29. 照明魔法具の機能について考えよう
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発光魔法の呪符は、全員に試してもらったが、全員が無事に発動できた。
全員といっても、両親とカリーヌ先生、あとはアニーだけだが。
発光魔法は秘密の事業だ。誰かに漏らすわけにはいかない。
呪文だけならよかったが、こうして魔法陣ができ、呪符が完成したので、これが外に漏れたら剽窃されてしまうだろう。今のところ呪符を描けるのがわたしだけなので、わたしの命も危ないかもしれない。
「しかし考えたわね。魔法陣に切るような線を入れるなんて思いつきもしなかったわ」
「魔法陣は、その性質上第一円から順に外側に効果を発揮していくと考えられます。円の中に複数の魔法語がある場合は上から順に、左から順に、となるのでしょう。しかし第二円に書く変換対象は第一円の《変換》とつながっていなければならないので、《魔力》と《光エネルギー》を線、つまりパスをつなぐ間に《変換》が入るようにしてみたのです」
「なるほどね。魔法陣の新しい描き方だわ」
「これは魔力をほかのエネルギーに変換する際にも応用できます。たとえば電気エネルギーとか」
「でんき? また聞いたことのない単語ね」
「雷は電気ですよ。あれは雲などにたまった電気の粒、電荷といいますが、それがたくさん集まると地面に落ちるのです」
「それも物理学ってやつなのね。あたしもまだまだ勉強しなくっちゃ」
「電気はまだ当分先ですが、この前話した原子や分子を引き付ける引力は、基本的には電気の力によるものなんですよ」
魔法陣の話から物理学の話に移りながら、わたしは先生の机を片付けていた。
なんとこの先生、基本的に片付けるということをしないものだから、机の上に書類の類が溜まっていく溜まっていく。
よく一日でこれだけ溜められるものだ。わたしの毎日の研究はまず先生の机を片付けることから始まる。
先生の書類を見ると、属性外魔法についての研究をしているようだ。
この世界の魔法は基本的に4つの属性に関連した魔法しか存在しない。
しかし、歴史上にはどう考えても4属性以外の属性外魔法としか思えないような魔法を行使した魔法師もいるとか。
もはや歴史上の人物なので創作された人物かもしれないが、先生はそういった歴史資料を元に属性外魔法の存在について研究しているのだ。
そして、実はわたしはその格好の研究材料なのである。
発光魔法は属性が不明で、先生はまさに属性外魔法なのではと疑っている。
わたしが発光魔法を魔法学界に発表する前に、先生の研究で発光魔法を披露することになるかもしれない。
先生の机を片付け終わったら、ようやく自分の研究に移ることができる。
発光魔法の魔法陣はできたので、照明魔法具の発明に必要なのはあと2つだ。
1つは魔力を溜める機構。つまり電池。
もう1つは任意で照明をオンオフする機構。スイッチだ。
まずは、魔力を溜める機構だ。
といっても、こちらはほとんどわたしがやることはないと思う。
この世界には、魔力を溜められる石があるらしい。
わたしの属性を判定した属性判定機にはまっていた宝石がまさにそれだ。
あれは無色の鉱石だったものに各単一属性の人の血液を混ぜて精錬すると色がつくらしい。
ならば、血液を混ぜないで精錬すれば無色の宝石が出来上がるはずだ。
しかし魔力を溜められるとはどういう理屈なんだろう。
なんらかの相転移でエネルギーを溜めるのかな。
あるいは強誘電体や強磁性体のような、ヒステリシスループを持つようなものなのかも。でもあれは外部電場や外部磁場がないと分極や磁化が変化しないしなぁ。
その石は、鉱石の時は不透明で、精錬すると透明になる。ということは多結晶を単結晶にしているということだと思う。
属性判定機にはまっていた宝石は、血を垂らしたら光ったけどすぐに消えてしまった。
多分精錬して透明になったものは溜めることはできても一気に放出してしまうのだろう。
ならば、必要なのは精錬前の鉱石だ。
鉱石に魔力を溜められれば、それをカットして電池にできる。
精錬前の鉱石にならそんなに高くはないと思う。またお父さまにおねだりしなくちゃ。
次に、照明のオンオフ機能。
これは結構難題だと思う。魔法陣の一部を取ればスイッチができるような気がするけど、オンにするためには魔法陣がつながらないといけない。機械的に取り外すことを考えるとどうしてもつなぎ目で魔法陣が途切れてしまう。
魔力を流す物質があればまさに電気回路のようなスイッチが作れると思うんだけど。
これは先生に聞いた方が早いかな。
「先生、魔力を流すような物質はあるんですか?」
「銀がそうね。魔法具は銀板に魔法陣を描いて作るのよ。銀だと高いから、庶民は銅板に魔法陣を描いたものを使ってるけどね。何かに使うのかしら」
「照明をオンオフできる機構が作れないかと模索しているのです。しかし銀ですか」
これはまた、ありがちな……。まぁ電気抵抗も単体金属では一番小さいわけだし、あながちおかしなことでもないのかな。魔力がどう電子と相互作用するのかわからないけど。
いや、魔力はエネルギーだから、魔力が流れるって表現はおかしいな。
電子や光子に類するような粒子があるのかもしれない。
名付けるなら魔子? いやぁ、なんか語呂が悪いような。
そのなんらかの粒子が存在するのなら、金属中を流れる粒子流ができるし、電気回路のようなものも作れそうだ。
粒子が実際に存在するのかどうかとか、そのあたりはおいおい考えていくとしよう。
魔力はエネルギーなので電気のように溜めることはできますが、電流のように何かを流れるというわけではありません。そこには何か流れる粒子があって初めて電流のようなものができるわけです。後々に正式に名付けをする予定です。
相転移: 物質の状態が変わること。固体―液体転移や、磁気相転移など。
強誘電体: 外部電場をかけなくても物質内で電気分極がある物質。電気分極Pと電場Eの関係は、ヒステリシスループを描く。
強磁性体: 外部磁場をかけなくても物質内で磁化がある物質。磁化Mと磁場Hの関係は、ヒステリシスループを描く。
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