第二百六十六話
間に合いましたので予定を変更して、本日も更新いたします。
今回はカズキ視点となります。
魔族達の執念を侮っていた……といえば、言い訳になっちまうのかな……!
心の中でそうぼやきながら、俺は未だに空の上で兵士達を相手に空中戦を行う。
地上からもう視界全てを覆うくらいの矢と魔法が迫ってきており、それらを避けるのに意識を割いているのが今の状況だ。
「……あの足止めがなければなぁ」
本当はもっと早く地下にいけたはずなんだけど、途中で遭遇した竜騎士。
魔族の女性が乗った飛竜が予想を超えてしつこ……手強かったことが原因だ。
『ショォーン! お前ならできる! 嫌な奴だったけれど、それでも一応上司だったハンナさんの仇をォォ!!』
『これが魔族と竜の絆の力だぁぁぁ!』
『ショーンが行けるってんなら、私も行けるぞ勇者ァァァ!』
ものすっごいやりにくかった……!
人馬一体の如く、他とは比べ物にならないほどの練度で空を飛び、長槍で攻撃してきたりしたことに加えて、並々ならない叫びとテンションの高さで、びっくりしてしまった。
前に出てくる者がいれば、当然に後に続く者も士気を挙げて押し寄せてきて、かなり手古摺った。
「俺もまだまだだな……!」
まるでこちらがヒーローショーの悪者のような心境にされながらもなんとか、地上へと落としたが、彼女に手間取っている間に、各場所に配置されていた兵士達のほとんどが俺の方に集まって来てしまったのだ。
陽動役を買って出たことは認めるけど、さすがにこれは予想外すぎた。
このまま下に行って先輩とウサトの元にわざわざ兵士達を連れていくことなんてできないし、何よりこの数を相手にすればどれだけ多くても俺の魔力が尽きる。
「一旦、攻撃の届かないところに行くか? ……いや、あの帳があるから無理か。いっそのこと光魔法で吹き飛ばすのも……駄目だ」
それをしても魔王までの魔力が保たない。
「どうするか……」
この兵士の集まりようからして、先輩とウサトとレオナさんは無事に魔王の城が沈んだと思わしき地下へと到着している頃だろう。
俺もそろそろそちらに向かわなければ、ここに来た意味がない。
『我々で勇者を足止めするぞォー!』
『『オォォ!!』』
「っと、来たか」
足元の光魔法を操り、地上から放たれる魔法と矢を避ける。
余裕も出てきたが、一つの油断で攻撃を食らう訳にもいかない。
連続して放たれる攻撃を回避していると、その中で一際勢いも強く、魔力の濃い紫色の魔力弾が飛んでくる。
それを一目見て、すぐさま背中の剣に手を伸ばす。
「ハァッ!」
これはまずい。
そう直感し、背中から引き抜いた剣で紫色の魔力弾を切り裂く。
だが、その瞬間、紫の魔力の残滓が俺の視界を覆う。
「……!?」
——それは、景色。
地下に続く階段と、その中の構造。
頭の中に立体的な地図を見せつけられることと並行し、実際にその場にいたように道を進んで行く。
明かりに照らされた薄暗い場所。
石柱が並ぶ通路。
その先を走っていくウサト達の姿。
視界を覆った映像は一瞬で消えたが、それを見せられた俺自身は訳が分からず混乱する。
「な、なんだ今の……」
罠か!? いや、でも今のは魔王の元に続く道か!?
どういうことか分からないのが、今の視界を覆った映像で地下へ向かう道筋が分かった。
「でも、罠かもしれないな……」
『動きが止まったぞ! 今だ!』
「ッ、悩んでいる場合じゃないな! っし! 男は度胸!!」
この際、罠でもなんでもいい!
ここはウサトや先輩みたいに行き当たりばったりで行動してみよう!!
光魔法のボードを操り、地上へと向かわせる。
迫る地上を目前にして、魔力弾を掌に浮かべ―――消滅させる光を放つ。
「穿て!」
放たれた魔力弾は地面に大穴を空け、中に飛び込む。
入った先は巨大な空間。
ブレーキをかけながら、周りを見渡しながら先ほど見た記憶と比べる。
「行けるか……!」
『こっちから音がしたぞ!』
「ぐずぐずしてられない! 今行くぞ、皆!!」
魔力を両手に作り出しながら再び地面に向かう。
このまま床に穴を空けながら一気に下へ!
●
「———私、なにをしているんでしょうか……」
空へ向けた手を見つめたまま、私は呆然とそんなことを呟いた。
ようやくあの治癒魔法使いから逃げて、地上へと抜け出すことができた。
あとは魔王様の魔術で作り出された結界の解除を待って、逃げ出せばよかった。
「……」
地上へと閃光のような速さで降りていく光の勇者。
あの人間は、私が幻影として見せた“地図”と地下の私の記憶を見たことで、魔王様の元へ向かうところだろう。
これは敵前逃亡以上に許されないことだ。
バレれば、重い罰は免れないだろうけど、不思議と私はどうでもいい心境だった。
「はぁぁ……」
魔法を放つためにのぼった屋根の上で座り込む。
周囲では慌てふためく兵士達の声で溢れかえっているが、今更気にすることでもない。
私は、逃がされた。
アーミラと遭遇し、戦闘が始まった時に乗じて逃げ出そうとしたけど、寸前で治癒魔法使いに腕を掴まれた。
人質にとられ、最悪アーミラの炎の魔法の盾に使われると思っていた。
だけど、アレは手を離し、挙句の果てに「ありがとう」と私に口にした。
「ありがとう……か」
理解できない。
どうして敵だった私にお礼なんて言える?
私の境遇を聞いて同情でもしたのか?
あの時、愚かにも他人を助けようとした自分を、思い出してしまう。
感謝なんて望んでいなかった。
ただ幼心に、困っている子供が妹の姿と重なって―――つい、手を差し伸べてしまっただけだ。
「ッ、私があの怪物を助けたっていうの……」
いや違う……!
これは、勇者を手助けしたのは魔王に対する時間稼ぎのためだ。
戦場が混乱すれば、それだけ私が逃げられる可能性は高くなる。
それ以外に目的なんてあるはずがない。
「私は、そんなんじゃない……!」
あの治癒魔法使いの言葉なんかで私の心は微塵も動いたりはしていない。
そう、自分に言い聞かせながら立ち上がる。
「……そろそろ、動きましょうか」
今からならまだまだ逃げられる。
目下の脅威である勇者達も魔王軍幹部達も地下にいるだろうから、今が絶好のチャンスと言ってもいいだろう。
幸い、さっきの魔法は他の攻撃に紛れていたことだし、このまま移動しよう。
屋根から飛び降りて、気を張りながら歩く。
「うん? ……!」
少し歩いた先に何かがいる。
咄嗟に物陰に隠れて先を伺うと、そこには壊れた壁と、横たわる飛竜の姿を確認する。
翼に怪我をしているのか、痛みに悶えている飛竜の傍らには見覚えのある魔族、ノノ・ヘレステアの姿があった。
「ショーン、怪我は浅い……! ちょっと翼が欠けただけだからすぐに治るからねぇ……!」
「ギュァ……」
「うんうん、よくやったよ貴方は。これからも一緒にいようねぇ……!」
「……はぁ、全く。私はとことんツイてない」
もう彼女達に付き合ってられるか。
そう思い、踵を返して別ルートで迂回しようとして、自分の中にこれまでとは違った苛立ちにも似たもどかしい感情が湧き上がっていることに気付く。
「……あぁ、もう!」
頭を押さえた私は、来た道を戻ってノノの前に姿を現す。
「え、えぇ!? ハンナさん!? たしか貴女は光の勇者にジュワっとされたはずでは!?」
「……」
「あ、お、怒ってます!? 私が役に立てなかったからですか!?」
相変わらずとち狂った言動のノノを無視した私は、翼の痛みに呻く飛竜の頭に触れる。
傷自体は問題はない。
飛竜の再生力なら完治するであろう傷だ。
傷の程度を確認しつつ、幻影魔法を流し込み眠らせる。
「ど、どうして……?」
「さあ、どうしてでしょうね。私にも分かりません」
穏やかな寝息を立てて眠った飛竜に、ノノは驚きの目で私を見る。
普段の自分なら、こんなうるさいだけの飛竜オタクなんて見捨てているはずだ。
なのに、助けてしまった。
なぜこんなことしたのかは自分でも、本当に分からない。
「なにはともあれ、ありがとうございます! ハンナさん!」
ありがとう、ただその言葉だけが私の心の奥底に響いていく。
自分らしくない。
ただただ鬱陶しく、もやもやとした感情が私の中で湧き上がる。
なんだかんだでノノに情が移ってしまったハンナでした。




