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38:ブハーラー戦11:本丸戦3:亡霊2:チンギスの夢

サブタイトルのみ変更しました(2021.11.8)


人物紹介

チンギス・カン:モンゴル帝国の君主


ジャムカ:ジャダラン氏族。まさに秘史が詩魂をもって描き出すところのチンギスの宿敵である。

人物紹介終了


 チンギスはずい分昔の夢を見た。

 自らが数え11(満でいけば、9~10才となる)の時のことであった。

 凍り付いたオナン川の上で、碑石シアーを投げてぶつけて遊んでおった。

 互いに用いる碑石は、先ほどアンダ(同盟者、義兄弟の意味)の誓いをなして、交換したばかりのものであった。

 ジャムカがくれたのは、初めて自分で仕留めた雄ノロジカのくるぶしの骨で造った碑石。

 己もまたお返しとして、特別な碑石を与えた。羊のくるぶしの骨に、銅を中に入れて重くしものであった。

 今は亡き父上からのお下がり品であり、その点では形見の品とさえ言い得るものであったが、であればこそ、アンダの誓いにふさわしいものと想えた。


 しばらく遊んでいると、不意に氷が割れ、ジャムカが落ちた。

 大人が乗っても割れない氷であったはずなのに。

 その分厚い氷の下を、ジャムカは流されて行く。

 苦しげに口からアワを吹きながら。

 我はずっと追いかけておったが。

 息も切れ切れとなりながらも、必死に。

 つい氷から突き出た流木に足を取られ、転んでしまう。

 何とか立ち上がり、ジャムカの姿を氷の下に求めるも、当然、無かった。

 我はずっと下流まで走ったが、見つからぬ。

 やがて、陽は傾き、当たりが夕焼けに染まる頃になっても、見つけることはできなかった。

 我はうずくまり、泣き濡れる。

 もう一歩も歩けぬほどに、足も疲れておった。


 ふと、我のおるところが日影となる。

 急ぎ立ち上がる。

 確かにジャムカであった。

 背後から、夕日が差すためか、顔は半ば闇に沈んでおった。

 にもかかわらず、その目はなぜか夕日を引き写した如くに赤かった。

 そして、その胸には矢が刺さっておった。

 しかも、それは、同じ年の春に、再びアンダの証しとしてもらった、ジャムカ手作りの矢であった。

 大事な矢として区別がつくように、チンギスは自ら矢柄に特殊な刻み目を入れておったので、見間違えるはずもなかった。

 やじりに2才牛の角の加工品を用いた鳴鏑なりかぶらであった(いわゆる鏑矢である)。

 刺さるはずのないものである。

 どうして。

 まさか我が射た訳ではあるまい。

 夢の中で幼い己はいたく混乱しておった。


 そうして、ジャムカは矢を弓につがえて、我に向ける。

 それは、我がお返しとして、杜松ねずの木を加工して鏃に用いた鳴鏑であった。

 まともに刺さらぬのは知っておるはずであったが、ジャムカの様を見ては、我は叫ばずにはおれなかったようで、

「止めろ」


 自らの声で目を覚ました。

 己が荒い息遣いをしておることに、気付かざるを得なかった。




 補足 那珂通世訳『成吉思汗實錄』(筑摩書房 1943年88頁)に引く阮葵生の『蒙古吉林土風記』は碑石に関するものであり、訳してみよう。

「羅丹[上述の碑石]は鹿の蹄腕の骨である。

 旧俗に、蹄腕骨を以て、手で投げて戯れとなし、それがどの面を上にして落ちたかで勝負をなす[1種の賭け事か占いなのであろう]。

 小はノロジカのもの、大は鹿のものを用い、磨いて玉の如き光沢のものとする。

 子供や婦女は、円座して投げて、楽しみとなす。

 薄い円形のものをもって[相]打つ[戯れもある](中略)

 遠くに[投げて]比べる戯れもあり、氷の上に赴いて、あたるを以て、勝つとなす(後略)」

 []はひとしずくの鯤による補足。

 日本のオハジキを想わせるものがあり、また、テムジンとジャムカがカーリングの如くをなして遊んでおったとすれば、とても興味深い。

 秘史の傍訳もこの遊びの様を『碑石を打つ』と伝えれば、この推測は当たらずといえども遠からず、なのではないか。


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