第二百三十八話
今回はいつもより長めです。
分割してもよかったのですが、一日お待たせするのも申し訳ないので更新しちゃいます。
第二百三十八話、友情パワー全開でいきます。
別の世界のウサトと戦い、その後に元の真っ白い空間に戻ってきた俺達。
ここに来る前と変わり映えのない場所に立っていた俺は、視線の先で目を押さえたまま座り込んでいる金髪の獣人―――カンナギの姿を捉える。
「お前に俺達は変えられない。どんな悪夢も、試練を与えられようとも、もう惑わされないぞ」
目を押さえているカンナギにそう言い放つ。
こいつは俺達にとっての敵かどうかは分からない。
いつでも武器を構えられるように警戒していると、無言で左目を押さえていたカンナギがその顔を上げた。
「君達を送りこんで正解だった」
「……なんだって?」
左目を押さえる手の隙間から流れているのは血。
もしかすると系統強化の代償か何かか?
「ああ、これは気にしなくてもいい。無理が祟って左目が使えなくなっちゃっただけだから。やっぱり、この遺跡の魔力だけじゃ足りなかったみたい」
他人事のようにそう口にしたカンナギは、左目を閉じたまま指を鳴らす。
するとどこからともなく包帯のようなものが彼女の左目を覆うように頭に巻かれ、その包帯に魔術に似た紋様が刻まれる。
「目論見からは外れたけど、平行した時間の彼の未来は変えられた。私にとって、これほどまでに素晴らしいことはないんだよ」
「……なんのつもりで私達をあの世界に送ったのかな?」
「? 最初と同じだよ。君達に甘さを捨てて欲しかったんだ。でも、今となってはそれ以上の成果が出たからどうでもいいんだ」
カンナギは嬉し気に頬を緩ませる。
「ああ、やはりあちらの世界の彼も根本的なものは変わらなかった。あのまま未来を進んで行けば、君達が手にするはずだった二つの勇者の武具のどちらかを与えられるだろうし、何よりあっちの私さえも見つけられる可能性だってある」
「お前は、何を言っているんだ……?」
「可能性だよ。君達のおかげで死にゆくはずだった彼の運命が切り開かれた」
カンナギの口から吐き出されることは殆ど理解できないが、あちらの世界のウサトはあのままいけば命を落としていたってことなのか?
「クレハの泉。あれを残したのは失敗なんだよね」
「ッ、この世界にもあるのか!?」
「勿論さ。ミアラークの地下に流れる人を狂わせる毒。それがクレハの泉の正体さ」
ミアラーク。
レオナさんのいる都市か。
今の時点の俺達が知らないとなると、あっちとは違って使われていないってことなのか……?
「なーんで、今もあれを残しちゃっているのかな? 人を狂わすものでしかないのに。まあ、あの本体の考えなんて分かりたくもないから別にいいんだけど」
ブツブツと何かを呟いているカンナギ。
なにを話しても得体の知れない存在だ。
そもそもこいつは俺達の味方なのか?
「さて、君達への用はもう済んだ! あとは時が来るまで待ってもらおうかな」
「待つだって? 君はなにを待っているのかな?」
「今は教えられないよ。だって―――聞いたら絶対に止めようとするから」
その瞬間、薄ら笑いを浮かべてカンナギに質問していた先輩の姿がかき消える。
次に姿を現したのは、十メートル以上離れたカンナギの背後で、電撃を纏いながら刀を振り切っていた。
「本体は別か……」
「確実に首を取りに来たね。そっちの勇者はいい意味で思い切りがよくなったようだ」
「……おかげさまでね」
刀を鞘へと納めた先輩は忌々しげにカンナギを睨む。
一方のカンナギは、ノイズが走るようにその姿を歪めている。
「それじゃ、これからがいいところなんだ、じゃあね」
「っ、待て!!」
呼び止めるも、それを無視したカンナギは一瞬にしてその姿を消してしまう。
カンナギが消えた場所を中心にして、周囲の景色が浸食されていくように元の遺跡へと戻っていく。しかし、今いる場所は最初に渦に吸い込まれたあの場所とは明らかに違う部屋だ。
「先輩、これからどうしますか?」
「まずは皆と合流しよう。……カンナギは、私達の予想を超えて面倒な相手かもしれない」
敵とも味方とも思えない正体不明の相手。
未だに信用すらできない相手だけど、まずは仲間と合流することを優先させよう。
●
この邪龍は僕の知っている邪龍に限りなく近いが、本物には程遠い。
それが邪龍と少し戦って抱いた感想だ。
様々な経験を積み、以前邪龍と戦った時よりも確実に強くなっていたとしても、全盛期の―――ゾンビではないフルパワーの邪龍には及ぶはずがない。
「———の、はずなんだけどなぁ」
相対する邪龍はどう見積もっても、記憶の中の過去の邪龍より劣っている。
いや、硬さはゾンビの時以上か?
「おいウサト。今更だけどよ。ありゃなんだ?」
「本当に今更だな……」
なし崩し的に一緒に戦うことになってしまったコーガが、隣でそんなことを聞いてくる。
……邪龍もこっちの出方を伺っていることだし、今のうちに簡単に説明しておくか。
「あれは邪龍。大昔にこの大陸で暴れていたドラゴンだ。少し前にゾンビとして蘇った奴を仲間と一緒に倒したはずなんだけど……どういうことか、今は過去のサマリアールの中で全盛期の姿で相対してる」
「なるほど、つまり強い奴ってことだな」
「僕の説明聞いてた?」
すっごい短くまとめられてしまったけど、そんな認識でいいのか?
もっと驚くべき部分があったような気がするんだけど。
「ウサトさんは、あんな怖いモンスターと戦ったんですか?」
後ろでシエルさんに守られているキーラの方が理解してくれている。
僕は安心させるように、彼女へと振り返る。
「仲間達と一緒に力を合わせて倒したんだ。大丈夫、今回も負けたりしないから」
「は、はい!」
今のところは戦えているから問題はないとして……ちょっとシエルさんの疑惑の視線、というかドン引きしている様子が気になったけど、今は目の前のことに集中しよう。
「行くぞ、コーガ」
「へっ。精々俺の攻撃に巻き込まれないように気をつけろよ」
「……」
「あっ、ごめん冗談。だから俺の足を持とうとしないで」
この期に及んでもふざけた姿勢を崩さないコーガにため息をつきながら、邪龍と相対する。
黒光りする鱗に、大きな翼。
目下の脅威は毒と、爪と尻尾を用いた攻撃か。
「今はネアもフェルムも、アマコもいない……が、何もできないわけじゃない」
僕一人でできることは限られている。
弾力付与に系統強化の暴発―――系統発破。
それらをうまく掛け合わせ、応用していく。
「コーガ、僕が奴を引き付ける」
「んじゃ、適当に攻撃するわ。お互いにその場その場で対応していくぞ」
下手に作戦を練っても絶対に各々で動き回るからかえって邪魔になってしまうだろう。
それは、さっきの短い共闘で理解できた。
ゆっくりと深呼吸をした僕は、今一度キーラとシエルさんを確認した後に、邪龍へと近づいていく。
『勇者ァ……!』
「だから僕は勇者じゃないって言っているだろ……。だけどまあ、以前散々な目にあった分のお返しをさせてもらおうか……!」
右腕に装備された銀色の籠手。
無類の硬度を誇るそれを前面に構え、拳を強く握りしめる。
意識を集中させ生成させた弾力付与の魔力で籠手を覆った僕は、爪を立て尻尾を打ち鳴らす邪龍と真正面から相対する。
「来い!!」
『オォォォ!!』
轟音と共に僕の身の丈を大きく超える爪が振るわれる。
叩き潰すように迫る爪を見切り、その先端に籠手をかち当て軌道を変えさせる。
「その攻撃は前に見た」
『———ッ! 貴様、貴様ゴトキガァァァ!!』
癇癪を起した子供のように両腕の爪を繰り出す邪龍。
煽り耐性が低いのは変わらないのか……? にしては言葉のボキャブラリーが単調すぎる気がする。
まあ、攻撃が雑な分、僕もやりやすい……!!
「ふんッ! ぬんっ! 甘い!!」
目で見切り、ステップと共に籠手で弾いていく。
真正面から受ければさすがに、質量で押し潰されるけど的確に弾けば最小限の力で受け流せる。
そして―――、
「その攻撃!」
乱雑な攻撃の中で繰り出される、“甘い”攻撃。
それをステップで避け、地面に叩きつけられた手の側面に、魔力回しにより弾力付与の魔力を纏わせた回し蹴りを叩き込む。
『ヌ!? 舐メルナァ!』
腕を弾かれ体勢を崩す邪龍だが、前へ倒れ込む挙動を利用し、大口を開けて僕へ噛みついて来ようとする。
鋭利な牙が生えた邪龍の大口が迫る。
「遅い……!」
弾力付与の魔力を移動させた右足を踏み鳴らし(?)、瞬時にその場を移動する。
視界に映るのは、勢いのまま地面へ頭を激突させた邪龍の横っ面。
「魔力回し」
瞬時に右拳に魔力を戻し、治癒弾力拳を放つ。
しかし、弱体化疑惑はあれど相手は巨大な体躯を持つ邪龍。治癒弾力拳だけでは押し切ることはできない。
ならば、ここにもう一度技を重ねるまで……!
「治癒連撃拳!!」
邪龍へ叩きつけられた縦拳の上で、さらに魔力を暴発させる。
瞬間、邪龍の頬にさらなる衝撃が走り、その巨大な頭を大きく揺るがした。
僕自身、右腕から跳ね返ってきた反動にやや後ずさりする。
『ガァァッ、ナ、ナゼ……!』
「うぉ……!?」
牙がへし折れ、憎悪のままこちらを睨む邪龍に対し―――僕は予想以上の威力を見せる技に軽く戦慄していた。
弾力付与と魔力の暴発の合わせ技。
咄嗟に試してみたけど、普通に危ない技だ。
「爆破……弾力―――は、だん……うん、治癒破弾拳だな」
治癒弾力拳で起点となる楔を打ち、治癒連撃拳で衝撃を奥へと通す。
治癒連撃拳より連射は利かないけど、こっちの方が吹き飛ばす力が大きい。
「おおー。やっぱやべぇなぁ。お前」
「……」
それより邪龍に攻撃しないで、僕の後ろで突っ立てる第二軍団長は何をしているのかな?
「なにしているのかな? コーガ」
「え? 見てた」
「見てた?」
「うん」
「何を?」
「お前」
「僕?」
「うん」
……。
「よし、今からお前の名前はコーガロッド、もしくはコーガカリバーだ」
「ちょ、ちょちょちょ、悪かった! マジ謝る! アッ、ごめん許して!?」
こっちは必死で邪龍と戦っているのに、こいつは何やってんの?
もう無理やり戦わせるか、武器として扱うしかないのではないか?
「とにかく、お前の訳わからん技の秘密は分かったぜ」
「……なんだって?」
「ありゃ、弾力だろ。魔力そのものに弾性を持たせて、攻撃を弾いているんだろ?」
こいつ、僕の弾力付与を観察していたのか!?
驚愕する僕を他所に、前へと歩み出たコーガは怒りのままに起き上がった邪龍へと笑みを向ける。
「なるほどなぁ。弾力ってのは面白い。系統強化の暴発といい、盲点だった」
『ウォォォ!!』
そう言葉にしたコーガの闇魔法の衣に変化が起きる。
彼の身体を覆う衣が一回り大きくなり、痩身な見た目から筋肉質なものへと変わる。
彼は、邪龍へ向けて左拳を構え―――遠心力と共に鞭のようにその胴体へと叩きつける。
「そぉい!」
バチィィン! という炸裂音と共に繰り出された一撃は、邪龍の巨体をのけぞらせる。
———闇魔法による弾力付与。
それを目の当たりにした僕は、コーガを睨みつける。
当のコーガは、さも親し気な笑みを僕へ向けてくる。
「お前の技ってさ。俺達闇魔法使いに近づいているみたいだな」
「……っ」
闇系統の魔力は、形のある魔力。
その強度も自由自在に操れるのなら、僕のように弾力付与をさせなくても同じ芸当ができる。
カズキと戦った時は僕の系統強化の暴発も使ってきたらしいし、なんでこいつ僕の技ばっかりパクってくるの?
「……この技会得するの結構苦労したんだけど」
「はは、そりゃ悪かったな」
「最悪だ。こうなったら隙を見て後ろからぶん殴って記憶を消すしか……」
「お前、本当に発想が治癒魔法使いじゃないぞ!?」
本当に厄介なことになった。
もう目の前の邪龍よりもこいつの方が厄介なんじゃないか?
『ガァァァァ! アァァァァ! 貴様、下等ナッ、下等ナ人間ドモメェェ!!』
「奴さん、怒り心頭だぞ?」
「……今度こそちゃんと戦えよ」
「分かってるって」
もう常にこいつを視界にいれておかないと信用できん。
口の端から毒の煙を零し、怒声を上げる邪龍を前にして同時に構え―――そのまま走り出す。
先にコーガが跳躍し、邪龍の視線を引き付けたところで側面に回った僕が、その横っ腹に蹴りを叩き込む。
『ソンナ攻撃痛クモ―――』
「俺がいるの忘れちゃった? 悲しい、なぁ!!」
『ッ』
僕へ意識を向けたところでコーガが邪龍の横っ面に鞭のようにしなった左腕を叩き込む。
大きく上半身が傾いたところで、一気にその背中を駆けのぼる。
頭にたどり着いたところで頭部の角らしきものを掴み、脳天へ連続して拳を叩きつける。
「ハッ、相変わらず足元がお留守だな! 僕が小さすぎて見えてなかったのか!?」
『小癪ナァ!』
「おっと」
自身の頭へ向けて振るわれた腕を飛び上がりながら避ける。
地面に落ちようとする僕へ、邪龍が繰り出した尻尾が迫る。
すぐさま治癒加速拳での回避に移ろうとすると、コーガが伸ばした左腕が僕の足へと巻き付く。
「コーガ、助かっ―――」
「ハッハァ! お返しじゃああああ!!」
「は?」
そのまま尻尾を無理やり避けさせたコーガは、力のままに僕を振り回し、再び邪龍の脳天へ向けて僕の身体を叩きつけようとした。
さっきの意趣返しのつもりだろうが———甘いわぁ!!
「笑止! 治癒魔法破裂掌からの、治癒弾力拳!!」
『グハァ!?』
「な、なんだとぉ!?」
治癒魔法破裂掌で勢いを減衰させ、そのまま迫った邪龍の頭に治癒弾力拳を叩き込む。
怯んだ邪龍の頭に着地した僕は、足に絡みついているコーガの魔力を籠手に巻き付けるように掴み取り———そのまま一本釣りの要領で引き上げる。
「どさくさに紛れて僕を攻撃しようだなんていい度胸だなぁぁ!!」
「はぁ!? お前の対応力やばすぎない!? って、おいおいおい、この流れは———」
僕に引っ張られ宙を舞うコーガ。
それに合わせて跳躍した僕は、彼の両足をがっちりと鷲掴みにする。
「いくぞコーガァァ!!」
「またこれかよぉぉぉ!?」
痛いのは嫌なのか、勝手に武器の形に変形してくれるコーガ。
彼を肩に担いで着地した僕は、着地を狙って振るわれた尻尾をコーガではじき返す。
「一緒に倒すぞ!」
「一緒じゃないよな!? 基本、お前ひとりだよな!?」
「うるせぇ! 僕達の友情パワーを食らえぇぇ!!」
「いやぁぁぁ!?」
文句を言われながら、コーガで邪龍の攻撃をはじき返していく。
「おお、弾力付与のおかげで弾きやすい」
「こんなことのためにお前から技盗んだわけじゃないんだけどぉ!」
いや、そうなんだけども。
弾力付与による踏み込みで、一気に邪龍へと近づいた僕はその胴体へコーガを叩きつける。
「ここだぁ!」
そんなコーガの声と共に、コーガが変形した棍棒の先端が爆発し、幾本もの鋭利な棘が邪龍の身体へと突き刺さる。
へぇ、系統強化の暴発ってこんな感じなのか。
棘の出る速度はそれほどではないけど、刺さるとそこそこ痛そうだな。
今後のために、コーガの技やらなんやらを今のうちに確認しておくか。
「よし、他にも技はあるか!? コーガ、お前の力はまだまだそんなものじゃないだろ!!」
「お、おう! か、解放してくれればお披露目してやるぜ!」
「えっ……」
「なんでお前にそんな心外だって顔されなきゃならないの!?」
『我ヲ無視スルナ!』
思わず立ち止まってしまった僕に、邪龍の毒の塊が迫る。
打ち返すのが間に合わないと悟った僕はコーガを手放し、毒の塊を避けると同時にその口内へ治癒飛拳を放つ。
『グゥ……!』
「コーガ、僕がぶん投げる! 来い!」
「振り回される以外ならなんでもオッケー!」
こちらへジャンプしてきたコーガとタイミングを合わせ、弾力付与を纏わせた掌でコーガを邪龍目掛けて打ち上げる。
本当は先輩との連携を想定した技だけど……!
「行ってこぉい!」
「任せとけ!!」
互いの弾力を持つ魔力により、数倍にまで跳ね上がった勢いで邪龍へと迫るコーガ。
それに伴い、三角錐のような形状へと変化した体当たりを繰り出したコーガは、左腕を大きく変形させながら、邪龍へと向かっていく。
少し離れたところで呼吸を整えた僕は、さりげなくコーガを観察しながら邪龍の胸部にできた傷のようなものを見る。
「狙うとすれば、あそこだな」
先ほどのコーガの系統強化の暴発により生じた傷。
血が一滴も漏れ出してはいないが、結構深くえぐられているはずだ。
なら、あそこを狙えば多分、邪龍は倒せる。
考えを纏め、すぐさま行動に出ようとしたその瞬間―――僕の前に、いつのまにか誰かが立っていた。
「———」
軽装の鎧を着た、黒髪の男。
サマリアールの民の記憶で何度も見た姿。
顔こそは鮮明には見えなかったが、その立ち姿はまさに―――、
「先代、勇者の過去の記憶……?」
その人は、腰から引き抜いた刀を地面へと突き刺した。
それは僕が邪龍の心臓から引き抜いた小刀よりも刀身が長い。
「……刀?」
なんでこのタイミングで?
そう疑問に思いながら、警戒しつつ近づくと、その綺麗な刀身が僕の顔を映し出す。
『———ウサト、それを取るんだ』
「……!」
すぐ後ろから、耳元に囁かれるその声。
しかし気配はない。
後ろへ振り返っても誰もいないし、コーガの頑張る声しか聞こえない。
『それを使えば、あの邪龍を簡単に倒せる。それこそ赤子の手を捻るように』
これは、本当に勇者の持っていた刀なのか。
見た目は記憶のなかのそれと同じだけど、なんだか手に取ったら駄目な気がする。
『迷う必要なんてない。さあ、それを手に―――』
「お断りします」
『え? な、なんて?』
いや、こんな怪しさしかないものを手に取れるか!
バッと、後ろへと振り向いた僕はそのまま籠手を構えながら、邪龍の胸部へと向かう。
「コーガ! そのまま気を引き付けててくれ!!」
「おう、こっちだぜ。このトカゲ野郎!! まだ一度も攻撃に当たってないぜ!!」
とてつもなくイラっとする顔でそう挑発するコーガ。
煽り耐性皆無の邪龍は、案の定それに激怒。
口を大きく開き、毒を吐きだそうとする。
『矮小ナ人間ガ、人間ガァァァ!!』
「大口開けるのはいいが、顎がお留守なんだよ!!」
それに合わせ、着地と同時にバウンドするようにジャンプしたコーガは、頭を守るように構えながら邪龍の顎へと体当たりを仕掛ける。
弾力のある魔力により、後ろへひっくり返った邪龍。
そのチャンスに、僕は邪龍の心臓があるであろう場所へ着地し、胸にできた亀裂に右腕を突っ込む。
生物って感じがしない。まるで、粘土とか地面に手を突っ込んでいるみたいだ……!
「———治癒連撃拳」
瞬間、連続しての衝撃が邪龍の内部で爆発する。
その衝撃に、邪龍の身体は機械のように痙攣する。
得体の知れない感覚に、困惑している間に邪龍の動きが完全に沈黙する。
「おう、やったじゃねーか、ウサト。美味しいところを持っていったな」
「……倒した、のか?」
動かなくなった邪龍。
しかし、なんだろうか、この違和感は。
僕は本当に邪龍―――生物と戦っていたのか?
「ウサトさん!」
「コーガさーん」
邪龍を見てそんな疑問を抱いていると、僕とコーガの元にキーラとシエルさんが駆け寄ってくる。
「怪我はない? 毒とか吸ってない?」
「だ、大丈夫です!」
「貴女も?」
「え、ええ」
なぜ距離を取るのか。
いや、相手からしたら僕は敵だからしょうがないか。
だからといって、敵意のない人をどうこうしようとするつもりなんかないけど。
「……ん?」
その時、周囲の空間に変化が起きる。
サマリアールの過去の街並みが、色あせていく。
色を失い、白い形だけの建物へと変わっていく中、僕達が倒した邪龍の姿も別のものへと変貌する。
「は? なんだこりゃぁ……」
「……ゴーレム?」
現れたのは僕達が戦った大きなゴーレムとは別の、龍の形に似せたゴーレム。
元は人型のそれを無理やり邪龍の形にさせたのか、ところどころつぎはぎだらけで、見た目も不格好に見える。
かなり気味の悪い龍のゴーレムの胸には亀裂の入った宝玉のようなものがあり、僕が治癒連撃拳であれを壊したから邪龍が動かなくなったのが分かる。
「なんだ、ここは……」
広い空間。
その中に真っ白な建物と、壊れた竜型のゴーレム。
まるで過去のサマリアールの街並みを再現したジオラマだ。
「本当は幻術を見せられればよかったんだけどね」
「———っ!」
「でも、君。精神力がすごいから私の魔力の籠った声も届かせられないし、幻術も見せられないから少しばかり工夫をしたんだ」
現れたのは、僕達に邪龍―――ゴーレムをけしかけた獣人の少女、カンナギ。
「カンナギか……」
「結構、苦労したんだよ? 色をつける魔術とかで見た目とか再現しなきゃならなかったし。……でも、それだけの苦労に見合う、成果を君は出してくれた」
そう言った彼女は敵意のない笑顔を僕へ向けると、パチパチと拍手をしてくる。
「このゴーレムはありあわせではあるけど、間違いなく君の戦った邪龍よりも強かった。……予想外のことはあったけれど、それを難なく倒せたと言うことは、君は真なる意味で“力”を受け継ぐ資格があるということだ」
カンナギは自身の背後の空間に、僕達を吸い込んだ光の渦を作り出す。
それを見て、警戒を露わにさせる僕へ彼女は手を指し伸ばす。
「さあ、来てくれ。君に正しい力を―――先代勇者の魔法、“光の種火”を授けよう」
・伸びる、跳ねる、弾ける、DXコーガロッド
・ウサトから技を学ぶコーガ。
かえって武器として強化してしまうポカをやらかす。
・ウサト「うるせぇ! 僕達の友情パワーを食らえ!!」
この文面だけ見ると、ラスボスとか強敵に言っているように見える不思議。
今回の更新は以上となります。