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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第二章 【冒険編】(仮)
32/39

19 旅立ちましたよ




 「ちゅい~ッス」


 スマホを弄りながら面倒クサそうに適当な挨拶をして自分の席に座ったのは俺の部下の一人、秋山だ。


 コイツはいい加減な仕事っぷりと上司を舐めきった態度の所為で早々にこの窓際部署に送られて来た男だが、この部署に来た事が余程不満だったのだろう更に態度が悪化していた。


 秋山は今も仕事中にソシャゲをしている。注意をしたいのは山々だが今の御時勢迂闊に怒ればパワハラだ何だと言われる恐れもあるので放置せざるを得ないのが悲しい現状だ。


 だが今時の公務員は昔ほど安定してはいない、こんな事を続けていればいずれは首を切られるだろうからな、俺はそれを待つ事にしている。ただ、上司である俺の査定にもひびくので減給は免れないのが痛い所でもある。


 そんな秋山は余程別の部署に移動したいのだろう、人事部の女性に片っ端から声を掛けているが、そんな思惑を知っている女性陣によって連敗中だ。先日も振られている。


 まぁ、人事部の女性と付き合ったからからといって好きな部署へ移動なんて出来やしないんだが、浅はかと言うか何と言うか……。


 さて、そんな事は置いといて仕事に執り掛かるが、肝心な書類が足りない。


 「秋山、昨日渡した書類は纏めたんだろうな?」


 「大丈夫っすよ~、昨日ちゃんとシュレッダーに入れときましたから」



 ……コイツ馬鹿だろ、誰か馬鹿だと言ってやってくれ。シュレッダーは入れる(・・・)じゃなくてかける(・・・)だと。


 じゃなくて! 何で”纏めて”がシュレッダーになるんだよ。




 「秋山ぁあああぁぁーーっ!!!」









 ―― はっ! 夢か!?


 久々に恐ろしい夢を見た所為か、寝汗で体がグッショリしている。このローブの内側が快適空間とはいえ代謝で掻く汗までは何ともならないか……


 俺は上半身を起し、そのまま胡坐をかいて座るとローブから桶を取り出してその中に水を注ぐ。後(タオル)も取り出して水に浸すと絞って体を拭いた。


 なんか手が、というか体全体がゴツイ様な……


 じっくりと手を見てみる。やっぱりゴツイ、何か大人の手だな。体もそうだ胸板とかまるで前世の俺の身体つきに似てる気もする。


 ……まさかな。そこで桶の水に顔を映してみると


 「まんま前世の俺じゃん! ってか、服がビリビリに破れてて裸同然だし!」


 まずそこに気付けよ俺。


 ローブから替わりの服を取り出すが、そこで違和感に気付く。……いや、ある筈の違和感が無い事に気付いたというべきか。


 能力で変身した事は間違いないのだが、能力を使った時に感じる若干の”疲れ”や変化に対する”異物感”そういった違和感をまったく感じないのだ。


 前世の体(これ)もまた俺の体だからなのだろうか? 丁度いいから調べてみるか。


 俺は立ち上がるとローブの前を閉めて草原を歩き出した。








 ――さて、


 あの蜂蜜騒動の後、俺は旅立った。別にお茶会から逃げた訳では無いが、そんな形になったので言い訳はしない。


 目的らしいものも無い旅とはいえ、向かう方角だけは決めないといけない。東は故郷、南は王都へ逆戻り、北は他国、って事で西に向かう事にした訳だ。


 レーグラート侯爵領を抜けてドイトン伯爵領に入る。前回の失敗(迷子)の事もあったので地図を買っておいたのでそれを見る。どうやら後半日歩けば最初の街に着きそうだ。


 ドイトン領に用事は無いので何事も無く通り過ぎる予定だ。当然嫌がらせのつもりは微塵も無い。ただ、”それ”を気にして遠回りするのが嫌なだけだ。


 このまま領地を突っ切ればいずれ下賜るだろう領地へと着く。どんな街(村かもしれない)か見ておきたいだけだ。


 そんな訳で道から少し反れた草原を一人歩いているのだが冒頭の通り今はローブの下は真っ裸だ。


 別に変態行為がしたかった訳じゃない。大人用の服が無いからだ。街に着いたら買うつもりでもいる。


 取り合えず今は人気も無いのでこの状態でも問題無いだろうと今の状態維持がどの程度負担になるか実験を続ける事にした。


 あれから半日歩いても能力の行使による疲れは感じ取れない。まるで変身してないのと同じだ。まぁ、半日も歩けば体力的に疲れはするけどな。


 そんなこんなで街に着いたので、まずはギルド寄って、服買って、宿屋探しだ。


 ギルドは簡単に見つかった。というか街に入った時に近くにいた兵士に聞いただけだけどね。


 さほど大きくも無い建物の中は人も少なく閑散としていた。受付嬢も暇そうにしている。


 俺は受付まで行くと、カードを渡して確認を取ってもらう。


 確認といってもランクが上がらないのは解っている、道中倒した魔物の換金目的なだけだ。


 それにしても、このギルドカードってどうなってるんだろうな? 魔物を倒せば自動的にカウントされてるし、聞いた話だと殺人とかの重犯罪を犯すと赤く点滅するんだとか。


 古代遺産(アーティファクト)らしくギルドでも全容は解っていないらしいが……


 しまった! 今の俺って五十過ぎのオッサンだった、これで九才とか無いぞ!


 やっべ、どうやって誤魔化すか……


 俺が焦っている中、黙々と作業する受付嬢はカウンターにカードを置いて作業の終了を継げる。


 ……あれ? もしかして気付かなかったとか?


 カードを受け取って確認してみると、名前の欄が替わっていた。



 【アキトキ・ホウジョウ 人間:男 56歳】



 何これ! ギルドカード高性能過ぎじゃねっ!?


 でもこれって犯罪に利用される可能性もあるんじゃ……。変身で無くても見た目を変える魔法とかありそうだしな。


 ギルドカードを凝視する俺に『何か問題でも?』と受付嬢が聞いてきたので、その場を取り繕う様にしてギルドから出て行く。


 まぁ、色々と問題はあるが次は服だな。俺は気を取り直して雑貨屋で大人用の服を数着買うと宿屋に入った。


 多少慌ててはいたものの、部屋を借りると変身を解いてみる。すると、カードの名前と年齢が戻った。


 試しに父様や兄弟に変身してみたが、名前はエルドニアのままだった。


 どうやら見た目だけで変化する訳では無いらしい。良く解らないがあっちの体も俺として認識されている様だが、見た目じゃないなら魂とかか?


 まぁ、考えても解らないし”そういうもの”とだけ認識しておくか。


 だが、考えようによっては便利だな。最近は大人しくなったとはいえ、いまだに人とすれ違うと声を掛けられたり妙な視線を感じたりしていたけど、この姿ならそんな事も無くなるだろう。


 検証も兼ねて暫くは前世の姿でいようかな……。



 取り合えず、服を着ようとローブの前を開く――


 「ごめんなさい、ちょっと匿っ……


 そこで突然入ってきた女性と目が合う。女性は薄汚れた冒険者風、俺は真っ裸にローブという出で立ちだ。


 ……きゃ!」


 咄嗟に女性の口を塞いで扉を閉める。……これじゃ変質者と言うより痴漢か強姦と勘違いされるんじゃ、と思うが咄嗟に動いてしまったのだから仕方が無い。


 まずは混乱して暴れる彼女を落ち着かせないとな。


 「いいか、ここは俺の借りた部屋で、着替えの最中に乱入してきた。ここまでは解るよな?」


 おれの問いに混乱しながらも頷く女性。


 「よし、次にお前は助けを求めて入ってきた。俺が呼んだ訳でも連れ込んだ訳でもないよな?」


 ここははっきりさせとかないと後が怖いからな。


 「最後に、俺はお前をどうこうするつもりもない。何から匿うのかは知らないが騒いで困るのはお前の筈だ。これから手を離すが騒いだり暴れたりするなよ」


 言い終えてから手を離す。


 女性は部屋の隅に逃げるようにして距離を取って睨む。まぁ、そうだろうが俺が悪い訳ではないのでこの際無視だ。


 「俺は当初の目的通り着替えるが、眺めているつもりか?」


 そう言って買ってきた服を着始める。


 と、そこへまたしても侵入者が遣って来た。今度は三人の男達だ。


 「……へ、変態!」


 ゴスッ!


 大人な俺の拳が男の顔面にめり込む。


 「着替え中に突然入ってきて言う事はそれか?」


 思い切り不機嫌さをアピールしつつ男達を睨むと、早々と着替えを済ませ剣を取って臨戦態勢に入る。


 それを見て慌てた一人が


 「突然入ってきた事もコイツが言った事も謝る。おれ達は別にあんたと遣り合うつもりは無い、女を追ってきただけだ」


 「そうだ、ここに入ったのを見たぞ! 大人しく出しやがれ。さもないと……」


 さっき変態呼ばわりしたヤツが話しに割って入る。というか、喧嘩売ってね?


 俺は剣を抜いて相手に向ける。ちなみに抜いたのは神聖銀(ミスリル)の方だ。


 「さもないと、何だ?」


 その剣を見て三人が驚く。予想はしていた、というかソレを見越してこっちを抜いた訳だが、思いの他効果が有ったみたいで三人は慌てて謝りながら逃げた。


 チョロイ。ザコ臭が半端無いな。振り返ってみるといつの間にかベッドの下に隠れていた女性が姿を現した。


 「オジサンの剣って”勝者の剣”だよね、オジサンもあの大会で優勝した事あるんだ!」


 へ~、この剣ってそんな呼び名だったんだな。ってか、他に言う事があると思うんだが。


 「ん、あぁ。昔な」


 ゴメン、本当は今年です。興奮気味に話しながら興味深そうに剣を眺める女性。


 「何があって逃げてたのか知らないがもういいだろ、出て行きな」


 シッシっと手を振って返そうとするが……


 「まだ宿屋の前で見張ってるかもしれないでしょ? 今日だけ匿ってよ」


 「いや、そうだとしても俺が匿う謂れは無い。それに今日だけとはいえ男の部屋に泊まるのはどうかと思うぞ。身の危険とか感じないのか?」


 「身の危険とかそんな心配してくれる人が危険な訳無いじゃない」


 ベッドに腰を下ろして寛ぐ様にして左右の足を振りながら答える彼女。


 それでも俺が匿う謂れはは無いよな? ってか名前も何があったのかも聞いてないのに匿うとかあり得んだろう。


 「匿ってやるつもりは無い。どうしてもと言うなら何があったのかぐらい話せ。あぁ、嘘は吐くなよな。それで納得行く理由だったら考えてやる」


 『あ、あ~』とか言いながらそっぽを向いて目を泳がせている。こりゃ聞く前から嘘が出るのが解るな。


 俺は諦めて扉を開ける。


 「出て行け、それが嫌ならさっきの男達を呼んでくるぞ」


 「まっ、まって。私の名前はアリッサ、あいつ等と討伐報酬の事で揉めちゃってさ、そしたら体で払えって。いや、まいっちゃうよね~」


 「それなら、お前冒険者だよな? 名前確認するからカード見せてみろ」


 「あっれ~? 逃げる途中で落としたみたい。まいったな~」


 これ以上は何を言っても無駄だな、俺は部屋を出て男達に引き渡す事にする。


 すると女性は俺の腕を掴んで『何で、ちゃんと言ったじゃん』とか言う。


 いや、確かに100%嘘とは言い切れないけど、仕草とか言動を見れば明らかだろう? 俺はそこまでマヌケに見えているのだろうか。


 「とりあえずさ、今日の所は匿って。それで明日ギルドにカードの再発行してもらえば嘘かどうか解るでしょ?」


 「それで、朝起きたら荷物と一緒に消えてるってオチだろ?」


 案外そんな感じで追われてるのかもな。いっそこの街の警備隊に突き出した方が早い気がしてきた。うん、そうした方が確実だな。


 俺は彼女に警備隊に連絡を取ると言って部屋を出た。部屋を出て少し先、通路の隅に何やら落ちていたので拾って見ると、それはギルドカードだった。




 ――アリッサ 獣人:女 19歳








 この話に出てきた【秋山】は架空の人物です、特定の個人を指すものでも全国の秋山さんに対するものでも有りません。

 この話を読んで不快に思われた秋山さんがいらっしゃるなら、この場を持ってお詫び申し上げます。



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