入学式特別編 学級裁板
今回、投稿が遅れてしまった事に深くお詫び申し上げます。
このような事が二度と無いように再発防止を心がけます。
大変申し訳ございませんでした。
とある春の夕方。
私はシャネルさんと共に食堂へ来ていた。
「もう入学シーズンかぁ……」
私は机に身を乗り出しながらボーッと呟く。
「貴方も普通なら進学してたのにね」
「本当ですよ」
その通りだ。
この財団に来ていなかったら私は今頃大学生。
最高に幸せなキャンパスライフを謳歌していたというのに。
「ここに来たの後悔してる?」
「いや、来たっていうか連れてこられたっていうか……まあ、そんなに後悔はしてないですよ」
確かに嫌なことはある。
それはもう沢山ある。
だが、私のおかげで助かる命がある。救われる人達がいる。
そう考えたら案外悪くないものだ。
「まあ、でも寂しさはありますよね。少しだけですけど」
「……普通の学生に戻れたらどんな事がしたいの?」
そう言われたら意外と出て来ないものだ。
恋愛やら青春やらがしたいわけではなかったし。
他にあるとしたら行事とかだろうか。
「うーん、文化祭とかですかね。やっぱり」
「文化祭?」
シャネルさんは不意を突かれたように少し驚いた顔をする。
「はい。文化祭って楽しくないですか?」
「ごめん、私の学校はやった事なくて」
シャネルさんの育った学校は確かエージェントの専用学校だったはずだ。
それなら文化祭などないのも頷ける。
「文化祭ってどんな事が楽しいの?」
「やっぱり、出店を回ったりですかね」
「それなら縁日とかと変わらないんじゃない?」
「それを自分とか友達とかがやるから楽しいんですよ。縁日は縁日で好きですけど」
そんな事を話してる間に私の携帯にピロリと着信が鳴った。
「なんでしょう…」
届いたメールは夏華さんからのもので、数時間後に任務に出て欲しいというものだった。
「任務……学校で異常存在の調査及び確保」
「私も来てるわね」
とある学校で不審な自殺者があり、その後の警察官の調査でも警官二名が不審な自殺。
これは流石にSCPだろうと財団が目をつけたわけだ。
「あれ、私は違うところだ」
私はシャネルさんの携帯を覗き込む。
その任務は私のものとは違い廃校へのものだった。
なんでも不審な音があったとして、巡回中だった警察官が撲殺されたらしい。
その後、構内をくまなく探したが一切の不審者の痕跡は見つからなかったという。
「私は久馬と一緒だ。……またシュレンに何か言われそうだけど」
「私は……うぇ…」
「クリスと?」
「よくわかりましたね」
何なんだろうか。
夏華さんに私は嫌がらせでも受けているのだろうか。
********************
「ふ……ふふふ………あははっ!」
「…………」
私立棋耳高校。
今回私達が調査に入る高校だ。
…….前日、財団の職員で学校をくまなく探索したが一切の異常性物質は見つからなかった。
つまり、異常性の発現にはいつも通りの運営が何かしらの条件というわけだ。
そのため、私達二人は学校への捜査という形で変装をして転校生として入学するようになったのだが……。
「クリス制服似合わなッ!!!」
「……うるせぇよ」
何だろうか。
この乙女ゲームの中から出てきました感。
コスプレ。
そうだ。その感覚が一番近い。
「とにかく忘れてないだろうな?俺が三年B組。お前が二年C組だ。任務が終わり次第記憶処理をするから、潜入というよりは確保を最優先にしろ」
「なんか…クリスが三年B組っていう絵面だけで面白いよね」
いい加減ムカついたのか、クリスは懐から拳銃を取り出すと私の額に当てた。
「わかったか?」
「はい……」
すぐ本気になるんだけどこの人。
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「材団高校から来ました!御館友梨です!よろしくお願いしまーす!」
と、挨拶はうまくいったものの。
やっぱり、白髪の女の子って話しかけにくいのかな……
私は一人、端の席に座っていた。
クラスメイトの人たちは少し離れて私の様子を伺っている。
……うーん。できれば聞き込みとかしたいんだけど警戒されてるなぁ。
どうしたものか。
「……あのー、御館さんだよね?」
頭上から声がかかる。
「うん、そうだけど」
顔を上げ、声の主に返事をする。
そして次の瞬間、私は驚嘆した。
「玲奈……?」
そこにいた人物は、あの日あの時に私の目の前で命を落とした少女。
いや、その人物によく似た人物。
「私は風香。よろしくね」
「あ、うん。よろしくね」
よく見たら顔も髪の長さも全然違う。
何で間違えたのだろうか。
「風香!大丈夫?!」
風香は他の少女に手を引かれ、その少女が私達の間に割って入る。
「か、カツアゲか?!風香を傷つけるのはわたしが許さないぞ!」
彼女の影に一瞬、美菜子が重なる。
オレンジ色の髪をしたポニーテールの少女。
噂好きでお調子者の私の友達。
「やめなさい、葉月。カツアゲなんてされてないわよ」
風香が葉月と呼んだ少女の頭にチョップをかます。
「いったぁ!?だって白髪だよ?!不良だよ!?」
「見た目だけで人を判断するのは失礼でしょ!それに、地毛かもしれないじゃない!」
まあ、確かに。
こんなに真っ白な白髪なんて不良と思われても仕方ないか。
「えっと……葉月ちゃんだっけ?これは地毛だよ。生まれてからずっと白髪なの」
私は前髪をサラサラと触って見せる。
「ほら、言ったじゃない」
「えっと……それは……ごめんなさい」
葉月は私に向かって腰を90度に曲げ、頭を下げる。
「ふふっ……」
その姿があまりにも悪戯が怒られた時の美菜子にそっくりで思わず笑ってしまった。
「ごめんなさい、悪い子じゃないんだけど」
「ううん、大丈夫。気にしてないよ」
本当に、あの頃に戻ったみたいだ。
もし私達があの日、深夜の学校に忍び込まなければこんな未来もあったのかもしれない。
「あ、そうだ。女子は次の体育は外でドッチボールなの」
「あ、そうか。次は体育か」
体操服……まあ、訓練服でいいだろう。
他校の体操服って言えば何とかなる。
「ドッチボールか……私の出番だな?」
「葉月ちゃんはドッチボール上手いの?」
「あだぼうよ!何を隠そう私はドッチボール部主将の葉月様だからね!」
葉月はどうだ?と言わんばかりに胸を張る。
ドッチボール部か。
確か私の学校にはなかった気がする。
大会とかもあるのだろうか。
「でも、私も運動は得意だよ?」
「ふむ……いいだろう。勝負じゃあ!!」
……結論から言うと完勝だった。
「ハァハァ……なんで……全然当たらない……!」
財団の反射神経訓練に比べたらこんなの楽なものだ。
私は、本職のエージェントほどではないにしろある程度の訓練は受けている。
ただ死なないだけの棒立ちでは肉壁にも使えないからね。
……いや肉壁とか嫌なんだけど。
「あれ?ボール遅くない?」
「くっそ!」
葉月ちゃんが私に向かって投げたボールを私は身体中を使いキャッチする。
「ふっふっふっ……余裕だね」
まあ、意地悪するのもここら辺にしておこうか。
私も訓練中、王に散々煽られたのだ。
このくらいは許されていいだろう。
ちょうどその時、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
「あ、もう終わりか」
いつもなら数時間はぶっ続けでやるからか。
時間があっという間に感じてしまった。
それに、久しぶりに同じくらいの人達と遊べたことがとても楽しかった。
「凄い!御館さん!葉月に勝つなんて!」
外野から風香が私の元へと走ってくる。
「何かスポーツでもやってたの?」
「あ、いや特には」
後で記憶は消すけど、あまり変なことは言わないようにと夏華さんから釘を刺されている。
それに冗談としか思われないだろう。
「友梨!」
葉月がこちらへと興奮した表情でやってくる。
「部活はもう決めたのか?!決めてないならドッチボール部に!!」
……本当に清々しい子だな。この子は。
嫉妬のひとつもない。
そんなところも美菜子とよく似ている。
「私と友梨が揃えば今年はこそは全国制覇を……!」
私へと詰め寄る葉月に風香のチョップが入る。
「痛っ!?」
「御館さんが困ってるでしょうが」
「あはは……」
ふと、携帯が鳴っているのに気がつく。
クリスからだろうか。
きっと何かしら情報が見つかったのだろう。
「じゃあ御館さん教室戻ろうか」
「あ、ごめん。電話きちゃって。後から行くね」
「何だ?!彼氏か?!」
「それは絶対にない」
クリスが彼氏とか冗談でも受け付けないが。
「じゃあ私達は先に戻ってるな」
「あ、葉月。その前に保健室で消毒してきなさい」
「ちぇ……こんなん傷のうちに入らないって」
「ほら、一緒に行くから」
よく見ると、彼女の肘には擦り傷が残っていた。
ボールから避ける時に地面と擦ったのだろうか。
気づかなかった。
「じゃあ、また後でね。御館さん」
そう言うと二人は行ってしまった。
他の生徒も次々と昇降口へと戻っている。
私は誰も周りにいないのを確認すると、携帯を手に取った。
「もしもし?」
「遅い」
仕方ないだろ。
こっちだって暇じゃないんだ。
「何か見つかったの?」
「この前の三回の自殺の共通点だ」
確か…最初に起こった不審な自殺。
異物嚥下による女子生徒の窒息死。
続いて、その事件を捜査していた二名の警察官も全身火傷によるショック死、頭部の破壊でそれぞれ命を絶っていた。
「共通点って?」
「……その事案の全てがお前のクラスで起こっている」
……は?
「全部って……全部?!自殺者もうちから出たの?!」
「いや、お前のクラスは本来とは別のクラスが使っている。元の欠席者が多くて学級停止のような形になったらしい」
そういえば。
クラスの人間は私の警戒心が異常だった。
確かに自殺者がうちから出ていたとしたら?
警戒されるのも無理はない。
「とにかく、お前がいれば異常性が発現する可能性は下がる。教室から離れるな」
教室……!
やばい……!
その時、始業の鐘が学校に響いた。
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「いい?傷口っていうのは放っておくとバイキンが入るの。わかる?」
「わかってるよ、そんなこと」
肘に絆創膏を貼る風香に呆れるように葉月は笑う。
「あ、もう授業始まる。気になるからって剥がさないでよ?」
「剥がさねーよ!」
半信半疑の顔で風香は立ち上がり、少し離れた自席へ座る。
「次……国語かぁ。眠いなぁ」
先生が教室に入ってきて教壇に立つ。
……そういえば、あいつ来ないな。
御館友梨。
ドッチボール上手いし、凄いいい奴だし。
友達になれるといいなぁ……。
こんな時に来たから、上手くやれるか心配だったけどドッチボール上手かったし大丈夫だろ!
そんな事をボーッと考えていると、始業の鐘が鳴った。
「さて、頑張りますか」
私はノートを広げ、黒板を見遣る。
先生は既に教科書の文字を黒板に写していた。
「やば、遅れてる!」
私がシャーペンを取り出しノートに最初の一行を書き出した時。
黒板の文字が消えた。
「……え?」
私だけではない。
クラス中の人にどよめきが走る。
そして、代わりに黒板には大きな文字で『学級会』の文字が映された。
「学級会……?なんだよそれ」
先生は何度もチョークを手に黒板に文字を書き込もうとしているがことごとく失敗に終わっているようだ。
そして、次の瞬間。
私以外の人間が全員、机に倒れ込んだ。
「なっ……!おい大丈夫か……?」
そして、その時、私自身に現れた異常にも気付く。
机から立てない。
いや、体が動かせない……?
辛うじて首から上は動くものの、体が金縛りにあったように動かない!
「な……んだよ…!これ…!」
そんな私などお構いなしに黒板に次々と文字が映し出されていく。
『被告』 佐藤 葉月
『先生』 長澤 敦美
『学級委員』五十嵐 風香
被告のところに現れたのは私の名前。
先生のところに現れたのは先生の名前。
そして、学級委員というところに現れたのは風香の名前……。
「なに……?」
そして、それを合図にクラスの人々は顔を上げる。
しかしその顔は普通ではなく、何かに取り憑かれているようだった。
「これより学級会を始めます」
その言葉を皮切りにクラスの人達が席をコの字に動かし、風香は黒板の前の先生の隣に立つ。
「なに…?ドッキリとかなの?」
「被告人の勝手な発言は許可されていません。黙りなさい」
冷たい声で風香が告げる。
「風香、何これ!?怖いよ!!」
「被告人、黙りなさい」
その目にはいつもの優しさなんてない。
見たこともない、ゴミを見るような目だ。
「先生!何ですかこれは!?」
「被告、あなたは今自分がどういう立場が分かっていますか? 学級委員の指示に従ってください」
「は……?意味わからない」
「先生、審理を開始しましょう。時間の浪費です」
風香はそう言うと、何処からか紙のようなものを取り出し読み上げ始める。
「2008年4月23日、被告は路上を歩行中のオオアリ20匹を靴裏による圧殺という残忍な手段で虐殺し、その遺骸を放置しました。これは集団殺害罪に当たります」
「ちょ、ちょっと待ってよ! それ何年前だと思ってるの?それに、たかがアリでしょ?!そんなに……」
汗が噴き出る。
夢にしてはタチが悪い。
私の弁明を先生が遮る。
「黙りなさい。被告人、あなたはこの学級会において、質問に答える自由があります。もちろん黙秘していていてもかまいません。被告人、あなたはこの容疑について覚えていないのですか?」
「覚えてるわけないじゃないですか!」
「よろしい。容疑を否認するのですね。学級委員、冒頭陳述を」
「はい」
風香から告げられたのはその時の事細かな状況、私の個人情報。そして、あまりにも幼稚な動機。
「な……気持ち悪い!!風香まだその時は私と会ってもいないのに!!」
「先生、証拠品の提出を申請します」
「許可します」
私の叫びなど聞こえていないかのように風香は先生に一礼をすると、何処からか赤い靴を取り出す。
「それ……」
何となく覚えている。
小学生になった時にお父さんに買ってもらった赤い靴。
「なんで!それはずっと前に捨てたのに!なんであんたが持ってるの?!」
「こちら、甲1号証は実際に犯行で使用された靴です。この靴裏からは、オオアリの数十匹分の体液などが検出されました。被告の犯行を示す決定的な証拠です。証拠品は以上です」
確かに、風香が見せる靴の裏には虫の体液のようなものがついていた。
……気持ち悪い。
なんで?どうしちゃったの?
「被告人に質問します。あなたは殺したアリについてなにか知識を持っていましたか?」
「は?意味わかんない!」
その言葉に風香は腹を立てたように教壇を強く叩きつける。
「知らない分からないと白を切っていますが、良いですか? あなたが殺したアリたちはあの日、初めて外に出ていたんです……!」
「それは……気の毒だけど!」
「気の毒! そのように思いながらどうしてこのような蛮行に及んだのですか?」
怖い。
怖い怖い怖い。
私が悪いの……?
なんで、こんな事をしなきゃいけないの。
なんで風香にこんな顔されなきゃいけないの……?
「もうやめてよ……お願い……こんな茶番…」
「茶番……茶番ですか。私は今とても怒りを感じています。この感情は、あなたなどには分からないでしょう。この――虐殺者め!」
……もう嫌。
風香の怖い顔、見たくない。
「では、最終弁論に移ります。学級委員、論告をお願いします」
「はい。被告の犯行は極めて残忍かつ狂暴であり、また無計画であったことは明らかです。しかしこれまでの態度を見てもわかるように……」
淡々と、時折言葉に怒りを込めながら。
風香は言葉を述べる。
私は、もうどうでも良くなっていた。
馬鹿馬鹿しい事に付き合わされている呆れ。
そして、恐怖。
……親友に裏切られた孤独。
「……よって我々が与えうる最も重い刑を、極刑を求刑します」
「……は?極刑って……?」
私の中で何かが壊れた音がした。
もう目の前にいるのは友達でも何でもない。
「いい加減にしてよ風香!!!私が嫌いならそう言えばいいじゃん!!なんでこんな悪趣味な事するの!!!!」
周りに静寂が走る。
やがて、風香が憐むように口を開いた。
「言いたいことはそれだけですか?」
私はもう何も言えなくなってしまった。
もう風香を人としても見えなくなってしまった。
イカれてる。
そうとしか思えない。
「……では、投票に移ります。この場にいる全員、頭を低くして、顔を伏せてください」
先生の合図でクラスの人々が顔を机に伏せる。
「私の読み上げる次の選択肢に関して、賛成される方は挙手してください。被告人を無罪放免とするのに、賛成の方。」
手を挙げる者はいない。
「被告人を有罪とするが、情状酌量の余地があると思われる方」
手を挙げる者はいない。
「被告人を有罪としたうえ、学級委員の求刑を適切であると判断される方」
全ての人間が手を挙げた。
「あはは……何これ……」
「判決を言い渡します。主文、被告人を死刑に処す。理由は、被告には自ら犯した罪への反省意識が薄く、社会に再び出た場合、再犯をする可能性が極めて高い。更生の可能性は著しく低いと判断せざるを得ない。よって、死刑に処するものとする」
私の体が初めて動いた。
机の中に手を入れ……それを取り出す。
それは、鋭利な肉切り包丁。
「……待って。何これ。嫌だ……やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!!!!」
包丁を自分の首筋に当て、思いっきり……。
「待ったッッッ!!!!」
現れたのは白い髪と赤い瞳。
「……友梨?」
友梨は片手で私の手を抑え、肉切り包丁と私の首の間に自分のもう片方の腕を挟んでいる。
包丁が食い込んだ二の腕から血が流れる。
「大丈夫?葉月ちゃん!?」
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腕に刃が食い込む感覚。
筋肉繊維を一枚一枚切断しているのを感じる。
腕から垂れる血液一滴一滴に痛みを感じる。
けど…どうにか間に合った!!!
後一秒遅かったら……葉月ちゃんは。
考えたくもない。
私は周りをぐるりと見渡す。
教壇に立つ先生と風香は驚いたような表情でこちらを見つめ、他の生徒は人形のように茫然と私を見つめている。
……さて、どうしようか。
SCPの本体は何だ?
この空間自体だとするなら外から普通に入れるのは違和感を覚える。
となれば、このクラスにあるものの何か。
……あの黒板。
『学級会』……ね。
いかにもって感じがする。
「友梨……それ……血……」
私は自分の二の腕に刺さった包丁を見る。
……痛い。
死ぬほど痛い。
「だ…いじょうぶ!!」
私は腕から包丁を抜くと、地面に転がす。
そして、先生と風香ちゃんの前に葉月ちゃんを守るようにして立つ。
「やらせないよ」
「……神聖なるこの場を汚し、罪人を庇うこの人物も極刑に値します」
その言葉と同時に今までただ此方を見ていた人達が立ち上がり、それぞれの手に凶器を構える。
「……まずいな」
この人数を葉月ちゃんを庇いつつ逃げられるか?
多分、私が囮になって……ていうのも厳しいか。
葉月ちゃんは腰がひけてる。
その時だった。
前方のドアが乱暴に開け放たれる。
「……ここか」
「ナイス!クリス!」
「韻を踏むな」
突然の登場に戸惑う先生と風香ちゃん。
クリスはその一瞬は見逃さない。
「クリス!あの黒板!」
「見りゃわかる」
クリスは黒板を掴み、壁から離した。
「え……一人で?!」
驚く葉月ちゃんを横目に、私は迫りくる人々を左右にいなす。
「こんだけ動きが単純なら大丈夫」
クリスが黒板を何とかするまで時間稼ぎは余裕でできそうだけど……。
「重罪人が!!!いい加減にしろ!!!」
風香ちゃんが何処からか手にしていたナイフをクリスに向けて突進をする。
しかし。
「やめとけよ」
それを軽々と振り回す黒板で防御する。
「……相変わらずなようで」
あいつがSCPなんじゃないのか?
それ言ったら殺されるから言わないけど。
戦意喪失した風香ちゃんを睨みつけ、クリスが黒板を廊下へと投げ捨てる。
乱雑に投げ捨てられた黒板が廊下の窓や壁にぶつかり乱暴な音が鳴る。
「……終わった」
教室には気を失った生徒と先生の体が散らばっていた。
「大丈夫?」
私は葉月に手を伸ばす。
「…………」
彼女は口を閉ざし、その手を握る事は無かった。
********************
軽傷者多数。重傷者、死傷者なし。
その後、学校の全ての関係者には記憶処理が行われ私とクリスの記憶も全ての人間から消える事となった。
「やっぱり私は化け物なんですね」
「そうだ」
クリスの即答に少しムッとしつつも。
私は少し悲しかった。
最後に葉月ちゃんが私に向けた表情は、恐怖の表情だった。
まぁ、あんな事があった後に片手に包丁刺していた女が話しかけてきたら怖いか。
「……結局。私はあっち側なんでしょうね」
私は、夕焼けと共に学校で忙しく動く財団職員を少し遠くから見つめていた。
********************
「……なっ!なんですかこれ?!」
財団に帰ってきたところ。
そこにあったのはいつもの静かな財団ではなく。
「文化祭だよ?」
ところどころに出店が現れた活気ついた財団だった。
「偶には息抜き……ってさ。私が提案したんだけどね」
「シャネルさん……」
もう、先までのセンチメンタルなんて忘れてしまった。
「……私達は貴方の仲間でありたいからね」
……仲間。
もしかして、任務の事を聞いたのだろうか。
それはわからないけど。
私には仲間がいる。
それだけは確かだ。
「じゃあ行こっか。ブロアが焼きそばやってるってさ」
「何それめちゃくちゃ似合う」
海の家にいそう。
「……クリスは参加しないの?」
シャネルさんは少しかしこまった口調でクリスに問いかける。
クリスに対しては人見知りが発動するのか。
「……結構だ」
そういうと、クリスは訓練場の方へと行ってしまった。
「相変わらずノリが悪い……」
「私が後で何か持ってくよ。行こうか」
シャネルさんが私の手を握る。
「……どうしたの?」
「いえ、行きましょうか」
色々な事があるけど。
私には仲間がいる。
とりあえずはそれでいいだろう。
********************
「聞いてるの?葉月」
「えっ?!ごめん聞いてる聞いてる」
頬を膨らませて不機嫌そうな顔をする風香。
「じゃあ言ってみてよ」
「えっと……ドッチボールの」
「違う!文化祭の話!」
最近、ボーッとする事が多くなった気がする。
なんでだろう。
「あ、葉月また怪我して……」
「触るなっ!!」
私は風香の手を叩き落とす。
「えっ……ごめん」
「いや、私こそ……どうしたんだろ。疲れてんのかな」
……なんでだろう。
友達の手を叩き落とすなんて。
教室に二人の影が写っている。
それは何処か曖昧で、不安定な影だった。
「SCP-533-JPの学級裁板」はseafield13作「SCP-533-JP」に基づきます。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-533-jp @2014




