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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十四章 出張救命団 魔王領編
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第三百三十五話

お待たせしました。

第三百三十五話です。

 魔王に頼まれ目的のものを回収しに向かった先で遭遇した悪魔。

 そいつを撃退したその後に僕はシアの治療を行いながら、この正体不明の遺跡に入り込んだ。


「結局、暗くなってきちゃったか」


 徐々に暗くなっていく周囲を見回し、小さく呟く。

 ここで安静にし、シアの目覚めを待っていたわけだけど彼女は深い眠りの中におりすぐに起きる気配はない。

 しかし、だからといってこの場にキーラとシアを置いて移動するという選択肢はない。

 まだ治癒感知の範囲で安全が確認できるわけだし、なによりまた外から悪魔が襲い掛かってこない保証はない。


「大分、うまくなってきたね」

「えへへ」


 最悪、一旦戻って出直す選択を考えながらも、すぐ隣で魔力回しをしているキーラの訓練を見る。

 速さはないけど、淀みなくスムーズに動く闇魔法の魔力。

 普通ならどうしても詰まったりするものだけれど、キーラは自然に魔力を循環させていく。


「最初は手。次に体全体に魔力を循環させていく感覚をつかめればできることがもっと増えていくはずだよ」

「ウサトさんはどれくらいできているんですか?」

「僕かい?」


 僕は誰よりも長く魔力回しをやっているからね。

 その熟練度も高い自覚はある。


「なにも考えずにできるくらいだね」

「……えぇと、それってどういう……」

「意識して魔力回しをするんじゃなくて、常に魔力回しをしている感じ。まあ、これができるようになったのは最近だけどね」


 気づいたら常時体に魔力が循環している状態でいられるようになれたというべきか。


「私にもできるでしょうか……」

「できる、とは言ってあげられない。この訓練に近道はないからひたすら地味な工程を何度も何度も続けていくことが大事なんだ。……でも、絶対に無駄じゃないってことは言えるよ」


 意味のない訓練はない、と僕は考えている。

 無駄と、不要と切り捨てる人もいるかもしれないけど少なくとも僕がここまで成長できたのは、師匠であるローズの教えと積み重ねてきた訓練の成果とも言えるからだ。


「魔力回しはまだまだ開発の余地がある技術だ。使える人が増えれば、できることもどんどん増えていくことだってある。君も広い視野を持って自分だけの技術を見つけていくといい」

「……はいっ」

「いい返事だ」


 そろそろ暗くなってきたのでキーラのマントから取り出してもらった薪に火をつけ、焚火を作る。

 ウルルさんに持たされた荷物がこんな形で役に立つとは思わなかった。


「悪魔さんって」

「ん?」

「本当にいたんですね」

「あー、そうだね」


 この前の会談で存在こそは公になったけれど、そりゃ実際に見ないと実感が湧かないよな。


「ウサトさんの方がずっと悪魔っぽいと思いました」

「キーラ……?」

「あっ、悪く言ったつもりはないんです。でも、なんというか、そのフェルムさんと同化して戦ってる時の姿とか……その、私の想像する悪魔に大分近かったので……」

「そ、そういうことか……」


 デビルウサトなんて名前ができるほどだからな。

 文字通りの悪魔じみた姿だけれど、多分あれも悪魔に恨まれる一因を作っているんだろう。


「今回のウサトさんの戦いは凄かったです」

「突き詰めれば治癒魔法で殴って気絶させないようにしていただけだけれどね」

「囲まれても尚、余裕がありました」

「……そうだね」


 分かる、ということは武器だ。

 それを治癒感知を会得してから強く実感した。

 実戦で使う度に考えさせられるけど、僕が想像している以上の武器になっているのかもしれない。


「あの闇魔法使いの双子は、意識があれば厄介な相手だったけれど……操られたままじゃその人本来の力を発揮することができないんだろう」


 あの闇魔法の特性は“糸”。

 触れたものを傷つける糸を作り出し、それらを操る。

 生まれたときから一緒の双子だからこそ目覚めた力で、生前の彼女たちの絆の証ともいえる。


「悪魔は亡骸を操る。僕の先達にあたる人たちも今、その能力の影響下にあって……無理やり戦わされている」

「……許せませんね。私もあの双子の方たちを見ていましたけれど、可哀想です」


 現状で悪魔からアウルさんを解放する術はない。

 できることなら、彼女を団長に会わせたい気持ちはあるけど……今のところそれは難しい。


「……話題を変えようか」

「そうですね。あ、私、ウサトさんに言っておきたいことがあったんです」

「なにかな?」

「ウサトさんが訓練をしている方のことなんですが……」


 エルたちのことかな?

 なにか気になったことでもあったのだろうか? と、首を傾げると彼女はやや深刻な顔で言葉を発した。


「ヴィーナさんって時々ウサトさんを見る目が怪しいです」

「……。うん、知ってる」

「あれはよからぬことを考えている目です」


 でも、逸材ではあるんだよなぁ。

 なんだかちょっと変な雰囲気はあるけど精神面は単純に強い。


「彼女は僕の訓練を喜んでいる……ところはあるんだろうけど、単純に慣れているんだろうね」

「それってかなり異常ですよね?」

「……」


 今さらっとキーラが本音を口にしたような気が……。

 思わず彼女を見るときょとんとした様子で首を傾げている。

 む、無自覚……!


「精神を鍛える訓練をしてきたか、それとも似た経験をしてきたか……どちらにせよ、変な人には変わりないか」

「要注意です。邪な気配を感じます」

「そこまで言う……?」


 いや、色々な意味で怪しい人なのは確かだが。

 そもそも気配が魔族っぽくないんだよなぁ、見た目は魔族なんだけど……なんでだろ。

 まあ、正体がなんであれ僕の部下になったのなら関係なく訓練に参加してもらうけれども。


「ウッ……ウゥ……」


 シアが悪夢にうなされたようにうめき声を漏らす。

 ……毒で傷ついた体も全て治癒魔法で癒したけれど、やっぱり精神的な問題を抱えているのか?

 一応、容体を見ようと近づくと、うなされた彼女が無意識に焚火へと手を伸ばそうとしていることに気づく。

 さすがに火傷するような距離には寝かせていない、が。


「……大丈夫」


 精神的なケアも治癒魔法使いの役割のようなものだ。

 治癒魔法を纏わせた手で彼女の手を取ると、うなされた表情は次第に穏やかなものに変わっていく。


「ウサトさんは、この人とはお知り合いなんですか?」

「まあ、そうだね。話したのは一度だけだったけど……」


 ミアラークの街中で見かけ、その数日後で話しただけだ。

 オレ、という男勝りな不慣れな呼称を口にした彼女は、謎の多い少女だった。

 正直今でも謎でしかないけれど……。


「血が滲んだ包帯……」


 彼女の手には未だにそれが巻かれていた。

 一度水で洗っていたのか血はほとんど落ちているが、これではまるで……。


「また系統強化を暴発させることが分かっているみたいな……」


 ……考えすぎか?

 手を見る限り、あれからは暴発をするような危険なマネはしていないように見える。


「そもそも、この人はどうやってここに来たんでしょうか」

「この毒のある場所にいたのもそうだし、魔王領にいるのもなぁ」


 本当にどうしてだろ。

 魔王領に入るための橋と、めぼしい場所は見張られているはずだからそう簡単に入れないはずだ。

 しかも彼女を最後に見たのはミアラークだ。

 そこから今日まで大体、二か月以内の期間しかないはず……もしかしてミアラークと獣人の国と経由してここまで来たのか?

 ……何故? どういう目的で?


「まず話を聞かないと始まらないか」

「……んぅ……」

「ウサトさん、起きそうですよ」


 意識が目覚めようとしているのか、目をうっすらと開けるシア。

 ぼんやりとした様子で、虚空を見つめた彼女は瞳に涙を浮かべ、か細い声を発した。


「助けて……」

「分かった」

「———っ」


 迷いなくそう答える。

 彼女はミアラークで初めて会った時点で助けを求めようとしていた。

 それに気づけなかった大馬鹿野郎が僕だ。


「……うぁ……ぁ……」


 耐え切れなかったのか、起き上がった彼女が勢いのままに僕に抱き着く。

 まるで子供のように泣き出した彼女の背をさすりながら、彼女の身に起こっている事態がどれだけ深刻なものかを察するのであった。

キーラから見ても変人認定のヴィーナでした。


次話はシア視点の閑話となります。

更新は明日18時を予定。

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― 新着の感想 ―
[一言] 数百人の大人の説得よりも、純粋な幼児の一言のほうが効きますよねw
[気になる点]  >精神的なケアも治癒魔法使いの役割のようなものだ。 ………え? 部下達は今頃精神を削がれまくってますが?
[一言] ウサト君、カッコいいなぁ… さて、次はどんな変態技が出るんだろうか? そろそろ、足からかめはめ波みたいなことしてもいいのよ?
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