表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第二章 【冒険編】(仮)
33/39

20 説明しましたよ




 ……マジですか


 ギルドカードを二度見するも書いてある名前は変わらない。嘘だと思ったんだが俺が違っていたらしい。


 謝ろうと部屋に戻ると、窓から逃げようとするアリッサの姿があった。


 やましい事が無いなら何故逃げる!


 彼女を窓から引き摺り降ろすと疑った事を謝り、そして逃げる理由も含めて一連の流れを詳しく聞く事にした。




 その日は依頼が少なく出来そうなものも無かったそうだ。そこにたまたま同じ境遇の男達がいて『この依頼、臨時でパーティー組めば行けるんじゃね?』ってなったそうだ。


 依頼も終了した所で男達は祝杯を挙げる場所を確保に、彼女はギルドへ報告に行ったのだがどうやら討伐数のカウントを間違えていたらしく、中途棄権として報酬が減らされた。


 それを先に祝杯を挙げていた男達に話すと『嘘を吐いて報酬を翳めたな』と疑われ、報酬額を見せたのだが信じてもらえずに『足りない分は体で払え』と襲われたんだとか。


 まぁ、話の流れも解ったし、何よりもその【話し方】や【動作】や【話の間】が挙動不審過ぎて問題だ、はっきり言って疑わしさが半端ねぇ。


 それが誤解なのは話をしてて解ったが、贔屓目に見ても嘘を言っているとしか思えない程の怪しさだ。これを見て信じられるのは頭ん中が花畑な奴くらいだろう。


 きっと襲い掛かられたのもコイツが勘違いされる素振りをしたからに違いない。


 ……歩く地雷だな。


 まぁ、その辺の誤解はギルド職員に説明してもらえば良いだろう。


 窓から逃げようとした理由も解らなくは無い、が……


 領主は純血主義らしい→獣人は平民以下だろう→信じて貰えず逮捕される→奴隷堕ち。とまぁ、こんな感じだ。間違っていない部分も有るだけに始末が悪い。


 領主の肩を持つのもアレだが誤解は解いておいた方がいいだろうな……。


 領主についての勘違いをアリッサに説明する。と、いっても兄様が大会後に弱みを握ろうと独自に調べた情報だけどな。


 結果、報告書を見た兄様のヤル気が萎えた訳だが。



 伯爵の純血主義は貴族に対するもので別に平民を卑下したりはしていない。普通に領主をしている。また、貴族に平民の血が混ざる事を嫌うのにも訳はあった。


 その昔、領主が産まれてから二年後、母親は亡くなった。そして行儀見習いとして親戚筋から七歳年上の子爵家三女が迎えられた。


 彼女は伯爵の世話役として尽くし、時に母や姉の代わりとなった。けれど、年頃になった彼女は隣国の伯爵家へ嫁ぐ事になる。


 嫁ぎ先には第一婦人がいたが、第一婦人は子供に恵まれない事もあって已む無く第二婦人として彼女を迎えていた。


 そして数年後、ほぼ同時期に二人は身篭る。第一婦人はお腹の子供の将来を心配した。それは母親として当然な事だっただろう。


 第二婦人もまたお腹の子供を心配した。だから第一婦人と伯爵の前で『この子が産まれても跡継ぎにはしない』と言い、伯爵にも一筆書いてもらった。


 それで第一婦人の不安も治まり一応の決着は付いた。だが、それでを上回る不安が第一婦人を襲う。


 それは第二婦人となった彼女が先に男子を生んだのだ。長男の誕生である。


 その事で第一婦人の不安は大きく膨らんだ『もし、この子が女子なら』と……


 約束があってもこの不安は拭えなかった第一婦人。また、その不安を隠そうともしなかった結果、第二婦人はある決心をする。


 伯爵に願い出て郊外の別荘を譲り受け、自分と子供は社交界に出ないと言って家を出たのだ。


 しかし、彼女が別荘に着く事は無かった。伯爵は行方を捜したが途中通るであろう隣街にすら彼女は着ていなかった。


 領内を探すも足取りは取れず、第一婦人も『知らない』と首を振るばかりだ。


 当然、実家の子爵家からも説明を求められ、また、彼等の調査にも協力をしたが結局見つからないまま数年が経ち、いつしか沈静化していった。


 納得の行かなかったドイトン伯爵は独自に調査するも結果は同じだった。ただ、報告の中に第一婦人の過去に偽りが有った事が解る。


 それが祖母が平民であった事だ。彼女は生粋の貴族とされていたが実は嘘だったのだ。


 そしてやり場の無い怒りの矛先がソコに向けられた。平民の血、故に保身の為に嘘を吐き、彼女を追い込んだのだと。


 いつしか彼の中で【貴族に平民の血は入れてはならない】という強い考えが出来上がっていった。


 そして、それを聞き育ったアレクもまた同じ思想の元に混血(・・)の貴族を否定する様になる。


 過去に聞いた令嬢への虐めも、俺や兄様を見下した態度もその所為だろう。


 あの大会で妨害された貴族達も平民の血が混ざっていたらしく、純血の貴族には何もしていなかったそうだ。



 が、だからと言って許せるはずも無く、全部を話す必要も無いので掻い摘んで誤解だけ解いておいた。


 「は~、流石に貴族の方は事情通なんですね~。びっくりですよ~」


 何でだろう、彼女が言うと嘘臭く見えて仕方が無い。子供が鼻を穿りながら言ったセリフの方が説得力がある、そんな感じだ。


 どうも彼女は俺を貴族と勘違いしているが放って置こう。どうせ大会出場者なら貴族関係だと思っているんだろう。こっちの姿は無位無官なのだが、実際は貴族だしな。


 誤解も解けた所で明日には男達を連れて一緒にギルドへ説明してもらいに言ってやる。と、説得をして部屋から出て行ってもらおうとするが


 「折角なので泊めて下さいよ、オジサンなら一緒に寝ても良いですよ~」


 それ俺の負担にしかなってないし、その言い方も誤解を受けるだけだ。


 どうせ、俺なら安全だから同じ部屋で寝ても平気的な事なんだろう。


 最近、何だか翻訳能力が上がった気がするんだが……。



 そこで彼女にギルドカードを返していなかった事に気付いたのでポケットからカードを取り出して渡そうとしたが……。 はて?


 カードを再確認してもう一度彼女を見る。


 ショートボブの茶髪、身長は170cm位だろうか冒険者らしいシャープな身体とやや日焼けをした肌が健康的だ。


 胸はC……いや、かろうじてDかもしれないな。


 「Dですよ~」


 カードと彼女を交互に見ていた俺に彼女が口を開く。俺が胸を見ていた事に気付いた? もしくは口に出ていたとか……


 「こう見えてもランクDなんですよ~、結構疑われるんですけどね~」


 あぁ、そっちか。あせった~。まぁ、確かにランクFだとしても違和感無いが、俺が疑問に思ったのはそこじゃない。


 表記は【獣人】なのに人間らしくない(・・・・・)部分が見当たらないのだ。


 「……獣人、……なんだよな?」


 『そっちでしたか~』と何故かテヘペロする彼女は『尻尾はあるんですよ、でも短いのでお見せ出来ませんよ~』と、こっちに背中を向けて尻を振ってみせる。


 いや、だからそういう行動が誤解を生む元なんだって気付けよ。


 何だかんだとあったが結局彼女は俺の部屋に居座(とま)った。



 翌朝、男達を捜して冒険者ギルドに連れて行き、受付に昨日の依頼の説明をしてもらう。


 さて、誤解も解けた所で彼女の取り分を返してもらう筈が


 「全部使った、だぁ!?」


 昨日の飲み食いと宿代、それに装備品の修繕で使い果たしたそうだ。


 しかも蓄えも無く、所持金では足りないときた。これは呆れる他無い。コイツ等この後仕事が見つからなかったらどうするつもりだったんだよ。


 「なら奴隷堕ちですね、身売りした金で返せばいいんですよ」


 とは受付嬢の冷たいお言葉。昨日の依頼の説明を求めるに当たって一通りの事を説明したのだが、その中には彼女に襲い掛かった事も含まれていた。


 その所為だろう、侮蔑の眼差しと棘のある言葉が男達に刺さる。


 自業自得ではあるが、それはそれで奴隷堕ちとか可哀想な気もする……。そこで壁際のある物に気付いた。


 「お前等この依頼すれば返せるんじゃないか?」


 掲示板に貼ってあった討伐依頼は【ランク:ソロC/パーティーD以上】の報酬が結構良さそうな依頼だ。


 臨時とはいえ彼女と組んでたんならランクは同じくらいだと思うし、これで解決だろうと思ったが、甘かった。


 「ダメダメー、この人達おんぶ(・・・)ですもん、ランクはCでも無理ですよ」


 両腕を交差させて『ブッブー』と言い放つ受付嬢。おんぶとは強い人の荷物持ちや食事番・夜番としてパーティーに入りランクを上げる云わば”寄生”の隠語だ。


 「今回の事でテストして適性ランクまで下げる予定ですが、奴隷堕ちならギルドから除名になるんで今更ランクは関係無いですけどね」


 ……既に受付嬢の中では奴隷堕ちが決定らしい。


 他に貼ってある依頼はどれも初心者向けの安い依頼ばかりだ。


 後は装備も含めて身包み剥いで売っぱらえば……って、それじゃ結局行き着く先は犯罪者か奴隷堕ちか。


 簡単な依頼でも数をこなせば金は貯まるだろうが、分割払いや借金なんかはそこに信頼があって初めて成立するもの。この男達にはその信用が無いのは明白なのでそれも無理となるとやはり……


 俺は哀れんだ目で男の肩に手を置く。その意味が解ったのだろう崩れる様に膝と両手を床に付けた。


 「冗談ですよ、今回はギルドで立て替えますが暫くは無報酬でこちらが斡旋する仕事をしてもらいます。依頼の拒否権はありません。

 もし逃げた場合、カードが赤く点滅して重犯罪者と同じ扱いとなります。また、その情報は全支部へ通達され指名手配となりますので逃げるなら十分な覚悟をしてください」


 『はぁ~』と、大きく溜め息を吐いた受付嬢が心底嫌そうに説明を終える。きっと彼女としては奴隷堕ちが望ましいのだろう。


 彼女(アリッサ)は上機嫌でギルドから分け前分の金額を受け取ると、『お礼に何か奢る』と俺の手を引いて出口に向かった。



 「おじさんならさ~、結構稼げると思うんだよね~」


 食事中に彼女が言ったのはこの付近にあるというダンジョンの話だ。




 ――お嬢(アリッサ)さん、それはフラグですか? 振りですか?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ