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第百六十二話

お待たせしました。

第百六十二話です。

 馬車での旅を経て、僕達は無事に魔導都市ルクヴィスへと到着した。

 二度目に訪れたこの都市だが、以前とは変わったところはあまりない。しかし、それでもここからカズキと先輩とで、それぞれの旅路へと向かったと考えると、少しだけ感慨深い気持ちになった。


「前回と違い、このまま馬車で都市の中心部まで向かいます。すぐに話し合いが始まるかどうかはまだ分かりませんが、皆様も準備はしておいてください」


 ウェルシーさんの言葉に頷く。

 旅の過程で身分の高い方と何度も顔を合わせているが、やっぱり慣れない。念には念を入れてしっかりと身だしなみを整えておかなくちゃな。

 そう思い、団服の襟などを正していると、カズキが馬車の外の景色を見ていることに気づく。

 彼の視線の先を見てみれば、ルクヴィスの街の風景があった。 


「ここは相変わらず子供で溢れた場所だな」

「旅で訪れた他の国もそうだけど、ここも十分に特徴的な場所だよね」

「……俺の行ったニルヴァルナ王国は、こことは真逆の場所でさ。なんというか肉体派な人たちが多い場所だったんだよ」


 そういえばカズキからニルヴァルナ王国のことはほとんど聞いてなかったな。なんだか闘技場でトーナメントみたいなことをしたと話してはくれていたけれど。


「確かカズキはトーナメント、みたいなことをしていたんだっけ?」

「ああ。王様に『貴様の望みを通したいのならば、力で勝ち取って見せろ!』って言われてしょうがなく出場することになっちゃって……」

「随分とアグレッシブな王様なんだね……」

「はは、悪い人じゃないんだけどな。そのおかげで剣の腕を鍛えることができたわけだし」


 しかし、カズキの言葉通りなら肉体派なニルヴァルナ王国の兵士たちは、一般的な治癒魔法使いにとは真逆の存在といえる。

 僕とローズという例外はいるけれど、あちらは僕を一般的な治癒魔法使いと認識して接してくるはずだ。

 その際、軽んじられたりしないか少し不安になる。


「常軌を逸した自分を自覚しろ、か」


 アマコに言われた言葉を思い出す。

 副団長となった今、僕は救命団という看板を背負ってここに来ている。

 そんな僕が、救命団の名を傷つけるようなマネをしていいはずがない。


「よし、決めた。会談の時、団長を意識した立ち振る舞いを心がけよう」


 前回ルクヴィスに来た時のように、学生たちに嘗められるような立ち振る舞いではいけない。

 そう決意していると、僕の呟きが聞こえたのかウェルシーさんが声をかけてきた。


「ウサト様、今とても不穏な呟きが聞こえたような気がしたのですが……き、気のせいですよね?」

「いえ、言葉通りの意味です。僕は救命団の副団長としての立場があります。そんな僕が見た目や言動、治癒魔法使いという属性によって甘くみられるのは、リングル王国にとっても良くないことのはずです」

「そ、そうですが、流石にローズ様を参考にする必要は……」

「分かっています。確かに団長は控えめに言って恐ろしい人です。しかし、そんな人だからこそ今回は丁度いいんです」


 そう、あの鬼の団長の放つオーラは大抵の相手を威圧するものだ。

 普通なら不必要に相手を委縮させてしまうが、顔合わせにあたっては最適だ。

 嘲られるのならば、そうさせなければいい。

 言葉ではなく存在感でそれを示す。

 僕のローズの真似が怖いのは、ヒノモトに入る前に見せたアマコ達の反応を見て分かっている。


「治癒魔法使いってだけでバカにされるのは納得いかないもんな。俺は良いと思うぞ」

「私も同感だ。やっぱりこのような集まりで第一印象が大事だからね。それに……私が記事として広めてしまったウサト君の似顔絵の件もあるし……」


 あの貴公子顔の似顔絵についても払拭できるチャンスでもある。

 代わりに、怖いなどという風聞が広まってしまう可能性があるけれど、貴公子風よりかはマシだ。

 よし、試しにやってみるか。


「会談中、僕は——」


 ローズのように左手で前髪をかき上げ、薄く笑みを浮かべながら視線を鋭くさせる。

 ローズの姿を頭の中に思い浮かべながら馬車の壁に背を預け、足を組んだ僕は顔を上げる。


「ルクヴィスではできるだけこの状態でいようと思います。フッ、これなら嘗められることはありませんね」

「やっぱり雰囲気も怖くなるね。うん、大丈夫。治癒魔法使いには見えないよ」

「褒められているかどうかは分からないけど、ありがとう」


 アマコに軽く礼を言って、カズキ、先輩、ウェルシーさんを見やる。

 カズキと先輩は感嘆しているような反応だが、ウェルシーさんは絶句している。


「おお、本当にローズさんっぽいな!」

「ひ、人ってここまで雰囲気が変わるんだね……わ、ワイルドなウサト君も中々……」


 先輩とカズキには結構好評みたいだ。

 しかし、僕としてもずっとこの状態でいられるわけでもないので、すぐに肩の力を抜いて、未だに絶句しているウェルシーさんに話しかける。


「やっぱり、やめたほうがいいですか?」

「う、ウサトさんの行動自体は駄目な訳じゃないのですが……なんというべきか、変わりように驚いてしまいました。雰囲気がローズ様に本当にそっくりでした」

「まあ、それだけ団長にしごかれたってことですね。真似るというより、自然と身についてしまったといったほうが正しいかもしれません」

「単純に精神構造がローズさんに近くなっただけじゃ……」


 ボソッとアマコが何かを呟いた気がしたが、僕には聞こえていない。自分でもそうかもしれないと思ってしまったので、敢えてスルーする。

 話しているうちに、都市の中央に到着したのか馬車が停止する。

 外の景色を見やりながら、僕達も軽く身だしなみを整えてから馬車を降りる。


「ここは……」


 近くにはルクヴィスの学園の校舎が見え、その隣にある校舎にも勝るとも劣らない建物の前に僕達が乗ってきた馬車と、他国のものとみられる馬車が止められていた。

 他にもルクヴィスの学生ではないと思われる人達も見える。


「会談はここ、ルクヴィスが誇る大図書館で行われます」

「図書館というと、本が並べられているところで話し合うってことですか?」

「いえ、あらかじめ会談用に作られた大広間で集まることになっております。元より、ここはその為にも作られた場所になっているんですよ?」


 ウェルシーさんの解説に感嘆の声が漏れる。

 以前来たときは、足を踏み入れることはなかったけれど、いざ目の前にしてみると大きいな。

 大図書館を見上げていると、護衛を務めてくださったシグルスさんがウェルシーさんに話しかけていた。


「ウェルシー」

「あ、すいません。皆様、とりあえず会談の場を準備してくださっているグラディス学園長に、到着の旨を知らせに行ってまいりますので、ここに待機していてください。すぐに案内の者が来るので、皆様は先に宿へ向かってください」

「「「はい」」」

「あと、会談自体は四王国が揃った翌日からとなっておりますので、アマコさんはそれまでに会いたい方々に会っておくといいかもしれませんね」

「うん、ありがとう。ウェルシーさん」


 そう言ったアマコに優し気に微笑んだウェルシーさんは、シグルスさんと共に大図書館の方へ向かっていく。

 恐らく、会談の段取りなどを話し合いに行くのだろう。


「それじゃ、荷物を置きにいったらキリハ達に会いに行くか?」

「うん。そうしよう」


 頷いた僕は、先輩たちと共に迎えの者が来るのを待つことにした。

 荷物は騎士の人達が持ってくれているので手持無沙汰な僕は、先ほどから周囲を警戒しているように見える先輩に話しかけてみる。


「先輩、どうしたんですか?」

「いや、ちょっとカームへリオの紋章が刻まれた馬車を見つけてね。来ないのは分かっているのだけど、ちょっと警戒しちゃって……」


 いつもの先輩らしくないな。

 カームへリオというと、思い当たる人物が一人いなくもないけれど、もしかしてその人なのだろうか?


「警戒? それって———」

「おお、スズネ。スズネじゃないか!」

「げ、こ、この声は……」


 嫌そうな表情の先輩に、僕も声のした方を向く。

 そちらからは数人の護衛の騎士を伴った同年代くらいの赤髪の少年が先輩に手を振りながら走ってくるのが見えた。


「……どうして君がここにいるのかな? カイル王子」

「フ、敬称なんてつけなくてもいい。気軽にカイルと呼んでくれ」

「分かった。それでカイル王子、どうして君がここにいるのかな?」


 お、思ったより先輩がドライだ。

 これ、もしかして召喚される前の先輩に戻ってる?

 どう見ても冷たい先輩の態度に、カイル王子は意気揚々と話し始める。


「質問に答えよう。それはこの俺も魔王軍との戦いの為の会談に参加したからさ! いや、本当のことを言おう! それもまた君に会うためにさ!」

「へぇ、そうなんだ。それで、君の告白は断ったはずなんだけど」

「あの程度の挫折で屈していたら、俺は疾うの昔に姉上に精神的に殺されているさ!」


 それとこれとは話が違うような……。

 なんというべきか、話を聞いていそうで聞いていない感じがする。


「それで、件の治癒魔法使いはどこにいるのかな? 君と一緒に来ているんだろう?」

「……えーっと」


 先輩が遠慮気味にこちらへ視線を向ける。

 僕のことを言って良いか迷っているようだ。

 こちらとしては早くキリハ達に会いに行きたいのだけど、しょうがない。

 眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに腕を組んだ僕は先輩の隣に移動する。


「僕が治癒魔法使いのウサトです」

「なんだ。さっきまで所在なさげに立っていた君がそうだったのか。全く眼中になかったが、どれ、似顔絵とどれだけ似ているか確かめて……」


 そう言って僕の顔を見たカイル王子はぴしりと固まる。

 当然だ、今の僕は旅の仲間が怯えるほどの雰囲気を醸し出しているのだ。


「スズネ、なんだ。この何人か始末していそうな人相の男は」

「彼がウサト君だよ」

「治癒魔法使いの常識が壊れるぞ!?」


 散々な言われようだが、僕もそれを分かって不機嫌な感じを出しているので何も言わない。

 しかし、それでも僕に対抗心? を燃やしているのか、若干声を震わせながら指を突き付けてきた。


「お前は本当に治癒魔法使いなのか?」

「勿論です。この通り、治癒魔法を扱えます」

「ほ、本当だ……」


 掌に治癒魔法を浮かべて見せると、引き攣った表情を浮かべる。

 僕と先輩の表情を交互に見て、爪を噛みブツブツと何かを呟き始めたカイル王子に背後で控えていた護衛の騎士が諫めるように話しかけていた。


「カイル様、あまりこのようなことは……」

「所詮は治癒魔法使い、見掛け倒しに決まっている……!」

「いえ、そういうことではなく。このような場で決闘を申し込むのは些か——」

「案ずるな。王子たる俺に敗北の二文字はない。おい、治癒魔法使い!」


 護衛の騎士の制止を振り切ったカイル王子は、僕に指を突き付けてくる。

 その時、背後から近づいてくる女性に騎士達が気づき顔を青くする。どこかカイル王子と似た顔立ちの女性は、彼の背後にまで近づくと——、


「我が名はカームへリオ第一王子! カイル・ラーク・カームへリオ! 貴様と雌雄を決するべく決闘を——」

「この愚か者」

「申し込べがぁ!?」


 綺麗なローキックをカイル王子の足に叩き込み、勢いよく張り倒した。

 僕達よりも少し年上に見える赤髪の女性は肩から伸びているマントを正しながら、地面でもんどりうっているカイル王子の胸倉を引っ張り上げた。


「貴方は一体何をしているのですか?」

「ひっ、あ、姉上!? こ、これはその……」


 姉上……!?

 人形のような端正な顔立ちでジッと彼を見下ろした女性は、確かにカイル様と似ている。


「恩人である勇者様にあろうことか王国の中での告白をして、見事に玉砕した時点で大恥をかいた貴方が、まさか今度は噂に聞く治癒魔法使い殿を相手に一体何を口走ろうとしたのですか?」


 カイル王子を無理やり立たせた女性に、しどろもどろになりながらも彼は口を開く。


「姉上! 俺は一人の男としてこいつに決闘を申し込むんだ!」

「貴方が一人の男だった時なんて今までありましたか?」

「酷い!? どうしてそんな酷いことが言えるの姉上ぇ!」

「……?」

「酷いことを言っている自覚すらない!?」


 きょとんとした表情で首を傾げる女性にショックを受けるカイル王子。


「いえ、本国に想い人が複数人いると公言している貴方が何を言っているのだろうと純粋に疑問に思ってしまって……」

「あ、いや、それは……」

「はぁ……」


 呆れたようなため息を漏らした彼女は、続けて言葉を発する。


「貴方程度が彼に勝てるわけがありません」

「なんで断言するんだよ!?」

「逆にどうしたら勝てると思い上がれるのですか? 見なさい、あれが普通の治癒魔法使いに見える? 見えないでしょう? 貴方なんかあれです。指一本で張り倒されますよ」


 なんだろう。新手の精神修行かな?

 自分で怖い顔しているのに、それでボロクソに言われなきゃいけないのが地味に辛いのだけど。

 先ほど先輩達に宣言したけれど会談の時以外はもうしないでおこう。これはちょっと精神的によろしくない。

 ともかく、先輩はカイル王子のお姉さんについて知っていたのだろうか?


「先輩、彼にお姉さんがいるのは知っていましたか?」

「姉と弟がいるのは知ってはいたけれど、私がカームへリオを訪れたときは別の国へ赴いていたから顔を合わせてはいないんだ……」


 それじゃあ、先輩とも初対面という訳か。

 しかし、先輩も予想だにしない性格だったのかひたすらに罵倒されているカイル王子がちょっとだけ不憫に見える。


「そもそも魔法使いとしての枠組みにいれることさえ怪しい人なんですよ? 彼に関する噂は貴方が蒙昧な行いで流布してしまったくだらない記事以外は全て真実ですからね」

「……う、嘘だぁ」

「嘘だと思うなら戦ってみなさい」


 ……ん?

 すっごい自然な流れでゴーサインが出たのですが。

 当のカイル王子も困惑している。


「え、い、いいの?」

「ええ、構いませんよ。相手側が了承してくれた場合ですが……」


 横目でこちらを見やるカイル王子の姉らしき人物。

 その視線にどこかこちらを推し量るようなものが感じられる。


「でも、好都ご……残念です。我が誉れあるカームへリオ王国の第一王子が精神に大きな傷を負って、王位継承権を放棄することになるなんて……」

「今、本音漏れたよな。好都合っていいかけたよな」

「ええ」

「そこは誤魔化せよ!?」


 完全にカイル王子がツッコミに回ってしまっている……。

 なんだかお姉さんの方が真面目そうな人に見えたけれど、どうやらそうでもなさそうだ……。


「貴方が王位を継承しなければ、カームへリオは私のものですからね。この際、精神に大きな傷を負ってくれれば、後々蹴落と……話し合いをする必要がなくなりますからね」

「姉上には弟への愛情ってものがないの!?」

「ありますよ? 今年で三歳になるたった一人の弟、ブレンが可愛くて可愛くて仕方がありません」

「俺も弟の一人だよォ!」


 そう訴えるカイル王子の言葉に女性はすまし顔だ。

 本当はこの場を離れたいところだけど、そうはいかないので声をかけてみることにした。


「あの……」

「ああ、申し訳ありません。私はカームへリオ王国第一王女、ナイア・ラーク・カームへリオと申します」

「あ、ご丁寧に……自分はリングル王国、救命団副団長、ウサト・ケンと申します」

「ご存知かもしれませんが、勇者のイヌカミ・スズネです」

「同じく、勇者のリュウセン・カズキです」


 自己紹介をした僕達を順番に見た彼女、ナイア王女はにっこりと満足そうな笑みを浮かべた。


「この度はうちの短絡的で、浅慮で、愚劣な弟がご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

「たんらくてきで、せんりょで、ぐれつ……」


 ナイア王女の隣でカイル王子が凄い勢いで落ち込んでいるのだけど。

 弟を庇うように見せて、罵倒を叩きこむとは……参考にしよう。


「勇者様と共に召喚された異世界人、その時点で勇者様と同様に敬うべき存在であるのに……本当に申し訳ありません。まだ弟も無知な子供なだけなので、許していただけたら幸いなのですが……」

「い、いえ、そこまで畏まらないでください! そもそもカイル王子には何もされていませんから!」


 流石に王族の方にここまで畏まられるわけにもいかない。

 相手が問題にするつもりがなくても、周りからしたら大問題だからだ。


「……本当に許してくださるのですか。下手をすればリングル王国との信頼関係に亀裂を生じさせかける問題に発展していたかもしれないのに……」

「はい」

「許せなくはないのですか?」

「え?」

「このへらへらした顔を一発殴ってもいいんですよ?」

「いえいえ、なにもそこまでしなくても……」

「あ、心配はいりません。問題にはしませんから」

「どうして僕がカイル王子を殴る前提で話を進めようとするんですか……?」

「そうだよ、姉上ぇ! どうして頑なに俺を殴らせようとするんだよ!?」


 この人、低姿勢に見せかけてやべー人だ!

 しかも半分くらい僕の話を聞いてないぞ!

 ドン引きしている僕とカイル王子を他所に、ナイア王女はややオーバーなリアクションで続きの言葉を口にする。


「ああ、ウサト様。なんたる寛大な御心でしょうか。しつこく女性に付き纏った挙句、身の程も弁えずに貴方様に勝負を挑もうとした愚かな弟にそこまでの温情をくださるなんて……私、とても感銘を受けました。流石は勇者様の一番のご友人であり、噂に名高い救命団団長、ローズ様の一番の弟子です」

「そこまで言われることじゃ……」


 素直に喜べないのはなぜだろう。

 何気にこちらの情報を知っていることもそうだし、僕が嬉しくなるような言葉をピンポイントで口にしているからか?

 でも、本心で言ってくれているのは分かる。だけど何か……サマリアールでルーカス様と話した時のような違和感もある。

 ナイア王女は、僕から、先輩とカズキの方へ視線を移す。


「スズネ様も面と向かって会うのは初めてですが、なんとも秀麗な方。カズキ様も一目で相当な強者と見て分かります。こうして貴方様方と会えて光栄に思います」

「そ、そうかな……?」

「ははは、なんだかむず痒いな……」


 普通に照れるカズキとは逆に、何かに気づき引き攣った笑みを浮かべる先輩。

 ここで僕も先ほどまで抱いていた違和感の正体に気付く。


「一つご提案があるのですが、ここで会ったのも一つの縁。この後少しばかりお時間をいただけないでしょうか?」

「その、時間とは?」

「少しだけお話をしたいだけです。勿論、長くお時間は取らせませんし、こちらとしてもできる限りのおもてなしをさせていただきたいと思いますが、どうでしょうか?」


 ここで恐らくナイア王女の思惑に気付いている先輩と目を合わせた僕は、一度頷いてから彼女に返答する。

 

「折角のお誘いですが僕達には別の予定がありますので、今回はお断りさせていただきます。できれば、また別の機会に誘っていただければ……」

「そうですか、残念です。会談が行われている間は機会はいくらでもありますし、話はその時にしましょうか」

「……え、ええ。そうですね」


 引き気味に頷くと彼女は薄く笑みを浮かべ、カイル王子の首の襟を掴んだ。


「では、私達は戻ります。次に顔を合わせるときは会談の時ですね。その時はよろしくお願いします。カイル、貴方には説教が待っていますから、覚悟しておいてくださいね」

「ひっ!? あ、姉上! ここにきて説教は勘弁してくれ!」


 問答無用と言わんばかりにカイル王子を引きずりながらこの場を去るナイア王女。

 その姿を見送った僕は、思わず安堵の息を漏らした。


「先輩、カズキ。あれって……引き抜きにきてましたよね……」

「そうだろうね。カームへリオの国風からしておかしなことではないけれど、まさか王女自身があんな露骨に来るとは思わなかったよ……」

「勧誘されるのは慣れてるけど、ここまでとはなぁ。ウサトはニルヴァルナ王国に気を付けたほうがいいかも。あの人たち、魔法使いというより格闘家とか剣闘士に近いから、ウサトのこと絶対気に入ると思うし」

「き、気を付けておくよ……」


 なんだろう、脳裏に隠れ里で腕相撲勝負をしたダイテツさん達の姿が思い浮かんだ。

 なんとも恐ろしい予想をしてしまったが、現実にはなってほしくないな……。

カイル君はいじられキャラになったよ姉上ぇ!


と、いうことで新たな登場人物、カイル王子とナイア王女でした。


※『天候魔法の正しい使い方』の表紙イラストがMFブックス様公式サイトにて公開されましたので、追加の活動報告書かせていただきました。


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