Case35 頭が高い小人
「クリスって夏と冬どっちが好き?」
「どちらも嫌いだな」
クリスはいい加減に返事をする。
夏はSCiPは出るし、冬でもSCiPは出る。
クリスにとって季節というのはただ、一定期間にしか現れないSCiPを図る基準でしかない。
そのような事務的な返事に王は呆れたように手をぶらぶらさせ、通路の奥を指さす。
「釣れないなぁ…僕は夏が大嫌いなんだよね。暑いのが嫌いで。だからこういう奴らすごく嫌い」
王が指差した先。
そこには横幅10mほどの廊下を埋め尽くさんばかりの燃えている人間。
まるでゾンビのようにこちらへゆっくりと歩いてくる。
「それなら来なくてもいいぞ。俺一人でやる」
「そういう訳にもいかんでしょ。僕だってお金もらってるし」
その言葉を皮切りに二人は燃え盛る人間達に走り出し、二人を追いかけるように部隊も走り出した。
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「お願い……出てって」
少女は泣き崩れ、座り込んでいる。
彼女の異常性は…重力で間違いないだろう。
近づけば近づくほど重力は強くなり、彼女が転ぶとさらに強くなる。
いや、条件は転ぶ事じゃないかもしれないけど!
とりあえずそう仮定しよう。
だとしたら私とはかなり相性のいいSCPだ。
能力的にはSCP-053…マーガレットが近いだろう。
一度耐性が生まれてしまえば後は影響を受ける事はない。
私は一歩一歩彼女へと近づいていく。
怖がらせないように、優しく。一歩ずつ。
「ち、近づかないで!」
少女は身を寄せて少しづつ後ずさる。
「えっ……!」
その時、その子は初めて異変に気付く。
「なんで大丈夫なの…?」
私はニコリと笑うとしゃがみ込み少女と視線を合わせる。
「………もう怖いものはないから。大丈夫だよ」
緊張の糸が切れたように、瞳に涙を浮かべる少女は『普通の』女の子と何一つ変わらなかった。
理不尽。
私が浮かんだ言葉は「同情」でも「怒り」でも「恐怖」でもない。
こんな異常性だ。
今まで、人と接することもできなかっただろう。
人が恋しかっただろう。
それなのに、彼女は人を殺さない為に人を遠ざけないといけないのだ。
それが、ただただ理不尽に思えた。
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「やっと見つけたわ」
流はパソコンを見ると、ポケットからUSBメモリを取り出す。
「流さん、それは?」
「シャロット博士特製ハッキングデータ」
メモリを差し込んだ途端、画面に財団のマークが映し出される。
恐らく、成功の合図だろう。
「OK、これでとりあえずは終わりやな」
流は小さくため息をつくと近くの椅子に座り込んだ。
(……さっきの目眩から私の体にこれといった変化はない。それが逆に不気味なんやけどな)
SCPで一番恐ろしいことは異常性がわからないこと。
異常性がわからなければ、対策もできないし、覚悟を決めることもできない。
今、この瞬間も後ろにいる機動隊に異常性が伝播しているかもしれない。
だけど、私は今ここを離れるわけにはいかない。
小さな心臓の鼓動を聞きながら、流はパソコンの画面に目をやった。
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「うわ、なにこれ」
財団のマークで埋め尽くされたモニターを見て男は驚愕の声を上げる。
「せっかく面白くなってきたところだったのに!これじゃ見えないじゃん!」
その男の顔がモニターの明かりで照らされる。
その男は20代半ばの容姿端麗な風貌をしており、その服装はこの場にそぐわないほどの上等なスーツだった。
「仕方ない。直接見に行こっか。アルデドはそこでその娘見張ってて」
アルデドと呼ばれた筋肉質な男は黙って頷いた。
「さてさてさて、どこに行こうかな?」
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少女を保護した後、私とシャネルさんと久馬さん。それから久馬さんの部隊は奥の廊下を進んでいた。
「多分、あの子の異常性は身長が高ければ高いほど重力を受け、近づけば近づくほど重力を受けるというもの」
「しかし、反対に彼女より低い位置にいた者にはその影響はないということだな」
私はあの後、落ち着いた少女に色々と話を聞いた。
彼女は生まれた頃から不思議な力があり、不気味がった家族に捨てられたところを医者と称したカオス・インサージェンシーに拾われたらしい。
しかし、実際行われた治療はとても幼い女の子に課すようなものではなかった。
それでも治療という事を信じて、どんな事でも従ってきたという。
許せない。
小さな女の子を騙して人殺しの道具に使うなんて!
「とりあえず、今はあれでどうにかするしかないわね」
緊急な策として、彼女にはシャネルさんの部隊に施設から離れた高いところに連れてもらっていた。
「ここにいるのは騙されている子ばかりなんでしょうか?」
不意に出た私の言葉を久馬さんが否定する。
「そう思わない方がいい。基本的にSCPというのは危険な存在だ。出会った瞬間、殺すか殺されるかだ」
殺すか殺されるか。
そうだ。
SCPはカインさんやアイリ達のような優しい存在ばかりではない。
そんなの嫌というほど見てきたじゃないか。
ふと前進する足が止まる。
目の前には左右に分かれた道路。
「本当に迷路みたいなところだな。どうする?」
「時間がない。夜になると活発化するSCPもいる。ここは分かれるべき」
そうだ。
わざわざ襲撃を昼間に選んだのも、夜間になると活発化するSCPが多いからだった。
「では、私は部隊を連れて左の方へ行こう」
「じゃあ、私はSCP-________を連れて右の方へと行く」
そう告げると、二人は向かい合い拳を合わせた。
「絶対生きて帰ってこい」
「そちらこそ」
久馬さんは私たちに背を向けると左の通路へと駆け出した。
「…………行こう。友梨、それとSCP-120-JP」
その声を聞くと、待ってましたとばかりにポケットからSCP-120-JPが姿を現した。
「白髪の女、貴様まさか忘れてた訳じゃあるまいな?」
「いやぁ……まさかぁー!」
忘れてた。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「シャネル・カール。よろしくね友梨」
「シャネルさん!よろしくお願いします!」
「今回紹介するのは、SCP-006-JP「あけろ」よ。オブジェクトクラスはEuclid」
「あけろって……こりゃまたストレートな」
「SCP-006-JPは木製のドアのSCiPでね、その異常性は不定期に活性化するの」
「活性化すると、どんな事が起こるんですか?」
「周囲にある死体が蘇るのよ」
「え……?それ最強じゃないですか?!」
「といっても知性とかはないんだけどね」
「あっ……まあそんな上手い話ないですよね…」
「SCP-006-JPが活性化すると直立に立ち上がり、周りの死体が蘇る。それから、その死体達は扉を抑えるように動くの」
「抑える……?」
「そう。扉の中からはドンドンと何かが扉を叩くような音が聞こえるのよ。時間が経てば経つほどそれはエスカレートしていき、最終的には扉が壊されるんじゃないかってくらいの音が鳴るわ」
「な、何ですかそれ!絶対出しちゃいけないやつですよ!その後どうなるんです!?」
「終わり」
「え?」
「終わり。不活性化」
「あ、そんな簡単に…」
「まあ、いうてもEuclidだからね」
「まあ、何もないに過ぎることはないですけど。あ、そういえば周りに死体が無かったらどうなるんでしょう」
「それは前に実験した事があるらしいんだけど……」
「え?どうしたんです?」
「最初の方こそなにも起こらなかったものの、音が止められないくらい大きくなって……慌てて死体と職員で扉を押さえ込んだんだけど、扉を叩く力が強くて壁に打ち付けられて死人も出たんだって」
「やはり危険……でも死体があればとりあえず安全なんですよね?」
「まあね。……私にはあれが押さえ込んでるというより縋り付いてるように見えるけど」
「え」
SCP-006-JP
「あけろ」
「SCP-006-JPのあけろ」はlocker作「SCP-006-JP」に基づいきます
http://scp-jp.wikidot.com/scp-006-jp @2014
「SCP-1753のめまい」はEnresshou作「SCP-1753」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-1753 @2013
「SCP-059-JPの頭が高い小人」はdoragon akitsuki作「SCP-059-JP」に基づきます
http://ja.scp-wiki.net/scp-059-jp @2014
「SCP-073のカイン」はKain Pathos Crow作「SCP-073」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-073 @2008
「SCP-053の幼女」 は Dr Gears作「SCP-053」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-053 @2008
「SCP-120-JPの世界で一番の宝石」はZeroWinchester作「SCP-120-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-120-jp @2014
「SCP-457の燃え盛る男」はagatharights作「SCP-457」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-457 @2008




