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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第十三章 大規模会談、悪魔の暗躍
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第二百八十六話

お待たせしました。

第十三章開始です。


今回は三日に分けて三話ほど更新する予定です。

 悪魔が実在する。

 墓地でコウモリの翼を持つ正体不明のなにかと遭遇したことを報告した数日後、ファルガ様からその事実を聞かされた。

 散々、化物だ悪魔と言われてきた僕だがさすがにこの事実には驚いた。

 なにせこの世界でも悪魔は空想上の生物だと思い込んでいたからだ。

 でもよく考えればここは吸血鬼やドラゴンのいる世界、悪魔くらいはいても不思議ではなかったのですぐに冷静になれた。

 でも、その冷静さはすぐにファルガ様の次の言葉により乱されることになった。


『———墓を掘り返してくれ。全てではない、リングル王国において名を残した強き者が眠る場所をだ』


 その言葉に驚いたのは僕だけではない、共に広間にやってきたローズも腕を組んだまま目を見開いていた。

 悪魔の目的―――それは僕とローズを監視するためではなく、僕達がやってきていた墓地にあるのかもしれない。

 亡骸がどこかに持ち去られる。

 そんなゾッとする話を聞いたロイド様は悲痛な面持ちのまま、墓に眠る方々を調べるように指示を出した。


『———ウサト、お前は戻ってろ』


 その中には、恐らくアウルさん達もいるのが分かっているのかローズは静かに、感情を押し殺すようにそう言葉にしたのだ。

 思わずこれから墓場に向かうであろう彼女に付き従おうとするが、ローズの内心を考え大人しく引き下がることにした。

 遺族への許可と説明。

 それらを話し合うべくあわただしく動き出す広間を見た後に、僕は退出することになった。



 城から宿舎に戻り、部屋の中で一人思考に耽る。

 夜も暮れているが、まだローズは帰ってきていない。


「悪魔、か」


 僕達を見ていたのが悪魔だというのなら、目的はアウルさん達の亡骸だったのか?

 だとしても、なんのために?

 考えるのも悍ましいけれど、なにかに使うため?


「いきなり、悪魔とか言われてもなぁー」

「なに今更、自分のことで悩んでいるのよ?」

「っ!?」


 後ろからの声に振り向くと、すぐ後ろにネアがいた。

 い、いつの間に部屋に入って来ていたんだ?


「ノックぐらいしてよ……」

「いや、したわよ。気配でいるのは分かってたから、忍び込んだのよ」

「あ、そう……待って、なんでだ?」


 忍び込む必要ある?

 いるのは分かっているから忍びこむってどういうこと?

 前半と後半の言葉が繋がらないことに首を傾げていると、ネアは苦々しい顔をしながら机の上に魔具で明かりを点ける。


「もう、なんでこんな部屋を暗くしているのかしら?」

「ちょっと考え事をしててね……って、自分のことで悩んでいるってどういうことだよ」

「え、悪魔のことを考えてたんじゃないの?」

「悪魔=僕という考えをまずやめようか……!」


 こいつ本当にそう思っているぞ……!?

 ……いや、ネアになら話してもいいかもしれないな。

 今まで忘れてたけど、この子吸血鬼でありネクロマンサーだ。

 悪魔のことは他言はしないように口止めはされたけれど、この子は僕の使い魔だし、なにより信用できる。


「ネア、少し話を聞いてくれるか?」

「長い話?」

「ああ」

「じゃあ、聞くわ」


 ベッドに腰かけたネアに、椅子を向けながら僕は先日悪魔に遭遇したことと、その悪魔が目的としているかもしれないことを話す。

 悪魔、という言葉に興味を示していたネアは、全ての話を聞き終えると難しそうな表情を浮かべる。


「まさか、貴方の同類が現れるとはね……」

「1、先輩にもみくちゃにされる。2、ウルルさんにもみくちゃにされる。3、真面目に僕とお話をする。———さて、君はどれがいい?」

「3でお願いします……」


 僕は真面目に話しているんだぞ。

 即答したネアは、気を取り直すように顎に人差し指を当てる。


「んー、可能性があるとしたら死体を動かすことかしらね」

「君がしていたようにか?」

「そうねぇ。前にも言ったと思うけれど、肉体ってのは魂がないと成り立たないものなの。私のネクロマンサーの力は、その常識を覆して、肉体のみを操ることができるわけだけど……正直、強い人の肉体を動かしてもほとんど意味はないと思うわ」

「どうして?」


 強い人の身体なら相応に強いんじゃないか?

 僕の疑問に、ネアは机においた予備の日記帳を手に取り、ペンでなにか書き始める。


「死した肉体は朽ちるものよ。魔力でその膂力を強化することもできなくはないけれど、鍛えた肉体も、なにもかもが崩れ落ちたものじゃ、一定の力を持つゾンビしか作れないでしょ?」

「……確かに」

「だから、強い人の肉体を盗んで操ったとしてもそれほど意味がないの」


 普段鍛えている身としてはちょっと残念に思ってしまうけれど、死んだら当然肉体は朽ちていくばかりだからな。

 僕の見たネアが操ったゾンビをイメージするなら、強い人の肉体を盗んだとしても意味がないだろう。


「なら、遺体が盗まれている可能性はないってことか」

「そういうわけでもないわ」


 えぇ、どっちだよ……、

 思わずずっこけそうになると、ネアが日記帳に記したなにかを見せてくる。

 それらはイラストのように分けられてる。

 ……なぜかデザインが2頭身にデフォルメされた僕ということに納得がいかないけれども。

 しかも、顔につぎはぎみたいな線があるの? フランケンシュタインなの?


「魔術で肉体を復元して、そのまま操るという方法もあるわ。これなら幾分か生前の力を引き出せるし、それこそ肉体の限界を超えた力を発揮させることも可能よ」


 悪魔っぽいイラストが僕(?)の身体に魔術のようなものをビリビリとしているイラストを見せられる。

 無駄にコミカルだけど、やってることえぐいんですけど。


「そんな魔術があるの……?」

「分からないわよ。でも、魔王あたりに聞けば分かるんじゃないかしら?」


 ……ありそうだなぁ。

 だからこそ、ファルガ様が指示してきたわけだし。

 もし、悪魔が死んだ人たちの肉体を利用して、何かをしようとしているなら―――、


「絶対に、許していいことじゃないよな」

「……そ、そうね……」

「死者を蘇らせてこき使うなんて、最低の所業だ……! なあ、ネア!!」

「貴方本当は分かって言っているわよねぇ!?」


 一度やらかしているネアをからかう。

 まあ、今となっては気にしていないけれども。


「でも、悪魔って本当にいたのねぇ」

「君でも知らなかったのか?」

「ええ。文献にも存在をほのめかすものはあったけれど、かなりあやふやだったからあまり信じていなかったの」

「歴史の影に隠れた存在ってやつか……」


 敵対する可能性が高いわけだが、そもそも戦える存在なのか?

 ……いや、相手が悪魔だからって怖気づく理由にはならないな。


「団長が翼をもぎとってたから、実体があるってことだよな。殴れるならこっちのもんだ」

「うわぁ……いつもの貴方ねぇ……悪魔から見ても、相当恐ろしいわよ」


 さすがに触れることのできない幽霊とかは無理だけれどね。

 問題はその悪魔がどのように動いているかってことなんだけど、現状それは分からないから考えるだけ無駄だろう。


「考えなくちゃいけないことがたくさんあって大変だ……」

「会談のこともあるのよね」


 ネアの声に頷く。

 悪魔のこともそうだが、会談のことも考えなくてはならない。


「貴方も大変よねぇ。勇者でもないのにそんな大事なことに呼ばれるなんて」

「やると決めたのは僕だからね」


 魔王とコミュニケーションを取れる人は少ない。

 そういう意味でも僕に同行を頼まれたのだろう。


「ふふふ、私、ちょっと楽しみかもー」

「遊びに行くんじゃないぞ」

「……え、待って、着いて行っていいの?」


 冗談で言ったのかきょとんとした顔になるネアに、僕は頬を掻く。

 前の会談の時はネアの能力上、不信感を抱かせてしまう可能性があるけれど、今回ばかりは違う。


「魔王の魔術に対処できる君が必要だ」

「もしかしてフェルムも連れていくの?」

「……うーん。それはまだちょっと悩んでる」


 会談に来るのは四王国だけじゃない。

 以前以上の人達が集まってくるから、その中には当然魔族に対して偏見を持つ人もいる。

 そんな人たちの悪意に晒される可能性がある場所にあの子を連れて行っていいものか……。


「聞かれれば、絶対についていくと思うわよ」

「ははは……」

「むしろ連れて行かなかったら、気づかない間に貴方に同化してついていくと思う」

「マジで……?」


 僕にすら気付かせないの?

 思わず口調を崩しながら驚くと、ネアは神妙な顔で頷く。


「え、さすがに僕が気付かないのはないと思うけれど」

「現状のフェルムの闇魔法なら可能かもしれないわよ? だって貴方の意志で操れるくらいに同化できるんですもの。つまり、それだけ同化しやすくなっているってことになるわけだし」


 僕とフェルムが同化したことによる戦術の幅が広まったと喜ぶべきか。

 それとも、フェルムからそれだけの信頼を寄せられていることに喜ぶべきか……うーん。


「まあ、当の本人が気付いてないのが面白いわね」

「……」

「言わないわよ? 今は」


 暗に、自分が言わなければ、と言っているようだ。

 なんだ? 悪いことはなにもしていないのに弱みを握られているような感じがする。


「あと、そうねぇ。貴方についていけば訓練休めるし、フェルムは頑としてついていきたいでしょうね」

「……。救命団からは僕一人でいいか……」

「……はっ!? あ、あー!? ごめんなさい! そんなこと思ってないから私だけでも連れて行って!?」


 冗談を言うと面白いくらいに反応してくる。

 慌てた様子の彼女に苦笑しながら、僕は自身の掌を見つめる。


「どれだけ鍛えても、僕が人げっ……一人であることには変わらない」

「今、言い直したわね」


 人間と疑問にもたれるのは分かっているので言い直してやったんだからね?

 じろりと、ネアを睨みながら僕は続けて言葉を発する。


「今までだって、一人で何かを解決できたこともなかったし、ここまでこれたのも君を含めた皆がいたからだ。……だから、これからも頼らせてもらうよ?」


 僕の言葉にネアは一瞬だけ目を丸くするが、すぐにニヤリと微笑んだ。


「全く、今更そんなこと言う必要なんてないわよ。なにせ、私は貴方の使い魔、どこにいようと、どこに行こうと私は貴方についていくに決まっているじゃない」


 自信に満ち溢れた様子に、安堵する。

 最初の戦いから、魔王を倒すまでの旅路で僕が一人で何かを解決できたことはない。

 いつも誰かに助けられ、力を合わせてきたから前に進んでこれたのだ。


「ありがとう」

「ふふん、もっと感謝しなさい」


 上機嫌な様子のネアだが、すぐにハッとした顔になる。


「あ、でもよく考えてみれば、貴方と一緒に行くってことは魔王と同行するってことよね? それはちょっと怖いわね……」

「まあ、不安に思うのは分かるよ」

「逆に貴方はなんでそんなあっけらかんとしているのよ」


 ジト目でこちらを見てくるネア。

 たしかに僕は魔王が同行することにあまり不安を抱いてはいない。


「なんとなく、もう敵対はしないと思ったからかな」

「えぇ……?」

「根拠なんてないけどね」


 強いて言うならば勘だ。

 拳で殴り合ったから分かり合った、などといういかにも脳筋呼ばわりされそうなことは言わない。 

 これは僕だけが思い込んでいるものに他ならない。


「魔王はたしかに性格が悪くて、愉快犯な部分があって面倒臭そうで、理不尽に強い傍迷惑な人ではあるけれど――」

「貴方にしてはボロクソに言うわね……」

「少なくとも、今の彼は魔族のために動いている。それだけは、信じてもいいと思う」


 魔王軍との起こした戦いで多くの人が傷つき、犠牲になった。

 戦いを起こす理由があったとはいえ、それだけは……その事実だけは絶対に忘れてはいけない。

 しかし、その上で僕はその気持ちを飲み込んだ。


「……ん?」


 すると、僕のいる部屋の扉をノックする音が聞こえる。

 やや遠慮するような、間隔の長いノックの音に扉の方を見ると


『ウサトー、夕ご飯の準備ができたってー』

「ナギさんか」


 どうやら話している間に結構時間が経ってしまったようだ。

 彼女の声に立ち上がろうとすると、なにを思いついたのかニヤリと笑ったネアが、ぱたぱたと扉へと駆け寄りその扉を開いた。

 扉の先には、当然驚きの表情を浮かべたナギさんがいる。


「うぇぇ!? な、なんでネアが部屋に?」

「ちょっと秘密のお話をしていたのよ。秘密、のね」

「ひ、ひひひ秘密!?」


 またややこしいことに……。

 あわあわとするナギさんを前に楽しそうにしているネアを見て思わず額を押さえた僕は、誤解を解くべく椅子から立ち上がるのだった。



「ネア、紛らわしいこと言わないでよ……」

「だって、貴女の反応面白いもの。あれね、反応が可愛いスズネみたい」

「それは褒められているの……?」


 それから、僕達は夕食を食べるべく一階の食堂へと移動することになった。

 いつも通り、アレクが夕食を作ってくれているので、今日の夕食はなにかなーなどと考えながら、皆のいる食堂に足を踏み入れようとしたその時、食堂の入り口の廊下の先―――玄関にあたる扉が開き、誰かが入ってきたことに気付く。

 すぐに目に入った緑の髪———ローズが帰ってきたのだ。

 僕はすぐに彼女を出迎える。


「団長、おかえりなさい」

「ああ」

「ちょうど、今夕食の時間なので、団長も―――」

「いや、飯は後でいい。それより、先にすることがある」


 ———普段と様子が違う。

 傍目ではいつものローズと変わりないように見えるが、僕からしてみればこんなに感情を押し込んだ彼女を見たのは初めてだった。


「団長」

「……どうした?」

「アウルさん達のご遺体は、ありましたか?」


 本当はこんな質問をしたくはない。

 だけど、聞かなくてはならない。


「———棺の中は空だった」


 悪魔の目的は、アウルさん達の遺体。

 それも既にその遺体すらも盗み出した後ということか。


「……」


 これほどまでに腹立たしいことはあるだろうか。

 最早、言葉にできない感情が頭を支配する。

 それこそ、サマリアールの魔術師やヒノモトでのジンヤさんに抱いた時と同等以上の怒りを、理性で押しとどめていると僕の頭に手がのせられる。

 それがローズの手だと気づき、思わず顔を上げる。


「心配すんな」

「ですが……」

「私達のするべきことは決まっている。かつての部下だろうが、なんだろうが関係ねぇ。死人が生き返ろうが、身体だけ操られていようともな」


 そう言葉にした彼女は、いつもの調子で笑って見せた。

 怒りを内包した、獰猛な笑み―――決して、この状況に不釣り合いな表情に僕も呆気にとられる。


「死体を盗んだくらいで恐怖するか? いいや、分からされる(・・・・・・)のは、こっちじゃねぇよなァ、ウサト」

「……ええ、その通りです」


 奴らが一体誰を敵に回したのか、教えてやらねばならない。

 これから立ち塞がる脅威が―――敵が人の命を、その尊厳すらも弄ぶ輩なら絶対に許しはしない。

 そのためなら、僕は心を鬼にしてやる。

 必要なら、悪魔のお株も奪い取ってやろう。


 救命団を虚仮にしてくれた礼はきっちりしてやる……!

この時点でウサトは大分頭にきてます。


今回はネアのネクロマンサー設定が生きる話でもありました。


次回の更新は明日の18時を予定しております。


※本日、治癒魔法の間違った使い方、第十二巻が発売いたしました。

完全書下ろしとなっており、ウサト達のもう一つの物語を楽しんでいただければと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 救命団を虚仮にしてくれた礼はきっちりしてやる……! ↑ これって完全に頭文字にヤが付く人の言葉なんだよ。
[一言] 悪魔さんたちに懺悔フラグが立ちました! 大人しく封印されていれば、こんなことにはならなかったでしょうに……。
[一言] 悪魔が詰んだ瞬間である。
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