Case57 標的はノースカロライナ
今、私はとあることを問題視している。
仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。
同居人はおおよそ小学生。
私は日中は忙しく、ほとんど部屋に戻ってくる時間はない。
だが………。
「流石に部屋の片付けしないと……」
とある休日の昼間。
私は突如、大掃除を始めるのであった。
「ゴミ部屋とまではいかないけど。結構散らかってるなぁ……。ほら、アイリも手伝って」
床でうつ伏せになり、ゲームをしていたアイリは面倒くさそうに声をあげる。
「えぇ〜。明日にしようよ」
明日やる=やらないっていうことだ。
というか、私は明日には関西の方に行く用事がある。とても掃除なんてする予定はない。
とはいえ、無理矢理に掃除を手伝わせるというのもあまり良くない。何より、アイリに嫌われたくないし。
「仕方ない……」
私はポケットから携帯を取り出す。
これは前に夏華さんから聞いた話なのだが、何事かにやる気が出ない場合にはこうすると良いらしい。
「……もしもし?」
『あっ、こんにちは!どうしたんですか?』
電話の相手はアイリスだ。
実はアイリスはその異常性を使って、財団の調査に協力している。職員ではない為、私ほどとはいかないが、ある程度の自由が認められているのだ。
携帯もその一つ。とはいえ、外部への連絡はできない仕掛けが施されており、通話相手は私ぐらいしかいないのだが。
「今日の夜に私の所で三人で夜ご飯食べない?」
『え?!いいんですか?!』
これも認められている自由の一つ。
就寝時を除いて、食堂や休憩室、運動場の使用が許可されている。数ヶ月前に、アイリと運動場で出会い友達になったという話を聞いた。私の部屋も休憩室みたいなものだし問題ないだろう……多分。
「うん、じゃあ後で来てね」
私は通話を終えると、改めてアイリに向き直る。
「アイリ、今日の夜にアイリスが来て一緒にご飯食べるって」
「えっ!?」
たしかに、この部屋はゴミ屋敷というほどではない。普通に生活する分には問題ないくらいなのだが、人が来るとしたら話は別だ。
期限を決めて、後々のご褒美を作って、急じゃないといけない理由を作る。
これが夏華さんが教えてくれた期限を守るコツ。
「じゃあ、アイリスが来る前に部屋を片付けちゃおうか?」
「うん!やる!」
アイリは持っていたゲーム機の電源を切り、スクッと立ち上がる。
さて、どこから手をつけたものだろうか。
まずは、無理矢理に物が詰め込まれている棚からにしよう。
「とりあえず、一旦そこの棚のものを全部出そう」
「わかった!」
中から出てきたものは、想像よりも多種多様なものだった。
ゲームソフトに小さな楽器、お菓子の袋と見慣れないおもちゃ。
「すごい知らないものが入ってる…」
「えっとね……友梨がいない間に色々と貰っちゃって」
いやまあ、いいけども。
自分の部屋に見知らぬものがあるという違和感は意外と凄まじい。
「えっと……これは?」
「前に流さんがくれたの」
女の子を着せ替えてファッションリーダーを目指すという内容のゲームソフトだ。
新品ではないようだし、かつて流さんがやっていたのだろうか?
「じゃあ、このぬいぐるみは?」
「ミア博士からもらった!」
可愛らしい犬のぬいぐるみ。
ゴリラではないぬいぐるみを見るのはいつぶりだろうか。
「それじゃあ……これは?」
随分の古いビデオゲームのカセットだ。
あんまり詳しくないが、差し込むタイプのやつだ。ファミリーコンピューターとかかな?
「それはね……確か雛染博士だったかな?」
「はいアウト!!!」
9割SCPだ。
時代遅れのカセットタイプといい、雛染といい。
それに、こういうものには普通ゲームタイトルとかメーカーマークとかが書いてあるはずなのに真っ黒で何も書いていない。
まず、普通のものではないだろう。
「それ捨てちゃうの?」
「捨て……はしないけど。とりあえず私が返しとく」
「でもそれ、まだ一回もやってないよ?」
「だってめちゃくちゃ怪しいし。そもそもこのカセット入れる本体がないでしょ?」
何年前のソフトだろうか。
私よりも子供の愛理がそんなもの持ってるわけない。
「あ、雛染博士にソフトと一緒に本体も貰ったの」
アイツ………本当に余計なことしかしない……。
「とにかくダメだからね」
「でも、普通のゲームの可能性もあるでしょ?もしそうだったら、雛染博士に悪いことしちゃう」
アイリはすごく純粋無垢な瞳で私を見つめる。
とても断れる雰囲気ではない。
「……仕方ない。10分間だけやってみて、少しでも変なところがあったらすぐに消すからね?」
まあ、たしかに荒戸に関して神経質になりすぎていたのかもしれない。
よくよく考えれば、私がいなくて退屈していたアイリに自分の遊んでいたゲームを渡した……なんて普通の流れだろうか。
アイリがカセットにゲームを入れると、画面に「レオと学ぼう」という緑色の文字が浮かび上がる。
どうやら、教育ゲームのようで「ジョーイ」という緑色の生物が出すクイズに答えていくもののようだ。
意外にも、アイリはそれを気に入ったようで次々と問題に応えていく。
「蜘蛛の足はね……えっと……8本!」
画面に大きく正解のマークが映し出される。
なるほど、古いゲームながらかなり楽しいようだ。
見たところ至って普通のゲーム。流石に荒戸だからといって警戒しすぎたか……申し訳ないことをしたかもしれない。
「友梨もやる?」
「部屋の掃除のこと忘れてない?」
「一回だけ!やろうよ!」
「一回だけだよ」
私はコントローラーを握り、テレビを見つめる。先程から見る限り、小学生程度の問題だ。私に答えられないことはないだろう。
『フランスの……首都は……どこでしょう?』
「フランスは……ロンド……じゃなくてパリだね!」
危ない。というかさっきより難易度上がってないか?
『答えは……正解です』
「まあ、こんなの私には簡単すぎるけどね」
私が次の問題に進もうとした瞬間、画面が突然バグり始め、カクカクと不気味な挙動を見せる。
「……あれ?どうかしちゃった?」
私は何度かボタンを押したりスティックを倒したりしてみるが、動く気配はない。
諦めてカセットを外そうとした時、画面から声が聞こえる。
「これでいいのです…警戒しないで、あなたが迎える明日には恐怖だけが待っている」
「……は?」
「明日とはなんだろうか?私達は何と直面しなければいけないのか?昨日は何も無い日だった。私達は過去に生きている」
私はゲームが何かを言い終わる前に、カセットを引き抜いた。
「ちょっと友梨!壊れちゃうよ!」
「いやこれダメなやつだったよやっぱり!絶対変なことになるやつ!!」
やっぱりダメじゃねーか。
一瞬でも荒戸を信用した私がバカだった。
「ほら、掃除再開するよ」
「はーい」
渋々と物の分別を始めるアイリ。
私も再開しようとして腰を上げた時、視界の端に見慣れないものが映った。
「あれって……?」
棚の上。私の記憶では、そこに何かを置いているということはなかったが、それは明らかにそこにあった。
白い音符の形をした可愛らしいキャラクター。
そう、オタマトーンだ。
「アイリ、あれも貰ったの?」
「ん?ううん、いつの間にかあったの」
突然現れたオタマトーン。
そして、私はこのような現象に聞き覚えがある。
「SCP-3338……?」
SCP-3338。オブジェクトクラスEuclid。
突然、一人暮らしの人の元へと現れるオタマトーン。
非常に友好的であり、しっかりとした扱いをしてくれた持ち主には失せ物を見つけたりして恩返しするという。
とりあえず安全なSCiPではあるのだが、問題はそこではない。
「あれ……ここ私の部屋だよね?」
もう一度言うが、SCP-3338は突然、一人暮らしの人の元へと現れるオタマトーン。
私はこの部屋の住人として認識されてない……???
「アイリ」
「何?」
「明日からもう少し早く帰ってくるね」
「え?うん!」
アイリに寂しい思いをさせていたんだな。
今になって罪悪感が締めつけてくる。
もう少し私が効率的に任務をできたらなぁ。
……SCP-3338はあとで報告しておこう。
2時間後。
山のようにあった物は全て整理整頓され、部屋はかつての綺麗な様相を取り戻した。
「ふぅ……」
「ようやく終わったね…!」
沈むように座り込んだ椅子が軋む。
ギシギシと言う音が椅子の上で少し動くたびに鳴っている。
「最後に、この椅子も変えちゃおっか」
「うん!……でも、もう時間が」
時刻は5時。
6時にはアイリスが部屋にやってくる。
「私は夜ご飯を食堂から買ってくるから、適当に椅子を買ってきてくれない?センスはアイリに任せるよ」
「うん!わかった!」
椅子でも良し悪しを選ばないならば、財団の購買部で購入できる。
購買部にはあまりにも多種多様なものが販売されており、私もその全てを把握していない。
まあ、ほとんどが例のケーキのように曰く付きのものだが。
それからしばらく経ち、せっかくなので鍋をしようと材料を食堂から購入した後部屋に戻ると、そこには既にアイリが戻っていた。
傍にあるのは木製の椅子。
機械的な部屋に置いてあるため少し目立つが、アイリがこれがいいと思って買った椅子だ。何も言うことはあるまい。
「こんにちはー!」
ちょうどそのタイミングで、アイリスが部屋の扉を叩く。
ギリギリだったが、どうやら間に合ったようだ。
「わっ!鍋ですか?!」
「うん、材料は食堂から買ってきたの。あ、アイリ。お皿並べてくれる?」
「うん!わかった!」
アイリが皿を並べ、鍋に火をかける。
材料がコトコトと煮立ってきたところで、三人はようやく席についた。
「それにしても、なんか久しぶりな気がしますね」
「最近、色々と忙しかったからね」
カオス・インサージェンシーの後処理で色々と駆り出されていたのだ。
SCPの異常性の調査などが忙しく、あまりアイリスのようなSCiPの友人に会う機会がなかったのだ。
「あー、大変だったって聞きましたよ。アイリちゃんも」
「まあ、全部が全部無事とは言えないけれど。アイリには大きな怪我はなくてよかったよ」
私とアイリスはチラリとアイリの方を見るが、アイリは涎を垂らしながら鍋をじっと見つめている。
この子、結構食いしん坊なとこあるよな。
「それじゃあ、そろそろ食べようか」
「うん!」
私が鍋に箸を伸ばそうと身を乗り出す。
しかし、できない。
まるで、お尻が接着剤か何かでくっついてるかのようにびくともしない。
「あ……れ……?」
「友梨どうしたの?」
嫌な予感がする。
とても嫌な予感がする。
「……アイリ。これってどこで買ったの?」
「あ、それはね。雛染博士がくれたの」
あの野郎……!!!!!!!!!
「……アイリス。もしかしてだけど、この椅子の背もたれに何か書いてない?」
「えっと……Welcome to Americaって書いてます」
あー、これアレだわ。
SCP-1475-JP。
見かけは何の変哲もない椅子だけど、これに座ると……。
「友梨、すごい揺れてない?」
私の体は小刻みに震えている。
貧乏ゆすりとかのレベルではない。
例えるなら、ロケットの発射準備。
「友梨さん、なんか斜めになってませんか?」
前方45度。
私は椅子ごと前屈みになっている。
例えるなら、ロケットの発射準備。
「アイリス、アイリ。鍋食べ終わったら食器洗っといてくれると嬉しいな」
私は次の瞬間、爆発音と共に明後日の方向へ吹っ飛んでいったのだった。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「流やで!よろしくな!」
「流さん!よろしくお願いします!」
「ほな行くで。今回紹介するのはSCP-1070『再教育ソフトウェア』。オブジェクトクラスはSafeや」
「ソフトウェア……というとパソコンとかの?」
「そのソフトやで。今回はビデオゲームやけどな。SCP-1070はファミコンの教育ソフトや。起動したら、緑色の実体【ジョーイ】が、簡単な質問をするんそうや」
「ここまでは普通の教育ソフトですね」
「実際、14歳未満の子供には普通の教育ソフトとして映るんや。難易度としても年相応の簡単な内容みたいやで」
「てことは14歳以上に対しては異常性が発生するってことですね」
「そゆこと。14歳以上の人物が使用した時、画面がバグり始めて難解かつ不可解な質問をし始めるんや。哲学的…って言ったらええんかな。さらにその質問をしている間、使用者の精神年齢はどんどん低下していって思春期前後まで戻るみたいやね」
「丁度14歳くらいってことですか?」
「明確なデータはないけど、それが近いと私も思う」
「なんか……不気味なSCPですね。目的も不明というか」
「と、ここで流クイーズ!友梨ちゃんはこの問題がわかるかなー?硫酸銅(Ⅱ)水溶液にアンモニア水を過剰に加えると生じる錯イオンはなんでしょう」
「テトラアンミン銅(Ⅱ)イオンですか?」
「……なんか可愛くない」
「私だって日々勉強してますからね」
「……明日とはなんだろうか?私達は何と直面しなければいけないのか?昨日は何も無い日だった。私達は」
「答えのない問いをするのやめてください!」
SCP-1070
「再教育ソフトウェア」
「SCP-120-JPの世界で一番の宝石」はZeroWinchester作「SCP-120-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-120-jp @2014
「SCP-105のアイリス」はDantensen作「SCP-105」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-105 @2008
「SCP-1070の再教育ソフトウェア」はVWXYZ(原著), RJB_R(改稿)作「SCP-1070」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-1070 @2012
「SCP-3338のオタマトーンはあなたのルームメートになりたいです~ 」はZyn作「SCP-
3338」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-3338 @2017
「SCP-1475-JPの標的はノースカロライナ」はsemiShigUre作「SCP-1475-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-1475-jp @2016




