第三百六十四話
突然の報告ではありますが、
『治癒魔法の間違った使い方』のアニメ化が決定いたしました!!
まずは今日まで応援してくださった読者の皆様に心からの感謝を!!
本作はまだまだ更新の方を続けていきますので、どうかこれからも『治癒魔法の間違った使い方』をよろしくお願いします!!
そしてお待たせいたしました。
第三百六十四話です。
ウサトが自分から囮を名乗り出て水の触手を引き連れている間、私達は湖の中に存在する遺跡へと入り込んだ。
本当は治癒魔法を持つウサトと一緒に行動するべきと今更ながら思ったけれど、あの状況では囮を買って出るだろうウサトの邪魔にならないように移動しようと判断したのが失敗だった。
―――街の半分が沈んだ湖に沈む遺跡。
遺跡そのものは水に浸かってしまっていたけれど中へと通じる無数の入口には空気の膜のようなものがあり、そこから先は水もなくただただ真っ暗な空間が広がっているだけだ。
「お前ら、今のうちに荷物の確認。こっから何が起こるか分からねぇから自分が何を持っているか把握しておけ」
『ハッ!』
コーガの指示に従いそれぞれ持っている荷物の確認を行う部下さん達。
その様子を見ながら私は背後の……自分たちが入ってきた入口を見上げる。
「入った傍から入口が閉じられちゃったね」
「ああ。どうやらこの罠を作った誰かは私達をここに閉じ込めたいみたいだ」
私たちが入った入口は今や石壁によって閉ざされてしまった。
すぐに松明をつけたおかげで完全な暗闇にはならなかったけれど、この遺跡の中は思っていた以上に広く探索するのも時間がかかりそうだ。
「カンナギ、壊せる?」
「できる……けれど、下手に衝撃を加えて遺跡そのものが崩壊するかもしれない。時間差で水圧で押しつぶれるってこともありえるし、下手に予知魔法ありきで考えるのも危険だ」
だとすれば壁は壊せないか。
ここからウサトと合流するのは難しそう。
「うーっし、とりあえずそれっぽい場所には入り込んだわけだけどよ。ウサトと逸れちまったな」
「あの人なら大丈夫でしょ」
「そうだね。もう遺跡にもいるだろうし」
「一番付き合いの長いであろうお前たちのコメントが怖いわ」
ネアと私の言葉にコーガが頬を引きつらせる。
実際、あの水のなにかにウサトを捕らえられるほどの力があると思えない。
「忘れがちだけど、私とウサトは使い魔契約を結んでいるの。だからあの人に万が一のことがあったらすぐに分かるわ」
「へぇ、そうなのか。今のウサトってどんな感じだ?」
「すごく元気」
「それだけでどんな様子か想像がつくわ……」
ネアがそう言うなら安心だ。
そもそもウサトに危険が迫るような未来は私が絶対に予知するだろう。
そう考えていると周りを警戒していたカンナギがコーガへと話しかける。
「コーガ。立て直し次第先に進むべきだ」
「ん? なんでだ?」
「恐らく、ここにいてもウサトと合流することはできないだろう。私たちの目的は同じ、先に進み目的地に向かえばウサトとも合流できるかもしれない」
「……確かにあいつなら同じように考えるかもな」
顎に手を当て数秒ほど悩んだコーガは面倒そうに頭を掻く。
「はぁー、こんな感じに頭を使うのは得意じゃねーが、まずはこの陰気な遺跡の中を進んでいくか。あっちにはハンナもいることだしウサトの方は大丈夫だろ」
「ふく……隊長! ハンナさん割とメンタルよわよわなので結構心配だと思うのですが!!」
部下の一人、ノノさんの指摘にコーガは考えるそぶりを見せる。
「確かにハンナは大変そうね」
「……うん、大変そう」
「私には君たち二人の“大変そう”が別のことを指しているようにしか思えないんだけど……?」
引いた様子のカンナギに私とネアは頷く。
どれだけ一緒にいてもウサトは私たちの予想を超える行動をしてくる。
それに振り回されたりするのは大変だけれど……それは裏を返せばどんな状況でも打開する手段を見せてくれる彼への信頼でもあるからだ。
●
「……あーあ、びしょ濡れだよ……」
湖の中を潜ったはいいもののコーガ達がどこに入ったかを見ていなかった僕はとりあえずあたりをつけた穴に飛び込んでみた。
少し中を見て別の入口を探すつもりだったけれど、すぐに入った穴は岩で防がれて出れなくなってしまった。
「……暗いな」
手の中に作り出した治癒弾力弾を壁に貼り付ける。
治癒魔法の緑の光が通路を照らし、しっかりとした足場を確認しつつさらに複数の治癒弾力弾を作り、通路の先へと放り投げていく。
「治癒感知にも反応はなし。……なら大丈夫か」
周りには敵はいない。
それをよく確認しながら僕は背中で闇魔法に包んでいたハンナさんとルーネを出す。
まだ気絶しているルーネを抱えたハンナさんは、つんのめりながら僕の背中から降りる。
「え、ここなんですか……?」
「遺跡の中。どうやら閉じ込められたみたいです」
「いやなぜ!?」
「潜るのが楽しくて」
返答は脛へのキックであった。
魔族の女性は僕の脛に恨みでもあるのだろうか。
「落ち着いてください。場をにぎわせるためのオーガジョークです」
「ウサト君以外が言えば立派な冗談ですが、ウサト君が言えば冗談に思えないんですよ……!!」
「こんな状況で本気で泳ぐのが楽しいと言っている人だと思われてるの僕……?」
普通にショックだ。
と、ここで僕とハンナさんのやり取りをすぐ傍で聞いていたルーネが目覚める。
「……んあ、おはよ……」
「おはようございます。お菓子食べますか?」
『ウサトさん。この人をうちのラムとロゼに近づけないようにしてください』
彼女自身が持っている小さなカバンから携帯食料を躊躇なく差し出すハンナさんに、キーラがドン引きしながら僕にそう言ってくる。
限られた状況下で先輩以上にやばい人になるのはやばいと思うわ。
まあ、小さい子が好き、というより子供という存在が好きってのは分かるのでそこまで危険な感じはしない。
むしろハンナさんの過去を知っている身としては自分の妹と幼い子供を重ねてしまう気持ちも分かってしまうので複雑な心境だ。
諸々のことでため息をつきながら僕は座り込んで携帯食料をもぐもぐと頬張っているルーネの視線に合わせるように地面に膝をつく。
「……ルーネ、今から状況を説明する。落ち着いて話を聞いてくれ」
「むぐ……ああ」
彼女にこの遺跡に入った経緯を説明する。
状況が状況なので事細かに言う時間はないけど、それでもルーネは理解するように頷いた。
「ここにシアがいるかもしれないんだな?」
「それはまだ分からない。だけど可能性は高いと思う」
「それでもいい。わたしはお前についていく」
ハンナさんが後ろから執拗に僕の脇腹を小突いてくるのが気になるけど、これからするべきことは決まった。
「多分、アマコ達は遺跡の中に進みながら僕達との合流をしようと考えているから、僕達も遺跡の中に進んで皆と合流しに行こう」
「そうですね。壊して進む、というのも駄目でしょうしここは前に進むべきだと思います」
あっちにはナギさんにコーガ、そして部下たちもいるから戦力的には十分すぎるほどだ。
それに加えてネアとアマコもいるし、余程のことがない限り大丈夫だ。
「早速、先に進みましょう。……っと、その前に」
僕は手に作り出した治癒弾力弾をルーネに渡す。
「なんでわたしにこれを渡す?」
「明かりだよ。それで足元を照らして」
「……すごい、ぽやぽやするな。これ」
治癒弾力弾を不思議そうに触るルーネ。
時間が経てば消えてしまうだろうけど、その時はまた渡せばいい。
「ほい、キーラとハンナさんにも」
『ありがとうございます!』
「本当に変なところで便利ですよね。あぁ、使い手はこんななのに治癒魔法は温かい……」
僕をダメ人間みたいに言わないでください……。
キーラはなんとなく欲しそうにしていたので一応渡しておく。
さて、全員が明かりを持ったところで僕は前方を指さす。
「全員治癒魔法は持ったか!! では探索を始める!!」
『おー!』
「おー」
「その妙なやる気はなんなんですか……?」
この4人で僕たちは遺跡探索をしながらアマコたちと合流する……!!
そのためにまずは暗闇に包まれたこの遺跡を進んでいくことから始めよう!!
『でも外から見るよりもずっと広いですね』
「確かに。中も迷路みたいで不気味だ」
いったいここはなんのために造られた場所なのか?
魔力弾を投げつつ治癒感知で索敵しながら遺跡内を進んで見えてくるものは、石柱や壁に刻み付けられた文様のようなもの。
「ルーネちゃんの先祖のもの、というのは間違いないのでしょうが……このような危険な土地にこれだけの文明を築けている時点で、遺跡の中身が普通とは思えませんね」
「わたしの種族のヒトはまだどこかにいるかもしれないってこと?」
「……ごめんなさい。その可能性はないとは言い切れない……くらいしか今は言えません」
変に希望を持たせたくないのか申し訳なさそうにハンナさんがルーネに謝る。
「謝る必要はない。いまさら同じ種族に会ったってどう変わると言った話でもないし、ただ見た目が同じだけ、それだけならお前達の方が信用できる」
「ルーネちゃん……」
「でもお前はちょっと怖いから離れろ」
あ、ハンナさんが膝から崩れ落ちた。
その様子に苦笑しつつ前方に魔力を放射すると、魔力感知に二つの反応を察知する。
僕は後ろのハンナさんとルーネを手で制す。
「ウサト君?」
「しっ。誰かいます。人数は二人、治癒魔法が作用しないので悪魔側が用意した亡骸かもしれません」
「じゃあ、私は後ろにいるので守ってください」
即答すぎでは?
「せめて幻影魔法でサポートくらいしてくれてもいい気がするんですけど……」
「え……あ、でもウサト君って私の幻影魔法効かないから普通に君ごと巻き込んでも大丈夫なんですね。じゃあ、任せてください!」
味方から背中を攻撃される宣言をこんな嬉しそうにされることってある……?
まあ、ハンナさんの幻影魔法は強力なので戦闘が長引きそうになったら彼女のサポートが入るということで、僕たちは反応のある場所にまで近づいていく。
「……む」
出たのはそこそこ広い空間。
どうやら先ほどよりも幅の大きな通路みたいだが、その端の壁でおろおろとしている何者かを確認する。
手に治癒魔法を作り照らしてみると、そこにいたのは———、
「げ、ウサト君……!?」
「アウルさん!?」
僕を見て頬を引きつらせるアウルさんと、なぜか彼女の服の裾を掴んでいる少し前に僕を襲撃してきた亡骸を蘇らせられた闇魔法使いの双子の一人がいた。
「お、おやぁ、ウサト君じゃん。き、奇遇っすねぇ」
「こんにちは。アウルさん。そちらこそ奇遇ですね」
「……」
「……」
奇妙な静寂が暗闇に包まれた遺跡の中を支配する。
予想外の状況だけどこれまでのことと、今僕たちがこのような状況に陥っている原因を考えるとこの場で彼女を逃すという選択肢はない。
「ルーネ」
「……敵だな?」
「違う……けど、君はもう一人の方を捕まえて」
「分かった」
僕が魔力を発すると同時にルーネも闇魔法の衣を纏う。
黒い炎に包まれた彼女は豹に似た動物に変身すると同時にアウルさんの隣の闇魔法使いの子へと飛び掛かった。
「妹さんがよく分からん魔物に襲われた!?」
「貴方の相手は僕です!」
「げ!? っ、そりゃそうですよねぇ!? 何回も襲撃してますもん!!」
即座に放った治癒飛拳をアウルさんは衝撃の魔法で吸収する。
その隙に一気に近くにまで接近し、両手に纏わせた治癒魔法を振るう。
「貴方がここにいるということはやはり悪魔もここにいるということですね!!」
「あー、ちょっとそこらへんややこしいことになっていまして……!!」
動揺しても尚、アウルさんは腰から引き抜いた鞘に納められた剣で僕の拳を防ぐ。
両腕を振るうごとに魔力弾を作りそれを拳の勢いで飛ばすように放ちながら戦闘を交わす。
「なのでちょぉぉっと私の話を聞いてくれないかなぁ!!」
「……話?」
相手も攻撃を防いでいるだけで剣を抜く気もないようなので、一旦拳を引き距離を取る。
引いた僕を見て安堵の表情を浮かべたアウルさんは次に自身の腕、肩、脇腹あたりにくっついている薄い緑色の光を帯びた治癒魔法弾を見て困惑した顔をする。
「は? な、なんで私に魔力弾を?」
「安心してください。まだ爆裂弾はくっつけていません。本格的に貴女を捕まえる前に話をしたいと思いまして」
今のままじゃ普通の効力の弱い治癒魔法の球でしかない。
だけれど、このまま戦闘が再開すれば次は爆裂弾と系統強化を合わせた攻撃を織り交ぜていく。
「……これ、普通の魔力弾ですよね?」
「ええ。それは普通の魔力弾ですよ?」
「なんだろう。私の直感がこれをやばいって感じているんですけど」
無意識にその治癒魔法弾の危険性に気づいた?
……さすがはローズの副隊長を任されたお人だ。
その危険察知能力はローズの超能力じみた“勘”を連想させてくれる。
「……」
アウルさんは僕達に敵意は向けていない。
……いや、この人はずっと敵意そのものを向けてきてはいないのだけどここで戦うつもりはないようだ。
それにルーネが取り押さえている双子の闇魔法使いの一人も抵抗した様子もない。
僕はため息をつきながら構えを解く。
「いったいどういうことですか?」
「簡潔に説明させていただくと……私達、悪魔とはぐれたんですよ」
「……は?」
悪魔と逸れた?
いったいどんな状況で悪魔側にいるアウルさんが逸れるようなことがあるんだ?
そもそもこれまでの一連の出来事は悪魔側が仕掛けたことじゃないのか?
ここでアウルとの遭遇。
そしてさらっとアウルに魔力弾をくっつけていつでも爆破できるようにするウサトでした。
次回の更新は明日の18時を予定しております。
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