【20】着物選び
最低限、四辻のことを家中で守ってやらねば、と思う一環として、央は京で自分たちの着物を仕立てる時に、蓮や和姫に声をかけるついでに彼女のことも呼び付けて着物を仕立て直してやった。
四辻の着物は赤や桃色をふんだんに使った派手派手しい仕立てばかりで、そういう印象が余計に彼女を軽く見せているような気がしたからだ。
「どちらかと言えば、青や薄物のほうが映えるんじゃないかしら」
「そうですねえ。肌の色も、こちらのほうが引き締まって見えますもの」
四辻は、突然呼び出されたかと思えば、近頃首根っこ押さえ付けてくる正室や先輩女房たちにいきなり小袖一枚に剥かれて目を白黒とさせていた。
次々に反物を合わせられ、それを見ながら央や与加那たちがああでもないこうでもないと真剣に似合いの色について言い合うのを、当人だというのに蚊帳の外に追いやられて眺めているような顔。
「うーん。紫は少しやりすぎかしらね。でも、あと四、五年もすれば着こなせるようにもなりそうよ」
「案外楚々とした風情のほうが似合いですわ」
「そうね。蓮とはまた違ったたちね」
思わず、当人をそっちのけで出入りの商人や与加那たちと散々盛り上がってしまった。
央は、自身はさほど着飾ることに執着がないが、それでもやはり育った環境もあって幼い頃から相応に目が肥えている。なんだかんだ、女の装いに対しては口うるさいほうだという自覚はあった。
特に、ここは都だ。
都にいる限りは、それなりの装いをしなければならない。一歩外に出れば常に人目があって、女たちにとって装いは家の格や立場を示す重要な指標でもあった。
「四辻」
当てられている反物の色が単に好みではないのか、なんとも言えない顔をして置き人形のようになっていた彼女に、央はふと声をかけた。
「……なんにございましょう」
彼女の手を引いて鏡の前に立たせてみる。
「今日あるものの中だと、この反物が一番おまえには似合うわ」
「そうかしら。地味ではございませんか?」
わかりやすくごてごてと着飾ることを好むであろう彼女の目からすれば、央たちが勧める涼やかな、まるで良家の子女のような出で立ちの色味の反物は、いささか華がないように見えるのかもしれない。
「地味とは言ってもねえ。今あなたが着ていたものの倍の値はするわよ」
「げっ」
四辻があけすけな感想を漏らし、与加那に行儀がなっていないと睨まれる。最近与加那によく教育されているらしい彼女は慌てて口元を押さえた。
「単に好みで着物を選ぶよりも、自分に似合いの色を身に纏うことを覚えたほうが自ずと洗練されていくものよ。四辻、あなたは特に、着る人を選ぶような難しい色の着物を着こなせるでしょうし、逆に派手派手しい華やかな装いは案外似合わないわね」
隆郷にも「好きにして良い」というようなことを言われたので、央はこの際だから遠慮なく、自分の好みの出で立ちに染めてしまうことにした。別に彼女に地味な服装をさせたいというわけではないが、ちぐはぐな取り合わせの少女がずっと視界に入っているというのも気になって仕方がないからだ。
せっかく元は良いのに。
「四辻どの。あなたはお方さまの目利きにお任せして、お方さまのお好み通りの着せ替え人形になっていればよろしいのですわ」
与加那はそう軽口を利いたが、四辻はなおもそれにむきになって反発した。
「わた、私はお方さまにお仕えしているのではなく、旦那さまにお仕えしているのです」
またそうやって、女たちの神経を逆撫でするようなことを言う。
央は少し考えて、まあ隆郷はどのみち、着物などは見ていないだろうな、と張り合いのないことを思った。
「旦那さまは女が何を着ていてもさほど興味はないと思うわ」
それは央にしてみれば、どちらかと言えば単に隆郷の大雑把さに対する揶揄だったが、言葉選びがあまり良くなかったのか部屋の端に控えていた女房たちがくすくすと笑った。
(着物なんか関係ないわ)
(どうせ閨に侍る妾など、ねえ)
四辻は女たちの悪意を感じ取ったのか、一瞬、取り繕えていない神経質そうな表情を覗かせた。
彼女は、自分から周囲に喧嘩腰で仕掛けるわりには、悪意で返されることに繊細に傷つく素振りも見せたりもする。
そういうあたりも含めて、己がどう振る舞えば周囲にどう受け取られるかということもわからないのだろう。四辻はまだ、まるで頑是ない少女のようだった。




