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第百六十三話

お待たせしました。

第百六十三話です。


後書きにて重大発表を書かせていただきました。

 ナイア王女に連行されるカイル王子の姿を見送った後、すぐに宿へ案内してくれる人がやってきたが、その人物は僕達にとって関わりの深い人物であった。


「なんというか、君と初めて会ったときを思い出すよ。ハルファさん」

「私もです。ウサトさん」


 以前、ルクヴィスで出会った魔眼使い、ハルファさん。

 案内してくれるのは学園の関係者かな? とは思っていたけれど、まさか顔見知りの人が来てくれるとは思わなかったのでいい意味で予想を裏切られた。


「学園長に指示されて貴方達の案内をさせていただくことになりましたが、私としてもまた貴方達に会えてとても嬉しく思います」

「そっか、グラディス学園長が……」


 挨拶しにいきたいところだけれど、今は忙しいだろうから頃合いを見計らって会いに行くか。

 心の中でそう決めていると、僕達を紫色の光を帯びた瞳で見回したハルファさんが口を開いた。


「最後に会ったのは数カ月ほど前ですが、皆さんも見違えるほどに成長して驚きました」

「そ、そこまでかな?」

「ええ。三者三様の違いはあれど、それぞれの個性を強く感じさせる、そんな特徴的な魔力を帯びています」


 僕達の個性を強く感じさせる、か。

 ハルファさんの言葉に先輩が強い興味を持つ。


「魔力で性格とか個性とか分かるの?」

「ええ。ウサトさんと戦った後に自分の魔眼のことを深く理解していこうと思いまして、その一環で魔力の流れから読み取れるものが“相手の動き”だけではないことが分かったんです」


 以前戦った時は、魔力の流れを見て動きを読んできたけれど、今のハルファさんは別のものが見えるようになったってことなのかな?


「魔力の流れは人によって違います。それを観察することで、相手の性格、魔法主体の戦い方か、それとも武器を用いた戦い方かを大まかではありますが把握することができるんです」

「つまり、戦う前から相手がどんな戦法を繰り出してくるか分かる、ってことか?」

「完全に分かるわけではないですけどね」


 カズキの言葉に頷いたハルファさんに、僕は頬を引き攣らせた。

 旅の間で何度か対人戦はしてきたつもりだけど、手の内を相手に知られた状態で戦うのはかなりやり辛いと思う。

 人知れず戦慄していると、どこか興味深げな様子で先輩がハルファさんに声をかけた。


「私のはどんな魔力に成長したのかな?」

「え? 主観的にですが構いませんか?」

「うんうん!」

「そうですね。スズネさんの魔力は、例えるならば……いつでも動き出せるように構えている狼、でしょうか? 常に一瞬でゼロの状態から限界まで魔力を引き出せる状態にあるように見えます」


 もしかして先輩の新しい戦い方『魔装・雷獣モード』のことを言っているのだろうか?

 あれは先輩の魔力と身体能力を0の状態から極限にまで引き上げる特殊な戦闘法だって話だ。魔力の流れだけでそこまで分かるなんて、やっぱり魔眼って凄いんだな。

 狼、と聞いた先輩が笑顔を浮かべこちらへ振り返る。


「狼だって、ウサト君!」

「犬の間違いじゃないですかね?」

「うん、スズネは犬っぽい」

「君たちに噛みついてやろうかな!?」


 ガオー! とショックを受けながら威嚇? してくる先輩をなだめながら、カズキの魔力をジッと見ているハルファさんの方に意識を向ける。


「カズキさんは、少し表現が難しいですが……波紋も音も一切存在しない水面……といったところですね。驚くほど魔力に乱れもない。今まで見てきた中で最も静かで芸術的といっても過言ではない魔力の流れです」

「げ、芸術的ってそんな……」


 カズキは魔力の操作を究めたその技術が魔力に反映されているのだろう。

 実際、彼の魔力操作は尋常のものではない。


「ウサトさんの魔力は……ふーむ」


 こちらを見て顎に手を当てるハルファさん。

 ちょっとどきどきしながら彼の言葉を待っていると、悩まし気に首を傾げた。


「不思議な魔力をしていますね。カズキさんのように静かな一面を見せますが、それと同時にスズネさんのような力強さを感じさせる。まるで相反する二つの側面を持っています」

「相反する二つの側面……?」


 僕の精神面が関係しているのかな?

 特に切り替えている意識はないけれど、先輩達と接するときの僕と、救命団の強面達と接するときの僕。

 どちらも同じ自分自身だけど、それが無意識に魔力として形になっているのかもしれない。


「まあ、ウサトならおかしくないね。二重人格か疑うくらいの豹変っぷりを発揮したりするし」

「アマコ、僕は二重人格じゃないよ。なんというか、感情が昂るとそうなっちゃうだけなんだ」

「それはそれで問題があるんじゃ……」


 本当だからしょうがない。

 そんな会話をアマコとしていると、カズキがハルファさんに話しかけていることに気付く。


「君は雰囲気が柔らかくなったな」

「そうですか?」

「ああ。前と比べて、自然に笑えている感じがするよ」


 カズキの言葉にハルファさんは前を向きながら嬉しそうに頷いた。


「皆さんが旅に出た後、キリハとキョウと話すことが多くなりまして」

「へぇ、キリハとキョウが」

「恥ずかしながら今の今までクラスメートにも避けられていたので、こう……まともに話し合う友人ができたのは久しぶりだったんですよ。まあ、自業自得ではあるのですが……」


 僕達がルクヴィスを発つ前、ハルファさんは学園の生徒から恐れられていた存在だった。

 その理由は、戦いの際における危険な急所攻撃の多用により、対戦した相手の心を完膚なきまで折ってしまう戦い方にあった。


「私自身、せめて体面をなんとかしようと常に笑顔を浮かべていたのですが……実はそれが周りに怖がられる原因になっていたらしく……ははは」

「でもさ、笑顔って……難しいですよね」

「分かりますか。ウサトさん」

「よく分かります。ええ、分かりますとも」


 僕もキリハとリンカに笑顔で接しようとしたら逆に怖がられてしまった経験がある。

 あれは今でも微妙に気にしてる。

 こちらを振り向いたハルファさんと互いに深く頷く。


「ちょっと似てるからな。ハルファとウサトって」

「二人とも魔法を使いつつの肉弾戦主体だもんね」

「つまり、ハルファさんも脳筋……?」


 おいそこの子狐、どさくさに紛れてハルファさんと僕を脳筋扱いするな。

 僕は結果的に殴りに行くだけで、結構考えているぞ。

 ジト目でアマコを睨んでいると、目的地に到着したのか前を歩いていたハルファさんが足を止める。見れば、眼前には白を基調とした大きめの建物があった。

 まるで高い身分の人が泊まるような宿に、感嘆とした吐息が漏れる。


「さて、ここが皆さんが滞在する宿です」

「結構大きいですね」

「国の代表を泊めるところですからね。生半可な宿を用意するわけにはいきませんよ。因みに、他の三国の方々が泊まる宿も近くにあります」


 ハルファさんが指示した方を見れば、確かに目の前の宿と似た建物と、その前に集っている他国の騎士達の姿が見える。

 とりあえずは、僕達が泊まる場所が分かったな。


「あ、それと裏手に訓練場がありますので鍛錬をしたいときはそこを利用するといいですよ」

「え? そうなんですか? それだったら、お言葉に甘えて利用させてもらいます」


 まさかの訓練場付き。

 まだ宿の中にも入っていないのに僕の中でこの宿の評価が爆上がりしてしまうのだった。



 宿まで案内された僕達はそれぞれに割り当てられた部屋に荷物を置いた後、再び宿の前に集まっていた。キリハ達の所へ一緒に行かないか、とカズキも誘ってみたが、「あまり大勢で押しかけると迷惑をかけてしまう」とのことで、彼とは別行動をすることになった。

 ハルファさんは、まだ他にグラディスさんから仕事を与えられているらしく、その場で別れた。

 僕と先輩とアマコは次の予定通りにキリハ達の家に向かうのだった。


「先輩。今のうちに言っておきます。大人しくしていてください」

「え、なんでかな?」


 キリハ達の住む家の近くに来たあたりで、どこかうきうきとしている先輩に一応釘を刺しておく。


「当たり前でしょう。いいですか? いくらサツキが貴女に懐いているとしても、それはあくまで観察対象としてです。言うなれば、学校の帰り道に見つけた子犬を愛でる小学生と同じようなものです」

「その例えには悪意があるような気がしてならないんだけど? フッ、でもウサト君、サツキちゃんは猫の獣人だよ? 獣人マスターとしてその間違いはいただけないよ?」

「先輩、勘違いしないでください。貴女が子犬のポジションです」

「ウサト君、そろそろ泣くよ?」


 先輩がぐいぐいコミュニケーションを取ろうとするのは決して悪いことではないけれど、そのせいで相手を引かせてしまうのはよくない。

 実際、キョウは先輩に若干の苦手意識を持っている。

 こちらをチラチラと見ながら、泣き真似をしようとしている先輩をスルーしていると、視線の先に懐かしいやや古びた家を見つける。


「それほど時間が経っていないはずだけど、なんだか懐かしくなってくるな」

「あれから色々なことがありすぎたからかもしれないね」


 アマコの言葉に頷きながら、キリハ達の住む家に歩を進めようとすると、家の扉が勢いよく開け放たれ、中からイタチに似た丸みを帯びた獣耳を生やした少女、キリハが顔を出した。

 彼女は僕達を見つけると、驚いた表情を浮かべた後、笑顔でこちらに手を振ってくれた。


「知っている気配が近づいていると思ったら、やっぱりあんた達だったか!」

「元気だった? キリハ」

「ああ勿論さ。手紙でお母さんを助けられたことは知ったけれど、まさかこんなすぐに会えるとは思わなかった。さ、ここで話すのもなんだし、中へ入りなよ」


 キリハに促され、家の中へ入る。

 テーブルの椅子に腰かけていると、キリハが二階に続く階段を見上げキョウとサツキを呼んでいたので、どうやら二人も家にはいるようだ。

 キリハの声にすぐに鈴の弾むような声で反応したのは、猫の獣人のサツキであった。


「わぁい、スズネ! また会えたね! 旅での話を聞かせてよー!」

「いくらでも話すよ。君の為なら」


 二階から駆け下りながらそう口にしたサツキに先輩が真顔で答える。

 その様子に、全員分のお茶をいれていたキリハは不安そうに僕を見やった。


「ウサト、スズネが真顔でサツキを見ているんだけど、大丈夫なの?」

「最悪、僕とアマコが止めます」

「無理。スズネを止められるのはウサトだけだと思う」


 なぜに僕だけが暴走している先輩を鎮圧できると言われなきゃならんのだ。

 まあ、それはいい。向かい合うように座った先輩とサツキの様子に気を配りつつも、眠たそうな欠伸をしながら上階から降りてきたキョウに挨拶する。


「お邪魔してるよ。キョウ」

「おう、てか意外とこっちに来るのが早いな」


 キリハの隣に座ったキョウは、テーブルに肘をついた。

 彼の言葉に同意するようにキリハが首を傾げた。


「あたしとしてもあんた達に会えたのは嬉しいんだけど、今日はいったいどうしたんだい? まさか、ここで行われる四王国の会談に関係があるのかい?」

「そうだね。僕達は王国の代表として今日ここにやってきたんだ」


 キリハにそう答えると、彼女は感嘆のため息をついた。


「書状の次は、会談ねぇ。あんたも大変だね」

「俺だったらそんな面倒そうなこと受けねぇな」

「ははは、僕も一応の責任があるからね」


 困ったように頬を掻くと、キョウは腕を組みながら笑みを浮かべた。


「ま、そのおかげで俺達は学園を休むことができているんだけどな! いやぁ、ある意味お前達のおかげでこうして勉強から離れて休みを満喫でき——」

「そんなに暇なら外で働いてきな」

「いやぁ! やっぱり休日は勉強で忙しかったから全然暇じゃなかったわ!」


 じろりと睨みつけたキリハに慌てて、そう言葉にするキョウ。

 なんというべきか、相変わらず姉のキリハに頭が上がらないんだなぁ。


「キョウは後で外に叩きだすとして……アマコが元気そうで良かった。あれから危ない目にあっていないかい?」

「危ない目には沢山あったけど、大丈夫だったよ。それに、ウサトのおかげでお母さんもよくなったし」

「沢山あったって……」

「ゾンビに襲われたり、龍に襲われたりとか、色々とね」

「あ、あはは、少し見ない間に冗談も言えるようになったんだね。……冗談だよね?」


 微笑んだまま首を傾げるアマコに、表情を引き攣らせたキリハは戸惑いながらもこちらへ視線を向けてくる。


「ほ、本国での騒ぎは実家から聞いたよ? なんだか大変なことになっていたそうじゃないか」


 キリハの実家というと、リンカの祖父が住んでいる隠れ里のような場所……だよな?

 もう二人にまで獣人の国で起こった情報が伝わっていたのか。


「まあ、ちょっとした騒ぎに巻き込まれちゃってね」

「本国が内乱騒ぎとかちょっとしたことじゃねぇだろ。いったい、何があったんだよ?」


 キョウも気になっているようだ。

 ……細かい情報はキリハ達には伝わっていないようだけど、言ってもいいのかな? 一応、獣人の二人にも関係のある話だし。

 僕は、アマコの母親がこの二年間目覚めなかった理由と、なぜ獣人の国で内乱騒ぎに発展したのかをできるだけ簡潔に説明することにした。

 説明を聞き終えた二人は複雑そうな表情を浮かべた。


「本国には行ったことなかったが、アマコの母ちゃんはそんな理由で寝たきりだったんだな。だけど、元気になって良かったな。アマコ」

「うん」


 嬉しそうな声色でアマコが頷く。


「でもさ、もし族長を止められてなければ、獣人族は人間と争うことになっていたかもしれないんだよね。本当に良かった……」


 やや深刻気にキリハがそう呟く。

 ルクヴィスに通っているキリハからすれば、気が気じゃない話だったのだろう。

 僕はできるだけ明るく話しかける。


「仮の立場ではあるけど、信頼できる人物が新たな族長として獣人の国をまとめてくれているから、今後はそういうことはないと思うよ」

「そうなんだ……」


 今も獣人の国で頑張っているハヤテさんのことを思い浮かべる。

 あの時、ハヤテさんが味方にいなかったら、アマコを取り戻すための戦いはもっと苦しいものになっていたかもしれないんだよな……。

 彼が味方で本当に良かったと改めて思いつつ、僕は今日ここに訪れたもう一つの要件を話すことにした。


「それはそうと、今日ここに来た目的はもう一つあるんだ」

「ん? なんだい?」

「僕達がここに滞在している間、アマコをここに泊めてほしいんだ」

「構わないよ。理由は前と同じってことでいいんだよね?」

「ああ。……アマコもそれでいいよね?」

「うん」


 アマコが頷いてくれたので、一安心していると今度はキョウが声をかけてくる。


「で、ウサトはどうすんだよ? お前も前みたいにここに泊まるのか?」

「本当はそうしたいところなんだけどね。でも今回は会談の場の近くにいなくちゃいけないから、グラディス学園長が用意してくれた宿に泊まるよ」

「そっか。だがまぁ、前とは事情が異なるからそこはしょうがないか」


 僕としても救命団の宿舎と似ているここに泊まる方が良かったのだけど、流石に自分に与えられた使命を優先させなくちゃならないからね。

 ここにいる間、アマコに肩身の狭い思いをしてほしくないので、キリハ達のところに預かってもらえたらと考えていたのだ。

 とりあえずの目的は果たせたので、今日のところは宿に戻るとするか。


「それじゃあ、そろそろ戻るとするよ」

「もう行くのかい?」

「ああ、宿に人を待たせているからね」


 カズキを一人で待たせているのも悪いし、早めに戻ろう。

 席を立った僕はアマコに視線を移す。


「アマコ、キリハ達にあまり迷惑をかけないようにね」

「私、子供じゃないし、迷惑もかけたりしないよ」

「ははっ、それもそうだね」


 こちらを見上げてムッとするアマコに苦笑する。

 さて、サツキとの会話に花を咲かせている先輩を連れて帰らないとな。


「先輩」

「ねぇ、ウサト君」

「駄目です」

「まだ何も言ってないよ!?」

「キリハ達のところに泊まりたい、って言おうとしたんでしょう? さっきの先輩を見てればそのくらい分かりますよ」

「さ、流石ウサト君、私のことをよく分かってる……!」


 貴女の行動を見たら、そう考えるのは簡単に分かると思うのですが。


「でもウサト君——」

「駄目です」

「サツキちゃんだって私とまだ話したいって——」

「え、スズネ帰るの? それじゃあ、さよならだね!」

「……」


 なんというか、小さい子って時々残酷ですよね。

 ちょっとだけ先輩をかわいそうに思いつつ先輩を立たせるが、それでも抵抗をする。


「う、ウサト君、後生だ! 一生のお願い!」

「分かりました。ここに泊まるのは諦めてください」

「君は今なにを分かったの!?」


 ガビーン、とショックを受ける先輩に困ったように笑っているキリハと、ドン引きしているキョウに愛想笑いを返した僕は、少しだけ精神的に疲れながらも彼女らの家を後にするのだった。

ウサトとハルファはある意味で似た者同士ですね。


唐突ですが、『治癒魔法の間違った使い方』のドラマCDブックレット化が決定することとなりました。

詳細は活動報告にて書かせていただきましたので、そちらをご参照ください。


それと、最近になって活動報告への返信方法を身につけましたので、これからは感想欄に加えて、活動報告でのコメントも返していきたいと思います。


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