第三百二十五話
お待たせしました。
第三百二十五話です。
今回はエル視点でお送りします。
治癒魔法使い、ウサト。
奴と関わった出来事は四度。
一度目はまだ魔王軍があった頃、リングル王国への二度目の襲撃が失敗に終わり敗走した後のことだった。
二人目の戦場を駆ける治癒魔法使い。
煙のように消え、風のように速い人間のようななにか。
治癒魔法で殴ってくる意味不明な敵。
奴のことを語る者は多かった。
意識が飛ぶほどの攻撃を受けたにも関わらず生きている。
刻み付けられているのは、白い装いを纏ったなにかに気絶させられた記憶だけ。
なぜ、生きているか……その理由は後々、奴が治癒魔法を使って兵士たちを無力化しているからだと判明こそしたが、当時はそれで一種の混乱状態に陥ってしまったことは今でも記憶に残っている。
二度目はアーミラ姉さまと共に獣人の国、ヒノモトへ向かった時だ。
その際は奴はコーガ元軍団長と激しい戦いを繰り広げたそうだ。
コーガは適当だし、仕事はしないわで、特に尊敬してはいないけどその実力は魔王軍内でも随一だ。
その強さを認めているからこそ、私も部下として一応いるわけだが……まさか、あのコーガが好敵手と見定める時点で異常とも思えた。
三度目、最後のリングル王国との戦い。
奴は前回の戦いの時以上の暴れっぷりを見せたらしく、第一軍団長のネロ様と戦って生きていただとか、そのままコーガとの連戦で怪物に変貌していただとか、挙句の果てには異形の力で第三軍団長のハンナを捕まえただとか、幻覚か事実かも判断できない荒唐無稽な話を聞かされた。
実際に戦ったコーガからは闇魔法使いの力を借りていると聞いたけれど、それだけ聞いてもちっとも意味が分からない。
そして、四度目。
魔王城にきて私……いや、私たちはここで初めて奴と真正面から戦うことになった。
魔族の身体能力を真っ向から上回るバカげた身体能力。
速さに自信を持っていた私に容易く追いついた瞬間、その時ようやく仲間たちが言っていた“怖さ”を理解できてしまったのだ。
「エル……生きてるかぁ……」
「……死んでる」
目が覚めて最初に感じたのは自分の身体と精神の乖離。
身体は疲れてないのに、起き上がる気力がない。
視界を動かすと、私からそう離れていない場所に同僚の二人の兵士———ケヴィンとウォルも私と同じように倒れ伏している。
「今、どういう……状況?」
「あの後結局触れることすらできずに気絶。最後にお前だけ残ってたけど、どうだった?」
「……くっ」
「その様子じゃダメだったみたいだな」
思い出してきた……!!
あの治癒魔法使い……ウサトを意地でも捕まえるために飛びかかったが結局、触れることすらできずに私は気絶してしまったんだ……!!
「あいつは……?」
「あそこだ……」
みじろぎしてケヴィンが顎で指示した方を見れば、そこにはコーガと戦っているウサトの姿が視界に映り込む。
『オラァ!! 治癒爆裂弾!!』
『その技は見たぜ!! 破裂する前に投げ返せばいいだけだろうが!!』
『ならば治癒爆裂波で相殺!!』
なにあれ……。
治癒魔法が爆発してる……?
破裂した治癒魔法がこちらにまで風圧と治癒魔法の粒子を飛ばしてくる。
目元に手をかざしながら見ると、ウサトの頭上からコーガが闇魔法を変化させた爪で襲い掛かる姿が見える。
『治癒感知の前では僕に不意打ちは無意味!!』
『だよなぁ!! 知ってるよ!!』
空中で激突する銀色の籠手と黒色の爪。
金属音を鳴らし、間髪を容れずに激しい格闘を繰り広げる。
『暴発に弾力!! 全部お前から学んだ技術だぜ!!』
『応用は僕の方が上だ!! いくぞ、治癒連撃拳!!』
『ゲッ!?』
コーガの攻撃を弾いたウサトが腕に緑の魔力を宿す。
その光を見て、コーガが身構えた―——次の瞬間には、下から放たれた横蹴りが直撃し奴の身体をふき飛ばす。
『げはぁ!? 拳じゃねぇ!? ちょ、直前まで連撃拳だっただろうが!!』
『引っかかったなァ!! 魔力回しにはこんな使い方もある!!』
『ぐっ、ハハッ! ああ、それもしっかり覚えさせてもらったぜ!!』
『なにぃ!?』
それから互いの魔法の、いや魔力の形状、質が瞬時に変わり目にも止まらない攻防が交わされていく。
この一瞬でいくつもの駆け引きが起こったの……!?
駄目だ、今の私の目じゃ追いつけない……!!
「なんで、あいつあんなに元気なの……?」
「俺もよく分からないよ……!!」
だって、さっきまで私達相手にあんだけ動き回って……しかも魔力もそれなりに消費しているはずなのに……。
これが、奴……いや、奴らと私の実力差ってことなの?
「やばい、あの治癒魔法使いやばい」
「……」
「くっ、ウォルは完全にのびてる……!!」
ウォルは細かく動くことに慣れていなかったから、それだけの疲労ってことか……。
「あちゃー、貴方達大丈夫ですか?」
ようやく体を起こせるくらいにまで気力を回復させた私とケヴィンの元に、ハンナ元第三軍団長とウサトと共にいた黒髪赤目の女が近づいてくる。
「……ハンナ、元第三軍団長?」
「もう肩書もないのでハンナさんでもいいですよ? 軍団長なんてもう意味ないですし」
私たちの様子をしゃがんで確かめた後に立ち上がった彼女は呆れた様子で、ウサトとコーガを見る。
「まだ訓練場に収まっているレベルなので咎めたりはしませんが……やっぱり改めて見てもおかしな動きしてますね」
「ウサトも口ではいろいろ言っても、似た者同士ですし普通に楽しんでいるんでしょうねぇ」
二人の会話を聞き、改めてコーガとウサトを見る。
今日この日まで鍛錬をしてきて自分でも腕を上げたと思っていたけど、それは全部思い込みだった。
私はまだまだ、全然、ちっとも強くなんてなかった。
それがたまらなく悔しい。
「……」
「ネアさん? どうしましたか?」
私達相手に本気を出す必要すらなかったってことか。
訓練の効率性だけで治癒魔法を施すというハンデを受けてもなお、その本気を引き出せなかった。
「エルって言ったかしら?」
「……なによ」
黒髪の女が声をかけてくる。
「さっきのアレ。あの人にとってはほんの小手調べにすぎないわよ?」
「なんですって?」
「まずは貴方たちがどれだけできるか確認したんでしょうね」
聞いていたケヴィンが「嘘だろ……」と声を漏らす。
それに対して私は、俯き拳を思い切り握りしめる。
「でなくちゃ、今頃暢気に気絶できるはずないもの」
「なに、脅してるの?」
「私は事実を話しているだけよ。でも……そうね、忠告しておくわ。彼をあまりその気にさせない方がいいわよ?」
地獄を見るから、とあざ笑うように言い放った黒髪の女はどこか頬を引きつらせたハンナ様と共にこの場を離れる。
『あの、今の脅しですか?』
『ちょっと発破をかけてみたの。あの子、根性ありそうだし』
『そ、そうだったんですか。あ、じゃあ、さっきのは冗だ———』
『いえ、普通に冗談じゃないわよ? あの人、本気にさせたら大変なことになるわ』
……上等よ。
つまり今の私達相手じゃ本気を出す必要もないってことね。
それじゃあ意地でも引き出してあげるわ。
地獄でもなんでもかかってきなさい……!! 私は、絶対にそれを乗り越えてやるんだから!!
次回日記回となります。
エルが荒ぶったりする七日間……!!
次回の更新は明日の18時を予定しております。




