第五百十四話
お待たせしてしまい申し訳ありません!!
今回は予告通りメイル視点でお送りいたします。
正直なところまだ疑っているところもあった。
フラナは昔から大袈裟なところもあったから、あの治癒魔法使いウサトについての話は半分くらい誇張したものだと。
だって昨夜、彼は治癒魔法使いとして怪我をした皆を癒してくれた。
治癒魔法に特化しているであろう彼がどうやって戦闘をこなすのだろうかそもそもが疑問だ。鍛えた肉体で戦うにしても限度があるし、治癒魔法でフラナが言っていたような凄い敵と戦う想像が全くできない。
……まあ、それでも里にとって恩人だから軽く見たり、侮ったりするようなことはない。
私は自分の立場をしっかりと自覚して、彼とその仲間に接していけばいい。
———と、思っていたはずだったのに。
気付いたら水場で頭を顔を洗っていたところを目撃されかけ!! そのまま流れでウサトと一緒にいた獣人のアマコと魔族のフェルムの三人を案内することになってしまっていた!!
冷静に考えてなんでそんな状況になってしまったのか自分でもよく分からない!!
というより、よく考えてもみなくてもこの人たち異質すぎる組み合わせじゃないか!?
フェルムは昨日一緒に行動していたから分か……いや分からないな!? 魔族と人間ってちょっと前は敵対してたって話じゃないのか!? それになんで合体してたんだアレ!?
いや! その疑問は置いておくとして、それに加えて魔族だけじゃなく獣人の女の子まで一緒にいるのはいったいどうして!? 普通、人間と魔族って少し前は敵対していて、獣人とも仲が良くないって話じゃなかったはずじゃ!?
それに何気ない雑談でウサトが魔王やら邪竜やら呪いとかとんでもないものと相対して、それが事実だったとかもどういうわけなんだ!? これならまだウサトが人間じゃないって言葉の方が信じられるんだが!?
『言ったでしょう。全て事実よ。いえ、多分言ってないだけでそれ以上のことをしている可能性があるわ』
案内を終え、一旦戻った私が寝起きのフラナに問い詰めたところ、返ってきたのはどこか悟ったようなそんな言葉だった。
私、素を出さずに対応しきれるのかものすごく不安になってきた……。
●
そして、私はまたウサトいう男の滅茶苦茶さをこの身を以て実感することになった。
眼下に広がる里の森の景色が遠ざかっていく。
見慣れたはずの故郷を上から見下ろすという未知の体験。それを、ウサトの背に作られた大きな籠のようなものの中で足を竦ませることしかできない。
「空から見るとこんな感じなんですね」
「興味深いですねぇ。ところどころ怪物とやらに一部の木々が食い散らかされてますが、それがなかったら空から見てもここがエルフの隠れ里ということは全く分からないです」
ウサトとハンナと名乗った魔族の女性の会話を聞く余裕すらない。
まずなんで飛んでるんだこれ!?
どういう魔法!? 翼もないし、なにかで勢いをつけて飛んでいるわけでもない!!
「あわわわ……」
なんでこんなことになったんだろうか。
ちょっと冒険心を出して了承したのが悪かったのか?
「ウサト、俺は里周りをぐるっと飛んでみてくる」
「うん。頼んだ」
私に向かってちょっと可哀そうな人を見る視線を向けたリュウセンが、その足に乗った光魔法で空を滑るように移動する。
魔力弾の操作という延長性上のことを行っているリュウセンはまだ理解できる分、今自分が空を飛んでいる理由がまったく分からない。
「じゃ、私は自分の仕事をしますか」
ハンナが腰のバッグから手帳のようなものを取り出して何かを書きはじめた。
周りを見ながら書いているということは里周りの地図か?
「メイルさんは大丈夫ですか?」
「ハッ!? なんだ……ですか!?」
唐突に声をかけられ、素が出かけてしまう。
慌てて敬語に戻しながら返事をすると、彼は少し申し訳なさそうな顔をする。
「すみません。突然こんな高いところまで上がると怖いですよね」
「え、えー、あ……はい……でもだんだんと慣れてきたので大丈夫ですぅ……」
高さには慣れてきたけれど、この飛び方には全く慣れてない!!
そう声にして言いたかったが、乗ってしまった手前何も言えない。
そんな私の虚勢を察せられたのかは定かではないが、ウサトは苦笑しながら首元を覆うマントに手を添える。
「今飛んでいるのはキーラの闇魔法なんですよ」
「え、闇魔法……なんですか? それにさっき自己紹介してくれた……」
『はい! 私です!!』
マントの中から声が響いて来る。
その声はキーラと名乗った女の子のものだ。
「ついでに僕にフェルムが同化しているのも闇魔法です」
『ついで扱いすんな』
同じく響いてくる声。
一人の人間から複数の声が聞こえてくることに慣れない。
「……」
私が知識として知る闇魔法は魔族にしか発言しない魔法というもの。
攻撃的で使い手だけではなくその周囲にすら害を及ぼす極めて危険性の高い系統で、闇魔法は同族の魔族にすらも忌避されている。
そんな魔法の使い手……なんだけれど、キーラもフェルムも話してみた感じ全然危ない感じはしなかった。
むしろ無邪気さや親しみやすさすら感じられたくらいだ。
『そしてウサトは闇魔法使い使い』
「そんな使い手になった覚えはないぞ、アマコ」
『いつも振り回してるから』
「いつもは振り回してないだろ」
闇魔法使い使いってなんだ。
そして闇魔法使いを振り回すってなんだ。
きっと物理的な意味ではないんだろうが、本当に混乱させられる。
「少し見てみるか。フェルム」
『ん? ああ、腕だな』
ウサトさんが軽く右腕を掲げ、その掌に魔力弾を作っていく。
すると、前腕付近から二つの腕のような黒い手が生え、それが魔力弾を支えるように緑の魔力を継ぎ足していく。
作られた複数の魔力弾を包み込む大きな魔力弾。
それからさらに膨らむように輝きを増し———まるで爆発する寸前のような光を発し始める。
「ウサトさん、なにを———」
「治癒拡散弾」
ぽーん、とウサトさんが魔力弾を空高く放り投げる。
頭上を高く飛んで行った魔力弾は無音で弾け―――中に込められた無数の魔力弾が八方に散らばり、それらもまた空中で霧散するように弾け、緑の粒子が里と森へと広がっていく。
「これは……」
昨夜、空から降ってきた……あれはウサトさんの魔法だったのか。
どうしてそれを今……? 疑問に思い見ると、彼は目を瞑って集中している。
疑問に思う私を他所に、スケッチをしていたハンナが彼に声をかける。
「ウサトくーん、どうですかー?」
「うーん、野生の生き物とかはいるんですけれど、怪物の存在は確認できませんね」
『ボクから見ても同じ感じだ』
『私も』
え、なんだ? 周りの反応を把握している? なぜ? どうやって?
意味不明の上にさらにまた意味不明なものを目の当たりにさせられ、私の脳が停止する。
「え、な、なにをしているんですか?」
「魔力感知という僕の魔力に触れた生物と、動く物体を察知する技術があるんです。今は僕の魔力を里全体とその周りに散布させて、簡易的な索敵を行ったところです」
「……」
この人、自分がどれだけ意味不明でとんでもないことをしているのか分かっているのだろうか。
魔法に詳しくない私でもどれだけ異常なことをしているのか分かるのに、なんであっさりそんなことをしてくれているんだ!?
なにより本人以上にハンナを含めた周りが無反応なのが一番怖い!!
「まあ、昨日の怪物はいないってことで、ハンナさんは安心して描いても大丈夫ですよ」
「言われなくてもやりますよ。あーあ、私への貸し四の癖にまったく人使いが荒い」
「さりげなく一つ増やさないでください」
そんな呑気な会話をしながらも彼の視線は眼下の森から外れない。
どんな些細な異変を見逃さない、と言わんばかりの様子だ。
「アマコ、なにか見えたら僕に伝えてくれ」
『ん、任せて』
———と、ここでふと疑問に思った。
獣人のアマコはいったいなんなんだろうか、と。
「アマコさんは何か特別な能力でもあるのですか……?」
フェルムさんは特殊な魔法を持っているので、一緒にいるのは分かる。
さっきのとんでもない技術を信じるならウサトさんは魔力感知という出鱈目な感知方法を持っている。
それも踏まえて失礼な話、獣人の少女が……なんというか、感じからしてウサトさんから全幅の信頼を寄せられている理由がちょっと分からない。
『予知魔法だよ』
「……はい?」
きっと気のせいだ。
今、ウサトの中から獣人族の特別な身分にある“時詠み姫”が持つ魔法が出てきただなんて絶対に気のせいだ。
『私の魔法は予知魔法。未来を予知する魔法だよ』
「……。……ミ゛!!?」
かつてない驚き方をしながら慌てて口を押える。
『なんでお前はここにいるんだァー!?』と、言葉に出さずにいた自分を心の底から褒めたかった。
●
当然の如くウサトが日中に行ったことは、里の中でちょっとした騒動になった。
騒動といっても昨日の宙を舞う緑の粒子の正体が明らかになっただけで、悪い意味ではないのだが……それを抜きにしてもウサトという人物の予想外さを再認識させられるには十分なことだった。
ハンナが里とその周囲の地図を描き、ウサトとカズキが見回りを終えた後、彼らはそれぞれの———里で行われている復興・次の防衛の準備を行っている場所へと別れていった。
アマコ、キーラちゃん、ハンナ、ノノ、フェルムは裁縫や矢の作成を行っているところへ。
カズキは光魔法で作った里を囲む壁の調整へ。
そしてウサトは、光魔法の壁の内側に砦を築く手伝いをすることになった。
「ふんっ!!」
ずぅん、という音と共にウサトが人間の胴二つほどある丸太を地面に差し込む。
エルフの大人数人がかりで行う作業をたった一人でこなしている彼を、目の当たりにして私は頬を引きつらせる。
『人間ってあんな力があるんだ……』
『俺たちカズキさんしか知らなかったけど、人間ってすごい力なんだな……』
『あんな瘦身のどこに力が……』
一緒に作業している人らも騒然としているが、当の本人はもう慣れた様子で動いている。
そんな場所にいる私だが、ただ立って見ているわけではない。
ここで仕事をしている人らのための昼食のスープの準備をしたり、水を配ったりしながらウサトの行動を観察していた。
「外の世界を知る……か」
私の役目にはこの里を、ここにいる民を見ることも含まれている。
占いという特殊な魔法を持つ身として、ウサト達がこの里にどのような影響を与えていくのかを見届けなくてはならない。
朝、その任を承る際にお婆様が———、
『外の世界のことを知るいい機会だろう』
———と、言ってくれたが、正直今ウサトがやっていることは絶対外の世界で当然のことじゃないと思う。
確かに私は生まれてこの方里を出たことがない世間知らずだが、丸太を軽々と二本担いで歩き回っているウサトが外の世界の常識のはずがない。
『あ、じゃあ私はカズキの方を見てるわね!』
そして、私と同じ任を受けた親友は真っ先にリュウセンの元に向かっていってしまった。
そもそもリュウセンを避けている私がそっちを担当するのも不自然なのも分かるので、必然的に私はウサトの方を補佐をすることに不満はない。
……いや、フラナには言っておきたいことは山ほどあるが。
「ウサトさん、そろそろ休憩したらどうですか?」
「え? あー、そうですね」
他よりも数倍以上の動きで丸太を運んでは壁を気付いていくウサトに、水が入った容器を持って声をかける。
彼は周りを見てから、差し出した水を受け取ってくれる。
「ありがとうございます」
水を渡した手前なんだけれど、全く疲れた様子がにないなこの人。
周りの人たちの何倍も動き回っているのにどんな体力してんだ……。
容器の水を口にしながら、ウサトは木で組んだ未完成の砦を見上げる。
「こういうことをするのはちょっと久しぶりですね」
「……経験があるんですか?」
「ええ、少し前に」
……そういえばリングル王国は以前は魔王軍と戦争していたはずだ。
安易に尋ねていいことじゃなかったか? 口に出してから後悔しながら反応を伺うと、彼は懐かしそうな顔で傍らに積んである丸太に触れる。
「ちょっと前に魔王領に派遣された時に、似たようなことをしたんですよ」
「へ、へぇぇ……」
なんでこの人はちょっとした感覚でとんでもない話題を飛ばしてくるんだろうか。
どうして魔王領で砦を組むようなことをしているんだ。
「その時はオーガとか魔物の群れとかが襲撃したりしてちょっと大変だったんです」
「ちょっと……?」
それはちょっとではなく、ちゃんとした大事件では?
「その時はどうしたんですか?」
「群れを先導してオーガを一騎打ちで倒して追い払いました」
「オーガを一騎打ちで倒して追い払いました……?」
何言ってんだこいつ。
ど、どのくらいの温度感で言っているんだ……?
冗談を言っているようにも見えない上に、素面で言っている感じだから、まったく言葉の裏が読めない……!!
「ま、魔王領でも大変だったんですねぇ」
「でも楽しかったですよ。一時的に部下になった魔族達を鍛えましたし、魔物の領域で色々な発見がでいましたから。まあ、その度に魔王にからかわれたり……何度張り倒そうかと思ったことか……」
「お前マジで何言ってんの?」
「ん?」
「ハッ!?」
思わずいつもの口調が引きずり出され、顔から血の気が引く。
い、今のは完全に聞かれたァ!! こんなポカ普通絶対にしないのに……!! いや、出たのは口調だけ!! まだ顔面を取り繕えばァ……!!
顔をにこやかな笑顔のまま固定させる。
怪訝な様子で私を見たウサトは、周りを目にしてから不思議そうに首を傾げる。
「なんだ聞き間違いか……」
「どうかしましたか? おほほ」
「……。いえ、なんでも。僕はそろそろ作業に戻りますね。水、ありがとうございました」
「あ、はぁい」
せ、セーフッ!!
やらかしてしまったが、まだ取り返しが効いてくれたので拳を強く握りしめる。
しかし、普通に話すだけでこんな簡単にボロが出てしまった。
これから先が本当に思いやられるな……!!
ウサトを基準に外の常識を知ることになってしまったメイルさん。
そして、薄々察し始めたウサトでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。




