仕返し屋 第1章 おまけ「カラオケでのワンシーン」
◇――とある日 カラオケにて――◇
怜斗、未来、誠治、加奈、雄、奏、詩恵。7人はカラオケの個室で様々な歌を歌っていた。
怜斗「ウゥオォォオォオォ!!! アーナーターーニーーツタエターークテーーー!」
誠治「やめろ怜斗、建物が壊れる! お前もう歌うな!」
全員が耳を塞ぐ中誠治が叫ぶ。奏は目を回して寝込み、雄がそれを必死に介抱している。
死神の声。怜斗の歌を聞いたことがある者は皆、彼にその称号を与えていた。
まず声がでかい。うるさい、建物が震えるくらいうるさい。3時間もぶっ通しで聞けば間違いなくうずまき菅まで潰される。
そして音程が絶望的に合っていない。分析カラオケをしたら恐ろしいほど下の部分をギャアギャア歌う。低い歌を歌わせたならものすごく高い部分をキャアキャア歌う。いずれにしても鼓膜に大ダメージだ。
そんな怜斗の声は、間違いなく人を殺せると言われ、結果死神の声という異名が付いた。合唱コンクールで怜斗は指揮者ばかりしていたのだが、その理由はこれだ。タチの悪いことに怜斗は自身の破壊性に気付いていない。
怜斗が歌い終わったあと、二番手として詩恵が推薦された。恥ずかしそうに顔を赤らめる彼女だが、流れてきたアニメの曲を歌い出すと世界が変わった。
致命的なダメージを受けた鼓膜が、ゆっくり癒されていく。詩恵の声には、人の回復力を高める効果があったのだ。HPが1000は回復した。
その後は、誠治が好きなロックバンドを歌い、加奈がアイドルの曲を歌い、未来がデスボイスを披露し、雄は童謡を歌い奏はスキャットをリンディゴリンディゴ歌い、数時間の後カラオケは幕を閉じた。
怜斗は、全員分をおごりその金額の多さに愕然としていた。
◇ ◇ ◇ ◇
外に出て、夜風が吹く。各々が楽しく話していて、明るい雰囲気が辺りを包んでいた。怜斗はそんな中、ふと1人でモジモジしている詩恵に気付き、彼女の元に近寄った。
怜斗「どうしたウッちゃん? 楽しくなかったか?」
詩恵「う、ううん。楽しかったよ。でも、なんというか……わたしなんかが、ここにいていいのかなぁ、って」
怜斗「……つまり、どういうことだ?」
詩恵「いや、なんていうのかな……だって、わたし、後藤くんに協力しちゃってたし、だから未来さんと同じようにしていて、いいのかなって。わたしも、あの人たちみたいに罰を受けるべきじゃないかって……」
怜斗「……んふー。お前ってさ、いろいろ考えるタチだよな。
いいか、ウッちゃん。お前は知らない間に利用されてただけなんだ。だから、気にする必要なんてねーんだよ」
詩恵「でも、ね。なんて、言うのかな、わたし、本当に申し訳なくって。こんなところにいる資格、ないって……」
怜斗は、詩恵がしゅんと顔を下げたのを見て。
顔が、見えない。怜斗はなんだかもどかしくなって、なんとも言えなかった。
でも、今。言わなきゃならない、言葉がある。怜斗はかがみこんで、無理やり詩恵の顔を下から覗き込んだ。
怜斗「今回は、ありがとうな、ウッちゃん」
詩恵「え?」
怜斗「ウッちゃんが、俺に言ってくれた言葉だよ。『何もしなくていい』、おかげで俺は未来を支えられたんだ。見ろよ、あいつ」
怜斗に指差され、詩恵は未来を見つめた。加奈と一緒に、楽しそうに、楽しそうに笑っている。
怜斗「あの時。あいつはあんな顔ができないくらい沈んでいてよ、下手したらあのまま死ぬんじゃねーかって、そんな感じだった。ボロボロで、倒れそうになったのを。俺はなんとか、支えられた。そんで、その俺を支えてくれたのは。ウッちゃんが言ってくれた言葉なんだぜ?」
詩恵「…………」
怜斗「だから、笑えよ。顔を上げろよ。お前がいなかったら、あいつのあの顔は見られなかった。だからお前の『資格』とやらは俺が保証する。お前はここで、笑っていていいんだよ」
怜斗は笑った。詩恵はそれを見て、「でも……」とやっぱり、しゅんとした。
怜斗「んー。しかたねーなー」
と、怜斗は詩恵のはいているスカートを全力でめくった。
詩恵「……へ?」
怜斗「ほうほう、ピンク色。かわいいのはいてるじゃん、勝負パンツって……」
直後、詩恵が「キャー!」と叫びながら全力で蹴りを怜斗に浴びせた。見事に怜斗は吹き飛んで、そのまま地面に倒れこむ。
詩恵「な、なにするの!」
怜斗「いや、なんか突飛なことしたら笑ってくれるかなって……」
詩恵「突飛じゃなくて変だよ! おかしいよ、人の下着見るなんて! しかもこんな公共の場で!」
直後、未来や加奈たち女子組が「どうかした!?」と驚きながら詩恵に近寄ってくる。未来がちらりと倒れた怜斗を見つめて、立ち止まってどちらへ行こうかオロオロとしだす。
奏「大丈夫、伊泉さん?」
詩恵「れ、怜斗くんが! 怜斗くんがわたしのパンツを……!」
加奈「そんな、怜斗のスカートめくり伝説は小学生で幕を閉じたはず……! まずいわ、あいつまた復活している!」
未来「ちょっと怜斗くん、なに、詩恵さんのパンツ見たの? え、それ本当なの?」
怜斗は上体を起こして。
怜斗「すっげぇかわいかった!」
親指をグッと立てた。直後、女子組の目がキラリと光った。
怜斗「ちょ、お前ら待てって! 俺は別に……」
未来「怜斗くん、これは流石に見過ごせないよ。1人の女の子として」
加奈「全く同感。死をもって償え」
奏「大丈夫、アイスの棒で墓は作ってあげるから」
3人がゆらりとやってくる。怜斗は「や、やめ、ヤメロォ!」と叫びながら、逃げることもせず。そのまま3人に、ボコボコと殴られてしまった。
詩恵「……な、ナニコレ?」
誠治「アイツ、まーたバカやったのか」
詩恵は隣に立っていた誠治にぎょっとした。
詩恵「え、えぇ?」
誠治「いやよ。アイツの小学生時代のスカートめくり伝説ってのはよ、浮かない女子に仕掛けていたイタズラみたいな奴なんだよ。自分の感情をうまく出せない奴にそうしたら、大概めっちゃ怒ってよ。アイツはその顔見るたび、笑ってんだよ。『そんな感じで我慢すんな』って言ってよ」
詩恵「……そう、そんな意味が……って、納得できないよ!」
誠治「だろうな。あいつも半分くらいスケべ心でやってる」
詩恵「台無し! 全部台無しだよ!」
誠治「まあでも、安心しろよ伊泉さん。アイツは絶対に、竜輝みたいな考えは持たないから。スケべ心も、スケべイタズラも、相手を人として尊重した上で……」
詩恵「納得いかないよ! 変態をうまく正当化しているだけだよ!」
詩恵はひとしきりツッコムと。ボロ雑巾のようになった怜斗を置いて、女子組3人が詩恵に近づいてきた。
加奈「大丈夫、詩恵さん? あいつに触られたりしてない?」
奏「ああいう変態に出会ったらすかさず右ストレートよ、伊泉さん。さあ、やってきなさい」
未来「これからはなんでも私に言ってね。怜斗くんを止めるのは、私の仕事だから」
詩恵は3人に詰め寄られて、ちょっと困惑しながら「えっと、あの……」と呟いていた。困って、困って、目を回して。詩恵はふと、怜斗が立ち上がるのを目の端に捉えた。
彼は、ボコボコになった顔を笑わせながら。気持ち悪く親指を、グッと立てた。
詩恵は、なぜか。
詩恵「――うん! 大丈夫! これからは、しっかりするよ!」
笑って、全員に声を出した。




