↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葉音を紡ぐ ――世界樹の麓で  作者: 葉森かなで
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
130/130

130 落とし穴の先に

「おーい、大丈夫?」

 ウリボウの長男が穴の上から声をかけると、それほど深くない場所から声が返って来た。

「うん、二人とも平気。床がふかふかなんだ」

「深くはないけど、飛び上がれるほど浅くもない」


 騒ぎ聞きつけて、穴の先まで進んでいたナキウサギの子どもたちも引き返して来た。

「何?落とし穴?」

「さっきまでなかったよね?」

 どうやら、ナキウサギの体重なら問題なかったが、ウリボウの体重には床が耐えられなかったらしい。


 どうやって上に引っ張り上げるか、そんな相談をしていると、穴の中から叫びが聞こえた。

「うまい!」

「こんなの食べたことがない!」


 落ちなかった二匹のウリボウは顔を見合わせると、突然穴に飛び込んだ。

「ずるいぞ!」

「俺にも食わせろ!」


「…‥飛び込んじゃった」

「……どうやって出るつもり」

「放っておく?」

 ナキウサギの子どもたちは呆れたが、すぐに一匹足りないことに気がついた。

「末っ子は?」

「さっきまでウリボウ長男の背中に引っ付いてた…‥一緒に落ちたのね」


 三匹はため息をついた。

 やがて長女が口を開いた。

「私が助けを呼びに行ってくる。二人はここで見張ってて。絶対下に降りたらダメよ」




 しっかり者のナキウサギの長女が助けを求めると、青い池周辺は大騒ぎになった。

 今は、まとめ役のクマが留守だ。イノシシの母親は頭を抱えた。

「私じゃ難しいことは、わからないわ」


「困った時には蟻人だな。一葉と葉月を呼ぼう」

 カエルの提案はすぐに実行され、二人はカラスの背に乗ってやって来た。

 ちょうど居合わせた結葉と護葉も一緒に来てくれた。


 事情を聞いた蟻人は、早速洞窟に入ることにした。

「でも、私たちじゃ助けられないよ。まずは調査はしてくるけど……」

 蟻人の言葉にキツネが進み出た。


「僕も一緒に行くよ。助け出せるかどうかはわからないけど、蟻人を乗せられるし、ジャンプには自信がある」

「葛を掘る時に一緒に行ったキツネですよね」

 結葉が嬉しそうに言った。

「覚えててくれたの?嬉しいな。さあ、背中に乗って」


 準備ができた一行は、ナキウサギの長女を先頭に、ナキウサギの親たちと洞窟の中に入って行った。

 体が大きく中に入れないイノシシの母親が、心配そうに見送っていた。



 しばらく進んで穴まで到着した一行は、頭を抱えていた。

 待機していたはずの二匹のナキウサギがいない。

 穴に落ちたウリボウたちの気配もなかったのだ。

「ここにいてって言ったのに……」

「何かあったのかしら?」

 心配していた時、地面に異変が起きた。

 穴の近くの地面が、今にも崩れそうだ。

「重さに耐えられないみたい。みんな離れて!」


 ナキウサギたちは奥に逃げたが、キツネと背中に乗った蟻人たちは、足元が崩れ穴に落ちてしまった。もっとも、キツネは軽やかに着地して無事だったが。


 落ちた先は、思っていたよりも広い空間だった。

「みんな、無事?」

 キツネが声をかけると、背中から転がり落ちた蟻人たちが、ぱたぱたと体についた土を払った。

「私は大丈夫。一葉は?」

「こっちも平気。葉月、怪我はない?」

「うん。……それより、ここは何だろう」

 葉月は周囲を見回した。

 足元には、白っぽい粉が薄く積もっていた。壁も天井も、ところどころ白く、ところどころ半透明に光っている。いつもの石灰岩の洞窟とは、何かが違っていた。

 葉月が壁に近づき、そっと触れてみる。

「石……じゃない?」

 指先に、ざらりとした感触が残った。少し離れた場所には、白い岩の割れ目から、透明な塊が突き出している。細く伸びたものが途中で曲がり、別の結晶に絡みつくように重なっていた。

 まるで、誰かが柔らかな飴をこねて、そのまま石に変えてしまったかのようだった。

「きれい……」

 一葉が思わずつぶやいた。


 洞窟の奥から、かすかな光が差している。入口から落ちてきた光なのか、それとも別の隙間があるのか。白い壁と透明な結晶が光を受け、淡く輝いていた。

 けれど、見とれている場合ではない。

「子どもたちは?」

 一葉の言葉に、みんなはっとした。

「そうだ。さっきの子たちを探さないと!」


 このまま全員で探し回るのは得策ではない。そう話し合った蟻人は、二手に分かれることにした。

 結葉と護葉は上の洞窟に戻り、ナキウサギの親たちと奥を調査。下の洞窟と繋がる道を探す。

 一葉と葉月は、キツネと共に下の洞窟から子どもたちを捜索する。


「下の通路を移動する一葉と葉月の気配を追うわ」

 結葉は、離れていても家族の気配や思いを感じ取る能力に優れている。

 結葉がいるからこそできる、特別な探索方法だ。


「上まで跳べる?」

 キツネは背中に結葉と護葉を乗せると、軽々と穴から飛び出した。

 そして二人を下ろすと、軽やかに下の通路に戻った。


 次に、キツネは鼻を動かし周囲の匂いを確かめた。子どもたちの匂いは、確かに奥へと続いている。

「こっちだ!」

 皆を背に乗せ、キツネは足元を確かめながら進んだ。

 坑道は、思いのほか複雑だった。広い場所もあれば、体をかがめなければ通れない狭い通路もある。壁には細い筋が走り、水の流れた跡らしい溝もある。

 やがて、奥のほうから声が響いた。

「もっとあるぞ!」

「こっちのほうがうまい!」

「……まさか、まだ食べてるの?」

 一葉は額を押さえた。

 キツネが先に進み、曲がり角からそっと顔を出す。


 そこには、探していたウリボウとナキウサギの子どもたちが集まっていた。白い壁の根元に、何かを夢中でかじった跡がある。

 子どもたちはこちらに気づくと、悪びれもせずに顔を上げた。

「ねえ、これ食べられるよ!」

「すごくおいしいんだ!」


「おいしいかどうかの話じゃないでしょう!」

 ナキウサギの長女が、思わず声を張り上げた。

「勝手にいかないでって言ったじゃない!」

 叱られた子どもたちは、さすがに耳を伏せた。けれど、目の前にあるものへの興味までは消えていないらしい。


 葉月は子どもたちの足元と、壁の白い塊を見比べた。

「ちょっと待って。これ、もしかして……」

 彼女は、壁から突き出した透明な結晶をじっと観察した。

 ただの石ではない。

「一葉、ここは慎重に調べたほうがいい。上の床が崩れたのも、ここと関係があるはずだから」

 葉月が天井を見上げた。


 頭上には、白い岩が薄く残っている。その向こう側に、さっきまで自分たちがいた地面があるのだ。

 一葉が、粉を指先に取ってペロリと舐めた。

「…‥これは!塩だろう。秋にクマが少しだけ見つけたと言って分けてくれたよ」

「塩か。厄介だな。どんな地質か知らないが、脆いのはたしかだ」

「この場所、きれいだけど……とても危ないよ」

 その言葉に、子どもたちもようやく周囲を見回した。

 足元の白い粉。壁から伸びる透明な結晶。奥へ続く暗い通路。


 子どもたちは、黙って顔を見合わせた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。