エピローグ
セッカは激怒した。必ず、かの浅慮薄弱なるユウキを裁かねばならぬと決意した。セッカは夫婦生活が分からぬ。セッカは、宮殿の図書室の司書である。本を読み、史料の整理をして暮らしてきた。けれども友人の愛情の持ち方に対しては、人一倍に敏感であった。
セッカはファムファテルの斡旋で司書の仕事に就いていた。そのセッカにエイムが悩みの相談をしたのは、ユウキとエイムが結婚してから数か月後のことだった。
この日に非番だった二人は、ナッシュが経営するカフェを訪れていた。窮状を訴えるエイムの瞳は次第に潤っていき、耐え切れなくなると両手で顔を覆い大泣きしてしまう。
セッカは、拳でテーブルを殴りつけて立ち上がる。
「ユウキのやつ、絶対許さない! ナッシュさん、彼女のことお願い!」
そう言うと、セッカはカフェを出て駆けだした。
ユウキは自身の執務室にいた。そこにはファムファテルが訪問してきていて、魔族との戦いに関して意見を交わしていた。魔族との戦いへの戦略的な考え方は、二人の意見は一致していた。敵の主力をマルボークへ引き込んで城壁を盾にして戦う方針だ。
「マルボークの騎士団はおよそ3万。一般的には、城を落とすには3倍の兵力が必要とされています」
「魔族一人と人間一人で同じ勘定にするわけにはいかんけどな。それでも、あちらの兵は5千から多めに見積もっても1万というところじゃろうから、十分対応可能じゃろう。簡単ではなかろうが」
「小規模の部隊で陽動的な侵略行為があるでしょうから、その対応が必要でしょうね」
「ザグレーブに精鋭を常駐させておいて、被害をどれだけ抑えられるかというところじゃな」
そこまで二人が話していたところで、扉が急に開かれた。
「ユウキ! あんたって人は!」
扉を開いたのはセッカだった。見るからに怒っている。
「セッカ? どうしたどした?」
応接用のソファにファムファテルと対面して座っていたユウキは、立ち上がってセッカに対応しようとした。セッカはユウキに近づいて行くと、力任せに一発殴りつけた。
「あんたなんてことしてるの! エイムさん泣いてるわよ!」
あまりのことに、ユウキは勢いに負けて倒れこんだ。
「まあまあ、落ち着けセッカ。話を聞かせてみよ」
ファムファテルが間に入ってとりなした。
ファムファテルに諭され心を落ち着けたセッカは、エイムの悩みを聞いてここに来たいきさつを説明した。
「セッカよ」
「はい」
「初潮もまだ来ておらぬ生娘になんちゅう話を聞かせるのか」
見た目が10歳前後でしかないファムファテルが照れるそぶりもなく言う。
「何度も転生して700年以上生きてるんじゃなかったんです?」
「ふふん。まあ本来、夫婦の夜の営みについて口を出すものではないのじゃがな」
ここでファムファテルは一拍置いた。
「ユウキよ、外に出すのは感心せんな」
「は、はあ……」
(あたしじゃ直接言いにくい事をあっさり言ってくれたなぁ、この人がいて良かった)
セッカは伝えたいことをファムファテルが代弁してくれたことに安堵した。その上で、
「エイムさんがショック受けるのは分かるでしょう? なんでそんなことしてるの?」
と、続けた。
「いやただ、こんな情勢の時に子供作ってる場合じゃないだろって言うのがあって……」
「そう思ってること、エイムさんには話したの?」
「いや、話してない」
「自分一人でそんなこと勝手に決めるな! ちゃんと話し合え!」
「まあ、まあ」
ファムファテルが手で遮って興奮気味のセッカを押さえる」
「ユウキよ、さっき『子供を作っている場合じゃない』と言ったが、それはむしろ逆じゃ」
「……はあ」
「こんな情勢の時だからこそ、人の営みを止めてはならん! 人が学び、働き、愛し合い、産み、育てる。これは止めてはいかんのじゃ」
「それは僕の立場でもですか?」
「無論じゃ!」
きっぱりと言い切ったファムファテルは心の中で思う。
(そうじゃ! 人の営みは止めてはならん。あの計画も先に進めるか)
騎士団長室を訪れたファムファテルは、急な訪問に驚く騎士団長をよそにいきなり用件を伝えた。
「急な話で驚くかもしれんが、以前からお主の縁談を預かっておったのじゃ」
連載中の続編に繋げるためにエピローグを追加しました。主人公が変わるので、別作品として投稿を始めています。続編の「プリンセス・ロード」はシリーズとして設定しているので引き続き楽しんで頂ければ幸いです。ご愛読ありがとうございました!




