第二百六十一話
本当にお待たせしました。
第二百六十一話です。
コーガと戦うのはこれで四度目だ。
一度目はヒノモト。
二度目は魔王軍との戦い。
三度目は、まあ、戦闘といっていいか分からないけど遺跡で遭遇した時。
こいつは何度も僕の顔を見るたびに手段を選ばず勝負を仕掛けてきた。
正直、鬱陶しいと思ったし、面倒な相手だと思っている。
だが、それでも僕はこいつと決着をつけなければならないと考えていた。
「オラッ!」
「ッッ!」
激突した僕とコーガの拳。
一瞬の拮抗の後に、力で上回った僕の拳はコーガの身体を思い切り後方へと吹き飛ばした。
地面に叩きつけられる前に体勢を立て直して着地したコーガは、頭を黒い魔力で覆いながら高揚とした声を上げる。
「ハッ、やっぱ力じゃそっちの方が上か! 見た目からしても化物染みてきたな!!」
「誰が、化物だッ!!」
「おっと!」
撃ちだした治癒飛拳を躱したコーガは、全身を肥大化させるように大きくさせる。
僕の弾力付与を真似た形態か……!
それに加えて、背中から四本の鎌が伸びている。
「そらそらァ!」
「手数で戦おうって魂胆か……! フェルム!!」
『任せろ!』
僕の背中からもコーガと同じように闇魔法の黒い魔力が伸び、手のついた黒い翼へと変わる。
刃のような鋭利な翼は、高速で襲い掛かってくる鎌とぶつかりあい、金属音を響かせる。
『ボクじゃ対応できて二つまでだ! ネア、お前も働け!!』
『分かってるわよ!』
ネアにより斬撃に対する耐性が僕へと付与される。
限度を超えれば破壊されてしまうソレだが、今の僕にとっては十分だ。
銀色の籠手が装備された右腕を前に突き出し、ゆっくりと呼吸を整える。
「魔力回し」
作り出した弾力付与を施された魔力を高速で移動させる。
足に移動させ、踏み込んで加速。
拳に移動させ、パンチ力の上乗せ。
攻撃された部位に移動させ、衝撃を和らげさせる。
「———」
繰り出される攻撃を目で追い、それを右腕で全てはじき返す。
後ろには下がらない。
弾いて、捌いて、受けて、相手の攻撃を見極める。
「———ここだ」
繰り出された大ぶりの一撃。
それを後ろに受け流すと同時に、弾力付与を籠めた左足を強く踏み込む。
「なッ!?」
「治癒破弾拳!!」
高速の踏み込みと共に治癒破弾拳を叩き込む。
治癒連撃拳と同じ、身体の奥に伝える打撃。
追加されるブルリンのパワーと相まって、確実にコーガの意識を飛ばせるほどの力を内包している―――はずだが、拳に返ってきたのは、驚くほど鈍い感覚だった。
まるで硬いゴムを殴りつけているような、そんな感覚。
衝撃が通されない状態で、コーガが僕の右腕を掴んだ。
「く、ははは」
「ッ!」
「やっぱお前すげぇーよ。正直、尊敬してる。こんな戦い方があるなんて想像もしていなかったからな。———だから、学ばせてもらった」
「ッ、ネア、拘束の呪術を―――」
こいつ、僕の弾力付与の応用まで身に着けたのか……!?
コーガの身体を覆う黒い魔力が不自然に歪み破裂し、漆黒の剣山が僕へと襲い掛かる。
系統強化の暴発……!
『危ない!』
フェルムの機転で闇魔法の衣を纏いながら防ぎつつ、腕を掴むコーガに蹴りを叩き込み距離を取る。
全ては防ぎきれなかったのか血が流れる頬と右肩の傷を治癒魔法で癒しながら、身体にかかった拘束の呪術を壊したコーガを睨みつける。
「系統強化の暴発と、弾力付与の応用まで真似やがったな……!」
「強い奴の真似は誰だってしたくなるもんだろ? それが好敵手のだってんならなおさらだ」
「はぁぁ……」
僕の系統強化の暴発が治癒魔法を霧散させる衝撃波だとするならば、コーガの暴発は溜め込んだ闇魔法を衝撃波と共に鋭利な棘を突き出させる危険なもの。
弾力付与に至っては、奴は僕とは違い全身でそれを行える。
「そして―――ッ」
コーガを纏う闇魔法がさらに変形する。
膨張する体は本物の肉体のように筋肉が流動し、両腕には鋭利な爪、両足は俊敏さを突き詰めた獣の足へと変化している。
口元が大きく裂けた仮面と、頭部から背中にかけた伸びるヤマアラシのような棘。
最早、怪人といっても差し支えの無い姿へと変貌したコーガは、自身の姿を確かめながら嬉し気に笑って見せる。
「戦うたびに姿を変えていくな。本当に」
「今のこの姿が、俺の“最高”だ」
こいつ何段階変形してんだ?
回数だけならそこらのボスとか余裕で超えていると思うんだけど。
「……下手に考えるのはやめにするか」
『ウサト、どうするのよ……?』
コーガを前にしてやや不安の混じった声を零すネア。
もう一度呼吸を整えた僕は、彼女を安心させるように笑みを浮かべる。
「理詰めが無理なら、無理を通して叩きのめすまでだ」
『つ、つまり?』
「ひたすらにぶん殴る」
『知ってた。そうだよな。お前はそういうやつだもんな。逆に安心した』
これ以上僕の技を真似されるわけにもいかない。
非常に遺憾だけど、僕とコーガの戦い方は似ているのは事実だ。
なら、優劣を分けるのは―――、
「どっちが根性があるかで決めようか……!」
『フェルム、こいつかつてないほどに暴走しかかってるわよ!? 脳筋ポイントやばいわよこれ!?』
『大丈夫だ。あのバカ軍団長も同じだ』
相対するコーガも戦意を滾らせている。
あっちもやる気満々なようだ。
僕もブルリンとの同化を強めながら、いつでも前へ跳び出せるように腰を落とす。
「行くぞ、覚悟を決めろ! ネア!!」
『どうせ私が嫌って言ってもいくんでしょ!? なら、やるわよ!!』
「よぉっし!」
全力で前に跳び出し、拳を振り上げる。
コーガも獣のように四肢を地面について、こちらへ飛び掛かってくる。
縦横無尽に広大な通路を移動しながら、攻防を繰り広げていく。
僕が力任せに拳を振り回し、コーガが鋭利な爪を繰り出す。
僕が掴んで投げようものなら、コーガは系統強化の暴発でそれを阻止する。
「そんな仰々しい姿でも僕の方が力が上なようだなァ!!」
「それはお前がおかしいだけだ!!」
「なんだとこの野郎!」
暴発を籠手で砕きながら、腕を掴み取った僕はそのまま石柱へコーガの身体を叩きつける。
一度だけじゃ足りない。
そのままもう片方の腕で足を掴み、規則正しくならんだ柱へ突進しながらコーガの身体で破壊していく。
「あでっ!? 痛い!? いい加減に、しろ!!」
「むぅ!?」
腕を振り切られ、側頭部に蹴りを食らう。
それに合わせるように、コーガの繰り出した左腕から系統強化の暴発が発動し、いくつもの刃が僕へと突き刺さる。
腹部に痛みが走る―――が、歯を食いしばり耐える。
『あ、あなた、大丈———』
「おい、舐めているのかァ……?」
腹に突き刺さった黒い棘を掴み、握りつぶす。
前に効いたからしてやったりな顔しているようだが、今の僕には効かないぞこの野郎。
「刺さるって分かっていれば、耐えられないはずないだろうが……!」
「いや、その理屈はおかしいと思う! 前に刺さった時は効いたはずだぞ!」
コーガの胸倉を掴み取ると、奴は苦し紛れに頭突きを繰り出す。
硬質な仮面と僕の額が激突し痛みが走るが根性で我慢。
「終わりか? フンッ!!」
「ぐぉ!?」
そのままもう片方の手で胸倉を掴み、勢いをのせた頭突きを食らわせる。
ダメージは与えられないが、衝撃は届いたのかコーガは後ろに大きくよろめいた。
治癒魔法で額を癒しながら、血に濡れた前髪をかき上げる。
「お前、僕がいつまでも腹と足を貫かれた程度で狼狽える訓練をしていると思ったのか? だとしたら、お前は僕を舐めすぎだ」
『普通の人間なら致命傷だと思うの』
『もうローズじゃん……怖っ』
『グァー』
敢えて説明するなら根性だ。
刺さると分かってるなら僕も腹筋を固められるし、何よりローズの一撃に比べればまだ大丈夫。
内臓シェイクされてないからまだセーフだ。
「かはっ、やっぱとんでもねぇ人間だよ!」
巨大化された腕が僕目掛けて振り下ろされる。
それを横に跳んで避け、コーガへと殴りかかる。
先ほどと同じ攻防が続く、石柱も大理石の床も砕きながら、周囲を破壊していく。
「ハァァ!!」
「そうら!!」
僕の腕から伸びた剣と、コーガの左腕が変形した刃がぶつかる。
ようやく動きが止まったところで、コーガはより楽し気に笑う。
「楽しいなぁ、ウサト!」
「僕は、楽しくなんかない……!」
「そういう割には、生き生きとしているようだけどな!」
「黙れ……!」
力で無理やり剣を押し込もうとするが、すぐに後ろへ下がったコーガが跳躍と共に、系統強化の暴発を利用した踵落としを繰り出してくる。
それを籠手で受け止めるが、上から叩きつけられる力に僕が立っている床に大きな亀裂が走る。
「だろうな!! お前がここに来たのは、この先にいる魔王様と相対するためだからな!!」
「それが分かってんならそこをどけ!!」
「嫌だね!」
僕の腕を蹴り、宙返りしながら地面に着地したコーガは弾力を用いてバウンドするように再び襲い掛かってくる。
どうあっても、どくつもりはないってことか……!
『ウサト、あのバカにこれ以上言っても無駄だ』
「フェルム……!」
『非常に遺憾だけど、あいつの気持ちはボクにも分かる。同じ闇魔法使いだからな……』
改めてコーガを見る。
多分、戦いのこと以外はなにも考えていないだろう。
それだけの気迫が感じられるし、なにより奴の高揚が打撃を通して伝わってくる。
『奴を止められるのはお前だけだ。スズネでもカズキでもない、お前だけにしかできないことだ』
「……」
『それが、コーガという一人の闇魔法使いと向き合ってしまったお前の責任でもある』
——フェルムの言葉を数秒かけて理解し、一瞬だけ目を閉じる。
この戦いを超えて魔王の元に行くには、コーガを倒さなければならない。
コーガは戦いしか知らない。
初めて戦った時からそれは分かっているし、今もそれは理解している。
だからこそ、今戦っているコーガを止めるには、戦って勝つしか方法はない。
「ハァッ!」
系統強化の暴発により棘が生えた拳が繰り出される。
風切り音でそれを察知した僕は目を見開くと同時に、その拳を正面から受け止める。
掌を幾本もの棘が貫くが、それでも受け止めた僕は、真っすぐにコーガを睨みつける。
「歯ァ食いしばれ!!」
「ッ!」
「ふんッ!!」
下から振り上げるような拳をコーガの腹部へ叩きつけ空中へと打ち上げる。
そのまま遠心力に任せ、拳に集めた弾力付与で力の限りに地面を殴りつけ―――空中にいるコーガへ突撃する。
「コーガ! お前を倒す!!」
「ハッ、もっと楽しもうぜ! これで終わりにするのはあまりにも寂しいからなァ!!」
ハンマーのように振るった拳と、空中でコーガが突き出した拳が同時に直撃する。
その次の瞬間、僕とコーガの身体は同時に天井へと激突し―――砕き割るのだった。
刺されても平気。そう、治癒魔法ならね。
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