第二百六十五話
三日目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
知ってはいたが、ネロ・アージェンスという人間はこの時代ではあまりにも場違いなほどの実力者だ。
私が生きていた時代の実力者と同等かそれ以上の力を有している。
まさに生まれた時代を間違えた者と言えるだろう。
木から木へ飛び移りながら、飛んでくる斬撃を宙返りで避ける。
続いて連続で迫る風の刃。
それらを落下しながら目視した私は、大きく腕を広げながら黒刀を握りしめた右手を大きく振るう。
「カンナギ流! 大酉回し!」
未隠し返しと同じ防御の型。
回転を利用し全ての風の刃を後方へいなし、戌走りを用いてネロを迎え撃つ。
黒刀と剣が激突し、火花を散らす。
弾かれる勢いで刺突の構えをとり、刀身に火炎の呪術を纏わせる。
「連・子ノ火突き!」
炎の残滓を残しながら放たれた突き。
それらを連続して放つが、それらは横に転がり回避される。
———判断力も並みじゃない……!
風を纏わせて振るわれる剣に合わせて、刀をぶつけ鍔迫り合いをする。
「ローズ以外にここまでの力を持つ者がいるとは……!」
「それはこちらの台詞だけど、ね……!」
力技で刀を押し込みながらその場を跳躍、空中へ身を翻しての蹴りを叩きつける。
「午乗脚!」
蹴った勢いを利用しての逆の脚での回し蹴りを当て、ネロを後ろへ無理やり退かせる。
「剣術だけではなく、体術も嗜むか……!」
「私には、予知魔法とこれだけが戦う手段だからね!」
私がここで彼を足止めしなければ、ウサト達は魔王にはたどり着けない。
それほどまでの異常な強さを持っているネロだが、ウサトの師匠、ローズも同じ類だ。
彼の籠手からずっと見てきたが、ローズ自身も生まれる時代を間違えている怪物だ。そもそも純粋な戦闘力に長けたネロ以上におかしい治癒魔法使い。
「フッ!」
追撃すべく刀を構えながらネロへ斬りかかるが、その前に彼は地面に四つのつむじ風のようなものを放ち、こちらへ向かわせる。
それらを刀と鞘を用いた薙ぎ払い―――丑薙ぎで消し飛ばしながら惑巳断ちを放つ。
「揺れる斬撃か!」
「対応してくれる!」
直撃する直前で風が纏った腕で刀を防御されるが、私の刀は風の鎧を切り裂き、ネロの腕を僅かに斬りつける。
あらゆる攻撃を防ぐ風の鎧。
だが、それは力技で突破すればなんら問題はない。
「オオオ!」
「っ!」
予知魔法で察知し、繰り出された突風を地面に転がることで回避する。
回避した先に迫る風の刃を、身体を横に傾けて躱しながら再びネロへと攻撃を仕掛ける。
「———ッ」
「———」
呼吸すらままならないほどの剣戟。
接近戦を繰り返していくごとに、放たれた斬撃が、風の刃が周囲の木々を切り裂きながらなぎ倒していく。
「威寅!」
「その技は見たぞ!」
「ッ!」
風を纏わせた剣が刀を流す。
すぐさま回避行動を取ろうとするが、それよりも先にネロが掌から放った風が私の身体を大きく後ろへ吹き飛ばした。
空中で態勢を整え、すぐさま刀を構えると―――私の頭に数秒後の予知の映像が流れる。
「ッ! まずっ!」
このままじゃ死ぬ!
自身の胴体が両断された数秒後の未来を確認しながら、すぐさまその場を移動しながらネロへと駆ける。
ネロの剣には溢れんばかりの風の刃が込められており、彼がこちらにそれを一度振るうたびに、幾重にも重なった風の刃が一斉に放たれる。
「ハッ、面白い! 全て避け切ってやる!!」
網目をすり抜けるように地面を滑り最初の刃を避け、そのまま地面についた手で腕力のみで身体を押し上げ、宙へと舞い上がり次に迫った斬撃をすり抜ける。
地面を滑り、宙を舞い、身体を傾けながら走り抜けた先に、先ほどよりも濃密な魔力を纏うネロの姿———ッ!?
「———系統強化」
「ッ、ここでか!」
迫る風の刃に無理やり予知魔法を使わされて、一手遅れてしまった!
系統強化はいわば奥の手。
練り上げられた魔法が私の目前で解放される。
これはまずい、この距離じゃよけられない!
横薙ぎに振るった刃が、私へと放たれる。
致命傷を避けるべく、威寅で威力を減衰させようと刀を構えたその時―――、
『———不甲斐ないぞ、私』
内から聞こえる声と共に、前触れもなく私の魔力がごっそりと減る。
それに伴い、側方に白い光の渦が出現する。
「は!?」
『早く入れ!』
「わ、わわっ!」
渦の先は別の景色。
すぐさまそこに飛び込むと、私はネロから少し離れた場所に瞬間移動する。
い、今のは転移の呪術!?
使ったのが私だとすれば―――、
『いつまで手古摺っている』
―――わ、私の中の私か!?
呆れたような、それでいて小ばかにしたような声に思わず顔を上げる。
ネロは驚きの表情でこちらを警戒しており、まだ襲ってはこない。
『久しぶりの戦闘で鈍っているなんて理由は通じないぞ』
「わ、分かってるよ……」
図星を突かれて呻く。
そんな私に、私の中の私は飽きれたため息を吐く。
『情けない。それでも私か。そんなんだから恋愛クソ雑魚なんだ』
「それは今関係ないでしょ!?」
『これ以上醜態を見せたら、しばらく私とお前の意識入れ替えるからな』
こ、こいつ……。
むしろ、それが目的でしょ。
「君が入れ替わったら、なにするか分からないから駄目だ!」
『なら、勝て。魔力の少ない私じゃ、もう転移の呪術で助けられないぞ』
「ああ……!」
これ以上の醜態は見せられない。
立ち上がり、黒刀を両手で握りしめる。
「こっから、正真正銘の本気でいくよ」
「……。来い」
系統強化を発動させようとしているのか、剣に魔力を集め始めるネロ。
私は系統強化を使えない。
いや、使えたとしても途方もないほどの大量の魔力が必要なことに加え失明する恐れがあるし、何より平行世界に干渉してしまう危険なものだ。
そもそも攻撃力がないので、普通に役立たずである。
「だけど、それを私は技で補ってきた……!」
戦いがそこらじゅうに溢れていた時代、幾人もの系統強化を扱う者達に打ち勝ってきた。
それは私が考え、編み出した技があったからこそだ。
この時でもそれは変わらない。
だが、過去を含めても上位に位置するほどの実力者であるネロ・アージェンスには私も切り札を出さなければならない。
「スゥ……」
息を深く吸い込み、両手で刀を握りしめたまま姿勢を低くする。
「戌走り派生、奥義———四の型・玉兎解禁」
かつてヒサゴに聞いた、月の中に兎が住むという話から作りだした技。
戌走りは地に頭を垂れ、大地を駆ける技だが―――これは地を跳ねる技。
呼吸すらも止め、地面を踏みしめ、あらゆるものを足場にする。
「———」
「なッ!?」
瞬間、地面が爆ぜるほどの音を置き去りにさせながら、一歩目でネロの目前にまで跳ぶ。
驚愕に表情を歪ませるネロに、すれ違いざまに刀を振り切り、風の鎧ごと脇腹を浅く切りつける。
驚異的な反応で振り向きざまに剣を振るうネロだが、私は既に後方の木を足場にし―――幹がへし折れるほどの力で、同じように移動する。
「追いきれないだと……! ぐっ!」
側方からネロの身体を蹴り飛ばし、そのまま反動で別方向に跳びまわる。
足場にするだけであらゆるものを破壊し、ただただ速さだけを増していく―――私自身ですら目視で知覚することすら困難な力任せの移動。
予知魔法を持っていなければ、自身の速さで自滅しかねない私だけの技。
「———ッ!」
スズネの速さすらも超え、全方位からネロという足場を用いて蹴りを叩き込んでいく。
だが相手は規格外の超人の一人。
すぐさま防御を固め、私の蹴りに対応してくるが――この技はあくまで繋ぎでしかない。
「玉兎ッ、蹴撃!」
「ッ、く! まだこの程度……!」
側方からの蹴りと共に垂直へ飛び上がる。
空高く飛び上がった私は、空に浮かぶ月を背にしながら両手で握りしめた黒刀に最大限の力を籠める。
「辰———」
空を蹴り、加速しながら地面へ突き進む。
全方位連続攻撃からの―――全てを注いで一刀で切り伏せる。
「———獣狩り!!」
「系統強化!!」
地上から振るわれたネロの剣と天から振り下ろされた私の剣が同時にぶつかり合う。
次の瞬間には、強烈な衝撃波と風が周囲へと吹き荒れ、私とネロの身体を吹き飛ばした。
カンナギ流・技紹介。
【十の型 大酉回し(おおとりまわし)】
別名、鳳回し。
対空の防御技。
【七の型 午乗脚】
防御崩しの蹴り、鍔迫り合いの距離からも出せる。
【四の型 玉兎解禁・玉兎蹴撃】
五の型に繋げる技であり、戌走りと猿舞と同じ移動技。
周囲、敵、あらゆるものを足場にしながら、加速し続ける。
カンナギの全力の身体能力で放つ技なので、予知魔法がなければ即座に自滅する。
玉兎蹴撃による蹴りで空へと舞い上がり、五の型へと至る。
技単体では、集団を殲滅する際に使われる。
【五の型 辰・獣狩り(しん・けものがり)】
しんじゅうがり、とも読む
カンナギの有する技で奥義に当たる技。
四の型で、連続攻撃を与えた後に、空へと飛び上がり全力の一刀を相手に叩きこむ。
※カンナギ専用技なので、スズネの五の型は彼女自らが考え出したものとなっている。
恐らく、これでカンナギ流が出揃いました。
技解説が長くなってしまい、申し訳ないです。
今回の更新は以上となります。
次回は恐らく、カズキと先輩の話です。




