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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十四章 出張救命団 魔王領編
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第三百三十六話

お待たせしました、

第三百三十六話です。

 目を覚ましたシアから聞かされた話は予想を大きく超えたものだった。

 カームへリオの片田舎の村に住む彼女の身に起きた悲劇。

 ヒサゴさんという過去の亡霊の意思に抗うこともできないままに、彼女はこの魔王領にまでやってきたという。


「はじめまして、私、ウサトさんの一番弟子のキーラと申します!!」

「う、うん? オレはシア・ガーミオ。……よ、よろしくね?」


 当の彼女はキーラと自己紹介を交わしているが、一応は落ち着いてくれているようだ。

 しかし、一番弟子か……。


「キーラ、残念ながら一番弟子は君じゃないんだ」

「……えっ……」


 いや、そんな絶望の顔をされるとは思いもしなかったんだけど。


「私が一番じゃなかったんですか……?」

「ナックって男の子がいてね。年も君に近いよ」

「……むむむ」


 焚火の一点を見つめ、下唇を噛みながらふるふると震えるキーラ。

 あれかな? 一番弟子がよかったのかな?

 子供らしい様子を見せるキーラに微笑ましい気持ちになっていると、誰かのお腹が鳴る音が聞こえてくる。

 音の方を見れば顔を真っ赤にさせたシアがお腹を押さえている。


「……ゴメン、昨日から何も食べてなくて……うぅ」

「いや、気にしなくていいよ。キーラ、夕食の準備をしよう」

「ハイ……!」


 あれだけの戦闘があった後だ。

 僕もお腹が空いていることだし、詳しい話は夕食を作った後に聞けばいい。



 周囲が完全に暗くなったところで僕達は簡単に作った夕食を食べていた。

 簡単といってもキーラのマントで持ってきた肉、魚や野草を鍋にいれて味付けをしたものだ。本当はここまで豪勢なものにするつもりはなかったけれど……シアの精神状態からして少しでも元気を出せるように、僕とキーラで作ったのだ。


「美味しいですか? シアさん」

「ありがとう。キーラ。……温かい食事なんて、久しぶりだ」


 今は落ち着いたのか器によそった鍋を感慨深そうに食べているシア。

 起きた直後は僕から離れようとしなかった時はどうしようと思ったが……今は大分落ち着いてくれている。


「君がここにいたのは悪魔を追ってきたってことなんだね」

「……うん、なぜか悪魔の居所はなんとなく分かってたから」


 ……なら、悪魔が魔王の力を狙うためにここに来ていたってことか。

 悪魔が魔王の力を回収するタイミング、シアが悪魔を倒そうとするタイミング、そして僕がその場にやってきたタイミングが偶然合致してあんな状況になったってことか。

 ……二重の意味で間一髪ってところか。


「どうやってこの毒の霧を抜けてきたんだ? ここまで我慢してこれたってわけじゃないだろう?」

「光魔法を纏って毒を相殺してた。でも悪魔と戦っている間に魔力がなくなりかけて、オレ……」

「それで僕が現れたのか……」


 ギリギリのタイミングだったな。


「あの悪魔は、君が倒したの?」

「いや、とりあえずボコボコにして撃退したけどまた戻ってくるかもしれない」

「すごかったです。悪魔さんより悪魔してました」


 ものすごいウキウキした様子のキーラの声に密かにダメージを受ける。

 ネアやフェルムのように悪意がない分、良い感じのブローを放ってきやがるぜ……!!


「あんなに強かったのに……」

「あー……僕はああいう相手に慣れてるから。基本的に精神に影響を及ぼす能力は効かないんだ」

「へ、へぇ……。……え、いや、なんで?」

「色々あってね」


 具体的には救命団で鍛えられた後に、サマリアールで三桁くらいのド級の精神攻撃を食らい続けた結果だ。

 なのでそういう攻撃には慣れてしまっているので、多分魔王クラスじゃないとほぼ影響は出ない。


「……オレ、今まで二体の悪魔を殺してきたんだ。最初が女で、もう一体がミアラークで……」


 ……ミアラーク?


「そうか。あの時、ラプドを消滅させたのは君だったんだね。もしかして、系統強化の暴発をしていたのも?」

「……悪魔を殺すために、系統強化をしなきゃならないから……」


 僕が傷をいやした時の傷は、あの時点で悪魔を一体消滅させていたからか。

 これまでの話を聞く限り、彼女の意思ではなく悪魔を殺さんがために無理やり系統強化を使わされた感じだろうな。

 ……僕は回数をこなすごとに慣れたが、普通の女の子だったシアにとっては辛いはずだ。


「ウサトが、置いてくれたんだよね?」

「?」

「治癒魔法の、スライムみたいなやつ」


 ……あっ。

 弾力付与で包んだ治癒魔法弾か。


「君が使ってくれたのか……」

「あれのおかげで、傷も治せたし……本当にありがとう」


 意図しない形で傷を治していたってことか。

 使われるとは思わなかったけど、結果オーライだな。


「ウサトさん、治癒魔法のスライムってなんですか?」

「ん? ああ、これだよ」


 不思議そうに首を傾げるキーラに、掌で作り出した治癒弾力弾を渡す。

 弾力付与で包み込んだ治癒魔法は、ゼリーのように柔らかく治癒魔法の効力を放ち続ける。


「ウサトさん、これのおっきいやつを作れますか?」

「一応聞いておくけど、なんで?」

「抱き枕にします」


 新商品かな?

 治癒魔法効果のある抱き枕とか需要半端ないと思うけど、弾力付与の持続時間に問題があるからな。


「それはちょっと無理そうだね」

「じゃあ、ウサトさんに添い寝してもらえば同じ効果が……?」

「キーラ? 遠隔から先輩の影響を受けてない?」


 その台詞は先輩を彷彿とさせる危険なものを感じ取ったのだけど。

 冗談だよね? いや待て、親の愛情を受けることがなかったこの子にとってはとても切実な台詞なのでは?

 どんな言葉をかけていいか分からず思考がドツボに嵌る。

 当のキーラは治癒弾力弾をお餅のようにいじりながら遊んでいる。


「……ウサトの近くだと、勇者様の声が静かになる」

「……なんで?」

「分からないけど……多分、魔王に勝ったからだと思う」


 魔王に勝った、か。

 彼の記憶を有しているということは、彼自身の感情の影響を受けているといってもいい。


「ということは、今は大丈夫なんだね?」

「……うん。この後、どうなるかはオレにも分からないけど」


 ……なるほど。

 問題はヒサゴさんの記憶の影響を受けている彼女をどうすればいいか、だけど。


「手っ取り早いのは魔王に任せるということだけど……多分、駄目だよね?」

「……魔王と相対したら、殺しにいっちゃうかもしれない」

「だよね。それは分かる」


 衝動は消えたといっても実際に魔王を目の当たりにして影響を受けないはずがない。

 そもそもあの人、今は丸くなっているけど封印される以前は暴虐の限りを尽くしていたからな。


「じゃあ、ファルガ様だな」

「ファルガ様? ……あ、あのでっかいドラゴンって今もいるのか!?」

「……そういえば、公にはなっていないんだったか」


 各王国の重要人物には広まってはいたけど、一般的にはまだファルガ様の存在は隠されたものだった。

 だけど、あの方ならばきっとヒサゴさんの記憶をなんとかする方法を見つけてくれるはずだ。


「特殊って言葉が付くけど、こう見えても顔は広いつもりだ。……君の置かれた状況をなんとかできる人? ……人を紹介することができる」

「……なんて言ったらいいか……」

「君は巻き込まれただけだ。この件に関しては百パーセント……いや、百二十パーセントヒサゴさんが悪い」


 彼の境遇は知っている。

 どんな仕打ちを受けたのかも知っている。

 その末に至った結論も、この時代に課された試練についてもギリギリ許容する。

 だけど、なにも関係のない平和な日常を生きていた彼女に自分の不始末を押し付けるのは間違っている。


「……いや」


 晩年で自らの所業を悔いて魔王、ひいては悪魔を殺すための記憶と光魔法を残したのか……?

 彼の意思はそこまで弱いものだったのか?

 少なくとも魔王に見せられた過去の記憶の中の彼の覚悟は常軌を逸したものだった。


「ウサトさん?」

「ウサト?」

「……朝になったらここを出発してコーガ達と合流する」


 ヒサゴさんの記憶と魔法は本物だ。

 だが、なにかが嚙み合わない。

 僕には、あの人が……ヒサゴさんがこのような中途半端なことをするとは思えない。

 これを確かめる術は、ヒサゴさんのことをよく知っている魔王とナギさんに聞かなければならないな。


「訓練も切り上げて魔王に報告しに行く、シア、君も一緒に来てくれ」

「……わ、分かった」

「よし」


 持っていた器を置き立ち上がった僕は団服に袖を通す。


「キーラ、シアと一緒にいてあげてくれ」

「ウサトさんは?」

「僕は遺跡の奥を確認してくる」


 多分ここに魔王の力の断片がある。

 悪魔が狙っていると分かれば、確実に回収しておきたい。


「お、オレもついていくよ」

「え?」

「オレだけじゃ不安だし。いつも一人だったから、キーラちゃんを守れるか心配なんだ」


 一瞬、魔王の力の断片を彼女に見せてもいいのか、と思い悩んだがシアの立場を考えれば不安なのは当然だ。


「分かった。じゃあ、一緒に行こうか。……キーラ」

「はいっ」


 キーラが自身の闇魔法のマントに潜り込み、僕の肩に移動する。

 どっちにしろ遺跡の中は昼間でも真っ暗だったので、夜入ったとしても関係ない。


「わ、私、光魔法を持っているから役に立———」

「治癒弾力弾」


 手の中に作り出した治癒弾力弾を放り投げる。

 今まで目くらまし程度にしか活用しなかったが、治癒魔法は物理的に光る。

 足元が照らされたことを確認した僕は、さらに治癒弾力弾を掌に作りながらシアへと振り返る。


「これで足場も照らせるし、目印にもなる。名付けて、治癒導(ちゆしるべ)だね」

「……。ち、治癒魔法って、そういう魔法なの?」


 引かれてしまった。

 まあ、僕が特殊な使い方をしているだけなので、誤解の方は後で解いておこう。

 今はこの遺跡の奥———魔王の力の断片を見つけ出さなければならない。

一番弟子が良かったキーラでした。

ナックに対してライバル意識を抱いている……かも?


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誰かキーラに「一番弟子」はただの弟子になった順番だって教えてあげて……! 絶対勘違いしてる!
[一言] だ、ダメよ!ナックにはミーアがいるの!!キーラの入る隙なんてないんだから!!弟子同士のマウント合戦の末に的な可能性を危惧した俺の心の声
[一言] >「キーラ? 遠隔から先輩の影響を受けてない?」 雷魔法で脳神経の電流を擬似的に再現して特定の思考に誘導……犬上パイセンならやりかねない
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