第百四十二話
二話目の更新です。
第百四十一話を読んでいない方は、まずはそちらをお願いします。
カノコさんが目覚めてから三日が過ぎた。
アマコは、一昨日ヒノモトにやってきたリンカと一緒に行動しているのをよく見かける。
ネアとブルリンは惰眠を貪っている。
肩の上で幸せそうに寝ているフクロウに時々イラっとしながら、僕はアルクさんと共にヒノモトの復興作業を手伝ったりしていた。
ヒノモトは、ハヤテさんの尽力もあってようやく平和な日常を取り戻しつつあった。
「とうとう、行ってしまうのか」
「ええ。お世話になりましたが、あまり長居するとご迷惑をかけてしまうかもしれないので」
獣人の国に入ってちょうど一週間目。
僕とアルクさん……ついでに肩で寝ているネアと共に、ハヤテさんのいる部屋へ伺っていた。
ヒノモトを離れ、リングル王国へ帰ることを伝えると、彼は寂しげな表情を浮かべた。
「……兵士たちの視線は気にしなくてもいいんだよ?」
「それに関しては慣れました」
「え、えぇ……」
僕が投げ飛ばしてしまったと思われる兵士が、顔を真っ青にさせて距離を取ったり、酷いときは「もう悪いことはしません!」と言いながら半泣きで頭を下げてきた時は、我ながらやりすぎてしまったと思った。
巷では、悪いことをすればオーガに投げられるという、話を子供に言い聞かせる人がでてきたらしい。
……なまはげか、僕はっ。
「そうか、でもしょうがないか。君たちも使命を帯びてここにきたことだし」
「ええ」
「いつ頃、出発するのかな?」
「大分休ませてもらいましたし、明日の昼頃に出発できたらいいなと思っています」
これ以上長居しても迷惑をかけてしまうし、何より僕としてもリングル王国に帰る旨を知らせておきたい。
ヒノモトには人間の領域へ送れるフーバードが存在しないので、僕たちの安否をまだ知らせられていないのは、早くなんとかしたい。
「ハヤテさんは大丈夫でしょうか? 今は臨時の族長を務めているという話ですが」
アルクさんの質問に、ハヤテさんは困ったように頬を掻いた。
「現在、補佐だった僕が臨時の族長を任されているけど、このまま誰も推される人がいなかったら当面は、僕が族長を任されると……思う」
「ハヤテさんなら安心ですね」
「ははは、そうかなぁ。僕としては身の丈に合わない役職だと思うけど……。でも、できる限り頑張りたいとは思ってる」
この人なら大丈夫だろう。
謙遜こそしているけど、ヒノモトがすぐに建て直せたのはこの人の尽力のおかげだ。彼の行動をちゃんと見ていてくれた人達が、文句なんて言うはずがないだろう。
困ったように笑っていたハヤテさんは、すぐにその表情を暗いものにさせる。
「ジンヤのことなんだけど……」
「拘束されているという話ですよね?」
「うん。カノコから魔法を奪い、危険な思想で戦いを起こそうとしていたから今も拘束しているけど……」
「……なにかあったんですか?」
言い淀むハヤテさんに、ただならぬ何かを感じた。
「予知魔法がなくなったジンヤは、酷く錯乱してしまったんだ。この二年間、ずっと予知魔法に依存していたせいだと思うけど、何も分からない現在に恐怖するようになってしまった」
「……そんな、当たり前のことで」
「当たり前だからだと、僕は思う。未来なんて普通は分からないものなのに、ジンヤはそれに手を伸ばした。……酷い言い方になってしまうけど、未来という見えないものに恐怖することが今のジンヤにとっての罰なのかもしれないね」
僕は予知魔法なんて使えないから、ジンヤさんの気持ちは分からない。
だけど、今まで見えていたものが、見えなくなるというのは本当に怖いと思う。彼のやったことはあまりにも度が過ぎていたけれど、その部分には同情した。
「……話を変えようか。昨日から臨時の族長として、リングル王国の書状について考えたんだ」
「え? いや、でも……」
「もちろん、受けることはできない。僕たちは中立を保つつもりだしね。だけど……」
そう言って、ハヤテさんが腕を掲げる。
すると、開いた窓から、二匹の青色の鳥が入り込み彼の腕に留まる。
フーバード、長距離の連絡を可能にしている鳥型の魔物。
「族長としての立場を抜きに、友人として君たちと交友を設けられればいいかなとは考えている。構わないかな?」
「! ええ、勿論です」
「誰かに知られても、君達となら誰も文句なんて言わないさ。ま、この子達とはアマコも契約したらしいから、主に行くのはリンカからの手紙だと思うけどね。ははは」
確かに、ヒノモトと協力関係を結ぶことは不可能。
というより、今回の騒動で獣人族を巻き込むことは彼らにとっても、僕たちにとってもよくないことなのは明白だった。
だけど、こういう形なら僕は喜んで受けよう。
僕が腕を掲げると、フーバードの二匹がピョン、とこちらへ飛び移ってきた。改めてみると、つぶらな瞳がかわいらしいな。
……肩に乗せると、どんな感じなんだろ。
「……ハッ!? 私の立ち位置が危ぶまれる予感!?」
「何を言ってるんだ、君は」
寝起きに意味不明なことを口にしたネアを訝しみながら、フーバードとの簡単な使い魔契約を交わす。
契約といっても、フーバードの頭に指先で触れて決められた言葉を呟くだけで良かったので、楽だった。
その後、ネアが必死な様子で翼でフーバードを追い払っていた。
「ここは私のモンよ! ほら、シッシッ!」
いつから僕の肩は君のものになったのだろうか。確かに定位置ではあるけども。
そんなこんなで、アルクさんもフーバードとの契約を終える。
フーバードが窓から帰っていくのを見送ったハヤテさんは、ふと何かを思い出したようにこちらに視線を向けた。
「そういえば、アマコにこのことは伝えたのかな?」
「ええ、まあ……はい。あの子は時間をちょうだいと言いましたが、もしかしたら母親のいるここに残るかもしれません。その時は、あの子のことをよろしくお願いします」
「それは、勿論だよ。でもいいのかい?」
ハヤテさんの言葉に、僕は少し逡巡するがすぐに答えを返す。
「アマコの選択に任せます」
「……うん。それならこれ以上はなにも言わないよ。それじゃあ、話を切り替えよう。今日は君たちを送り出すための宴を開こうと考えたんだけど、どうかな?」
「え? 宴って……そんな大袈裟な」
ハヤテさん、すっごい笑顔なんですけど。
「ここ最近、暗い雰囲気が続いたから、それを払拭させる催しでもあるから気にしなくてもいいよ。それに、僕達獣人族は宴が大好きだからね。皆、喜んで参加してくれるから、君たちが遠慮する必要なんてないさ」
そういえば隠れ里で開いた宴もそんな感じだったな。
改めて思うと、陽気で楽しい人たちなんだよなぁ、獣人の人達って。
アルクさんに確認をとってから、ハヤテさんに向き直る。
「そういうことなら、喜んで参加させていただきます」
「よし、決まった! それじゃあ、皆に知らせるよう手配しよう!」
笑顔で、部下に指示を出すハヤテさんに苦笑しながら、先ほどの自分の言葉を思い返す。
アマコが、リングル王国に行くか、それとも母親のいるヒノモトに残るか。
普通に考えれば、ずっと眠っていた母親のいるヒノモトに残るだろう。別れは寂しいけど、ずっと会えないわけじゃないし、フーバードで連絡も取りあえる。
だけど、覚悟はしておかなければならない。
ずっと一緒に旅をしてきた仲間との別れを。
●
私は、迷っていた。
ウサト達と一緒にリングル王国に帰るか、母さんのいるヒノモトに残るか。
ずっと前の私だったら、迷わずここに残ると言っていただろう。
だけど、長い旅路を終えた今の私にとって、ウサト達は母さんと同じくらい大切な存在になってしまった。
ウサト達がリングル王国に帰るということになって、彼らを送り出すための宴をハヤテさんが開いてくれた。隠れ里とは違い、規模もなにもかもが大きな宴となったが、誰もが食べて、飲んで、そして笑っていた。
母さんは、病み上がりで味の濃い食べ物は食べられないので、宴を眺められるような位置に座らせて、私はリンカと一緒に宴の中を見て回ったりしていた。
その間、ウサトが吹っ切れたような顔で腕相撲勝負を行い次々とダイテツさんを含めたヒノモトの男たちをなぎ倒したことで、ヒノモトの子供たちに人間=ウサトという印象を与えてしまったのを見たけど、すぐに忘れることにした。
とにかく、騒がしくも楽しい宴会だった。
だけど——、
「う、ウサト君、ありがとう、ありがとうございますぅ……」
「あ、あはは」
「母さん、なんで我慢できなかったの?」
宴の翌日の朝、母さんがお腹を壊していた。
何事かと思い、ウサトを呼んだあと理由を聞いてみると——、
「だって、美味しそうだったんだもん」
もんじゃねぇよ、とウサトみたいな口調で口に出さなかった私を褒めてほしい。
三十四歳になってまで、この人はなにを言っているのだろう? ちょっとこの時だけ、娘であることが恥ずかしくなった。
事の発端は、宴を黙って見ていられなかった母さんが、宴の料理に手を出したせいだった。
ウサトによれば、二年間もまともに固形物を食べていなかった母さんの内臓がびっくりしちゃって痛めてしまったとのこと。
ウサトの治癒魔法により、なんとか治してもらった母さんは涙ながらに頭を下げたが、当の彼はドン引きしていた。
「ウサト、ごめん。出発の準備があるのに……。母さん、ああ見えて天然で、子供っぽいところもあるから……」
母さんのいる部屋の前でウサトに謝ると、彼は苦笑しながら手を横に振った。
「いいよいいよ。カノコさんに何かあったほうが大事だから。それで、アマコ……決めたか?」
「……もうすぐ、決める」
少しの沈黙の後の言葉に、彼はゆっくりと頷いた。
内心で、煮え切らない自分に嫌気がさしながら、準備に向かっていく彼の背中を見送った私は、母さんの部屋に戻る。
ため息とともに部屋に入ると、目の前には布団の上で正座で座っている母さんが、じっと私を見つめていた。
「アマコ」
「なに?」
「私のことは心配いらないわ」
「さっきの醜態を思い出してから言ってる?」
「しゅ、醜態……」
少し辛辣な言葉に、母さんは口に手を当ててショックを受ける。
さっきのを醜態と言わずになんというのだろう。むしろ、私の方が恥ずかしかったんだけど。
だけど、今の言葉からしてウサトと私の話を聞いていたのだろう。
でも、やっぱり母さんのことは心配だ。まだ満足に歩けないから、私がついてなくちゃならない。
「成長したわね、アマコ」
その一言で我に返り、母さんを見る。
母さんの表情は、先ほどのような気の抜けたものではなく、微笑を浮かべた優し気なものに変わっていた。
「身長はあまり伸びなかったけど、心が大人になってる」
「……身長は余計」
「フフ、ごめんなさいね」
不貞腐れる私の頭を母さんが撫でる。
弱々しい手、だけど安心感と温かさがあるその手に、心地の良さを感じる。
「でも、貴女はまだ子供でいいの」
「え」
思いもよらない言葉に、呆気に取られてしまう。
そんな私に構わず、母さんは続けて言葉を紡ぐ。
「私は、貴女に自由に生きてほしかった。時詠みも何もかもを忘れて幸せな人生を送ってくれればそれでよかった」
「……」
「私が見た予知が、ウサト君と一緒にいる貴女だった。だから、きっと大丈夫……そう思っていたけど。実際の未来は違っていた」
母さんは、悔いるように瞳を閉じた。
「私の言葉が、逆に貴女を縛り付けた。平穏な暮らしを望まずに、私を助けるために力を尽くしてしまった。勿論、本当に感謝してるけど、二年間もの間、貴女に辛く寂しい思いをさせてしまったのは……私は、母親として失格だわ」
「違う。そんなことない」
母さんの言葉をはっきりと否定し、しっかりと目を合わす。
「この二年間、確かに辛い思いもしたけど、寂しくなんてなかった。だって、母さんの言った通り、私には受け入れてくれる人たちがたくさんいてくれたからだよ」
リングル王国に住む善良な人々。
行く当てのない私を住まわせてくれたサルラさん。
両手じゃ溢れるくらいの人々が、私を受け入れてくれたんだ。
母さんは、目を丸くした後、私を優しく抱きしめた。
「本当はウサト君たちと一緒に行きたいんでしょ?」
「……うん」
「無理をして悩む必要なんてないわ。子供らしく我がままを言って、たくさん私を困らせてね」
そう私に言いつけ、母さんはにっこりと笑った。
子供らしく。
今まで、そんなこと考えもしなかった。
生きるためには、いつまでも子供ではいられなかったし、人に甘えられるような性格でもなかった。
だけど、母さんの言葉で、私もようやく決心がついた。
「母さん、私……ウサトと一緒にリングル王国に行く」
私はまだまだ、ウサト達と一緒にいたい。
例え、魔王軍の脅威に晒されようとも、リングル王国が私の第二の故郷なんだ。
「それでいいわ。私を理由にして残られちゃったら、どうしようかと思ったもの。年頃の娘をずっと縛り付けるなんて、きっと耐えられないわ」
私を離した母さんは、安堵の胸を撫でおろした。
しかし、すぐに気を引き締めるように真顔に戻ると人差し指を立てて、真剣味を帯びた声色で口を開いた。
「旅に出る前に、私から助言を一つ」
「うん」
「獲物は逃しちゃ駄目よ」
「……は?」
えもの? 獲物? は、なにが?
いや、母さんが言う獲物が誰を指しているのかは悔しいけど、すぐに分かった。
でも、この流れでこの話題を切り出すなんて、普通ありえないと思うんだけど……!
「彼、見たところ自分が好意を寄せられてるとは思っていない感じね。一番厄介なタイプだけど、好意を自覚させれば後は簡単よ。だけど、勝負は短期決戦が望ましいわ。多分、彼を狙っている刺客が他にもいるはずだから」
「……な、な」
次々と出される言葉に、開いた口が塞がらない。
こ、この人は、本当の、本当に……!
「とどのつまり、色仕掛——」
「てぃ!」
「こぉん!?」
母さんがその言葉を言い終わる前に、軽い手刀を脳天に叩きつける。
へんてこな叫びと共に目を回しながら倒れた母さんに、背を向けた私は静かに部屋を後にしようとする。
しかし——、
「アマコ、いってらっしゃい」
その言葉で足を止める。
形容できない感情がこみ上げるが、なんとかそれを抑えて応える。
「うん。いってきます」
二度目の別れ。
一度目は絶望の中での出立だったけれど、今は違う。
私には、ここで帰りを待ってくれている人がいる。この国は私にとって帰る場所になったのだ。
●
アマコが選んだのは、僕たちと一緒にリングル王国に行くことであった。
あの後、カノコさんとどんな話をしたのかは分からない。でも、それがアマコの選択なら僕は何も言わずにそれを受け入れるだけだ。
一通りの旅の準備を整えた僕たちは、ヒノモトの出口の前でハヤテさん達との別れの挨拶を交わしていた。
「ウサト、その外套の着心地はどうかな?」
「大きさもぴったりだし、いい感じです」
「それは良かった。できるだけ君たちの文化に合わせて選んだ甲斐もあったよ」
破れた団服の代わりに着ることとなった灰を基調とした外套は、団服ほどじゃないが着やすいものだった。
マントか何かで間に合わせようと思っていたから、ハヤテさんのご厚意は本当にありがたい。
「別れは悲しいものだけど、僕は君たちと出会えて本当に良かったと思っている。君たちが安全にリングル王国に帰ることができることを祈ろう」
「ありがとうございます。ハヤテさん」
「お世話になりました」
僕とアルクさんがハヤテさんと握手を交わし、別れの挨拶を済ませる。
続けて、ハヤテさんの後ろからリンカが顔を出し、俯きながらアマコに歩み寄った。
言い淀むように口をもごもごとさせたリンカに、アマコは少し背伸びをして彼女の頭に手を置いた。
「前は言えなかったけど、今度はちゃんと言うよ。また会おうね、リンカ」
「……うん。手紙書くから、いっぱい。フーバードが倒れるくらい、送るから!」
「それは、かわいそうだからやめようね」
苦笑するアマコにごしごしと目元を拭ったリンカ。
顔を上げた彼女の目元は赤く腫れていたけど、それでも笑顔だった。
それから、僕達にも別れの言葉を口にしたリンカは、ハヤテさんと一緒に笑顔で僕たちを見送ってくれた。
遠くなっているヒノモトを振り返り、感慨深い気持ちになりながらも、このあとの予定について馬を引いているアルクさんに確認する。
「アルクさん、これから一旦、ミアラークに向かうんですね?」
「ええ。フーバードも送らなければいけませんから。あとは……ノルン様がリングル王国までの船を貸してくださるそうなので、乗せてもらいましょう」
「だとしたら、帰りは行きよりも楽そうですね」
帰りは船で、のんびりと帰れそうだ。
船はあまり乗ったことないから楽しみだな。今までが歩きだったから、前とは違う景色が見えてきそうだ。
そう思いこれまでの旅路を思い出すと、感慨深い気持ちになる。
「僕たちの旅も終わりかぁ」
「色々なことがありましたね」
「ええ、本当に」
魔導都市ルクヴィスでは、いじめられっ子のナックを鍛えた。
ゾンビと邪龍と戦ったりして、その後にネアが仲間になった。
祈りの国サマリアールでは魔術によって縛られた魂を解放して、エヴァの存在を取り戻した。
水上都市ミアラークでは、勇者レオナさんと共に神龍の血を引くカロンさんと戦った。
ヒノモトではアマコの母親、カノコさんを救った。
そして、全ての目的を終わらせた僕たちは、ようやくリングル王国に帰ることができる。
「リングル王国かぁ。私としては、色々と楽しみね。異世界召喚された勇者にも会ってみたいし」
そういえば、ネアは旅の途中で仲間になったからリングル王国のことはなにも知らないのか。
「それじゃ、君を団長に紹介しなくちゃね」
「そ、それは……遠慮したいんだけど」
「駄目だよ。僕の使い魔の時点で君はもう救命団の一員といっても過言でもないからね。嫌と言っても連れて行く」
「貴方、絶対分かって言っているでしょ!?」
ミアラークで魔術越しに見たローズの姿を想像したのか、顔を真っ青にさせるネアに笑いかける。
「心配するな。君には僕がついている」
「状況が変われば、台詞が猟奇的なものに早変わり!?」
僕なんて団服破っちゃったから、どんな目にあわされるか想像もつかない。
まあ、それでも帰りたい気持ちは変わらないんだけどね。
救命団には、ローズ以外にも強面共にオルガさんとウルルさん、それにナックとフェルムもいるからな。
「先輩とカズキは無事に帰れているかなぁ」
「スズネは、なんだかんだで元気でいそう」
「ははは、確かに」
アマコの言葉で、元気な先輩の姿を思い起こし苦笑してしまう。
……まあ、再会したら、ね。これでもかというくらいに仕返しをするつもりなんですけどね。
内心で、沸々と先輩を弄ぶための計画を立てていると、隣を歩いていたアマコが唐突に外套の裾を軽くつまんできた。
「どうしたの?」
「旅は終わっちゃうけど、まだまだ一緒にいるからね」
「……全く、当然じゃないか。まさか、そんなすぐに切れる縁だと思っていたのか?」
僕が義理や約束だけで、君の母親を救うために旅をしてきたわけじゃない。
そうしたくて、行動したんだ。
だからその約束が果たされても、僕がアマコと縁を切ったり、疎遠にするなんてことはしない。
僕の答えにがくりとなぜか肩を落としたアマコだが、すぐに顔を上げるとどこか呆れたような笑顔を浮かべる。
「それでこそ、ウサトだね」
「……どういうこと?」
「あ、そういえば母さんが言っていたんだけど。ウサトって刺客に狙われているらしいね」
「どういうことぉ!?」
「心配しなくてもいいよ。狙っているのは命じゃないから」
アマコの意味不明な忠告に、あたふたとする。
なに? 命を狙ってないのに刺客ってどういうこと!?
まだ旅の途中でなにか起こるっていうのか!? 流石に帰りは勘弁してほしいんだけど。
「あー、なるほど、そういうことねぇ」
「ウサト殿はこれからが大変みたいですなぁ」
「グルァー」
ネアもアルクさん、そしてなぜかブルリンも訳知り顔で頷いた。
もう訳が分からない。
穏やかと思われた帰り。
しかし、運命は僕にそれを許してくれないようだった。
閑話をいくつか更新した後に、リングル王国帰還編に入ります。




