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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第二章  北クルト 冷雨に降られる旅路
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霧雨の特許都市ヘルトナ20 旅の支度 上

 パーヴォットの信者登録を無事に終えたことをヨスタに報告に行くと、守備隊からの出頭命令が届いていた。


 心配顔の祐司にヨスタは調書の作成で形式的なことだと言った。祐司も冷静に考えると、いくら中世のようなリファニアでも人を四人殺しておいて何もない方がおかしいだろうと思った。


 祐司が守備隊に出頭すると、ジャベンジャ隊長は別の用事で手が離せないということで夜間行軍で見知った顔の副官が対応した。


 ヨスタの話のように、北クルト伯爵に今回の事件の顛末を報告するための調書の作成が目的だった。調書自体はすでにできており祐司は確認の著名をした。


「これはマシャーナの契約主のガイドネ・タッファンからのマシャーナ救出の懸賞金です。守備隊と貴方とキンガ副長の三人で均等ということでいいですか。それから、懸賞金は銀貨百枚ですから一枚は神殿に寄進して欲しいのです」


 副官は袋に入った六十六枚の銀貨を見せた。


「かまいません。キンガ師匠の分はパーヴォットに渡していいですね」


 祐司はそう言ってから、パーヴォットの後見人を示す後見人信者証明を見せた。


「問題ありません」


「ところでマシャーナという女はどうなりますか」


 祐司は銀貨の袋を受け取りながら何気なく聞いた。


「契約主のガイドネ・タッファンが怒ってましてね。最初はたんなる誘拐だと思っていたら勝手に結婚して自分で逃げ出していたんですからね。手ひどい折檻をされました。

 それでもガイドネ・タッファンの気がおさまらずに来月、ビドゴチの人買い市に出されることになったそうです。結局、どう転んでも売られるのがマシャーナという女の運命だったんでしょうな」


 祐司はパーヴォットからマシャーナが巫術師アサレテのパーヴォットへの暴行を幇助ほうじょしたことを聞いていた。


 ヘルトナにもどる戦車で、パーヴォットがマシャーナと同乗するのを嫌がったためヘルトナにつく前に祐司はその理由を深い考えもなく聞いたのだ。


 パーヴォットが切れ切れに言う言葉に祐司は、パーヴォットの心を、さらに傷つけてしまったことを知った。

 そして、同性のまだ子供といっていいような少女に卑劣な行為を行ったマシャーナに対して祐司には同情の念は起こらなかった。



「人買い市場ですか」


 祐司は、流石に人身売買が合法的に行われているのかと、ため息をついた。


「ああ、ユウジ殿はこの辺りの習慣に疎いのでしたね。人買い市場というのは、俗称で奉公人契約改定所のことです。大昔はいざ知らず人身売買は違法です」


 祐司の様子を見て副官はあわてて訂正を始めた。


 副長の説明では、奉公人契約は、契約主と奉公人の間の契約であり、奉公人に契約内容と異なった仕事をさせたり、奉公人を他人に譲ることはできない。

 しかし、奉公人契約改定所に赴くと奉公期間の二割減で他人に、その奉公人を有償で譲ることができる。その際も、仕事内容は変更できない。


 奉公人は、演台のような所に立たされて、年齢や健康状態、可能な仕事内容を説明される。そして、入札で新しい契約主が落札するので人買い市場と言われている。奉公人契約改定所は、主邑のヘニングリアと直轄都市ビドゴチにだけ在ると言うことだった。


「マシャーナの仕事内容は性的な要求に応じるということが入っていたはずですから、どこかの女郎屋が落札するでしょうな」


「ベガウト達もそこで?」


「いいえ、違います。彼奴らは裏の人買市場、本当の人買市場ですな。そこで、売ろうとしたんですよ」

 

 副官は話し好きのようで祐司が聞かないことまでどんどん話した。


「可哀想なのはマシャーナの母親です。母親は亭主に死なれてから小さな菓子屋をしている評判のいい人なんですがね。娘が何回か窃盗騒ぎを起こしましてね。母親は娘が実刑を受けないように多額の罰金を払いました。そのためにガイドネ・タッファンに借金をしたのですよ」


「マシャーナはそんな女なんですか」


「ヘルトナでは子供の頃からちょっとした有名人ですよ。可愛い顔をしてるのに何を考えているんだか。

 まあ、それが縁でマシャーナは自ら望むようにして母親の借金を対価にしてガイドネ・タッファンの年季奉公するようになったんです。ガイドネ・タッファンは豪儀な人だから囲った女にはそこそこの暮らしをさせてくれますからな。


 ところが今回の一件で、マシャーナが逃亡したため年季奉公の対価は無効になったとしてガイドネ・タッファンは借金を払うように要求しました。

 そんな金があれば、真面目で知られている母親が娘を年季奉公に出すわけがない。結局、母親はガイドネ・タッファンに一生年季奉公の契約をさせられました」


「母親に一生奉公ですか?」


 祐司は何か奇異な感じを受けた。


「ガイドネ・タッファンは銀鉱山を経営してましてね」


「きつい仕事では」


「年々、深いところを掘らなくてはならなくなっています。落盤も頻繁に起こってます。高額な給金に引かれて働く出稼ぎも比較的安全な鉱山にはいますが、その他の鉱山は、あまりにも危険が多いので年季奉公の者が多いです。

 銀鉱山で働くくらいなら二三年余分に年季奉公でただ働きをするという者は大勢います。女が銀鉱山で働くなんて聞いたこともありません」 


 そんな話を聞くと祐司は銀貨の袋を受け取ることが少々荷が重く感じられた。ただ、この銀貨は貴重な路銀になるはずであった。




 その夜、祐司はヨスタの家で久しぶりに夕飯をご馳走になった。その後、祐司は、ヨスタに御礼がしたいと思い、考えていたことを切り出した。


「ヨスタさん、貴方には本当にお世話になりました。そこで、ささやかな贈り物を受け取ってください。ただし、物ではありません」


「なんで御座いましょう」


「金利の相場は幾らですか?」


「相手がよく知った商人同士なら年に二割くらいです。質草を取る金貸しなら二割五分から三割くらいでしょう。足元を見るような金貸しだと四割でしょうか」


「では、ヨスタさんは年一割五分で金を貸してください」


「そんな利率ならこの店の前に行列ができますが、わたしは馬鹿正直と言われます」



「一割五分の複利計算で貸します」


「フクリケイサン?」


「リファニアの利子は単利です。例えば年二割で計算してみます」



 祐司は樹皮紙に計算式を書いた。


一年目 銅貨100枚×0.2=20枚

    銅貨100枚+20枚=120枚

二年目 銅貨100枚×0.2=20枚銅貨

    銅貨120枚+20枚=140枚

三年目 銅貨100枚×0.2=20枚銅貨

    銅貨140枚+20枚=160枚

四年目 銅貨100枚×0.2=20枚銅貨

    銅貨160枚+20枚=180枚

五年目 銅貨100枚×0.2=20枚銅貨

    銅貨180枚+20枚=200枚



「利息はこのように計算しますよね。これを単利と言います」


「他にどうするんですか」


 不思議そうにヨスタが祐司の顔を見ながら言う。


「次に複利で年一割五分の計算をします」


一年目 銅貨100枚×1.15=115枚

*単利二割の時120枚

二年目 銅貨115枚×1.15=132.5枚

*単利二割の時140枚

三年目 銅貨132.5枚×1.15=152.375枚

*単利二割の時160枚

四年目 銅貨152.375枚×1.15=175.23125枚

*単利二割の時180枚

五年目 銅貨175.23125枚×1.15=201.5159375枚

*単利二割の時200枚



「一割五分で五年目に追いついた」


 ヨスタが感心したように言った。


「そうです。長くなればもっと差がでます。利率を低くしても借用書に利子の計算は元金と利子を会わせた金額で行うと書いておけば問題ないでしょう」


 そう言って祐司は樹皮紙に次の計算式を書いた。


元本×{(1+利率÷100)X乗} 

  Xは投資期間


「複利計算はこれで計算できます。それからこれは簡易な方法ですが元金が二倍になる年数を計算する方法です」


 祐司は樹皮紙の余白に今言ったことを書き込んだ。


72÷年利回り(×10)

72÷7.2=10 

72÷11.4=5


「つまり、十年で二倍にしたければ、年利七分二厘で、五年で倍にしたければ一割四分の複利で貸せばいいのです」


「それからヨスタさんは帳簿をつけてますよね」


 ヨスタが計算式を見つめたまま黙っているので祐司は次の贈り物について説明を始めた。


「はい、毎日の終わりには必ずつけます」


「こんな方法ですよね」


借り入れ:銅貨100枚

商品仕入:銅貨100枚

商品売上:銅貨150枚

   ↓

借り入れ:収入銅貨100枚

商品仕入:支出銅貨100枚

商品売上:収入銅貨150枚


収入銅貨250枚

支出銅貨100枚



「はい、こんな感じですね。特に決まりはありませんが大方の商人はこのように帳簿をつけます」


 ヨスタは明らかに祐司が何を言い出すのかを待っているような口調だった。


「この方が実態が分かり易いと思うんです。借り入れは返済するまでは支出です」


借り入れ:銅貨100枚

商品仕入:銅貨100枚

商品売上:銅貨150枚

   ↓

借り入れ:銅貨100枚

商品仕入:銅貨100枚

       銅貨150枚:商品売上


支出計:銅貨200枚

収入計:銅貨150枚



「ユウジ様の所ではこのような方法で商売をなさっているのですか」


 ヨスタは、ふむふむといったように小さく縦に首を振りながら祐司に聞いた。


「聞きかじった知識です。有用とお思いでしたご活用ください」


「少し慣れる必要がありますが、商人としてのヨスタは限りない可能性を感じております」


「そう言っていただけると、ヨスタさんの御時間を無駄にしなくて良かったと思います」


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