閑話 帰りの一時
お待たせしました。
三日に分けて、三話ほど更新する予定です。
今回は閑話となります。
アーミラ視点です。
魔族にとって今回の会談は特別な意味を持つものであった。
人間達が持つ魔族への認識と、魔族が現状置かれている状況などを議題として今後の魔族の扱いを決定させるもの。
結果としては上々なのだろう。
未だ魔族に対しての不信感は残ってはいるものの、多少の理解は得られた。
そして、私達はまた魔王領へと戻るために、船に乗り二日間の短い旅路を送ることとなった。
「魔族はこれからどうなってしまうんだろうな……」
船内を歩きながらふと、そんなことを呟く。
本来は魔王様の元で護衛としての任を果たさなければならないのだが、当の魔王様に「護衛はいいから、お前は休め」と仰せつかってしまった。
働きづめの私を気遣ってくださった言葉だということは分かっているので、それほど衝撃はなかったが、私はコーガほど気楽な性格でもないので、どこか消沈としながら船であてがわれた自室へと向かって歩いていた。
「……ん?」
甲板に誰か座っている?
頭にフクロウを乗せ、胡坐を組むようにしているその後ろ姿がすぐに誰か分かった私は、なんとはなしにそちらへと向かってみる。
「アーミラさん?」
「っ!?」
そう呟いてからこちらを向くウサトに驚く。
気配を感じとられた……のか? いや、それもあるのだろうが、私の姿を確認する前から私だと気付いていたな……。
「どうしましたか?」
「通りがかりだ。……お前は、こんなところで何をしているんだ?」
「ネアが魔力感知のことをよく知りたいらしくて、ここで実践しているんです」
『ボクもいるぞー』
甲板なら人の邪魔にもならないからか。
……今更な話だが、本当に不思議な奴だな。こいつ。
「訓練熱心だな」
『訓練大好き人間なだけだ』
同化を解いたのか、フェルムがウサトから出てくる。
そのまま甲板の手すりに背を預けている彼女に、ウサトが声をかける。
「いや、今回に限ってはネアからのお願いだぞ。僕は部屋で本読んでただけだし。というより、君、いつの間にか同化してたよね」
「は、はぁ? 許可とったぞボクは」
「そうだっけ……?」
僅かに視線を斜めに向け、自身の銀髪をいじりながらそう言葉にしたフェルムにウサトが首を傾げる。
「うーん。僕が聞き流しただけか」
「うん、そうだろ」
……絶対違うだろ。
同化に躊躇しないフェルムと、全く気にしていないウサトを見て若干引いていると、フクロウから人型となったネアが呆れたように肩を竦めた。
「貴方の魔力感知の範囲は広くて半径10メートルくらいね。時間が経てば風の影響も受けるだろうけど、その範囲内なら貴方はあらゆる生き物の存在を感知できるし、移動する無機物にも反応することができるわ」
「結構、狭いな……」
「いや、狭くはないと思うんだが」
少なくとも拳での戦闘を主とするウサトなら十分な範囲だ。
私からすれば、驚異的な反射神経と近接戦闘能力を持つウサトが、敵の接近と攻撃を完全に察知する術を持っているのは相当厄介だ。
「そこまで悪魔が近づかなければ分からないってことにもなりますから……うーん、あ、そうだ」
何かを思いついたのか、ウサトが掌に魔力弾を作り出す。
魔力弾の上に、さらに魔力の膜のようなものを覆った彼は、それをフェルムへと渡す。
「フェルム、これを持って僕から離れてくれない?」
「なんだこれ」
「治癒爆裂弾」
「なんてもの持たせてんだお前ぇ!?」
物騒な名前の魔力弾を受け取りながら、声を荒らげるフェルム。
「いや、爆裂弾といってもそこまで威力はないよ。そのまま魔力が軽く拡散するだけだから。それを僕から離れたところで、地面に叩きつけて割ってくれ」
「本当だよな? 危なくないんだよな?」
念を押しながら私達から10メートルほど離れた彼女は、そのままおっかなびっくりとしたまま、手に持った魔力弾を床へと叩きつけた。
ぱーん、という小さな破裂音と共に、魔力弾が割れ中から粒子が宙へと四散する。
「フッ……なるほど」
目を閉じていたウサトがにやりと笑う。
「ネア。僕はまた新たな技に目覚めてしまったようだ。名付けるなら……そう、治癒センサ……」
「これって治癒魔法弾を投げただけでもできるし、名前つけなくてもよくない?」
ネアの言葉にうなだれるウサト。
治癒魔法の範囲が及ぶ範囲、それも投げた魔力弾が着弾した場所も範囲内と認識されるとは……とことん、悪魔を追い詰めることだけを突き詰めた技になってきているな。
師匠の技術を会得し、魔法の奥義を身に着けた今になって、まさか人間から学ぶことがあろうとは……。
「その魔力回し、なにかコツとかあるのか?」
「コツですか? うーん、変に意識しないことですね」
少し踏み込んで聞いてみると、彼は腕を組んで悩む。
一度、周りを見て頷いて見せた後に顔を上げる。
「体全体に流れる魔力を川に例えると、作り出した魔力弾は船。船は行き先を促すだけで、前に進めるのは川の流れってイメージすると、やりやすくなるかもしれません」
「ふむ。感謝する」
つまり、移動させる魔力弾はあくまで目安で、重要なのは魔力の流れそのものというか。
魔力の流れを加速させ、魔力を感じ取る能力そのものを発達させる術。
それに至るまでは、かなりの練度が必要だが……面白い。
「話は変わるが……」
「はい?」
ふと、尋ねようとしたことを思い出し、この場で訊いてみることにする。
「お前は近いうちに魔王領に来るというが、何をするかは聞いているのか?」
「大まかには。現地での報告と、魔族の皆さんの支援……ですね」
悪く言えば監視だろう。
言葉を選んだことをなんとなく察した私は、深くそこを追求せずに話しかける。
「私としては、身元の知らない者よりかは、お前が来た方がやりやすい。反対はしない」
「はは、ありがとうございます」
「混乱は起きるだろうがな……」
「でしょうねー……」
都市での戦いで、兵士達はウサトを悪魔と勘違いしているからな。
ハンナも、一時はトラウマになっていたし。
あいつは明確にウサトに苦手意識があるので、派遣の話を知れば恐々とすることだろう。
「僕としてはキーラに……ああ、旅の途中に会った闇魔法使いの子に会わなくちゃいけないので、どちらにせよ魔王領にはいくつもりでしたけどね」
「闇魔法使いの子供か? その……大丈夫なのか?」
闇魔法使いの子供といえば、精神的に不安定だ。
なにかの拍子で闇魔法が暴走する危険がないか心配するが、ウサトは苦笑しながら首を横に振る。
「心配ないですよ。今はちゃんと闇魔法を自分のものにしていますし、なんならコーガに闇魔法の教えを受けにいくくらい熱心な子でしたから」
「そうなのか……」
「なんで熱心なのかしらねー……」
「しっかり、引き寄せてるなこいつ……」
なにやらフェルムとネアがひそひそと何かを話しているのが気になったが……こいつは闇魔法使いになにかしらの影響を与える能力でもあるのだろうか……。
「あとネロ・アージェンスさんと話をしてみたいですね……」
「……師匠に殺されかけたと聞いていたが、大丈夫なのか?」
そんな質問をする私にウサトは一瞬きょとんとした顔を浮かべる。
「ははは、そんなの団長で慣れっこですよ」
「……フッ、なるほど、そういうことか。おかしなことを聞いてしまったな」
私も師匠との訓練で死を覚悟したことは何度もあったからな……。
ウサトも同じならば、先ほどの疑問は意味のないものだったな。
「待て、噛み合うはずがない会話が噛み合っているぞ」
「やばい師匠を持っているって点で、似た者同士なのね……」
規格外の師を持つ者同士。
それも互いが因縁があった者と思えば、思うところもないわけではないが……。
「結局、お前と戦うことはなかったな」
「え、魔王城で戦ったじゃないですか」
「あんなものは戦いに入るものか」
むしろ、その後のレオナとの戦闘が本番だろう。
存在こそはリングル王国の二度目の侵略の際に知っていたわけだが、結局はウサトと戦うことなく戦争が終わってしまった。
戦争を続けたかったわけでは断じてないが、武人としては常識外の治癒魔法使いとの戦いをしてみたかった心残りはある。
「魔王領に来たら手合わせでもしてみるか?」
「殺し合いじゃなければ全然いいですよ?」
「決まりだな」
あとの楽しみができたな。
すると、床に座っているウサトにネアが話しかけている。
「いいの? そんな安請け合いして」
「命の取り合いじゃなくて手合わせだからね。魔族との交流の一環にもなるし、断る理由もないよ」
……私もそろそろ部屋に戻るか。
そう思い、背を預けている手すりから身体を離し、歩きだそうとすると、すぐ傍で私の顔を見上げているフェルムに気付く。
やや身長の低い彼女が、じとーっと私を見ていることに動揺する。
「な、なんだ、フェルム」
「よし、お前は違うな」
「……なにが?」
「ボク、初めてお前が男勝りの脳筋剣士でよかったと思った」
「いくらなんでも酷くないか……?」
かつてないほどの侮辱をされたんだが。
しかも本人はその自覚がないという事実に私は、怒っていいか落ち込んでいいのか分からなくなるのであった。
とりあえず誰かいそうなところに治癒魔法ぶん投げれば、位置と数を把握できるようになりました。
これで目の届かないところにいる怪我人を見つけられるようになりましたね……!
次回の更新は明日の18時を予定しております。




