第5話 「熱血武闘派赤ずきんよ永遠にッッッ!!!」
狼男との戦いは終わったッッ!!
木漏れ日の降り注ぐ森の中で、終始無言で見つめ合うアネット・祖母・シャルルの3人ッッッ!!!
彼らの瞳は、強敵と戦い打ち勝ったという満足感で満たされていたッ!
するとその時、その静寂を打ち破るように祖母が口を開くッ!
「アネット、それにシャルルとやら……今回は私を助けるために色々としてくれてありがとうね。おかげで狼男も倒せたよ」
「いや、恐らくあなたなら1人でも狼男を倒せたと思います……」
狼男の腹から彼女が自力で脱出してきた時のことを思い出しながら、シャルルは苦笑いをしたッ!
「さて……祖母よッ! 私はもう帰るッ!」
単刀直入にそう言って祖母を見据えるアネットッ!
「おお、そうかい」
「それと、家に食べ物が入ったバスケットを置いてきたから、是非食べてくれッ!」
「分かった!」
祖母はゆっくりと頷き、それから孫に向かって右手を差し出したッ!
「これからも、鍛錬を怠るんじゃあないよ」
「無論ッッッ!!!」
アネット、即答ッッ!!
そして彼女も右手を出し、祖母と握手をしたッ!
グッッッッッ!!!!!
その瞬間のアネットの握力、およそ500キロッ! これはすなわち、ゴリラの平均握力に匹敵するッ!
――が、しかしッ! 祖母は静かな微笑みをたたえたまま顔色を変えないッ!
驚くべきことに、アネットの握手に耐えているッ!
小柄な祖母だが、やはり百戦錬磨の中国拳法の使い手なので、この程度ではどうということもないのだッッ!!
恐るべし中国拳法ッッ!! 恐るべしアネットの祖母ッッ!!
「では……帰るッッ!! シャルルも元気でなッッッ!!!」
「ああ、じゃあな!」
シャルルはそう返し、髪をCOOLにかきあげたッ!
それを見たアネットが、ニヤリと笑うッ!
「ふっ、最初はいけすかない軟弱な男かと思ったが……先程の戦いで助太刀してくれたことには感謝するッ! また会おう、シャルルよッ!」
アネットが祖母とシャルルと分かれて数分後ッ!
彼女はいつものように全力ダッシュをして、自分の家へと帰ってきたッ!
――と、その時ッ!
彼女は、家の前に2人の人物が立っているのが見えたッ!
「ムッ!?」
驚愕しながらぬかるんだ地面に足を突き立て、慌てて急ブレーキをするアネットッ!
そして、家の前に立つ2人を仁王の形相で見つめたッ!
「お前たちは……桃太郎と、浦島太郎かッッ!?」
呼びかけるように大声で叫ぶアネットッ!
それを聞いて彼女が帰宅したことに気付いた2人――桃太郎と浦島太郎は、不敵な笑みを浮かべながらアネットの方を向いたッ!
「おお、帰ってきたか、アネット!」
開口一番にそう言うのは桃太郎ッ! 丁寧に結われたちょんまげと、全身を覆うピンク色の甲冑が目を引く、派手な男だッ! しかもここはフランスの森の中ということもあって、彼の日本式の甲冑はまさに異色であるッ!
腰には立派な装飾の施された鞘が下げられており、日本刀がきっちりとおさめられているッ!
そして、隣に立つ浦島太郎もまた異色の出で立ちであったッ!
「よう赤ずきん……久しぶりだな」
ぼさぼさに生えた黒髪を無造作に後頭部で結び、鮮やかな青の浴衣を身に着けている!
下半身には藁で作られた腰みのを巻いており、背中には全長2メートルはありそうな竹の釣り竿がッ!
隣の桃太郎程鍛え上げられた肉体を持っているわけではなく、むしろ華奢な体型であったが、全身から放たれる強者のオーラは相当なものであったッ!
「運営から“招待状”を届けるように依頼されたからはるばるここまで向かってきたのだが、お前さんが不在だったものでな。家の前で桃太郎と一緒に待っていたんだ……」
少しけだるげで眠そうな、それでいてはっきりと通る声で言う浦島太郎ッ!
それを聞いたアネットは、「成程ッッッ!!!」と叫びながら腕を組み、頷いたッ!
「招待状……今年もその季節か……ッ!」
「ああ、そうだ! 俺達も1ヶ月前に受け取ったばかりだぜ!」
桃太郎ははつらつとした声で言って、彼女に一枚の手紙を手渡すッ!
それを受け取ったアネットは、紙面に書かれた流暢なフランス語の文章を仁王の形相で音読したッ!
「“拝啓、アネット様。通称、赤ずきん。
今年も、最強の童話キャラを決める武闘会、『天下一童話武闘会』の季節がやってまいりました。
世界各地の童話キャラたちが、鍛え抜かれた肉体と技で躍動するこの戦い。
『鮮血の赤ずきん』と恐れられるアネット様には、今大会にも出場していただきたく存じます。
なお、前回大会の王者・シンデレラも、再びこの大会に参加します。
そして彼女は既に、あなたとの戦いに備えトレーニングを開始しています。
ぜひ、アネット様も奮ってご参加ください。
今年の大会会場であるイタリアで、スタッフ一同心よりお待ちしております”」
「……と、いうわけだ。もちろん出るよな?」
いたずら小僧のようにニヤリと笑う浦島太郎ッ!
それを聞いたアネットは、力強く頷きこう言ったッッ!!
「無論ッッッッッ!!!!! 優勝するのはこの私だッッッッッ!!!!!」
彼女の雄叫びが森にこだまするッッ!!
ここで読者の皆様に説明しよう! 『天下一童話武闘会』とは、世界各国から選ばれた有名な童話キャラたちが、鍛え抜かれた己の肉体を駆使して闘い、ナンバーワンを決める大会のことであるッ!
開催期間は1年に1回ッ!
開催国は毎年ランダムに選ばれるッ!
そして前回の優勝者はシンデレラッ!
アネットは決勝戦でこのシンデレラに破れ、惜しくも優勝を逃したのであるッッ!!
すると桃太郎が不敵な笑みを浮かべてこう言った!
「ふん! 悪いが、そう簡単にはいかないぜ! 今年の大会、優勝するのはこの俺だ!」
「お前が優勝? おいおい、冗談きついぜ……」
浦島太郎が腕を組みながら口をはさんだ!
「お友達の犬、猿、キジがいなくっちゃ何もできねぇお前が優勝なんてありえねぇ。勝つのは、釣り竿一本で竜宮城を壊滅させたこの俺さ……」
そして浦島は、背中に携えた釣り竿に腕を伸ばし、いとおしげに優しく撫でたッ!
「あぁ?」
それを聞いた瞬間、桃太郎の様子が一変ッ!
怒りからか顔面が赤鬼のように真っ赤に染まり、さらに強烈な圧力が全身からほとばしるッ!
「なんなら……大会前に、ここでおっぱじめてもいいんだぜ……」
一歩も退かず、浦島も全身から圧力を放出させたッッ!!
「おもしれぇじゃねぇか!」
ぐにゃぁぁぁ……ッッッ!!!
2人の圧力がぶつかり合い、空間が捻じ曲がるッ!
常人であれば足がすくんでしまう、肌のひりつくような危険な空間だッッ!!
――と、その瞬間ッッ!!
「やめんかッッッッッ!!!!!」
赤ずきん、一括ッッッ!!!
「私達は闘士だッ! 殺るなら大会の会場で殺れッッ!!」
「……」
「……」
数秒間睨みあう桃太郎と浦島太郎!!
すると浦島は、殺気立った表情から一変ッ!
無邪気にクスリと微笑み、
「やめだ。お楽しみは後にとっておくぜ」
と言ったッ!
「……それもそうだな!」
桃太郎も殺気を出すのをやめ、元のあっけらかんとした表情に戻る!
「よーしッ! それじゃあ早速、大会の会場へとダッシュで向かうかッッ!!」
そしてアネットは持っていた招待状をビリビリに引き裂くと、おもむろにその紙片を
「はぐッッッ!!!」
と口の中に一気に放り込んだッ!
「おいおい、何やってんだ!」
彼女の意外な行動に、呆気にとられながら言う桃太郎!
「ふ……相変わらず面白いやつだ」
対する浦島は、心底楽しそうな口調で呟いたッ!
「ムシャムシャ……前回の大会、私は決勝戦でシンデレラに敗れた……ッ! この雪辱、今大会で晴らして見せる……ムシャムシャッッ!!」
そして彼女は招待状だったものの紙片を咀嚼して一気に飲み込むと、右拳で勢いよく自らの胸を叩いたッッ!!
ドンッッッッッ!!!!!
「待っていろシンデレラ……ッ! 今度こそ私が勝つッッ!!」
なぜ彼女はわざわざ招待状を食べたのだろうかッ!? 読者の皆様が疑問に思われるのも致し方ないことだが、作者である私にもよく分からないッ!
それはともかくッッ!!
アネット――赤ずきんの次なる舞台は、イタリアであるッッッ!!!
というわけで読者の皆様、機会があれば次はイタリアで会おうッッッッッ!!!!!
「よし……イタリアへ行くぞッッッッッ!!!!!」
『激闘ッ!熱血武闘派赤ずきんッッッ!!!』
完ッ!
圧倒的完ッッッ!!!