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第二百四十三話

ニコニコ静画にUPされているコミカライズ版、治癒魔法最新話のタグが楽しすぎた。

いえ、以前からコメントともに面白いことになっておりましたけども。


お待たせしました。

第二百四十三話です。


今回は一話だけの更新ですが、少し長めとなります。

 僕、アマコ、ネア、フェルムの同化形態。

 キメラという不本意な呼ばれ方をされてしまったが、これでカンナギの予知というアドバンテージを崩すことができる。


「ウ、ウウウ、ウサト君!」

「後にしてください!!」


 背後から聞こえてきた先輩の声に、振り向かずに返事する。

 その反応が来るのは分かっていたので、対応は後にさせてもらいます!


「さ、最後まで言わせてよ!?」

「スズネ! ウサトの邪魔をするんじゃない!」

「先輩、まだ続々とゴーレム来てますから!」

「ふぉぉ! なら早く、こいつらを片付ければいいんだねぇぇ!」


 先輩の雄たけびと共に、電撃の迸る音が響く。

 それを確認した僕は、再びカンナギと相対する。

 彼女は、今の僕の姿を見て苦虫を噛みつぶしたように顔を顰めていた。


「どれだけ、過去の記憶を見ても君のように戦う人間はいなかった……」

『うん』

『でしょうね』

『そんな奴いてたまるか』


 僕の内側が騒がしいんですけど。

 なんだろう、心の声がエコーかかりながら同時に三人分聞こえてくる感じだ。

 この形態になったことでできることが広がった。

 戦闘中ではあるけど、手探りでいくか。


「アマコ、予知を見て僕達に指示を出してくれ」

『分かった。あと、ウサト』

「ん?」


 アマコの声に耳を傾ける。

 すると、フェルムと同じように内側からアマコの声が響いてくる。


『今までと同じようにネア、フェルムに対する指示を声に出すようにして』

「……?」

『それを予知して、ウサトに反映させるから』

「……?」

『……私に委ねて、それで分かるから』


 と、とにかくアマコに任せよう。

 予知魔法で僕の動きを予知できる彼女ならば、僕が求めるであろう魔術、闇魔法の変形を先読みできる。

 それにより、僕自らが言葉を介さなくとも、連携が取れる。


『ネア、拳に拘束の呪術』

『おっけー』

『フェルム、ウサトの両手に剣』

『分かった』

『ウサト、三秒後にカンナギが襲い掛かってくる』

「おぉっし!」


 アマコが言い終わると同時に、予知通りカンナギが八本の尻尾と同時に襲い掛かってくる。

 それらを両腕から伸ばした剣で弾く。

 しかし、全てを凌げるほど甘くはなく、弾ききれなかった尻尾が僕へと迫る。

 咄嗟にネアに耐性の呪術を頼もうとすると―――、


『ネア、胴体に斬撃への耐性』

「……っ!」


 直撃する寸前に耐性の呪術が発動し、尻尾をはじき返す。

 僕が声に出す前にアマコが指示した!?

 ……なるほど、アマコが言っていたのはこういうことか!!


「このっ、カンナギ流、惑巳断(まどみだ)ち!」


 舌打ちをしたカンナギが、蛇のようにゆらめく斬撃を放つ。

 至近距離での技。

 予測不可能な動きをするソレに焦るが———、


『惑わされないで、ウサトなら見切れる』

「ああ!」


 内から聞こえるアマコの静かな声で、冷静になる。

 多分、この技は相手を混乱させた隙に斬撃を与えることを目的とした技だ。

 冷静に見れば、対処できない技じゃない……!


「見切ったァ!」

「ならこれは、どうかな!!」


 ギリギリで切っ先を見極め、横に身体を傾けることで回避するも、カンナギの背中から八本の黒い尻尾が展開される。

 それらは螺旋を描くように一つに纏り、ドリルのように僕へと突き出された。


『ウサト、これは避けられない。防いで』

「フェルム! 合わせろぉ!」

『言われなくても!』


 僕が両腕を広げると同時に、背中からも四本の黒騎士の腕が伸びる。

 衝撃に後ずさりながら、それら全てで尻尾を押さえ込むように掴み取る。


「もっと化物みたいに……!」

「君が言えたことじゃないだろ!」


 弾けるように解かれた尻尾はとぐろを巻くように、僕を包み込もうとする。


「このまま君を捕えて―――」

『フェルム、腕で尻尾を支えて。ネア、尻尾を拘束』


 静かにアマコがそう口にすると、僕の背中の四本の腕が尻尾を押さえつける。

 ———予知魔法を応用した先読み変形。

 僕が何を言わずとも、アマコがその状況での最適な魔術、形態を指示してくれる。

 ならば、僕は特に何も考えずに攻撃すればいい。

 籠手を黒い魔力が覆い、円柱型のハンマーへと変わる。


「逆に逃げ場を狭めたな!」

「っ!?」

「拘束・治癒連撃拳!」


 ここで初めてカンナギ本体に拳が直撃する。

 拳が叩き込まれると同時に、至近距離からの治癒飛拳が放たれ彼女の身体を大きく吹き飛ばす。


『拘束の呪術、入ったわよ!』


 このまま治癒飛拳で意識を奪う!! 今度は逃がさん!!

 自身の両手と、肩と背中から伸びる四つの籠手の掌を吹き飛ばされているカンナギへと向ける。


「六つ同時で放つ治癒飛拳! 治癒六撃弾(ちゆむげきだん)……!!」

『うわぁーん! また変な技作ってるぅー!?』


 これならコーガの魔力で防御されたとしても衝撃が通せるはずだ。

 しっかりと狙い一気に魔力を解放しようとしたその時、カンナギが掌に金色の魔力を浮かべていることに気付く。


「か、解放の呪術……!」

「ッ!」

「うっ……ぐぅ……!」


 不自然に拘束の呪術が消し飛ばれる。

 そのまま僕の攻撃範囲から逃れるように後ろへ吹き飛んだ彼女は、黒い魔力で防御されている腹部を押さえた。

 この距離じゃ治癒六撃弾を当てるのは無理と判断しながら、掌に込めた魔力を解除させる。


「ネア、今のは……」

『ええ、魔術ね』


 まだ何か隠しているとは思ったけど、よりにもよって魔術か。

 解放の呪術だけならいいんだけど、当然他の魔術も覚えているよなぁ。


「お、思ったよりも痛い……! 治癒魔法で治るとはいえ、何度も食らいたくないね……」

「……君を完全に気絶させるには、やっぱりコーガと同じくらい連撃拳を叩きこむ必要があるようだね」

「ぜ、絶対に嫌だ……。こんなの何回も食らいたくない……」


 よほど連撃拳が痛かったのか、僕を見て僅かに身体を震わせるカンナギ。

 ちょっとした罪悪感に駆られてしまうが、彼女を止めない限りこの戦いを終わらせることができない。


『ウサト、今のうちに話しておくことがある』

「フェルム?」


 カンナギから目を離さずにフェルムの声に耳を傾ける。


『お前とボクを除いて同化は二人までが限界だ。それ以上取り込んだら、多分、同化が不安定になって……混ざる』

「混ざるって?」


 当然ながらデメリットも存在する訳か。

 分かっていたようなものだけど、その混ざるってのが不安だな。


『比率的にお前が、獣人、魔族、魔物の要素が入り混じった―――女の子になる』

『え、なにそれちょっと見たい』

『面白そう』

「オラァ!! カンナギィ!! 往生せいやコラァァ!」

「!? きゅ、急にやる気!?」


 アマコとネアの呟きを大声で塗りつぶしながらカンナギへと殴りかかる。

 今のは聞かなかったことにする!

 鳥肌が立った!

 やばい、それだけは御免だ!

 一瞬でもこれ以上の強化を考えた僕がバカだった!!


「カンナギ自身の魔力が心許ないけど、使うしかないか」


 拘束の呪術を纏わせた拳を見たカンナギが、その手に金色の文様のようなものを浮かばせる。

 魔術の文様は、彼女の手の中で広がり———白い渦巻き状へと変化する。


「魔術か……!」

「“転移の呪術”」


 人がようやく通れるほどの渦。

 カンナギはそこに躊躇なく飛び込み、渦と共にその姿を消す。


「逃げた……!?」


 いや、あれは僕達が吸い込まれた白い渦と同じものだ。

 彼女が逃げる目的で使用したのでないとすれば―――、


『———ッ、ウサト! 後ろ!!』

「そうくるよなぁ!!」


 背後の頭上に出現した渦から腕と共に突き出された刀をギリギリではじき返す。

 渦から姿を現し、その場に着地したカンナギは薄っすらと笑みを浮かべている。


「予知で互角なら、魔術で上回るまでだ。……“火炎の呪術”」


 カンナギの持つ刀を炎が包み込む。

 考えたくなかったけど、やっぱり複数の魔術を使えるようだ。

 瞬間移動は厄介だけど、これまで使ってこなかったのは、単純に魔力の消費が激しいからか?


「魔術は使うわりには、コーガの魔法を奪った力は僕には使ってこないんですね」

「……」

「まさかそれも、魔術なんですか?」


 僕の指摘にカンナギは浮かべていた笑みを消す。

 その反応にしまったと思うが、思いの他冷静な様子で口を開く。


「……コーガから魔法を奪ったのは刀に残っている勇者の魔法の力だよ。光魔法“封”、あらゆる現象を封印・解放することのできる無敵の魔法を、この刀は一つの対象に一度だけ使うことができる」

「……話してくれるんですね」

「本当は、君がこの力を手にするはずだったんだ。今からでも、この力を欲しいとは思っては……くれないんだね……」

「ええ」


 最初に言った通り、僕は治癒魔法を捨てるつもりはない。

 しかも、カンナギ自身が邪龍の悪影響を受けている時点で、その力を受け取るわけにはいかない。最悪、僕自身がカンナギに操られてしまうかもしれないからだ。


『ウサト、あの刀の力がコーガの魔法に容量を割いているなら、あの力がウサトに向けられることはないわ』

『あるとしても、それはカンナギが纏っているコーガの魔法が消えた時だな』


 内心のネアとフェルムの声に、無言で頷く。


「この戦いが終わって邪魔者をみんな排除したら、君のその考えを変えてあげるよ」


 その言葉と共に、再びカンナギが渦の中へ入り込む。


『ウサト、左!』

「そっちか……!」


 炎に包まれた刃が顔すれすれを横切る。

 強烈な熱に、思わず目を閉じかけながら攻撃に移ろうとするも、モグラたたきのように、すぐに渦の中に身を隠してしまう。

 厄介だな。

 狙いを絞ってカウンターで連撃拳を叩きこむべきか……?


「この程度じゃ捕えられないよね。なら、“魔転の呪術”! “火炎の呪術”!」


 渦から飛び出たカンナギが、左手に浮かべた金色の文様を出現させると、僕の周囲に渦とは違う魔法陣に似た文様が現れる。

 なにをするつもりだ! と僕が声を出す前に、カンナギが右手に浮かべた火炎の呪術と、左手の魔転の呪術を合わせた。

 瞬間、僕の周囲の魔法陣から小さな火球が飛び出してくる。


『ウサト、これ戦争の時に空から降ってきたアレと同じやつよ!』

「フフ、そうだよ。そしてさらに!」


 カンナギが黒い八本の尻尾を大きくさせる。

 それで襲い掛かるのかと思いきや、いくつかの渦を出現させた彼女は、そこに自身の尻尾を突っ込んだ。


『ウサトっ、上!』

「ッ」


 真上からの攻撃。

 それを既で避けて拳を掲げるが———それはカンナギの腰から伸びている黒い尻尾のうちの一本。

 それに気づいた瞬間、左右から同時に生じた渦から黒い尻尾が襲い掛かってくる。


『ひゃぁぁぁ!? ここだけ地獄絵図!?』

『ネア、うっさい!』

『そうだぞ、このバカ!』

「君達もっと静かに、ねッ!」


 それをジャンプして躱すと、火球と尻尾が飛んでくる。

 即座に治癒加速拳を用いて、空中で回避しながら着地し、混乱に乗じて斬りかかってくるカンナギの刀に籠手を合わせる。


「もう魔力が少ないんじゃないのかなぁ! 連戦続きでさぁ!」

「そっちこそ、いいのかな?」

「何が!」

「僕達の方が数が多い!」


 そう言い返すと、カンナギは呆気にとられた表情になる。


「実質一人じゃないか!!」

『うん、そうだよね』

『なにいってんのかしら、この人』

『イカれたのか?』


 君達どっちの味方だァァ!!

 そうツッコミたい気持ちをグッと堪えながら、不敵に笑って見せる。


「君が一人でやってることを、僕達は全員でやってる。なら僕達の方が強い!」

「意味が分からないよ!」


 カンナギが後ろへ下がると同時に、彼女の尻尾が渦へと消える。

 それに伴い、再び全方位からの攻撃が僕へと襲い掛かるが、アマコの予知、フェルムとネアの目、そして僕自身の感覚で対処していく。


「さて、どうやってカンナギを捉えるかがカギだな……! ……ん?」


 一瞬、カンナギの視線が僕から別の方に向いていたような。

 転移場所の確認か?


『ウサト、ボーっとしないで!』

「……ああ、分かってる」


 何を狙っている?

 それが気になるが、今は周囲から襲ってくる攻撃の対処をしていかなくては……! 



 ウサトさんと、獣人の方、カンナギさんの戦いは、今まで見たことがないほどに、苛烈で荒々しく―――それでいて凄かった。

 いや、それより前のゴーレムっていうとても大きい石の魔物? との戦いもすごかったし、邪龍っていう怖いドラゴンさんとの戦いの時も、ウサトさんは強かった。

 私はよく戦いとか知らなかったけれど、闇魔法使いの人……コーガさんを武器みたいに振り回している姿は、とてもしっくりしていて、ずっと目が離せなかった。


「うわぁ、見ろよ、シエル。フクロウの魔物と同化したと思ったら、今度は獣人の子とも同化してやがるぞ。やっぱ、やべー奴だなぁ。あいつ」

「人間というより新種のモンスターなんじゃないですか!? 私には獣人の子とか、フクロウが吸収……捕食されたように見えたんですけど!?」

「ありゃ、フェルムの闇魔法で同化したんだろうな。戦いを見る限り、今のウサトはほぼノータイムで魔力の変形と魔術を同時にできるってことか?」


 戦っているウサトさんを見て、そう分析する魔族―――コーガさん。

 そんな彼の声に、やや取り乱しながらもシエルさんは、戦っているウサトさんを指さす。


「そもそも、あの闇魔法使いさん誰ですか!? なんであっち側にいるんですか!?」

「え? あいつ元俺の部下なんだ。裏切られちまったんだよ」


 傷口を押さえながら、しまりのない笑みを浮かべるコーガさんを見る、シエルさんの目に怒気が宿る。

 彼女は振り上げた平手で、コーガさんをぽかぽかと叩き始める。


「このバカ軍団長! このっ、このっ!」

「痛い、痛ぇって!? 怪我したところを的確に殴るな! 本当に最低限しか治してもらってねぇから!」

「貴方の人望が少ないからそういうことになるんです! 大体、あの人の距離感おかしくないですか!? あっちからすれば魔族の私達って敵じゃないですか!!」

「ははは、なんでだろうなぁ。そりゃ俺にも分からねぇわ」

「今、圧倒的にコーガさんより、あの人の方が信頼度高いですからね! この役立たず!」


 この人たちは、ちょっと不思議な人達だ。

 コーガさんは私と同じ闇魔法使いで、シエルさんは親切で優しい人。

 二人は魔王軍に関係する人たちで、ウサトさん達は魔王軍と戦っている人達。

 多分、私達魔族にとっての敵となるのが、ウサトさん達なのだろうけれど……それが分かっても、ウサトさんに対して怒りや憎しみが少しも湧いてこなかった。


「……グルゥ」

「ブルリンさん?」

「グァー」


 いつの間にか近くで私を守ってくれている青い熊の魔物、ブルーグリズリーのブルリンさん。

 スズネさん、カズキさん、レオナさんがゴーレムを食い止めている中、ジッとウサトさんの戦いを目にしている彼の瞳は、どこまでも澄んでいて、その姿も堂々としている。


「ウサト、さん」


 今、カンナギさんと戦っている彼。

 魔族の姿になって、目で追いきれないくらいの攻撃を避けているその姿は、人間とは思えないくらい強い。


「……、……」


 私は、ずっと守ってもらってばっかりだ。

 散々迷惑をかけて、ウサトさんに、皆さんにずっと守ってもらって……そして、またウサトさんに守られてしまっている。

 カンナギさんは、魔族の私達を殺すつもりだ。

 彼女が私達の何が気に入らないのかは、話を聞いても全然分からなかった。

 ただ、彼女から真正面から受けた目が、とても怖かった。

 でも、それ以上にウサトさんに守られてばかりで、何もできない自分が悔しい。

 私も、コーガさんのように闇魔法をうまく使えたのなら、今戦っているウサトさんの力になれたのに。

 どうして、こんなにも私は無力なのだろうか。

 戦う力があれば、私だって戦えたのに。

 自分の魔法をうまく扱えていれば、ウサトさんの足枷になんてなることはなかったのに。

 いっそのこと、コーガさんのようにただの武器として扱ってもらってもよかった。

 こんな、役立たずの私なんかより、闇魔法の方がウサトさんにとって有能だから―――、


『お、落ち着いてー』

「ぴぃっ!?」

『うわぁ!?』


 突然の隣からの声に変な悲鳴を上げてしまう。

 驚きながら隣を見ると、私と同じように驚いているカンナギさんと同じ姿の人が空中に浮かんでいた。


「だ、誰?」

『よ、よかった。落ち着いてくれた、あ、危なかったー。この状況で暴走されてたら、大変だったよ』

「……あ」


 我に返ってみれば、私の足元の影が動き出そうとしていた。

 また、私の魔法が勝手に動き出そうとしていた。

 この期に及んでまた私はウサトさんの足を引っ張ろうとしてしまった。


『私の片割れが申し訳ない』

「かた、われ?」

『実際は、勝手に私の中で生まれた自我だけど、まあ、それはどうでもいいか』


 ぷかぷかと浮かんだカンナギさんは、未だ気付いていないコーガさんとシエルさんを一瞥した後に、ウサトさんとカンナギさんの方を見る。


『あの子は、君と同じなんだ』

「え?」

『最も信頼する人間に捨てられ、気が狂いそうな孤独の時を過ごしてきた。……彼女にとっての心の拠り所は、自分に光を見せてくれた初めての人間―――ウサトしかいなかった』


 私と、あの人が同じ?

 大切だと思っていた家族に捨てられた私と、カンナギさんの姿を重ねる。


『でも、決定的に違うところがある』

「違うところ……?」

『君には、誰かを思いやれる優しさがあることだ』

「……そんなの、優しさだけじゃなにもできません……」

『フフ』


 なんだと思えば、ただの気休めじゃないか。

 自分らしくもなく棘のある言葉を返してしまうと、優しい笑みを浮かべたカンナギさんはウサトさんを見ながら、続けて言葉を発する。


『私にとって闇魔法使いは、戦場に出てくる厄介で……かわいそうな敵って認識でしかなかった。でも、彼の……ウサトの旅路をこの目で見ていくごとに魔族も、闇魔法使いへの認識も変えさせられた』


 そう言って彼女は私へと振り返り、視線を合わせてくる。


『キーラ、闇魔法は君の純粋な想いに応えてくれる。君の強い願いが、君だけの想いが、形となって現れるすごい魔法だ。決して厄介な魔法なんかじゃない』

「強い……願い」


 私はいつもどうやって魔法を使ってきたのだろうか。

 この魔法のせいでお母さんとお父さんに捨てられて、ずっと疎んでいた。

 こんな魔法いらなかった。

 こんな魔法なくなってしまえばいい。

 ずっとそう思ってきたから、私自身も、この魔法も信じようとはしなかった。


「私の、想い」


 私がこの魔法に込める想い。

 それが形になるということなら、答えはずっと単純だった。

 それに気づけた私は、自然と瞳から流れた涙を拭いながらカンナギさんにお礼を口にする。


「ありがとう、ございます」

『……魔族と人間が理解し合える時代か。私も、こんな時代に生まれたかったな……』


 少しだけ寂しそうな顔をしたカンナギさん。

 しかし、ウサトさんのいる方向から一際大きな音が響くと同時に、険しい顔でそちらを見る。


『完全に魔族への恨みに呑まれてしまっているね。あれをなんとかするには、身動きを止めるか、あの子自身を消滅させるか……いや、待てよ。あの刀を使えば―――』


 カンナギさんが何かに気付いた?

 隣に浮かんでいる彼女の異変に気付いたその時、私のすぐ隣からブォンという音が響いた。

 すぐにそちらを見ると、そこに白い渦があって、そこから黒い尻尾のようなものが伸びて―――私の腕を掴んだ。


「———え?」

「グルァ!」

『ナ、ナイスだよ、ブルリン君!! クソ、なりふり構わず狙ってきたな!』


 しかし、誰よりも速く反応したブルリンさんが凄まじい速さで、私の腕を掴んだ黒い尻尾を噛みちぎることで消し去る。

 しかし、安堵したのも柄の間、私の周囲を覆うようにいくつもの白い渦が出現する。


「ッ、グァ!」

「あ、わっ……!? きゃっ!?」


 ブルリンさんが渦に気をとられた瞬間、足元から伸びた腕が私の足を掴んだ。

 そのまま、握りつぶされそうな力で握りしめられ、渦の中に引き込まれてしまう。

 一瞬の視界の明滅の後に、私は誰かに抱きかかえられる。


「———しょうがないよね、君が諦めないんだから」


 さきほど、話していたカンナギさんの声。

 その声に目を開くと、私の目の前には———驚愕の表情を浮かべるウサトさんがいた。

 私を抱えている人、怖いカンナギさんは私の首元に銀色の剣のような刃物を添えると、場違いなほどに明るい声で、ウサトさんに話しかける。


「ウサト、同化を解いて?」


 それで、ようやく私は気づいてしまう。

 私は、最悪の瞬間にウサトさんの足を引っ張ってしまったことに。



治癒六撃弾とかいう、確実に意識を飛ばすための技。

六連続ではなく同時攻撃というのがミソです。


アマコという頭脳が入ったことで、ウサトが何も考えずに戦えることになりました。

何気に、四人で別々のことをできるってのが最大の強みですね。


同化には当然ながらデメリットがあります。

三人以上同化すると、同化が不安定になりそれぞれの能力を扱うことができなくなり弱体化。

加えて、同化の中心となっているウサトの肉体に何かしらの変化が現れます。


以上で今回の更新は終わりとなります。


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