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転生ダラダラ冒険記  作者: 猫頭
第一部 第二章 【冒険編】(仮)
31/39

18 分解しましたよ




 ――なっ!


 俺と兄様は瞬きにも満たない一瞬で花畑(えさば)に立っていた事に驚く。


 そこには丁度採取の準備をしているブルーとアダルの姿もあった。


 ブルーは鼻歌まじりに準備をしているが、アダルの方は青い顔をしてこれから巣に入る事にビビっている様子だ。まぁ、それが普通の反応だよな……。


 何が起きた? 音速とかってもんゃないあれはまるで……


 「あぁ、今のか? この姿の時は見えぬが、腰にある器官(フーン)を使って光の四百倍の速度で移動(ワープ)が出来るのじゃ。

 人間は耐え切れず干乾びてしまうのじゃが、お主等が先程舐めた蜂蜜を口にした者ならば問題無く運べるぞ」


 固まる俺達に説明をするが、光速とか移動(ワープ)とか言っても普通解らないだろ。


 むしろ干乾びるとかそっちの説明の方が怖いわ!


 「しかし、生木を焚いて大人しくさせるとは原始的じゃが悪くないのぅ。これなら双方傷付く事も無かろうが、煙いのは頂けん。

 さて、妾が話をつけて来るので火を点けるでないぞ」


 彼女は巣へと歩きながら途中に居た二人に静止を促すと、巣から出て来た数匹と何やら話し始る。


 理解の追い着かないブルーとアダルはこちらに目を向けて説明を求めると、兄様は『好きにさせろ』と手を振って合図だけした。


 暫くして『話はつけた』と彼女が帰ってきたが、ここで問題が一つ出来た。


 彼女は巣の取り易い位置に蜜を溜めさせるので下に溜まる質の悪い蜜は取るなと言う。アレを蜜として認知されるが我慢ならないそうだ。


 兄様は質が良いならそれなりの値段で貴族に売り、質の悪い蜜は安値で平民に売りたいと言う。そうでなければ蜂蜜の価値が下がるからだ。


 どちらの言い分も解るが、ここでもまた言い合いになる。二人の遣り取りを俺達が眺めていると幌馬車が一台やって来る。あれはファーレの幌馬車だな。


 どうやら今日の分の蜂蜜の受け取りだろうが、残念な事に立て込んでるんだよ。


 穏やかでない雰囲気を察知したのかファーレは馬車を降りると、兄様の所では無くこちらに来た。


 「何かもめている様子ですが、どうしたんです?」


 これまでの経緯を話すと『そうですか、それじゃあの女性は魔物なんですか?』とファーレは彼女を凝視すると、『ああっ!』っと大声を上げた。


 その声に驚いたのか向こうの二人がこちらを向いた。皆が注目する中、ファーレは彼女を指差し――


 「先輩に負けて謝った魔物(ひと)だ」


 「ん? おぉ! あの時に一緒に居た小僧かえ、久しいのぅ。……いや、待て。そうか、なるほどのぅ。そういうカラクリ(・・・・)とはな」


 なにか一人で納得した様子の彼女だが、王女(ミストレス)に勝てる先輩って何者だよ。


 「なぁ一応聞くけど、彼女に勝ったファーレの言う先輩って人間か?」


 人が容易に勝てる相手じゃないと思うんだけどなぁ……


 「人間ですよ、当然じゃないですか。エル君も名前くらいは聞いた事があると思いますよ、ヘンリー・アークランドです」


 王都に入ってから何度も聞いた”伝説の二刀使い”の名前だ。他者を寄せ付けないその実力は生きたまま(・・・・・)伝説と言われる程だ。


 「広場ではお主も同じ大会で優勝したと聞いたので手合わせをしてみたが、あの者とでは雲泥の差じゃったな。あの者は所見であの攻撃を受け止めて組み伏せたうえに、何も無い空間から剣を取り出して妾に突き付けよった」


 「そんな事出来るかよ! ってか、伝説級の人と比べんなよ! 何だよ空間から剣を取り出すって! あれか、さっき槍を出したヤツか!?」


 「なんじゃ、誰でも出来るのかと思ったがそうでも無いのか?」


 そういって空間から槍を取り出すが、当然そんな事が出来る奴は稀だろう。


 突然出現した槍を見た皆が驚いたが、知っているファーレは『原理は教わったんだけど出来無いんですよね~アレ』とか言っている。


 「教わって出来るもんじゃ無いと思うけど、どうやるんだ?」


 最初ファーレが説明するも、うろ覚えなのかしどろもどろな説明にしかならなかったので途中から王女(ミストレス)が説明を引き継いだ。


 「まず、形有る物(ぶしつ)は振動によって分解が可能なのじゃ。妾の場合は羽根を利用した音による振動じゃな。

 例えばこの”槍”はFe(てつ)で出来ておる、これに固有振動を当てると……こんな感じに消えた様に見えるのじゃが、実際は目に見えぬ程分解しただけで空間内に漂っておる状態なんじゃ。


 しかしこのままでは持ち運べんのでな、アレフゼロの領域に分配して固定する。固定の方法は、魔力の有る者なら自然と周囲に力場が発生しているのでそれを利用するとよい。

 後は必要な時に再結合すれば……この様に現れる訳じゃ。妾は音の振動を利用したがあの者の話では光でも分解出来るらしいぞ」


 ちょっ! ちょと待て! それって絶対にこっちの世界の知識じゃないぞ、そいつ確実に異世界人だろ。


 何考えてるんだ、分子分解とか再結合とか恐ろしい知識を広めるなよ。


 兄様は兄様でポケットから銀貨を取り出して呪文を唱えているし、それで出来たら怖いわ。


 それを見て王女は『こう、”ビビー”と揺らしてパッと弾けたら”ムギュ”っと固定する感じじゃ。それで”ググッ”っと纏めるのじゃ』と今度は理論すっとばして感覚だけ伝えると……


 「おぉ! 銀貨が消えた! 次は”ググッ”だな……」


 そして手元にまた銀貨が現れる。出来やがったよ、何で今の説明で出来るんだ。あれか、兄様は魔法チートなのか?


 今度は光を出して銀貨に当てているが、そもそも光で分解なんて出来たっけか?少なくとも太陽光や蛍光灯の光で分解はありえない。


 宇宙線? いや、もっと身近なもの。異世界人が教えたならこっちの世界に概念が無くて地球では一般的だったもの?


 なら何だ? 思い当たるのは肌に紫外線が当たり過ぎるとメラニン色素が分解されてシミになるとかくらいだよな……。


 当たり過ぎると良く無いといえばレントゲンもそうだったな。


 そういや癌治療の医療器具でそんなのがあったな。 確か体を抜ける短い波長の光を二点から照射して交差した部位の癌だけを死滅させるとか何とか……えっと、ガンマ線治療だっけ?


 アレの原理って、そうだ! ガンマ線による原子崩壊(・・・・)だ!


 ――って、うぉい! そんな物騒な(もん)兄様が使える様になったら世界規模の問題すら起しかねないぞ。何とかして止めないと、……そうだ!


 「そういや二人とも、蜂蜜の話はもういいのか?」


 取り合えず話を戻して意識を逸らしとこう。


 「あぁ、それはもう良い。あの男が一枚噛んでいるなら先の事を見通しているじゃろうからな、こやつの好きにするといい。

 良く見れば蜜となる花もあの男に頼まれて妾が遠い孤島より一輪摘んで来た物の様じゃしな。

 ただし、暫くは事の成り行きを見守る故、お主の家に厄介になるぞ」


 「ん? あぁ、その位で良いなら好きなだけ居るといい。今日の事で話が良い方に進んだからな、この後の計画も早く進むだろう」


 この後の計画とは”お茶会”の事だろう、近隣の領主やこっちに来てから懇意にしている貴族を招いて今度お茶会を開く為に招待状も既に贈ってある。

 当然だがドイドン伯爵家には招待状を送っていない。


 このお茶会の目的は表向きは”親睦を深めるもの”だが、裏には幾つかの目的がある。


 一つ目は領地の復興具合を見せるもの。


 二つ目は召使の質を見せる事。


 三つ目は蜂蜜を広めて顧客を得る事。


 上の二つはまだ時期早々なのだが、蜂蜜の販売が既に始まっているので『これ以上先送りにすると貴族への売り込み時期を失う』とファーレが進言した為にお茶会を決行する事になった。


 召使いは執事・侍女・兵士だけでなく館に居る庭師や馬番まで全てに教育を施している最中だ。


 最初は兄様と取り巻き四人が交代で教えていたが、ストロが教えるのが上手だったらしく、今ではストロが教育係として殆どの時間を教育に費やしている。


 屋敷勤めの物は手の空いてる時間は教わりに行くように兄様に言われているのでストロは休む暇が無い。


 ブルーやクランも空いた時間に手伝っている事もあって、計算・礼法・地理・歴史等は見に付きつつある。


 ラズはどちらかと言えば脳筋なので教える側にまわっていないが、アダルと共に兵士達の鍛錬に尽力している。


 ちなみに、大会に参加しようとしていただけあってアダルはそこそこ強い。単純な剣の強さならラズや兄様より上だろう。


 当然、能力無しなら俺でも勝てない。


 今迄より上質な蜂蜜が取れるなら貴族へのアピールも上手くいく事だろう。俺はもう心配する事は無いだろうと旅を再開する事に決めた。




 ――お茶会? そんなの出る気無いよ。


 




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