閑話 戦いの後
お待たせいたしました。
閑話二つと、第七章一話の三つを更新いたします。
まず一つ目の更新。
閑話なので短めです。
獣人族への協力体制の持ち掛けを装った見定め。
魔王様から承った任務の結果として、私たちは獣人族に我が同胞として戦う価値がないと判断した。その時点で、私たちは本国に帰還するべきだったが、ボンクラ軍団長、コーガ・ディンガルの気まぐれによって少しばかりの戦闘をヒノモトで行った。
「ふぅー、やっぱとんでもなかったな」
獣人達の領域をようやく抜け出し、本国へ向かっている最中、思い出したようにコーガがそんなことを呟いた。
腹をさすっていることから、あの時の一撃のことを思い出しているのかもしれないな。
警戒を怠らないように周囲に意識を向けながら、コーガに問いかける。
「戦いの全てを見てはいなかったが、そこまでなのか?」
「ああ、噂に違わず……ってところだな。俺が闇魔法で引き上げている身体能力に、拮抗してきたのは尋常じゃない」
「それは分かっていたことだろ」
「まあな。だが実際に戦ってみると、驚きの連続だった。なにより、反射神経と籠手を用いた防御がずば抜けてて、真正面からの攻撃をほぼ叩き落されるってのがえげつねぇ」
こいつの闇の魔法は、黒騎士のそれとは違い物理的な戦闘に特化している。
戦闘の際には、体を覆った闇の衣がコーガの意志の通りに動き、魔族として優れた身体能力を強化し、補助する。
地味に思えるが、師匠が編み出した魔法を纏う奥義と似ている。
「最後のアレは見ていただろ? あれは見た目以上にえげつないんだぜ? 無理やり防御を貫いて攻撃を通してくるし、治癒魔法で痛くねぇのか痛ぇのか分からなくなってくるんだ。恐ろしいだろ?」
「……あれを治癒魔法と呼んでいいのか?」
「はっはっは」
「なぜお前が笑っていられるのか私には理解できないんだが」
遠目ではあるが、傍から見れば、押し出されたコーガの体に密着した拳から正体不明の衝撃が何度も叩き込まれるという、衝撃的な光景だった。
一瞬だけ、くたばったか、と思い、帰ろうとしたのは内緒だ。
「そっちはどうだったんだ? リングル王国の騎士と戦ったんだろ?」
「……ああ、いい戦士だったぞ」
リングル王国の赤髪の剣士。
あの時、私は手加減など一切していなかった。殺す気で炎を纏っていたし、剣も振るっていた。それでもなお、奴が生き残り、炎の壁を切り裂いたということは、それだけの力と覚悟があったからだろう。
「へぇ、意外だな。お前が褒めるなんて」
「魔族と人間。敵同士といえど、そこにあるのは憎悪だけではない。奴の剣は見事だった。その紛れもない事実に賞賛の言葉を口にしただけだ」
「なるほどなぁ」
腕を組んでうんうんと頷くコーガ。
その反応はどこか小バカにされているようで、少しイラっとした私は表情を顰めながら口を開く。
「第一、私はお前の道楽に付き合っただけだ」
「ははっ、確かにそうだな。ま、俺としては満足できたし、別にいいんだけどな。さーて、魔王様にはどう説明しようかな……」
「……正直に話す他ないだろう」
命令とは全くの関係のない、無断での戦闘行為。
しかも本来、諫めるべき立場にいる私も手を貸してしまった。
「最悪、私が自刃する覚悟だ」
「は? なんでそんな話になるんだ」
「命令外の行動。しかもそれが敵対しているリングル王国の者たちとの戦闘となれば、問題がないはずがない」
「いやいや、魔王様がそんなこと望むはずがないだろ。しかもそれって俺も巻き込まれるよな?」
「……」
「無言!? お前、俺を道連れにするつもりなの!? やめろよ、お前。魔王様そんなことで怒ったりしねぇって。むしろ笑って許してくれるって。いや、あの方は笑わないけどさ」
「お前に魔王様のなにが分かる!?」
「えぇ!?」
くわっ、と目を見開き、コーガを睨みつけると、奴は表情を引き攣らせた。
事の重大さを全く理解していない。
「私は、あの方の命令外の行動をし、あまつさえ、こんなバカで脳筋な上司の為に戦闘行為まで行って……もう駄目だ。自刃するしかない」
「時々、お前の忠誠心が重すぎて本当についていけないぞ。しかも、さりげなく俺のこと蔑みすぎじゃない? 酷い言われようなんだが。……おい、お前らもなにか言ってやれよ」
コーガが無言で後ろをついてきていた部下たちに声をかける。
すると、ぎゅっと握りこぶしを見せた部下たちは決意の籠った眼差しを私へと向けた。
「アーミラ殿がそうするのならば、私共も……!」
「……えっ?」
「アーミラお姉さまの為なら、この身、朽ち果てても本望です……!」
「お姉さま!?」
「短くとも貴女と旅を共にしたこと、我が人生の誉れ」
「お前、そんな喋り方だったの!?」
次々と私にそんな言葉を投げかけてくる部下たちに、涙腺が緩む。
目頭を押さえながら、私は前へと向き直る。
「お前達……! いいだろう、その覚悟しかと受け取った! ならば、ついてこい!」
「「はい!」」
呆然としているコーガを置いて、魔王領へと続く道のりを歩いていく。
「ちょっと待って、なんでアーミラの方が人望集まってるんだ!? 俺がお前らの軍団長なんだが! あ、待って、置いていかないで!」
普段、仕事をしているかしていないかの違いだ。
しかし、この任を終え次第、軍団長補佐という仮の役職は降ろされる。そうなれば、彼らとは同じ目線の同志として、共に戦場を駆けることになるだろう。
戦いの準備は着々と整っている。
戦力を増強し、且つ兵士達の質を高めた。
凶暴な魔物を使い魔として操り、戦場を食い荒らす騎兵。
私の後釜として新たに配属された第三軍団長。
そして、魔王軍“最強”を誇る第一軍団長の出陣。
「……」
今度の決戦は、一度目、二度目とは一線を画す。
勿論、リングル王国もただではやられないだろう。近隣の国と連携して連合を組み、私たちを迎え撃つはずだ。
各王国の実力者。
勇者の称号を持つ猛者。
異世界から召喚された勇者。
我らにとって悪名高いリングル王国の救命団。
「決着の日はそう遠くないかもしれないな」
それは人間と魔族との戦いか、私の因縁への決着かは、あえて言葉にはしなかった。
一つ分かるのは、次の戦いはかつてないほどの死闘になるということだった。
次話はすぐさま更新いたします。




