第五百十五話
二日目、二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
結局ルルガさんからの呼び出しはなく、僕達は里の手伝いをするだけで夜になってしまった。
方々で手伝いをしたことから、僕達の存在はいい意味で受け入れられたようだ。
アマコ達もエルフの女性たちと仲良くなっているようで、宿に戻ってくる頃にはたくさんお土産を持って戻ってきてくれた。
僕に関しては……。
『アッ……お疲れ様ですぅ……』
『なんと畏れ多い……』
『どうぞ、お納めください……!!』
……なんか想像していた反応と違う。
溢れ出るフィジカルを発揮したのは自覚しているけど、一部の人から捧げものみたいな感じで果物とか薬草そのまんまをもらったんですけど。
なんか僕の想像以上の畏れ多い人物として印象付けられているような気がするんだけど……!!
メイルさんと一緒に否定しても全然聞いてくれないんですけど……!!
そのことを聞いたアマコ達はというと……。
『ふはははは!!』
『ふふふ、とうとう怪物とさえ思われなくなってかわいそう!!』
フェルムは爆笑、ハンナさんは愉悦。
ノノさんは普通にドン引きし、アマコとキーラだけが普通に同情してくれた。
この場にネアがいたらもう一つ爆笑の声が増えていたことだろう。
「……はぁ」
夕食をいただいた後、僕達は昼間のうちに教えてもらった温泉へと入ることにした。
当然、温泉は男女別になっており、僕とカズキはアマコ達と入り口で別れることになったわけだが……想像していた以上に異世界の温泉はちゃんとしたもので驚いた。
「なんというか……想像していた以上に温泉でびっくりしてる」
「ははは、俺も最初は驚いたなぁ」
僕と同じく温泉に入っているカズキに話しかけながらぼんやりと周りを見渡す。
開けた空間に作られた石づくりの温泉。
人の少ない時間を教えてもらったからか、数える程度にしか利用している人はいないが、それでもかなり広いつくりをしている。
「それに」
今浸かっている緑色の湯に向ける。
僕の治癒魔法の色とはちょっと違う濃い目の緑で、落ち着くような香りもする。
「こういうのって薬湯っていうんだっけ?」
「乾燥させた薬草を浸けるとこんな色になるらしい」
「なるほどなぁ」
パン然り、やっぱり薬草をよく使うところなんだな。
疲労回復とか色々な効能とかあったりしそう。
こういうのって香りとかで精神的にも癒されるから治癒魔法とは違うアプローチなんだよなぁ。
「こんな状況じゃなければもっとよかったんだけれどな」
「……まあ、逆に言えばこんな状況だからこそ僕達がここにいれるんだし……」
そうじゃなかったら僕がエルフの隠れ里に来ることはなかっただろう。
だからといってよかっただなんて思えないけど。
「カズキは最初にここに来た時どうだった?」
「ん? どうだったって?」
「里の人たちの反応とか」
僕の質問にカズキは「うーん」と少し唸る。
「状況的には今回と同じだったんだよな」
「同じ? まさか、でっかい怪物が出た時の話?」
昨日の怪物と似通った「暴食の獣」と呼ばれる巨大な怪物。
話によれば森を食い尽くそうとするかなりやばい存在って聞いてはいる。
「そもそも本当は隠れ里に行くはずじゃなかったんだ。ニルヴァルナを出て次の国に行こうとしたところで、暴れている奴の侵攻に巻き込まれてそのままなし崩し的にエルフの皆と関わるようになったんだ」
「なるほど」
確かにこんな森奥深くにある里に目的があって行けるわけがないもんな。
どちらかというとカズキは巻き込まれる形で里にやってきたわけだ。
「だから最初の印象はよく分からない余所者って感じだっただろうなぁ」
「でも悪印象ではないって感じでしょ?」
「不信感は持たれてたけどな。まあ、当時はエルフ側もかなり混乱した状況だったからそれも無理なかったし……でも俺としても放っておけなかったから」
うんうん、カズキなら放っておかないよな。
「フラナと顔を会わせたのもその時……っつーか、昨日みたいに戦士達の先頭で指揮をとってた」
「まさか、カズキが急いでいたのって……」
「皆のために前に出るタイプだからな。もちろん、それが良い所なんだが怖いところでもあるんだ」
昨夜も怪物たちを相手に率先して前に出ていたし、魔王軍との戦いの時もそうだった。
今は見る影もないけれど当時、第三軍団長でかなりえげつない戦法をしていたハンナさんとも最前線で相対していたのも彼女だ。
猪突猛進……ってわけじゃないんだろうが、カズキが心配に思うのも分かる。
「……なんか分かるって顔してるけど、ウサトも結構同じだからな?」
「えぇ!?」
「つーか、ウサトはそれ以上。フラナの三倍はやばい」
「三倍!?」
驚く僕にカズキは苦笑する。
「だって二回目の魔王軍との戦いの時、本当に凄かったんだぞお前。もう滅茶苦茶戦場の最前線を駆け回って軍団長全員と遭遇して戦闘までして、最後はぶっ倒れて気絶だぞ?」
「……」
「他にも心当たりがありまくるんじゃないか?」
……。
「……はい、申し開きもございません」
「分かればよろしい」
大人しく事実を認めうなだれると、カズキは冗談めかしてそう返事する。
確かに思い返してみても相当無茶しまくってたなぁ。
後半に至ってはポーションで魔力を無理やり回復して治癒魔法を回しているような状態だった。
「……ん? それじゃあメイルさんともその時に?」
「あー、そう……だな。里に入った後だけど、メイルとも会ったのもそのタイミングだ」
メイルさんに避けられているのを察しているのか歯切れが悪くなるカズキ。
「その時はなぁ。普通に警戒されているだけで、怪物を倒した後も他のエルフの皆と同じように接してくれていたんだけど……なんか、里を出る時には今みたいな感じに……」
「あぁ……」
これは僕の予想が当たってそうだ。
やっぱり親友を取られたと感じて塩対応になってしまっているって感じなのか。
でも、別に態度が悪いってわけでもないし、メイルさん本人はカズキを嫌っているって訳じゃなさそうなんだよな。
「ウサトは今日メイルと一緒だったんだよな。そっちはどうだったんだ?」
「どうだって……普通に話したりはしたね」
まあ、結構一癖も二癖もありそうな人ってのが今日の印象。
多分、異世界転移前の先輩みたいに猫を被っているタイプなんだろうな、彼女は。
だとすれば真面目に今日フェルムと同化して作業しなくてよかった……。フェルムの人付き合いのため敢えて別行動をしたおかげで、メイルさんの素? ……らしきものを聞いてしまったのが僕だけで済んだから。
「いっそのことカズキの良い所とか僕から話してみるか」
「や、やめろよ!? 普通にハズいからそれ!!」
「カズキはモテる!!」
「考えうる限り最悪なのを大声で挙げるな!? 分かってて言ってるだろ!?」
焦るカズキに、からからと笑う。
「ぶっちゃけそこまで気にしなくてもいいと思うよ」
「まあ、ウサトがそう言うならな。……フラナにもメイルは親友で変わっているけどいい子だって何度も言われているから、そこらへんは心配してはない」
何度も言われている? 待てよ……カズキにもそんな風に言っているとしたら、その逆もありえるってことだよな? フラナさんの性格上、親友であるメイルさんにカズキの良い所とかも滅茶苦茶話しているってことも……?
「カズキ。これ思っていたよりずっと擦れた話かもしれない」
「気にしなくていいって話は!?」
「ごめん。今の忘れてくれ」
「おい!?」
フラナさんの善意によるダメージによるものだとしたら、この問題に関わるにはあまりにも僕の力が足りない。
こういうのは時間とか本人の心情が解決してくれるはずだ。うん。
「カズキ、まあ、なんだ……頑張って」
「なにを!? なにを頑張るんだ俺は!!」
多分大丈夫だろう、と思いながら僕は焦るカズキを応援するのだった。
●
アマコ達はまだ温泉から出ていないようなので、先に温泉を出た僕とカズキは先に宿に戻ることにした。
まあ、そこのところは事前に話していたし、あっちには一番の年長者であるハンナさんがいるので大丈夫だろう。
……大丈夫だよな? あの人、最近特定条件下以外でも様子がおかしくなるからちょっと不安だ。
ちょっと不安になりながらも、神樹の上に造られた家々に灯される魔具の光で幻想的な光景を作り出す里の景色を楽しみながら宿に戻ると―――そこにはフラナさんとメイルさんの二人が待っていた。
「あれ、どうしたんだ。二人とも」
「ごめんカズキ。お風呂の後だけど……お父さんが二人を呼んでいるの」
フラナさんの言葉に僕とカズキは顔を見合わせ、すぐに事情を察する。
多分昨日言っていたこれからの方針について何かしらの決定があったのだろう。
アマコ達は置いていく形になってしまうので、書置きだけ残して僕達はフラナさんとメイルさんについていく形でルルガさんの元に向かうことにした。
「二人はルルガさんから何か聞いたのか?」
歩きながらカズキが二人にそう尋ねる。
それに対してフラナさんは首を横に振る。
「いえ、私達もついさっき連れてくるように言われただけなの」
「こちらもお婆様からも何も聞いていません。……ですが……」
メイルさんが少し言い淀む様子を見せる。
「なにか、とても緊迫したような様子ではありました」
「緊迫……」
僕とカズキを呼び出すということはかなり大事な要件だとは思うが、火急のものではない。
怪物の襲撃の予兆があった、ということなら僕達だけではなく里全てに声をかけるはずだからだ。
「まずは実際に行って話を聞いてみない限りは分からないみたいだね」
「そう、だな。……因みにウサトはなにか予感とかはするか?」
「カズキ?」
「いや他意はない。他意はないが一応な、うん」
滅茶苦茶他意がある言い方してるじゃん。
物凄い目が泳ぐカズキをジト目で見ていると、それが気になったのかメイルさんがこちらへ振り返る。
「ウサトさんが何か予感するとどうなるのですか?」
「私も気になる。なにかあるの?」
二人の疑問の言葉にカズキは神妙な顔をする。
「ウサトが感じる嫌な予感は高い確率で当たる」
「……え、まさかそんな……」
「因みに一か月くらい前から、ここに帰省してるフラナの話を聞いて嫌な予感をしていた」
「「……」」
「君達、偶然だからそんな目で見ないでほしい」
予感はあくまで予感だから。
別に予知魔法とかそういうものとか一切関係ないものだからあまり信頼しないでほしい。
あ、ローズの勘とかは別カテゴリーなので除くとして。
しかし嫌な予感かぁ。
「うーん、嫌な予感は……まあ、しないかな。半々くらい」
「なにが半々!? カズキ、半々ってなに!?」
「……なら大丈夫か!!」
「思考を放棄しないで!?」
いや、なんか嫌な予感というより、何かが起こりそうな予感というか。
ぶっちゃけ今の状況からして襲撃やらなんやらで何が起こってもおかしくないから、全く意味のないようなものだ。
●
昨夜、訪れたルルガさんのいる建物に到着した僕達はすぐに彼のいる部屋へと向かった。
昨日と違い、血の匂いもなく癒した怪我人の皆さんの様子を確認した後に部屋へと入ると―――、そこには族長のルルガさんと占い師のサチさんがいた。
「よく来てくれた。突然呼び出してしまってすまない」
「いえ、大丈夫です。要件は……昨日のことについて決定が出たのですか?」
「ああ、その通りだ」
今日一日考えてくれたのだろう、疲れを滲まながらも彼は僕達を見る。
「つい先ほど、神託を授かった」
……神託?
口ぶりからして里の長であるルルガさんよりも上の立場……いや、上の存在からのもののように聞こえた。予想を超えたルルガさんの言葉に僕だけではなく、カズキもフラナさん、メイルさんも驚き言葉を失う。
しかし、当のルルガさんとセツさんは真面目な様子だ。
「呆気にとられるのも当然だ。これは里において限られた者……族長である私と、占い師であるセツ様しか知らないことだ」
「ルルガ様、神託とはいったい……」
動揺したメイルさんの言葉にルルガさんは目を伏せる。
「遥か遠い昔、我らがこの地に根付くその前から森に生きる神なる獣———シシェコンラッド様は実在し、今も尚、聖域で生きている」
「「「!!」」」
エルフに伝わる伝説の存在、シシェコンラッド。
その実在を耳して真っ先に思い浮かんだのはミアラークにいるファルガ様だ。
神龍というとてつもない力を持つ存在である彼がいるならば、他の強い力を持つ人ならざる者がいてもおかしくはない……のだけれど、いざいるって聞くと驚いてしまうな。
「シシェコンラッド様が、実在する……お婆様はご存じだったのですか……?」
「うむ。お前もいずれ時代の占い師を担う身。いつかはこの事実を明かすはずだったが……よもや、このような時に知ることになるのは、私としても予想外なことであった」
知っているのがルルガさんとサチさんの二人だけという時点で、今の話はとんでもない機密だってことも分かる。
それを僕達に教えるということは、それだけ今回の呼び出しは重要なものなのかもしれない。
「本来、彼のお方に接触することは禁じられていた。我々が迂闊に触れていい存在ではないこともあるが、それ以上に神なる獣の力は悪しき者に知られてはならない危険なものだからだ」
だが、とルルガさんは続ける。
「現在、我々が置かれている状況は最悪。カズキとウサトの助力はあれど敵の正体も未だ分からず、解決に乗り出すこともできず、このままでは動きこともできずに削られていくしかない」
「だから、お父さんはシシェコンラッド様を頼った、と?」
フラナさんの言葉にルルガさんは重く頷く。
「私は、里の代表として彼のお方に助けを求めた。皆を率いる者として情けない話だが……先刻私の頭に直接声が響き、シシェコンラッド様からの神託を授かるに至った」
そのまま顔を挙げたルルガさんの視線が僕へと向けられる。
「神託の内容は、白き癒し手と彼と共に在る者を聖域の深奥へ、と」
「……僕、ですか」
「ああ、かのお方は君との接触を図っている」
……どうして僕?
こういう時にはカズキが真っ先に呼ばれ……いや、カズキは里を守る壁を維持しなければならないから離れられないから、か?
だとしても、なぜエルフではなく部外者の僕が?
「君の疑問は最もだろう。だが、私にからしてみればある意味で納得もできた」
「お父さん、それはどうして?」
「我々一族は、かのお方に対して信仰心を持っているからだ」
信仰心を持っているから?
これまでの説明からしてエルフ族の皆さんがシシェコンラッドをとても敬っているのは分かるが、それが会えない理由になるのか?
「過ぎた信仰は目を曇らせてしまう。だからこそウサトが選ばれたと私は思っている。カズキは、現状この里から離れられないことを分かっていらしたのだろう」
「だからこそのウサトですか」
顎に手を当て、何かを考え込んだカズキが小さな声で「これが半々ってやつか」と呟いたのが聞こえてしまった。
いや、別にこのことを予感していたわけじゃないんですけれど。
なんかカズキの中で僕の予感の信用度高くない?
「……話は分かりました。では、向かうのは僕だけでしょうか?」
「いや、神託には君と共に在る者とあったことから、君の仲間も同行してもいいだろう。あとは……」
ルルガさんの視線がメイルさんへと向けられる。
「向かう先は魔物や生物すらも足を踏み入れることのない聖域。道を知らぬものでは辿り着くことが不可能だろう。だからこそ、その案内役をメイル……次代の占い師である君に任せたい」
「っ」
メイルさんの肩が揺れる。
その驚きに、彼女は数秒ほど動揺を露わにした後に自身の胸に手を当てる。
「お任せください。私が、ウサトさんを聖域へとご案内いたします」
「ああ、頼む」
聖域という場所の深奥で待つ謎の存在。
ルルガさんの言う彼のお方がどのような用があって僕を呼んだのかは依然として分からない。
今の膠着した状況を変える切っ掛けになってくれればいいんだけれど……。
温泉回でした。
化身扱いされたらそりゃ興味湧かれる。
今回の更新は以上となります。




