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Case21 未完成の山間公園②

二名のDクラス職員の被害及び私が遭遇した物の危険性により、SCP-480-JPの捜索は一時中断となった。


私は、車内の簡易会議室にて夏華さんと顔を合わせていた。


「じゃあ、あまり進展はないですか」

「そう。ごめんね」


夏華さんが謝ることではない。

けど私がそれを口に出すのは何か違うと思った。


Dクラス……死刑囚とはいえ、二名の命を奪い得られたものが何もない。

その事実が私の心を突き刺す。


「夏華博士!」


そこに現れたのは優希さん。

手には何か書類のようなものを持っている。


「SCP-480-JP-1の正体がわかりました」

「どういうこと?」


優希さんは手に持った書類を机の上に広げる。

そこには何枚かの可愛らしい少女の写真。

そして、何かの書記のようなものだ。


「この子……」

「はい。SCP-480-JP-1。……山寺建設の社長。山寺 雄一の娘、山寺 咲です」


SCP-480-JP-1。

SCP-480-JP内に出現する女の子だ。

今回、犠牲にあったDクラスのうち片方はSCP-480-JP-1にやられたらしい。


「社長の娘?」

「ここの工事の際、途中で行方不明になってしまったそうです」

「……それ見せて」


夏華さんが手に取ったものは、古ぼけた書記のようなものだ。

名前の欄は掠れていてよく読めない。


「工事現場で働いていた人のもの?」

「はい。Dクラスの一人がSCP-480-JP内で発見しました。そこに社長の娘さんが行方不明になったと……」


パラパラとページをめくる夏華さん。

しかし、ふとページをめくる手を止める。


「……?、どうしたんですか?」


夏華さんの書記を持つ手が震える。

その目は書記のある言葉を睨みつけている。


「如月……工務店……」


夏華さんの手の震え。

それが怒りだということは誰の目にも明らかだった。


「如月工務店……?なんですかそれ?」

「夏華博士。僕も存じ上げないです」


夏華さんは手帳を机に置き、ゆっくりと答え始める。


「如月工務店。要注意団体の一つだよ」

「要注意団体……?」


初めて聞く言葉だ。


「要注意団体っていうのは、財団の他にSCPに関わる組織。そのほとんどは財団の敵対しているけど、如月工務店はその中でも厄介な奴らだよ」


要注意団体。

たしかに、これだけSCPがいるのであれば財団以外にもそのような組織がいたとしてもおかしくはないだろう。


「如月工務店は、鬼の末裔。未知の方法で異常施設を作り上げる奴らだよ」

「鬼?!」


まさかこんなところでそんなファンタジーな言葉を聞くと思っていなかった。


「私たちも実際に接触した事はないから詳しい事はわからない。けど、そう言われてる。実際私たち人間に理解できない製法で施設を作り上げてる。今回のSCP-480-JPだってそう」

「如月工務店……」


要注意団体。

異常施設を作り上げる鬼の末裔……!


「それに、この書記によると、この公園の工事。当初は地元住民の反対があったらしい。しかし、途中で如月工務店が工事に加わってからその人達は皆いなくなった……」


嫌な予感がする。

夏華さんの話を聞く限り、とても円満に話を解決するような人たちには思えない。


そして、夏華さんは手記の最後に挟まっていた紙を取り出す。


「それって……?」

「如月工務店から工事を請け負っていた会社に向けたもの」


私は恐る恐るその紙に目を通す。


「…………なんですかこれ」


内容は丁寧な挨拶から始まり、契約に関する感謝を述べる内容。


そして。


『ご契約の際、周辺住民とのすれ違いが建設の障害となっているとお聞きしましたので、当社で引き取らせて頂きました。我々としても近年資源の不足に悩んでおりましたので、このような有意義な機会を提供して頂きましたことに、心より感謝申し上げます』



「……素材不足」



未知な方法で異常施設の建設を行う組織。

もしその未知な方法が人を使うものだとしたら……?

あの遊具やモニュメント達は……?


「まだ、続きがあるよ」


優希さんの言葉にハッと我を取り戻し、再び書面に目を通す。


そこには続いて書いてあったのは……



「…………外道が」


思わず声を失った私達。

その静寂を打ち破ったのは夏華さんの悪態であった。



……彼らはすべてを利用したのだ。少女の純粋な心。

「早く遊びたい。いつまでも遊びたい」

その言葉を逆手にとって。

彼女自身を閉じ込め、この公園を完成させた。


彼女をこの建築物の柱として組み込み、この施設を完成させた。





「……助けられませんか?」


その言葉は信じられないほど自然と出てきた。


「……彼女はまだ人間の形を保っている。SCP-480-JP内から連れ出せれば或いは……でもこの状況が悪化する可能性のほうが高い」

「私は助けたいです。少しでも可能性があるのなら」


その言葉に夏華は止めることができなかった。



********************


翌日。

夏華さんと優希さんは報告のために一度本部へと戻り、代わりに本部からは多数のDクラス。及びエージェントが派遣された。


今度のは調査ではない。

救出作戦だ。


十数人のエージェントの中には見覚えのある顔もあった。


「……クリス」

「……なんだ」


クリスはいかにも嫌そうな目でこちらを見つめる。


「いや、別に。久しぶりだなって」

「どうでもいいことで話しかけるな」


こいつ本当に相変わらず……!!!




作戦はこうだ。


まず、Dクラスと私が特別輸送車でSCP-480-JP内に侵入し、SCP-480-JP-1を小型収容セルに乗せ、そのまま脱出。

ここまで増員されたエージェントは何かあった時用だ。


ひどく簡潔で簡単な作戦だが、これ以上の作戦もないだろう。


一番の困難はSCP-480-JP-1をセルに収容することなのだが。


それは驚くほどすんなりと行った。


意思疎通が取れていないはずのSCP-480-JP-1は私の言葉に容易に従い、収容セルの中へと自分から入っていったのだ。


これも私の異常性が働いているのだろうか。


「きゃはははは。楽しいな!楽しい!」


彼女は抑揚のない声で笑い声を上げる。


その子の声を聞くたびに、

この子は絶対に私が助ける。

そういう思いが強くなっていった。


私は移動中も収容セルの内部をモニターで観察する。


彼女は相変わらず一人でに何かを話している。

SCP-480-JPの出口が近づいてくる。


「楽しいな!ずっと遊んでたい!」


彼女は機械的な声でニコニコと笑う。


「ずっと!毎日!遊んでいたいの!」


出口はもうすぐそこまで迫っている。


「だから……ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ」


瞬間。とてつもない揺れを感じる。


地震……?

いや、揺れているのはこの空間だ。


私は気づいたら空中に飛び出していた。


遥か上空へ。


そして、自分の違和感に気がつく。


………あれ?……私の体はどこ……?


手がない。

足がない。

体がない。


首だけとなった私の頭は突然伸縮を始める。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!


気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持い悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!!


そして、私の頭は地面に叩きつけられる。


「………ぁ」


私の目の前に広がる光景は。


バグっている世界だった。





トラックは地面に陥没し、先程まで一緒にトラックに乗っていたDクラス職員の二人は体が融合してしまっている。

SCP-480-JPの外にいたはずのエージェントも体がバラバラになる者、首が異常に伸び180度に折れている者、顔がぐちゃぐちゃにつぶされている者。


そして、周りの風景もが潰され、壊されている。


視線の端に写る少女の影。


「……ぁ……ぇ」


止めようとする。

しかし声も出ない。



私は……死んだ。



********************



……何時間経っただろうか。


私の体は既に殆ど傷のない状態まで修復されていた。


しかし、私は、私以外は何も変わってはいない。


時々聞こえる呻き声が時間の経過を感じさせていた。


私は立ち上がる。


……誰か。助けを呼ばないと。


私は一人のエージェントの遺体から通信機が鳴っているのに気づき、それを手に取る。


「こちら機動部隊れ-5。応答を」

「……助けて……皆、死んでる」


情けなかった。

涙しか流せない自分がひどく腹立たしかった。


「現在、機動部隊を派遣している。到着まで2時間ほどかかる模様」


私はその場に倒れ込む。


私が余計なことを言わなければ良かったのだろうか。

そしたらこんな事には。


………どうして私は死ねないんだろう。


「うぅ……」


誰かの唸り声が聞こえる。


私は立ち上がり、木の影に隠れる男を見つける。


「クリス……!」


クリスは腹部に大きな木の破片が刺さっていた。

しかし、まだ息はある。

直ぐに治療をすれば治るかもしれない。


機動部隊を待つ?

否、そんな時間はない。


確かふもとに小さな町があったはず。

そこに行けば!!


私は無事だった車を見つけると、後ろにクリスを乗せ、ゆっくりと山を降る。


クリスの命だけは。

なんとしても助けるんだ!

「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」


「こんにちは。夏華です」


「夏華さん!よろしくお願いします!」


「はい。今回紹介するのは、SCP-3092『ゴリラ戦』。オブジェクトクラスはEuclid」


「ゴリラ戦?戦うんですか?人間とゴリラが?」


「多分思ってるのとは違うかな。ゴリラ戦はUFOキャッチャーのSCPなんだけど、注目するのはそっから出てくるぬいぐるみ。彼らは自我を持って動き、武器や罠などの知識が豊富にあるの」


「げっ、なにそれ超危険じゃないですか!」


「まあ、比較的友好的なSCPだからね。悪戯好きで困っちゃう時はよくあるけど」


「なんだ、それならよかったです。……あ、もしかしてこのオブジェクト名ってゲリラ戦とゴリラを掛けてるんですか?」


「多分そうね。真相は原作者様にしかわからないかど」


「話は変わりますけど、他にもぬいぐるみのSCPっているんですか?」


「他にもいくつかいるね。そのうち会うことになるかも」


「SCP-3092みたいに友好的なやつだといいなぁ」


「Keter……」


「えっ…」



SCP-3092

『ゴリラ戦』




「SCP-480-JPの未完成の山間公園」は

rkondo_001作「SCP-480-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-480-jp @2014

また、作品進行の都合上仮の名前をつけさせていただいております。


「SCP-3092のゴリラ戦」はHunkyChunky作「SCP-3092」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-3092 @2017

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