回、確保するSCPはSCP-3467。SNSの写真や映像から推測するに、ヤブモアの姿をしていると思われる」
「ヤブモア?」
知らない言葉だ。生き物の名前だろうか?
「モアの一種だよ。既に全滅した翼のない鳥類」
モア……。
たしか、小さな頃映画か何かで見たことあるような気がする。確か、ダチョウのような生物だったはずだ。
「それで、SCP-3467の異常性は?」
くだらない話をするなとばかりに、クリスが夏華に質問をする。
「まだ判明はしてないけれど、機動部隊からの証言によると『突然、平衡感覚が失われた』『突然、隊のチームワークが崩れた』そうよ」
ということは、SCP-3467の異常性は均衡感覚を無くしたり、協調性を失わせる?ということだろうか。
「夏華博士。それはわかりました。ですが、何故SCP-________と一緒なんですか」
ややムカつく言い方だが、言っていることはもっともだ。
私とクリスは相性でいえば最悪だろう。
それなのに何故わざわざ組ませるのか。
「だってほら、君たちって元々仲悪いから。協調性とか関係ないでしょ?」
「「あー……」」
たしかに。
********************
大自然の中。
生い茂った森の中にSCP-3467の姿があった。
クリスはそれを見た途端、草陰から拳銃を構える。
「ちょっと…!銃は流石に死ぬよ!」
「うるせぇよ。中はちゃんと麻酔弾だ」
「どう言う仕組み!?」
クリスが遠く離れたSCP-3467に銃口を向ける。
どこかから風が吹き、SCP-3467は背伸びをするようにして周りを見渡した。
クルクルと周りを警戒している頭が私たちの方を向いて、止まった。
「まずい、バレた!」
いうが否や、クリスは銃弾を打ち込むが、その時既にSCP-3467は走り出していて当たらない。
どこからか様子を見ていた夏華さんからすぐに通信が入る。
『二人とも!逃がさないで!』
私とクリスは返事と共に駆け出した。
SCP-3467の速度は凄まじく、見失わないのがやっとだ。
私の僅かに前方を走るクリスであっても追いつくのは困難だろう。
「あっ……」
自然と口から漏れた言葉。
足元にあった木の幹に気がつかず、私は前方に転がるように倒れこむ。
やばい。このまま倒れたら置いていかれる。
私はどうにか倒れまいと前方にあった何かを掴む。
それは、微かに温もりのある細いが、硬いもの。
だが、しかし。
それを持ってさえも私の横転を止めることはできず、掴んだ物事倒れ込んでしまう。
「いったた……」
私は立ち上がり、周囲を見渡す。
既にSCP-3467の姿はない。
そして、クリスの姿も見当たらない。
「おい」
しかし、クリスの声は聞こえている。
それも、すごく近く。
具体的にいうと、下。
「なにやってくれてんだ」
「あ……」
私が反射的に掴んだものはどうやらクリスの腕だったらしい。
クリスは、立ち上がり、私を軽蔑した目つきで見下す。
だが、こればっかりは私が悪い。
正直に謝ろう。
「クリス……ごめ…」
「ちょっと黙ってろ」
は????
なんだこいつ????
文句の一言でも言ってやろうと口を開こうと思った瞬間。
私はチラリと見えたクリスの真剣そうな顔に黙ってしまう。
「……こっちだ」
クリスが指さすのは生い茂った茂みの中。
たしかに、よく見れば木々が折られており、ここをSCP-3467が通ったということがわかるだろう。
「行くぞ」
二人で慎重に獣道を進む。
足跡や木々の擦れといったものは断続的に続いており、やがて、小さな川へと出た。
川の下流の方を見ると、SCP-3967が水を飲んでいたところだった。
クリスはゆっくりと茂みを移動して、SCP-3967の背後まで移動する。
私はあそこまで隠密行動ができる気がしなかったので上流に逃げてきた場合に捕まえられるように近くに隠れていることにした。
あたりに静寂が訪れる。
微かな水のせせらぎや、水を立て、飲み込む音がとても大きく聞こえる気がする。
私が呼吸を飲み込んだ瞬間。
クリスが茂みから飛び出した。
SCP-3967は驚いた表情を見せるが、時に既に遅し。
クリスが放った麻酔弾がSCP-3967に…………当たらない。
「ぐっ……?」
クリスは膝から崩れ落ちる。フラフラと立ち上がろうとするものの、まるで酔っ払いのように揺られており、とても拳銃が定められる様子ではない。
下流に逃げようとするSCP-3967だが、クリスはフラフラとした体を一瞬で律し、逃亡ルートの正面に立ち塞がった。
SCP-3967は大きな声で鳴くと、すぐに背を向け、こちらへと向かってくる。
チャンスだ。まだきっと私に気づいていない。
私は向かってくるSCP-3967をギリギリまで引きつけ、目の前に飛び出した。
SCP-3967は突然現れた人間に驚いてその足を止める。
「よし、ここで……!」
だが、突然体に異変が現れる。
「あ………れ………?」
風景が変わっていく。
下から真っ直ぐ生えていたはずの木々が、重力を無視して右から生えている。
体が動かない。なんとかして動かそうとするが、身体中に違和感を覚える。
私が倒れているということに気がつくのはその数秒後だった。
********************
「……失敗ね」
財団へと帰ってきた私たちはミーティングルームにやってきていた。
先程の確保任務は失敗。
私が倒れた隙をついて、逃げていったしまったらしい。
「SCP-3967の異常性は、チーム内に不和をもたらす程度ではなく、対象に平衡感覚の喪失や運動能力の低下、さらにチーム内への致命的なコミュニケーション能力の欠如を与えるってところね」
私はチラリとクリスの横顔を見るが、いかにも不機嫌な顔をしている。
「次の任務の際は、友梨ちゃんのみで行くしかないか」
その言葉を聞いた瞬間、クリスが噛み付くように立ち上がる。
「俺一人で確保する」
「無理だよ。クリスはあの異常性に対抗できなかった」
「もう慣れた。同じ失敗はしない」
「友梨ちゃんの異常性の方が確実」
クリスは悔しそうに口を紡ぐと、舌打ちをして、近くの扉を蹴破ってしまった。
「……クリスはあの人じゃないのに」
小さな声で夏華さんが何かを言ったような気がしたが、私には気がつかなかった。
********************
確保任務は来週の月曜日となった。
それまでにドローンをはじめとした無人探査機でSCP-3967の動向を追うらしい。
「そうして……我の肉体に生まれながらにして憑依していた力天使が14歳の時に覚醒したのですよ」
その間当然、通常業務はあるわけで。
「我の堕天使様……奈落の悪鬼、黒き翼の堕天使アイスヴァインは他の堕天使とは違い特別で………聞いてます?」
「うん、聞いてる聞いてる」
財団のトラブルメーカーの一人。
SCP-014-JP-Jこと厨二病の話に付き合うのも私の仕事だ。
「な……なんですかその適当な相槌!ちゃんと聞いてください!」
そしてこの子、たまに素に戻る。
黙っていれば可愛いのだが。
「と、とにかくだな。我は堕天使様の力を得ている。貴様に悩み事があるならば、話を聞いてやらんこともないだろう」
話。話か。
「それじゃあ一ついい?」
「うむ!!」
目を輝かせている。
頼られて嬉しいのだろう。
「私今、モア……じゃなくて……犬を追ってるの」
「うむうむ」
そのまま話すのは色々とまずいだろう。
適当にぼかしていくのがいいだろう。
「その犬は私にしか捕まえることができないんだけど、足が早くてとても捕まえられそうにないの」
「それが……悩み?」
それを聞いたSCP-014-JP-Jは不思議そうな顔をしている。
「そんなの簡単じゃないですか」
「え?」
「追いかけようとして逃げられるのであれば、もっと友好的に接すれば逃げないんじゃないですか?動物は人一倍、敵意に鋭いって言いますし」
至極単純な答え。確実に私の頭の中にはなかった。
……だが、案外そううまくいくものかもしれない。
「なるほど」
「……あっ……って!わたっ…我の中の堕天使様は言っている!」
さっき思いっきり素で話してたが。
まあ、でも。
「ありがとね」
「う、うむ!」
********************
時は来た。
SCP-3967はあの時と同じ水場にいる。
そして、私もまたあの時と同じ上流にいる。
私は、警戒させないようにゆっくりと姿を現す。
水を飲んでいたSCP-3967は私の気配に気づくと、水を飲むのをやめ、こちらを見つめている。
「えっと……元気?」
私が一歩近づくと、SCP-3967は一歩遠ざかる。
私は手をヒラヒラとさせ、武器を持ってないことをアピールすると、その場に座り込んだ。
「怖かったんだよね」
思ってみれば当然だ。
周りとは違う。自分と同じ見た目の生物は一人もいない。
それなのに、何かに追いかけられる。怖くて当然だろう。
SCP-3967はそれを見ると、私の元にゆっくりと近づいてきた。
「一緒に行こう?」
ゆっくりと手を差し出す。
今の私は異常性の耐性ができているのだろうか?それとも異常性が発生していないのだろうか?
どちらかはわからない。
ただ、首を下ろし、愛おしそうな目をした一匹のヤブモアに私は触れている。
温かいような、冷たいような不思議な感触だ。
アヒルのようなどこか不恰好な声で鳴いている。
こうして、無事SCP-3967の確保任務は成功した。
したのだが。
「私以外にも心開いてよ?」
SCP-3967は私にしか懐いてくれないようだ。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「夏華です。よろしくね」
「夏華さん!よろしくお願いします!」
「今回紹介するのはSCP-3467『何はとモアれ、異常あり』よ。オブジェクトクラスはEuclid」
「何はとモアれ?」
「英語版では『Anomoaly』異常のAnomalyと生物のmoaを掛けた造語になってるわ」
「それを訳して『何はとモアれ、異常アリ』ですか。上手い訳し方しますね……流石……」
「SCPの中には、翻訳者のセンスが光る題名もたくさんあるから調べてみても面白いかもね。さて、SCP-3467の説明に戻りましょう」
「モアってことはわかりました。というか、モアが生きてる時点で異常ではあるんですけど」
「SCP-3467はモアで、自身に対して危害を加えようとする人物に、眩暈、記憶喪失、運動失調、視覚障害を含む様々な症状を引き起こすわ」
「それはキツイですけど……死んだりはしないんですね」
「あくまで自衛の為だから、殺さない方が賢いのかもね。さらに、2人以上の人物がSCP-3467を狙う時には偏執的になり、互いに効果的な協力または意思疎通を行う能力は、一度に影響された人物の数に正比例して損なわれるわ」
「人数が多ければ多いほど、捕まえるのは困難ってことですね」
「生き残るための知恵かもね」
「私にも生き残るためのアドバイスをください!」
「『これ終わったら結婚する』とか、『故郷で幼馴染が待ってる』とか、『こんなところにいられるか!俺は1人で部屋に篭るぜ』とか言わないことかな」
「死亡フラグの話してます?」
SCP-3467
「何はとモアれ、異常あり」
「SCP-3467の何はとモアれ、異常あり」はWeryllium作「SCP-3467」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-3467 @2018
「SCP-014-JP-Jの奈落の悪鬼、黒き翼の堕天使アイスヴァイン」はtokage-otoko作「SCP-014-JP-J」に基づきます
http://ja.scp-wiki.net/scp-014-jp-j @2014
【SCP登場キャンペーンについてのお知らせがあります。詳しくは活動報告をご覧ください】